表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
九十九番目のアリス  作者: 水乃琥珀
38/75

36.おしゃべりな 赤い花

 兵士長が 姿を隠した後の、カナトとニコルの会話シーンです。

 さらに、同時進行している 白ウサギの課題。課題の内容や、世界の裏の顔、帽子屋についての秘密など…… 少しずつ、《ねじれた世界》が明らかになっていきます。

  兵士長が どこかへ 姿を消してから、けっこうな時間が経過した気がする。


  相変わらず、目の前で くつろぐ 奇怪な賢者様は、にこにこと 害の無さそうな笑顔で、叶人を見つめていた。


「…… 何?」

「うん? ―――― そなたは、愛らしいな」

「…… …… ……」


  たいていの美女が 逃げ出すような、目の覚める《美青年》に言われても…… 正直、素直には 喜べまい。

  ましてや、その 《格好》だ。

  いい機会だからと、幾つか 質問をしてみようと 思いたつ。

「ねぇ、ニコル。 何で、そんな格好をしているの?」

「ん、何故と聞かれても…… これは、我の 《標準装備》なのだ」

「装備って言うほど、体が 守られているとは思えないけど」

  そもそも このマント一枚が 《標準》であるなら、《特別装備》は どうなってしまうのか。

  今よりも 布地が減っていくのか、増えていくのか。

  …… 興味はあるが、恐ろし過ぎて 聞くに聞けない。

  おそらく、そこは 踏み込んではいけない領域なのだろうと 考えることにする。


「立派なマントが あるではないか」

「マントは、所詮 マントでしょう? ぴらぴら中身が見えてるじゃないの」

  見たくなくとも、見えてしまっている。 どうしてくれるのだ。

「むむ…… このマントの《良さ》がわからぬとは――― そなたは まだまだ《子供》なのだな」

「…… わかりたくも ないわね……。 子供でいいわ、それなら」

  呆れと、嫌悪と。

  感情が そのまま顔に出ていた 叶人に対して、ニコルは 怒ることはしなかった。

  叶人が 何を言っても、どんな表情をしても――― 『仕方がないな』とでも言いたげに、淡く ほほ笑むのみである。


  …… 何なんだろう、この人。

  正直、叶人は 判断に困っていた。


  敵意は、感じられない。

  自分とて、それなりに 危険を《察知》する能力は 長けていると思う。 …… 瑞樹に関しては、少々 乱されたこともあったが――― 基本的に、他人の 表情や、目の動かし方、声のトーン、指の動かし方などで、八割方は 見抜く自信がある。


  目の前の 賢者様が、はたして 何年生きているのか、想像もつかない。

  ねじれた世界なのだ、何百歳であっても 不思議ではない。

  そんな、超 高齢者――― 人生の 大先輩から比べたら、二十七歳の 叶人など、ヒヨッ子も同然。

  騙し、丸めこむくらい、朝飯前に 違いない。


「あなたが…… 本当のことを言っているとは、限らないわ」

「ふふ…… どうしたのだ、突然?」

  驚きもせず、微笑を浮かべたままの青年は、文句なしに 美しい。


「あなたに限らず、出会う人…… おそらく全員に、それは 当てはまると思うの。 本来なら、このゲームが始まった瞬間から、自分以外は 何もかも、疑って 信用すべきではない。 それが、プレイヤーの心得なのよね?」


  勝者のみが、すべて。

  敗北は、すなわち 《死》を意味する、残酷な 世界のルール。

  奪って、出し抜いて、生き残ってこそ、思い通りに 生きる権利が与えられるのだ。

「私は、この世界に来て 今日で ようやく六日目なの。 他の人に比べたら、まだまだ 初心者よね」

  偶然なのか、必然なのか、未だに それほど 酷い目には 遭っていないのも、原因なのかもしれない。


  昨日、初めて 人が死ぬ光景を 見た。

  ただ、死ぬのではなく、人が 人の命を奪う光景だ――― 己の 《安全》と、引き換えにして。

  何も知らなかった《自分自身》には、もう 二度と 戻れなかった。

  どんな理由にせよ、誰かが死んで、自分が生きていることには 変わりない。

  ――――― ここは、そういう 世界。

  そして、自分は そういう状況の 《まっただ中》にいる。


「でも、だからこそ――― 自分の 《直感》を信じていたいのかもしれないわ」

  いつだって、選ぶ 《基準》は《自分の中》にしかないのだと、思い知らされるから。


「私は…… あなたが 敵じゃないって感じるの」


  青年のことを、ほとんど知らない。

  掘り起こしていけば、後に どんな 《正体》が出てくるかもわからない。

  安易に、決めつけるのは 危険だと、誰もが知っている。

「それでもね…… 何て言うのかな。 何故だか、《懐かしい》って…… 思っちゃうのよね」

「!」


  実際には、あり得ない 感覚だった。

  初対面の 青年に対して、懐かしいなんて。 どうかしてるとしか 思えない。

  この世界へ来たのは 初めてだし、ましてや こんな強烈な外見だったら、一度見たら 忘れるはずもない。

  間違えなく、初対面であるにもかかわらず…… 胸に広がった《安堵感》は拭えなかった。


「自分でも、バカだと思う。 兵士長が 呆れて怒り出すのも、もっともだわ。 私だって、今の状態が 普通じゃないって、わかってる。 わかっているけど……」

「よしよし」


  気が付くと、ニコルの大きな手のひらが、頭の上に 乗せられていた。


  よしよし。 よしよし。


  手袋ごしに伝わる 白ウサギの 《ひんやりした手》や、触れるときだけ手袋を外す 兵士長の 《意外にも優しい手》とは、まるっきり違う…… 包み込むような、暖かい手。

「…… 子供扱い、してるでしょう?」

「仕方ない。 事実、そなたは 我より随分と 年下であるからな。 許せ」

「む~ …………」

  口をとがらせて 睨んでみたが、青年は 笑うだけだ。


「誰も信じない方が ラクであるし、何よりも安全だ。 それを理解したうえで 《その道》を進もうというのは、ある意味 《大ばか》のすることだ。 しかし――― 我は 困ったことに、そういう《大ばか》が、大好きなのだ」

「ニコル……」

  マント一枚の姿でなければ、なんとも 素敵な発言である。


「訂正しよう。 今日 一番初めに出会ったから、そなたに 加勢するのではない。 今 このときより――― 我は、そなたが気に入ったから、我の 個人的な 《趣味》により、そなたのチカラになろう」

「…… ニコルって…… やっぱり 《変な人》ね」

  撫でられながら、叶人は 小さく つぶやいた。

  こんな 要領の悪い《アリス》に関わっても、彼自信に 徳はないというのに。


「それは、《褒め言葉》として 受け取っておくとしよう」

「褒めてないんですケド?」


  蓋をしていた 記憶がよみがえっていくような、不思議な 感覚。

  有るはずのない、ニコルとの 《思い出》。

  こういうのを、確か 《デ・ジャ・ヴュ》とか呼ぶのだろう。


  振り払うのは もったいなくて、そのまま 少しの間、叶人は おとなしく 青年の手の感触を 味わっていた。





  場所は変わって、こちらは 《赤の花畑》。

  この花畑が 課題の目的地である 《白ウサギ》は、帽子屋を出発してから 驚くべき早さで到着していた。


  ハートの国の城下町、ハートアルから東へ行くと 《赤の森》、そして 北に進むと 《赤の湖》、西に進むと 《赤の花畑》…… となっている。

  本来なら、普通に歩けば 一日半はかかる距離であるのに、白ウサギにかかれば たいしたことはない。

  今、彼は 《最愛の女性ひと》と 離れ離れになっているのだ。

  望んだのが 他でもない 彼女自身だったから、白ウサギとしては 協力せざるをえなかったが、好き好んで 離れたがる程、《想い》が浅いわけではない。

  まして、ハネムーンの最中なのだから。


  課題は、二日目に突入していた。

  白ウサギの予定では、一日で さっさと終らせて、とっとと ハートアルまで戻り、できれば 《赤の森》まで カナトを迎えに行きたい――― そうしたいと思っていたし、そうできると ふんでいたのに。


  目の前の 《赤い花》の前で、もう 一日以上も、立ち尽くしていた。

  やることが無い…… わけではない。

  何をしたらいいのか、課題の 《条件》は、理解している。

  後は、条件にのっとって、その 指定された《行為》をするだけで クリアできるというのに。


「…… …… …… …… ……」


  白ウサギは、ひと言も 口にできなかった。

  あとの二人…… カナトと ミズキ両名が、どんな課題を出されているのか、白ウサギには わからない。

  けれど、おそらく――― 二人とも、相当な 身の危険にさらされているだろうことが、経験上 想像できた。


  帽子屋が 出す課題の中でも、もっとも 難易度の高い《お茶会》。

  以前に 一度だけ、他のアリスの護衛として、この お茶会を受けたことがある。

  そのときの主人は 男性で、そこそこ 賢くて、抜け目が無かった。

  淡々と 勝利を積み重ねていく実績を買われて、帽子屋は 課題を《お茶会》に決め、当然 彼とは 別行動で、白ウサギも 課題へと出発して―――。


  相手の血だか 自らの血だか 判別のつかない程、真っ赤な姿で町まで戻ってみれば、帽子屋で知らされたのは、主人の 《死》という事実だった。


  何の感情も、生まれなかった。

  ただ、無駄な時間を過ごしたとだけ、何となく 思うだけで。

  知識として、《お茶会》が厳しいものだと知っていたし、白ウサギ自身も かなり 苦戦させられたのだから、当然といえば 当然の 《結果》だ。


  帽子屋、ネリィ。

  彼の 役割は、もちろん 《帽子屋》であり、帽子に限らず、《靴》以外の 《アリス衣装》を制作する、腕の良い 職人である。

  しかし、それは 彼の一面でしかない。

  もう一つの、役割――― アリス達には 知らされていない、《裏の顔》。


「…… 《掃除屋》め ……」

  白ウサギは 小さく毒づいた。


  帽子屋の課題に成功すれば、特別仕様の アリス衣装を、いつでも 無償で、際限なく 制作してくれる。

  機能的でいて、洗練された デザイン。 そして、炎や 魔法を防ぐなどの 《特殊効果》のある《生地》は、戦闘が欠かせないゲームの中で、大いに役立つことばかりだ。

  けれど、《世界の意志》が そんなに簡単に、有利になるようなことを許すはずもなく。

  その 《効果》に吸い寄せられて、自然と集まる アリス達を、ふるいにかけて、いっきに 減らす方法――― よりゲームを盛りあがらせて、残酷に 楽しむ方法。


  それが、帽子屋の出す 《課題》なのだ。

  四段階ある 課題の《難度》は、一応 個々のアリスのレベルに合わせて 出されるものだが、ネバーランドを生き延びたとしても、多くのアリスが 命を落とすのが、この 課題なのである。


  正直、カナトには 受けさせたくはなかった。

  できるなら、やんわりと説得して、課題から 遠ざけてしまいたかった。


  白ウサギを含め、世界の住人には、アリス達には明かせない 特殊な《制約》が課せられている。

  ゲームを退屈にさせないように、実は アリスの 《行き先》を 《誘導》しなくてはならないのも、ルールの内の 一つだった。


  つまり――― フック船長が 《紹介状を出した》のも、帽子屋が 気軽に 《課題を開始させた》のも、白ウサギが カナトを止められないのも。

  すべて、《世界の意志》に定められた、ルールのせい…… なのだ。

  そのことを、アリス本人――― つまり、カナトには 打ち明けてはいけない。 それも、制約のうち。


  血みどろの展開になるのが、《お茶会》の定番だ。

  『実力があれば、死にはしない』という帽子屋の言葉は、半分アタリで 半分ハズレ。

  誰かを利用する《したたかさ》も、偶然としか思えないような《運》も、切り捨てて 切り拓いていく《残酷さ》も――― すべて 兼ね備えた者だけが辿り着ける、小さき 《場所ゴール》。


  たとえ、課題をクリアできたとしても。

  アリス自身が、《変わってしまう》可能性が 高い。

  変わるほど 大きなコトをやらない限り、お茶会を開くことはできないのだ。


「カナト…………」


  白ウサギは、再び 目の前の 《赤い花》を見つめた。

  見渡すかぎり、辺り一面の、赤い花、花、花、花、花。

「僕は…… どうすれば……」


  カナトに出会うまで、色の無い世界で 生きてきた。

  実際に 色が無かったわけではなく――― 自分自身が、色を 色だと 認識できなかっただけ。

  彼女の声を聞いた瞬間から、世界は 色で溢れ、どんよりとした空気は 清々しくも 甘ったるい香りへと変わり。

  細胞の 一つ一つが 彼女を欲して、全身の血が 沸騰するような…… 初めての、感覚。

  それこそが、今まで 感じたこともなかった――― 生きているという、何よりの 《証》。


  自分は、白ウサギだ。

  己の 名前ごと、この身の すべては、彼女のモノ。

  カナトの希望も 願いも、何だって叶えてあげたい。

  そのためには、どんなに 厳しい課題だって、喜んで 引き受けるというのに。


「こんなことって……」

  白ウサギに 課せられた、行為。

  おそらく、お茶会 始まって以来の、もっとも 《簡単》な、クリアのための 《条件》。

  血みどろの 戦闘を強いられた方が、何のためらいもなく動けただろう。

  血を浴びることなど、苦にもならないのだから。


  いや、だからこそ…… の、条件なのかもしれない。

  戦うことではなく、他の理由で、白ウサギが もっとも苦しむような、そんな 《課題》。


「僕は…… 僕は……」


  赤い花々の中でも、ひと際 目を引く、一輪の花。

  通称 《おしゃべりな薔薇》を前にして、情けないことに、白ウサギは 昨日から 一歩も動けずにいた。

  さっさと終らせて、帰りたい。

  少しでも早く、カナトに会いたい。 耳を溶かすような 甘い声を聞いて、柔らかくて 暖かい体を 抱きしめたいというのに。


「僕には…… 僕には…… とても、そんな 《恐ろしい事》など……」

「――― そんなに、今の お前さんにとっちゃ、ソレは 《できない事》なのか?」


  立ちすくむ 白ウサギの背後から、男の声がかかった。

「………… 《侯爵》……」

  のろのろと 視線を向けると、侯爵と呼ばれた男は、自分の頬を ぽりぽりと掻く。

「なんて顔をしてるんだ、白ウサギ。 《殺戮者》と恐れられた 面影なんか、ひとつも無いなぁ」

「…… ……」


  貴族を連想させる 煌びやかな 衣装を、どこか着崩した姿は、《大人の色香》を感じさせるには充分だった。

  彼は、《侯爵》。 真の名は…… 知らない。

  ほんの少し けだるそうに、無精ヒゲを手で撫でながら 話す様子に、世の女性たちは うっとりとしてしまう――― とは、もっぱらのウワサだ。

  赤みがかった髪に、琥珀色の 瞳。 外見的には、青年を越えて オジサンの領域に入っているだろう。

  それでも、彼の 女性からの人気は、なかなかのものだった。


  白ウサギには、男の 格好よさなんて、これっぽっちも 理解できない。

  元々、自分にも 他人にも 興味が無かったところに加えて、現在は カナトだけなのだ。わかるはずもない。

  ここに来るのが、カナトでなくて 良かった…… そう思うだけで。

「そんなに 難しく、考える必要はないだろう? 割り切って、さっさと 言ってしまえばいいのに。 わかっているだろう? 今回の コレは、始まって以来の、簡単すぎる課題だってことを」

「…… わかっています。 他の方なら…… きっと何より、簡単なことだったでしょう。 それでも、僕は 白ウサギです。 だからこそ、僕には……」

「――― ウソは、つけないか?」


  白ウサギという特殊な 《性質》が、今は 足を引っ張っていた。

  与えられた 課題――― それは。


  《おしゃべりな薔薇》に向かって、愛する者のことを、すべて 《否定》して話すこと。


  愛していても、愛してはいない、と。

  どこが好きかと 尋ねられても、好きなところなんて 何も無い、と。

  事実とは 反対のことを告げて、薔薇が 満足すれば…… 挑戦者の、勝ち。

「適当に 話を合わせて、会話しておけば 済むことさ。 なに、ちょこっと 《あべこべ》のことを 言うだけで いいんだよ。 別に ウソをつくのとは、違うんだ」

「…… それでも、僕には できません。 僕が、カナトの 《悪口》を言うなんて…… 考えただけでも……」


  ―――― 死にたくなって、しまいます。


「死にたくって…… お前さんは、どうしてしまったんだ?」

「どうもしませんよ。 ただ…… 生きる意味を、見つけたというだけの話です」

「生きる意味を見つけたのに、何で 死にたくなるんだよ?」

「それは………」


  彼女のことが、誰よりも、何よりも。


「大切だから」

  迷いなく 答えると、長いため息が 返ってくる。

「あのなぁ……。 大切なら、死ぬなんて言葉は 口にするな。 そんなに大事なら、そばにいて、守ってやるのが 男っていうものだろう。 違うか?」

「…… 僕は……」

「即断、即決。 無駄も、隙も 見当たらない、冷徹な 《宰相》サマ。 それが お前さんの、長所だったはずだ。 それは、いったい どこへいった?」

「僕だって…… 少しでも早く、帰りたいです!」

「俺だってなぁ…… 帰りたいんだよ……」


  侯爵は、ふあぁぁと 大きな あくびをした。

「何の因果か…… うっかり、帽子屋との《賭け》に負けたばっかりに、こんな罰ゲームを強いられるなんてな……」

  侯爵は、帽子屋との 約束により、ここにやってくる者の 《判定》を任されていたのだ。

「お前さんが、さっさと 薔薇と話をして、薔薇が満足してくれれば、俺は 《お前さんの勝ち》だと見届けて、お役目が 解任されるんだ。 お前さんが 動いてくれない限り、俺は いつまでたっても 終らないじゃないか」


  まさか、よりにもよって、融通のきかない 白ウサギがやって来るとは、侯爵の方も 思いもしなかった。

  普通の人間なら、当たり前に とっとと終るであろうと、たかをくくっていたのに。

「頼むから、早くしゃべって、終らせてくれよ。 こう見えて、俺にだって 予定はあるんだよ」

  脳裏に浮かんだのは、現在 別居中である 《侯爵夫人》の顔だった。

「そんなことを言われても…… 僕は、白ウサギなんです。 事実とは異なることを口にすることが、僕にはできない。 しないのではなく、できないんです」

「――― できなくても、やれ」


  侯爵は、半ば 脅すような口調で 白ウサギに迫った。

「今 お前さんにとって、一番 大事なのは、何だ? ウサギとしての性質を理由にして、このまま 何もしゃべらず、期限切れで 課題はパー。 …… そんな結末を、本当に望んでいるのか?」


  『あなたの、本当の 望みは何?』と、カナトは 口癖のように言っていた。


  『あなたの、安全を最優先して』

  『絶対に、無傷で 戻ってきてちょうだい』

  『私の護衛は――― ノールだけなんだから』


  カナトから受け取った、宝石のような 言葉の数々は、一つたりとも 忘れたことはない。


  『あなたにだけは、ウソはつかない』と言いきってくれた、誰よりも 誠実な彼女のために――― 自分は、ウソをつかねばならないというのか。


  期限は、あと 一日。

  どちらにせよ、答えを出さなければいけないのは 確かだ。


「カナト……」

  今すぐに、会いたい。

  会って、その声を 聞きたい。

  殴られようが、拒まれようが…… 彼女が 元気なら、自分は 何にだって 勝てる。


「…… そろそろ、覚悟を決めたらどうだ?」

「まだ…… 時間は、あります」


  それは、選択をすることへの 《逃げ》なのか。

  覚悟を決めるための 《猶予》なのか。

  新たな道を模索する 《絶好の機会》なのか。


「最終日は、明日です。 期間ギリギリまで――― 僕は、考えます」


  考えて、考えて、常に 最善を尽くそうとしている 可愛いカナトの、隣に立つ者として。

「恥ずかしくはない 選択を…… したいですから」



  白ウサギは、再び 無言になって、一輪の薔薇を 見つめ始めた。

 いやぁ、暑いですね。暑い以外の言葉が、口から 出てきません。


 今回、赤い人は 不運の《一回休み》となりました。兵士長ファンの方、ごめんなさい。 少ししたら、彼は ど~んと出てきますからね。

 その分、復活とばかりに登場した 白ウサギ。話の中で、彼は けっこう重要な情報を チラホラ語ってくれています。後の 展開に必要になるので、ぜひとも 頭の隅に入れておいて頂きたいところです。


 ブタさんとの戦闘~ ……とか予定しつつ、今回も 辿り着けず。己の 計画性の無さに、呆れております。

 次回こそ、ブタさんが登場し、カナトは 戦いのど真ん中へ。

 悩んで 迷って 苦しむからこそ、人は 何かを得られる…… はたして、カナトの周囲はどうなっていくのか。お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ