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九十九番目のアリス  作者: 水乃琥珀
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3.ちび兵士長と ちび白ウサギ

 重要人物、ハートの≪兵士長≫と ≪白ウサギ≫の登場です。 さらに、背後から叶人を狙う、アノ人物の影も チラリ……。


※誤字 発見、修正しました

「では…… まずは、≪護衛≫から決めた方がいいですかね」


 

 ≪案内人≫と 叶人≪カナト≫の間に、小さなテーブルが出現した。


  その上に乗っていたのは―――― 小さな 半透明のガラス瓶たち。 コルクで栓がしてあり、中には何かが入っている。


「これは?」

「中に入っているのは、あなたが選んでもいい≪護衛たち≫です。 今は 体が小さくなっていますが、この薬―――― ≪大きくな~る≫を飲めば、たちまち 元のサイズに戻りますので、安心して下さい」


  薬の名称といい…… つくづく ふざけた世界だ。


  案内人は、紫色をした ドロドロと濁る液体の瓶を、叶人に渡す―――― 自分が飲むんじゃなくて 良かった、と 思わせる一品である。


「当然ですが、護衛にも それぞれ≪特技≫があります。 彼らの特性を考えて選んだ方が 賢明でしょうね」


  さあ、どうぞ―――― ずいっと、今度は 目の前の≪護衛入り小瓶≫を勧められるが…… 小さ過ぎるうえ 半透明で見えにくく、正直何が何だか わからない。


「え~と…… 小さいし 中身があまり透けてないから、よく見えないんだけど」

「では、順番に説明していきましょう。 左端から いきますよ? スペードの兵士、お城の門番、ハートの兵士、お城の庭師、靴職人、スペードの兵士、郵便屋……」


  ≪靴職人≫とは…… 何ぞや。

  はたして 護衛が務まる職業なのか?

  靴を作るための道具が武器に…… って、道具って一体何だろう?


  それに、≪郵便屋≫。 足の速さでは負けません、て? 

  飛脚か? 逃げる専門の 職業か? …… ちょっと、興味は引かれる。


「それから、スペードの兵士、スペードの兵士、スペードの兵士…… 何だか、スペードが多いですね。 クローバーは やられましたか……」


  靴職人と郵便屋に 気を取られ、今何か けっこう重要な事を 聞き逃したような……。


「あと、ダイヤの兵士、料理人、お城の門番、お城の庭師、靴職人、スペードの兵士、ダイヤの兵士、それから…… あぁ、戻ってきていましたか、ハートのエース君」


  ≪案内人≫は、一つの 小瓶を手に取った。


「前の ご主人様は、けっこう長く もちましたねぇ。 あなたの活躍も 相当なモノだったと聞きましたよ。 …… どうです、≪九十九番目の アリス≫。 彼は 兵士の中でもトップの実力の持ち主、≪兵士長≫です。 かなり お薦めですよ?」


  おそらく、戦闘力としては優秀だと 言いたいのだろう。

  しかし、叶人は ≪前のご主人様≫という言葉に、引っかかりを覚えた。


  長くもった…… とは、どういう意味なのだ? この場に戻ってきたということは、その人…… 何番目かの≪アリス≫は、どうなったというのか。 …… 恐ろしくて、聞けない。


「あぁ、≪前のアリス≫は けっこうワガママな人でさ。 護衛するのも 大変だったんだぜ? 人の分まで 横取りもするし、周りから 恨み買いまくってて、結局 自滅したパターンだったなぁ…… 刺激的で、おもしろかったけど」


  ハートのエース…… 正式な名前は知らないが、彼は―――― 危険だ。

  本能が、そう告げている。


  エースは…… ≪危険≫を楽しむタイプに見えた。

  腕は確かなのだろうが、場合によっては、ギリギリまで放置…… なんて事も、有り得るかもしれない。

  そもそも、助ける気など無くて、自分が 戦闘を楽しむだけ…… とも考えられる。


  明るく爽やかな声の中に、ほの暗い≪毒≫を感じ取ってしまったのだ―――― 彼は、選べない。


  ゆるゆると、首を横に振って 拒否を表すと、≪案内人≫は おもしろそうに 目を細めた。


「おや、珍しい。 エース君を拒むなんて…… 彼は、いつでも かなりの人気者でしてね、こうして フリーな状態であるのは珍しい事なんですよ?」

  本当に いいのか…… と、念を押されたみたいだが、自分の直感は 信じるべきだ。


「振られてしまいました、エース君 残念でしたね」

「ホント、この俺を 蹴るなんて…… ふ~ん…… すっごい 興味湧いちゃったなぁ―――― ≪九十九番目の アリス≫ちゃん」


  何も無いのに、大剣で ぶった斬られたような、鋭い寒気が走った。


  気のせいではなく、小瓶の中から発せられた、エースの 紛れもない≪殺気≫。

  小瓶は半透明で、お互いが はっきりと見えてはいないというのに―――― 息苦しい、圧迫感。

  やはり危険だ、関わりたくはない。


「では、残りの≪護衛≫は…… スペードの兵士、スペードの兵士、ダイヤの兵士、お城の門番、ハートの兵士、靴職人……」


  意外に、靴職人の エントリーが多い気がする…… 実は 以外に強いのか!? 気になるぞ、靴職人!


「ねえ、≪九十九番目の アリス≫ちゃん? 俺を選んでよ~」


  禍々しい殺気を 隠そうともしない態度は、いっそ あっぱれとも言える、兵士長様だ。 そこまで、拒否したアリスが 気に入らないのだろうか。

  小瓶から出したら最後、瞬殺されそうだ。 外に出してはいけない。 いっそのこと、ずっと入ったままでいて欲しい。


  何とか無視しようと、靴職人に意識をそらそうとしたが、≪兵士長≫は ことのほか ひつこかった。


「選んでくれないなら~……… 実力行使でも、しちゃおっかなぁ……」

  聞き捨てならないセリフの直後、エースの入っていた小瓶が ガタガタと動いた。

  頭の中で、危険だとサイレンが鳴る。


「……!」

  咄嗟に 瓶へと伸ばした右手は 一歩及ばず…… 『きゅぽん』という可愛らしい音とともに、小さな≪物体≫が 中から飛び出してきた。


「やっぱり、外の空気は おいしいなぁ~」

  ハートの≪兵士長≫ 出現、である。





  騎士装束というのだろうか―――― 肩に 金の房飾りのついた≪赤い 詰襟の上着≫、無地の≪白ズボン≫に続くのは、膝まである ≪黒の ロングブーツ≫。

  ハートの兵士らしく、ハート柄の入った≪赤いマント≫を羽織り、腰には 大剣を下げるための≪ベルト≫。

  さらに、不吉な ≪皮の 黒手袋≫をはめた手に握られているのは、腰から抜いたばかりの ピカピカな≪大剣≫。


  明るい茶色の髪と瞳は、日本人ぽい色合いだし、顔の造作だって 悪くない。   むしろ、かなりモテる部類に入るだろうし、本人も その自覚がありそうだ。


  …… 頼むから、ヤル気 満々という笑顔で、こちらを見ないでほしい。


「さぁて…… その薬―――― ≪大きくな~る≫を 渡してもらおうかなぁ?」

  …… 渡すわけが ないだろう。 渡したら、アホだ。


  小さいままでも、存在感と威圧感は すさまじく、≪エース≫を通り越して 他の護衛が入った瓶を手にするには、いささか 勇気がいった。

  手を伸ばすだけで、すぐに斬られそうだ…… 小さいけれど。


  どうするべきかと迷った 叶人の横から、エースでもなく 案内人でもない…… 別の声が聞こえてきた。


「今、助けますからね―――― ≪僕の アリス≫」

「ん………?」


  きゅぽん…… という、コルク栓が抜ける可愛らしい音は、しなかったはずだ。

  いつの間に 這い出てきたのか、≪エース≫の隣には もう一つの物体―――― 頭に 白いウサギ耳を生やした青年が、短剣を構えて立っているではないか。


  テーブルの上を確認すれば、一番遠かった 右端の小瓶の コルクが開いている。

  もしかして……… 救世主!?


「おやおや、≪白ウサギ≫殿ではありませんか」

「ホントだ、ウサギさんじゃないか~」


  ≪ちびエース≫の隣に対峙する、≪ちび白ウサギ≫。


  光沢のある≪赤いジャケット≫に、フリフリの≪白いシャツ≫、胸元には リボン状の≪黒いタイ≫を締めて、下は 黒いストライプの入った≪白パンツ≫に、磨きのかかった≪黒い靴≫、手には 案内人と同じ≪白手袋≫。


  顎まで伸びた サラサラの≪銀の髪≫に、すっと通った鼻筋、ルビーをはめたような キラキラと輝く≪赤い瞳≫―――― 少しクールな印象は与えるが、申し分のないほど 美しい青年だった。


  …… 頭に、白い ウサギ耳さえ生えていなければ、だが。

  さらに、

「離れなさい、エース。 君ごときが 近付いていい存在では ありません。 彼女は―――― 僕だけの≪アリス≫なんですから」


  …… 前言撤回、中身も 完全にアウトだ。


  頬を染めて こちらを向いたその顔は、昔 近所に住んでいた≪みーちゃん≫を 彷彿とさせた。


  七つ年上の≪ちょっと危険なお姉さん≫で、よく『可愛い、可愛い、食べちゃいたい』と言っては、実際に 舐めたりかじったり…… 某ゾンビゲームに出てくる ゾンビや犬よりも、叶人に恐怖を与えた 厄介な人物だった。


  『あたしの叶人ちゃん』と、頬を染めて近付いてくる姿がトラウマになっており、目の前の 白ウサギは、まさに それに匹敵する。


「なになに、ウサギさんてば…… 俺のこと 邪魔しちゃうの?」

「邪魔をしているのは、君の方ですよ、エース。 今すぐ 殺してあげますから…… そこを動かないで下さい」

「うおっとぉ! はははは、危ないなぁ、ウサギさんてば!」


  叶人の意見など 置き去りにしたまま、ちび二人は テーブル上で斬り合いを始めてしまう。


「僕とアリスの仲を 邪魔をする奴は、許しません!」

「はははははは、相変わらず 思い込みが激しい ウサギさんだなぁ~」

「こらこら 二人とも。 勝手に出てきたうえに、勝手に 殺し合わないで下さい…… 聞こえていますか?」


  呆れた案内人の声がしたが、叶人には またとないチャンスであった。


  今のうちに 他の護衛を選んでしまえば、こっちのもの。 危険人物が 二人揃って潰し合ってくれるなら、こんなに いいことはない。


  他の小瓶の中身に 集中していた叶人は、背後に迫る≪あるモノ≫に まったく気付かなかった。 そもそも、平和な日本に住んでいたら、こんな危険に出くわすことなんて、滅多にない。 背後に疎くても、仕方がない。


  まさか―――― 自分が、予告もなく いきなり狙われるなんて。


「…… あ」

「…… アリス!!」


  斬り合いながらも、エースと白ウサギは ほぼ同時に気付いたが―――― 動いたのは 白ウサギだけだった。


  ひゅっ…… という 風の音。

  何かが 自分に向かって刺さろうとしていたが…… 飛んできた≪丸いモノ≫が当たって、二つが地面に落下する。


「な………… 何……」

  地面に落ちたのは、自分を狙っていた≪矢≫。

  そして、その矢を 阻んだのは………。

「懐中…… 時計?」


  落ちた衝撃で壊れてしまった、古びた≪懐中時計≫―――― 白ウサギが 投げたモノ。


「…………………」

  何か言いたそうな 案内人の顔が、視界に入った。


  おそらく…… 白ウサギにとって、ものすごく≪大事なモノ≫だったのだろう。

   命と同じか、もしかすると それ以上の価値なのか。



「よかった、間に合った……」


  しかし、心底 ほっとした表情の 白ウサギには、懐中時計を 惜しむ様子など、微塵も感じられないから―――― 叶人は 何て言っていいのか わからなかった。



  ただ、胸の奥が 少しだけ痛む。


  たとえ、あの≪みーちゃん≫に 似ているとしても……。

 個人的に、≪靴職人≫と≪郵便屋≫が すごく気になります。 戦士ばかりが 最強ではない…… という イレギュラーな展開が大好きなので。 今後、どこかに登場するかもしれません。

 スタート地点から出発までの『準備編』は、もう少し続きます。

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