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九十九番目のアリス  作者: 水乃琥珀
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35.攻略のための 作戦会議

 カナトが 考えていること、そして 兵士長との 微妙な関係性、さらに 新顔・ニコルのことが 少しずつ明らかになっていきます。

  ニコルの言葉に 落胆しつつも、どこかで 予想していた内容だったために、叶人は 意外にも 冷静でいられた。

「まぁ…… 世の中、そんなに簡単に、お助けアイテムが 転がっているわけじゃないしね」

「それは そうだけど…… まぎらわしい奴は、やっぱり ムカつくな~ 俺は」


  自慢の大剣の 柄を撫でながら、兵士長は 笑顔で言い放つ。

「賢者のくせに、魔法が使えない…… だなんて、何しに来たの? お兄さん、俺たちのこと ナメてる?」

「ちょっと、兵士長? やめてよ、何をしてるの?」

  突き刺した地面から 剣を引き抜き、軽く構えの姿勢を取る様子は、冗談でやっているようには 見えない。

「使えないモノは、始末するに限るってのが、俺の ポリシーなんだよね~」

  悪びれもなく 言いだすので、叶人は 手を伸ばして 兵士長の手に触れた。


「…… 何のつもり、アリスちゃん?」

「それは、私の方が聞きたいわね、兵士長?」


  両者の間で、バチバチと 火花が散る。


「信用できない、そのうえ 使えない――― そんなモノは、そばに置いておくだけ ムダだよ。 そこにあるってだけで、その存在を《意識》しないといけない…… そんな労力は 払いたくないと思うのは、間違ってる?」

「間違ってはいないけど…………」

  兵士長は、常に 《もっとも》な事しか 言っていない。

  どんなに 皮肉っぽくても、からかっていても、事実ばかりを淡々と 突き付けてくるから、腹が立つのだ。

「間違ってはいないけど…… 賛成はしないわね、私なら」

「どういう事かな?」

  殺気に包まれた 兵士長は、目の前にすると 相当な迫力だったが、斬られるまでは、言葉で 相手に訴えかけることはできる。

  叶人は 考えながら 言葉を続けた。


「私だって、ムダは嫌い。 バカも 嫌い。 面倒くさいことだって、もちろん 大嫌いよ」

「じゃあ、何故?」

「そんなの、簡単なことよ―――― 私は、《何も 持ってはいない》から。 ただ、それだけ」

「…… どういう、意味?」

  口の端を釣り上げ、探るような視線を向けられつつ、叶人は 堂々と 答えを返す。


  物理的な、意味ではない。

  《能力的》な意味で、自分には 何も無いと 常々 思っている。

「自分だけでは、できることなんて 限られている。 いつもそうよ、私なんて、一人じゃ何もできないんだわ。 でも、できないからといって、それで 諦められるほど、私は 賢くもないし、デキた性格でもない。 何も持たないからといって、何かを 逃すなんてのも嫌なのよ」

「…… そういうのを、《分不相応》っていうんじゃないの?」


  対する 兵士長の言葉は、辛辣だった。

  ふっと、叶人の顔に 笑みがこぼれる。

「…… あなた、やっと 《らしく》なってきたわね、兵士長?」

「!」

  指摘されて、わずかに 泳いだ目の動きを、叶人が 見逃すはずがない。

「…… 話を戻すけど。 私はね、何も無いからこそ、周りを利用するしかないの。 誰かの チカラを借りなきゃ、物事を成し得ない。 私と 兵士長の、決定的な 《違い》は、多分 ココよね」


  叶人も 兵士長も、《使えるものは 使う》という方針で 一致していたはずだ。

  けれど、お互い まったく 別の理由から、その 行動理念に辿り着いていると思われた。


  兵士長は、より 自分を 《有利》にするために。 または、より 《ラクに》目的を達成するために。

  対して、叶人の場合は、目的そのものを 《達成》するために。


「あなた、自分で イロイロできてしまうから、そんな 《傲慢》なことを言えるのよ。 私からすれば、《勿体ない》の ひと言だわ。 言っときますけどね、道端に落ちていた ガラクタだって、使いようによっては 《必殺の武器》に生まれ変わることだって 充分可能なんだから」


  切り捨てることは、簡単だ。 それこそ、捨てる気になれば、いつでもできる。

「遠回りで、たとえ 面倒に見えたとしても、実は それこそが 《一番の近道》である可能性があるのよ? だから、私は どんなモノでも 可能性を捨てないわ。 いつか、それが 《大化け》するかもしれないんだから」

「君は、矛盾してるよ、アリスちゃん。 慎重派で、危ないことは しないんじゃなかったの? 俺には、君が 自分から 危険に飛び込んでいるようにしか見えないんだけど」

「…… う~ん、それを言われると痛いわね……。 でも、今までずっと、そうでもしないと 目的は達成できなかったから、仕方ないとしか言えないのよね」


  そこにあるなら、使う。

  落ちているなら、拾う。

  敵が持っているなら…… 味方に引き入れて、自分に有利なように 仕向ける。

  いわゆる、《勢力拡大型》の戦法――― それが、自分にできる 最大限の 戦い方なのだ。


「だからね――― もし、このまま ニコルに剣を向けるというなら、私は 全力で それを止めるわ」

「…… この賢者に、そこまで 君が 《肩入れ》するのは、どうして?」

「それは…… 上手く説明できないけど…… 目が、キレイだから…… かしら?」


  人間離れした 美貌や、宝石のような 瞳。

  そんな、うわべの 《外見》ではなくて。

「澄んだ色をしているわ。 何かを隠しているような人が、こんなに キレイでいられるかしら?」

  もし、それが 演技だとしたら、相当な 《猫かぶり》といえよう。

「信じたいというよりも、信じてみたいとか、試してみたいとか…… そういう感じよ。 言い換えれば、《保留》ってことね」

「保留…… ね。 判断を 後回しにした結果、実は 相手が 物凄い《悪者》で、気が付いたら 大負けしてました~ …… という事態になったら、どうするの?」

「そのときは…… そのときよ。 私を 敵に回したことを、全力で 《後悔》させてやるわ」

  …… 己以外の、誰かの チカラを借りながら、だけどね。


  小さく 付け足した叶人の言葉に、兵士長は 深い ため息をつく。

「俺は、ますます 君が わからないよ、アリスちゃん」

「あら、そう? わからないと思うなら…… それは、あなたが まだ、私のことを 《見ようとしていない》だけよ」


  本気で、相手のことを 知りたいと思うのなら。

  そばにいて、様々な角度から 観察すること。

  《すべて》ではないにしろ、そうすれば 見えてくるはずだ。 どんな人であっても。


「私が わからないなら――― わかるようになるまで、観察してみたら?」

  叶人は、妖艶な笑みをたたえて、兵士長の瞳を 射抜く。


  観察する…… つまり、しばらくは 一緒に行動し、ついでに 《チカラを貸してね》という メッセージが込められていることを、敏い 兵士長なら 気付くはずだ。

  それを 見越しての、したたかな セリフに、とうとう 兵士長の手から 力が抜けていく。


「兵士長、どうやら そなたの《負け》のようだぞ?」

  それまで、二人の やり取りを静観していた ニコルが、絶妙なタイミングで 間に入った。

「…… 降参する。 アリスちゃんには 負けたよ」

「ふふ、良かった。 これで、また 一つ 《選択肢》が増やせるわ」

  兵士長が、若干 脱力しているように見えるが、気にしないでおこう。



「それで ―――― 我は 役に立ちそうか?」


  叶人は、鋭い ひと言に ドキっとした。

  利用するとか、価値があるとか ないとか…… そんな話ばかりしていたのだが、よく 考えてみれば、本人の目の前で 繰り広げるような話題ではない。

  失礼極まりなく、何とも 非常識な態度であったことを、素直に 認め、叶人は すぐに謝罪した。


「よい、気にしては おらぬ。 むしろ、あれほど 《あけっぴろげ》にしてくれた方が、我としても 安心する。 正直者は、大好きだ。 これからも、気を遣わずに、何でも 打ち明けてくれると助かるぞ」

「…… ありがとう」

  とんでもない 服装からは、想像もできないほど、まともで 大人な対応だ。

  これまで、この世界に到着してから、一番の 《常識人》に出会えた気がする。


  …… あくまでも、気がする だけだ。

  裸に近い マント一枚は、どんなに ひいき目に見ても、覆せるようなレベルではない。


  気を取り直して、叶人は 次のことへと 頭を切り替えることに務めた。


「結局、これから 何をするつもりなのか、説明が 途中だったわよね?」

「ふむ、我は 早く続きが 知りたいぞ」

「はい、じゃあ…… 兵士長、まずは その剣を貸してくれない?」

「………… はぁ!?」


  兵士長は、予想以上に 驚いてくれた。

「君ねぇ…… アリスちゃん。 いきなり、爆弾発言は やめてくれる? まずは、何をするつもりなのか、説明をしてからにしようよ」

「…… そんなに 難しいことかしら? 私は ただ、逃げたブタさん達を、おびき寄せたいだけなんだけど」

「おびき寄せるなんて…… 君ってば、また 危ないことを考えてるわけ?」

「だって、危なくないことなんか、何も 無いじゃないの。 今更だわ」


  赤い実、狂ったブタさん、そして イモムシと 森の異常。

  すべては 繋がっており、全部 ひっくるめて解決しない限り、何も 事態は 変わらない気がするのだ。

「ニコルの言っていた、魔法が 効かないのと、私の ヴァイオリンが 通用しないのと、もしかしたら 似たような理由が原因なんじゃない?」

「おや、アリス。 そなたは、《演奏家》であったのか? これは、実に 興味深い。 時間のある時に、ぜひ 演奏の腕前を披露してもらいたいが……」

「この森から出た後ならば、いくらでも 弾いてあげるわ。 それよりも――――」

「ふむ、この森のことであるな? 我の目には…… 森の全体に、薄い 《膜》が見えるのだ。 その膜が、どのようにして作られたのかは わからぬが、そのせいで 魔法に属するモノが 阻まれていることは感じられるぞ」


  ………… 薄い、膜。

  それは、もしかして。

「いわゆる、《結界》というヤツだね。 編み上げた、《チカラの檻》ってところかな。 網目がわかれば、あとは 根気よく ほどいていけば、いずれ 解ける。 賢者さん、膜が見えたということは、網目も 見えるんじゃないの?」

「む…… すまぬが、今は わからぬ。 ただ、思うに あれを張ったのは、森の主であるイモムシのはずだ。 本来、結界というものは、心と直結している。 イモムシが動揺し、心に 隙間ができれば、網目が見えてくるだろう。 そうすれば、我が 解いてみせるぞ」

「…… ほら。 やっぱり イモムシさんを追い詰めて、《要塞》から引きずり出すことが、カギってことでしょう? 考えたんだけど、ブタさん達を おびき寄せて、彼らを 赤い実の呪縛から解き放てたら…… どう?」


  イモムシにとって、かなりの 動揺を誘えるのではないか。

  そして、その隙に 結界を解き、叶人の ヴァイオリンも 復活させる。

  そこまでくれば、イモムシだって 黙ってはいないだろう。

  必ず、何か 動きを見せてくるはずだ。 動きを見せた 瞬間が、新たな 攻撃の幕開け…… と、叶人は 推理していた。


「ブタさん以外に、今は有力な 《材料》が無いんだもの。 とりあえず、ブタさん達が ここまで来てくれないと、実行できないわ。 だから、赤い実を すべて採って、目の前に 集めようと思うんだけど」

「それで、俺の 剣を貸せって? はぁ…… まったく。 ちょっと、待ってて」


  ぶつぶつと 小声で文句を言いながら、兵士長は 近くの 赤い実の木まで 近付いて行った。

「兵士長というのは、素直ではないな。 協力する気ならば、笑顔で 事に当たった方が よいぞ?」

「…… 余計な お世話だね。 ウルサイと、たたっ斬るよ?」

  ニコルを 睨みつけながら、兵士長は 赤い実の生った枝を ばさばさと切り落としていく。


  ほどなくして、大量の実が 焚火の前に 並べられていた。


「それで? 赤い実は、今のところ これで 全部だと思うけど? まさか、これだけで、ブタさん連中が、のこのこと やってくるとは思えないんだけど」

「そうね、私も 同感だわ。 そこで―――― 兵士長、あなたの 出番よ」


「え~と…… アリスちゃん? 今度は、俺に 何をさせたいの?」

  げんなりとした表情を 隠そうともせず、兵士長は 面倒くさそうに 叶人に 尋ねた。

「簡単なことよ。 兵士長の 《殺気》は、普通じゃないわ。 このままでは、ブタさん達が 寄ってくるブレーキになりかねない。 だから、しばらく どこかに 《お散歩》してきてほしいのよ」

「…………………… お散歩、だって?」


  兵士長は 目を白黒させ、ニコルは ニヤニヤと笑っている。

「別に、本当に 歩き回らなくても いいんだけどね。 要は、この場から、あなたの 《殺気》も 《気配》も すべて消して、兵士長は 《森から出ました》って、相手が思えるようにしてほしいのよ」

「ちょっと 待ってよ、アリスちゃん。 そうして、ブタさんが 近付きやすくすることは 理解できたけど。 その間――― 君は どうするの? まさか……」

「ニコルと一緒に、ここで 待つわ」

「…… っ…… ちょっと、こっちに来て!」


  言葉が早いか、行動が早いか。

  強引に 腕を掴まれて、叶人は 木の陰へと 引きずりこまれてしまう。

「い…… 痛いじゃないの、何なのよ……」

  抗議をしようとしたが、目の前に近付いた 兵士長の顔に気が付き、叶人は 硬直した。


  怖いくらいの、真剣な 目。

  続いて発せられた声も、有無を言わさない迫力があった。


「君は…… 俺の手から、逃げられないでしょ?」

  兵士長は 片手で、叶人の 両手をひとまとめにして 押さえつけていた。

  背中には、大きな木。 どう頑張っても、逃げられない 体勢だ。

「君は、軽く 考えすぎてる。 腕力じゃ、君は どうやっても 《男》には かなわないんだよ?」

「わ…… わかっているけど……」

「わかってない!」


  それは、兵士長が 初めて見せた 一面だった。


「会ったばかりの 男と、二人きり? 正気なの? 今の 君は、戦えないんだよ? 今みたいに……」

  ぐっと さらに力を強め、兵士長は 叶人の耳へと 唇を近付ける。

「こうやって 詰め寄られたら…… どうするの?」

  ささやき落とされた声と 息が、叶人の耳元を くすぐった。


「…… んっ……」

  ぞくぞくと、背中を何かが 駆け抜ける。

  どこかで 体験したような――― 全身が、ざわざわと 騒ぎ立てる感覚。


「…… …… ……」

  あまりの出来事に すっかり 頭が混乱して、動けずにいる叶人を 確認してから、兵士長は ようやく 掴んだ手を解放した。


  どくどくと 体中が脈打ち、知らぬ間に 呼吸を止めていたことを知る。

「な…… な……」

  言葉が 続けられない状態に 情けなくなりつつ、それは すぐに 渦巻くような《怒り》へと変化していく。

  問答無用で、頭突きを食らわせようと、思いきり 頭を動かそうとして。


  ぱしっと、乾いた音とともに、何者かの手が 額に当てられていることに 気付く。

「《頭突き》とは…… 少々、おてんばが過ぎるぞ、アリス」

「……… ニコル?」


  驚いたことに、目の前の兵士長ではなく、いつの間にか 移動してきた ニコルの手だった。

  あまりの 早業に、面食らっているのは 叶人だけではない。 兵士長も 同様の顔で、ニコルを凝視していた。


「まったく…… 素直ではないのも 問題であるな。 アリスのことが心配なら、ハッキリと そう言えばいいものを……」

「なっ…… 俺はっ」

「そなた、賢そうに見えて、案外 まわりくどい…… いや、違うな。 《まどろっこしい》というべきか…… とりあえず 《面倒くさい男》であることは、今の一件で 理解した」

「ちょっと、待て。 聞き捨てならないな。 何を根拠に そんなことを……」


  殺気という 凶悪なオーラを発動させて 迫る兵士長だったが、対する ニコルの前では、何故だか 《毛を逆立てた 子猫》にしか見えなかった。

  叶人にしても、さっきまでの 混乱も、動揺も、怒りも―――― ニコルの手に触れてからは、きれいに 霧散している。


  ニコルは………… 何を、した?


  形勢逆転とは、まさに この状態を表す言葉といっても 大げさではない。

  あとから現れておいて、今 この場を 《掌握》しているのは、認めたくはないが――― 明らかに、ニコル ひとりだった。


「アリスも、アリスだぞ? 勇敢で 賢いのは そなたの強みだが、少しばかり 無茶をしすぎるのと、《男心》を まったく理解していないことが 問題である」

  …… 挙句の果てに、怒られてしまった。

  マント一枚の 露出狂男に 説教されるとは…… 人生、何が起こるか わからない。


  しかし、叶人は 不思議と 反発心は 起こらなかった。

  それどころか、素直に 『は~い』と返事をしていることに、さらに 驚く。


「うむ、よい返事だな。 さぁ、この話題は これで終いだ。 ほれ、いつまで ぼ~っとしているのだ、兵士長? アリスの出した 作戦を忘れたのか?」

「え…… あ、いや……」

「覚えているのなら、結構。 すぐさま、ここより 出発するべきであろう? 課題は すでに二日目に突入しているのだからな?」


  腑に落ちない 顔で、それでも 他に反論の余地が見つからないのか―――― 兵士長は、ニコルに促された通りに、渋々 木々の奥へと 姿を消した。

  あの、兵士長が。 反論もせずに。 他人の 言いなりになるなんて。


  幻を 見たような気がしたが、あくまでも 目の前の光景だ。

  少しだけ、あまりの急展開に、乗り遅れそうになった 叶人だったが、慌てて 息を吹き返す。

「とりあえず…… ありがとう、ニコル」

「ふむ。 兵士長のような男を相手にするときは、もう少し、慎重にな?」

  悪いヤツではないが、ああ見えて 不器用で、意地っ張りな男だ。


  兵士長に対して、不器用と表現するとは、この 賢者様は いったい何者なのだろう。


「ほれ、先程の 焚火の前に 戻るぞ?」

  後ろ姿を 見る限り、特に 何も 変わった所はない。

  黒いマントが ひらひらと揺れ、中にある 素肌が見え隠れするだけだ。 …… この 変態ヤロウ。


  賢者というものが 何なのか、簡単な説明だけでは 実態が掴みにくいというのが 本音だった。

  それでも、叶人には 漠然とした――― それでいて、確固たる 《思い》が、胸の中に 居座っている。


  この人は ――― 自分を、傷付けない。


  それは、まさしく…… 初めて 白ウサギと対面したときと、まったく 同じような 感覚だった。

  理由は、ない。 何の 根拠も、ない。 ただの、第六感的な、思いこみなのかもしれない。

  兵士長の 危惧したように、これから 敵にまわる可能性だって、ゼロではない。


  ふと、ひとつ 《おかしなこと》に気付く。

  課題のことは、ニコルには まだ 話していないはずだった。

  それなのに、課題のことを知り、期限までも 正確に把握している素振りなのは、どういうことなのだろう。

  芽生えた 疑問は、やがて 小さな 疑惑へと変化していく―――― が。

「…… ……」


  叶人には、疑うこと自体が、何故か 馬鹿馬鹿しいと思えた。

  ニコルは、間違えなく、自分の 味方だ。

  心のどこかで、しきりに そう 叫んでいる自分がいる。

  そして、そのことに 安心しているのは、まぎれもない 事実。


  疑問は、つきない。

  けれど、今は その疑問に 満足するような答えを見つけられるとは 考えにくい。

  それならば、とる行動は、ただ ひとつ。


「今…… 行くわ」

  少しでも、味方は 多い方がいい。

  自分の 直感も、捨てたもんじゃ ないはずだ、と。



  叶人は すぐさま、ニコルの背中を 追って行った。

  今回、説明やら セリフやらで、わりと ダラダラした文章になってしまいましたが…… とりあえず、後書きまで読み進めて下さった皆様、お疲れ様でございます。


  ニコル氏については、あえて 何も 申しません。 このまま、彼の 行く末を 静かに見守っていて頂きたいと思います。 兵士長は、やたらと 噛みついていましたが、それは それで 理由有り…… ということで。 詳細は、後ほど。


  次回、イモムシさんよりも先に、前哨戦として、ブタさん達と ドンパチする予定に変更致しました。 ブタさん達の派手な 柄シャツに、ニコルの 柄パンが 迎え撃つ――― というのは冗談ですが、ある程度 活躍してくれることでしょう。 今後の展開を お楽しみに。 

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