21.一人ぼっちの 少年アリス
思った以上に、文が長くなってしまいました。
次の回に繋がる部分なので、さらっと…… けれど ぜひ飛ばさずに、読んでほしいです。
いけません――― と、首を振って《関わるな》と忠告してくる 白ウサギ。
しかし、どうしても 叶人は《訪問者》のことが 気になってしまい、結局 白ウサギを先頭にして、部屋の扉を開けることになった。
「絶対に、僕の前に出ては いけませんよ?」
何が起こるかわからない、危険な世界。
慎重派の 叶人にしては、珍しい《選択》といえよう。
「ごめんなさい、ノール。 …… 少しだけ、付き合って?」
所詮 白ウサギ無しでは、危険を回避できないのが事実。
我がままを言っているのは 百も承知だったから、叶人は 素直に《お願い》をしてみた。
「…… カナト…… あなたという人は…… 可愛すぎます!」
くるりと 振り返って、抱きつきそうな勢いだったので――― 両手で ぎゅ~っと、扉へと押しつけてやった。
「い…… 痛いです、カナト。 そんなに 恥ずかしがらなくても……」
「さぁ、ノール! さっさと、扉を開けて?」
「イジワルなところも 素敵です、カナト」
一発 ぶん殴ろうか…… と考えたが、今は やめておこう。
短剣に手をやりながら、ゆっくりと 扉を開ける 白ウサギ。
緊張の瞬間が過ぎ――― そこに立っていたのは…………。
「あなたが…… 瑞樹…… 君?」
予想した通り、まだ 十代の 男の子だった。
「えっと…… うん、俺が 瑞樹です。 初めまして」
イマドキの 若者には珍しく、礼儀正しい挨拶に 好感を持ったが――― 彼の姿を よく見てみると。
「あ…… あなた、傷だらけじゃない!」
アリス専用の フリフリ衣装は 端が切れているし、半袖から出た 腕も、細い傷が走る。
男の子らしさはあるが 可愛いタイプの顔…… にも、残念なことに 汚れが目立ち、赤い血の跡も見えた。
「…… 君の《護衛》は、どうしました?」
冷たい声は、もちろん 白ウサギのものである。
少しでも 疑わしい行動を取ったら、即座に 斬り捨ててやる…… と言いたげな表情が 丸わかりだ。
「そういえば、そうね。 あなたの護衛は?」
今のところ 完璧に守られて、傷ひとつ無い 叶人とは 大違いだった。
「護衛はさ…… 今、いないんだ」
「いない? …… どこか、違う場所にでも 行っているの?」
「あ~…… え~と、そうじゃなくて」
一旦 言葉を切った少年は、その後 重大なことを告げてきた。
「護衛を……《解任》しちゃったから、俺 ひとりなんだ」
叶人には、一瞬 言われた意味が わからなかった。
「解任…… って……」
そんな事が 可能なのか…… も気になるが、それよりも 重要なのは―――。
「どうして、そんな事を したの?」
《僕を 解任する気ですか》と、赤いおめめで 必死に訴えてくる 白ウサギが見えたが、手で 遠ざけておく。
「…… とにかく、何か 事情がありそうね。 怪我もしているし、中に入って 話しましょう?」
「カナト!?」
「…… いいの? 入っても? …… 言いたくないけど、今の俺って、けっこう《アヤシイ訪問者》じゃない?」
「まぁ…… 確かに、そうね」
本人に 指摘されなくとも、叶人自身が 一番よくわかっている。
「僕は反対です、カナト。 危険です! この世界では…… 特に、アリス同士が 一番《信用できない》相手なんですよ!」
「別に、アリスでなくても…… もう充分、危険なヤツ ばっかりじゃないの」
この世界において《まとも》な人間など、存在しないのかもしれない。
けれど。
叶人には、そこそこ 期待できる《護衛》がついているのだ。
「私には、ノール…… あなたが いるわ。 何かあったら、助けてくれる?」
多分、一人きりなら 警戒して、他人を部屋に招き入れることは 避けるかもしれないが。
狂ったウサギさんなら、自分の《身の安全》を 最優先してくれるだろうから。
小首を傾げた 叶人の姿に、白ウサギが 勝てるはずもなく。
「あぁ…… カナト、あなたという人は…… 本当に…… 可愛過ぎて、僕を殺す気ですか!」
再び 抱きつかれそうになったので、今度は 軽く殴っておいた。
「痛いです…… あぁ、でも これは《愛情の裏返し》なんですね?」
さすが、白ウサギ。 いつでも《前向き》発言である。
二人の やりとりに 若干 圧倒されつつも――― 瑞樹は案内されるまま 部屋へと足を踏み入れた。
そして、扉が閉まると 思い出したように、スカートのポケットに手を入れる。
「そうだ、一応…… コレ、アンタに 渡しておく」
不審な動きを警戒する 白ウサギは、叶人の前に立ち、代わりに ソレを受け取ってから 叶人の手に乗せた。
瑞樹が 叶人に《渡したモノ》――― それは まさしく、キャンディーポットだった。
叶人のは ピンクのガラス瓶だが、彼のものは 水色のガラス瓶で、中に入っているのは…… もちろん、《感謝のドロップ》で。
しかも――― 十個くらいは ありそうだった。
「どうして? それは、あなたのモノでしょう?」
「うん…… でも、俺…… 今、ドロップくらいしか、アンタに あげられる物 持ってないし。 ドロップを渡した方が、アンタも安心できない? 護衛も無し、ドロップも無し。 これで、まったくの《ただの人》だから」
「…… 甘いですね、少年。 武器が、あるでしょう? アリスの武器は、他の武器とは異なり、意思によって いつでも 自由に 召喚が可能です。 君が まったくの《無害》とは言えませんね」
「それも そっか…… ん、分かった。 じゃあ…… はい、コレも」
白ウサギの冷たい態度にも めげることなく、瑞樹は あっさりと《武器》を召喚し、白ウサギに 手渡した。
「…… 何ですか、これは?」
初めて目にするのか、白ウサギは じろりと瑞樹を 睨む。
綺麗な顔が睨むと、とても 迫力がある。 まして、赤い おめめだ。
それでも 怯まない様子の少年に、叶人は 心の中で拍手を送った。 なかなか、見込みはありそうだ。
「それって、パチンコよね?」
しかも、本当に ただの《木の棒》に《ゴム》をくくりつけただけの、《お粗末な作り》の物だ。
「あなた、今まで ソレで戦ってきたの?」
そんな品では、射程距離も たかがしれているし、命中率だって 低そうだ。
叶人なら、武器とは 呼ばない。 オモチャにも、ならない。
「俺もさ…… 何で、召喚されたのが《コレ》なのか、意味分かんないんだけど。 とにかく、俺の武器は そのパチンコになっちゃってさ。 当然、こんなんじゃ 戦えるわけ ないじゃん?」
「想像できるわね。 でも、だったら尚更、護衛が必要なんじゃないの?」
「うん…… そうなんだけどさ」
少しだけ、寂しそうに笑う顔が 印象的だった。
この子って――――。
考え付くよりも 先に、叶人の足は動いていた。
「カナト?」
昼間 買ってきた袋の山へと移動し、目当ての物を いくつか手に取る。
部屋の中央のソファの前に行き、そこに 瑞樹を手招きした。
「…… え?」
「いいから、ここに来て?」
「カ…… カナト、僕が知らない間に、そんなものを 買っていたんですか?」
叶人の手に握られているのは、消毒液とガーゼと ピンセットだった。
「ノール、悪いけど…… 洗面器に お湯を入れて。 それから、綺麗なタオルも 用意してくれる?」
言われた白ウサギは、子供が 泣く前のような、情けない顔をしたが…… 結局、素直に従って 用意を始める。
「あの…… いいって! 怪我っていったって、このくらい たいしたことは……」
「ぐだぐだ言わずに、座りなさい」
「…… ハイ」
有無を言わせない 叶人のひと言に、少年は おとなしくなるしかなかった。
白ウサギが持ってきた洗面器に タオルを浸し、軽く絞ってから 瑞樹の顔へと向ける。
「わ……」
「ほら、じっとして」
「…… たかだか、ガキのくせに、僕のカナトに 手当などさせて、どうして こんな奴が、僕のカナトの、あぁ 綺麗な手が 汚れてしまうのに、僕の 可愛いカナト……」
背後から、低い お経のような声が聞こえてくる。 怖いから、やめてほしい。
「ノール、ぶつぶつ 呪いの言葉を吐くのは やめなさい」
しゅん…… と、うなだれて下がる耳が 可愛いから、後で 撫でてあげよう。
しばらく、叶人は 無言のまま、瑞樹の手当てを続けていると。
当の本人が、我慢できなくなったのか――― ぽつり ぽつりと、今までの経緯を 語り出していた。
瑞樹が この世界に来たのは、おそらく 一年前だという。
なぜ、おそらく…… なのか。
それは、だんだんと 時間の感覚が 狂ってくるのが原因だという。
「俺も、詳しいことは わかんないんだけど…… 俺たちのいた世界と この世界じゃ、時間の進み方が 違う気がするんだよね。 だから、体が いつまで経っても慣れない。 どこか、ちぐはぐなんだ。 もしかしたら、現実の方では 一分しか経ってない…… って事も、あり得る」
「確かに、《案内人》の話では…… 現実の方は 心配しなくていい――― みたいな事を、言っていた気がするけど……」
その辺りの 話題を出した時、何か 隠している様子だったのも、確かだ。
「俺の 護衛ってさ、ルイっていう名前で、郵便屋だったんだ」
「郵便屋さん!?」
何と、こんなところに 郵便屋を選択したアリスが いたとは。
「ねえ、アンタは…… 武器が先に決まった? それとも、護衛が 先に決まった?」
「え…… どうだったかしら。 何だか、すごくバタバタしていたのよね」
たかだか 三日前の記憶なのに――― それこそ、一年前のような 感覚がある。
「護衛が 先です」
静かになっていた 白ウサギが、口をはさんだ。
「カナトは、僕を選んでくれました。 そして、僕を助けようと…… 武器を召喚したんです」
「そういえば…… そうだったわね」
何故 そこで、胸を張って 大威張りしているのだ、ウサギさんは。
「そっかぁ…… 俺の場合、逆でさ~。 俺、自分は すごく強くなれる気がしてて、だから 最初《護衛なんか いらねぇよ》…… みたいに思ってて、それで 逃げ足速そうな《郵便屋》を選んだんだ」
やはり、郵便屋のイメージとしては、そんなところだろう。
「それがさ…… 期待が 大ハズレも いいとこでさ。 実際に、武器を召喚したら、出てきたのは コレじゃん? もう、俺の人生 終ったと思って、すんげぇ へこんだよ」
確かに、これは《使えねぇぇぇ》と 誰もが思うだろう。
「それなのに…… ルイはさ~。 そんな俺のこと、すんごく 助けてくれてさ……。 護衛だから、ってことも あるんだろうけど、すっごくイイ奴でさ。 俺、そんなルイのことを、巻き込みたくなくってさ……」
次第に声がしぼんでいく 少年は、ウソをついているようには 見えなかった。
「何が、あったの?」
「…… アンタは、もう 他のアリスとは 戦った?」
「到着して 早々、四十三番に 襲われたわ」
「え~ それって、あの《シュワちゃん》のこと!?」
シュワちゃん――― 叶人の 勝手なネーミングは、少年にも共通していたようだ。
「でも、ここに 無傷でいるってことは…… 勝ったんだよね。 やっぱ、アンタって すごい強いんだ」
「…… 強くはないわ。 他の人に、助けられているだけよ」
「それでも、勝てるって…… すごいよ」
この言い方だと…… もしかして。
少年の話は、先が 見えてきた。
「俺たち、負けたんだ。 何だっけ…… 《赤の連合》とかいう奴らに」
「赤の…… 連合? 単独ではなく、数人で組んで 戦っているってこと? …… ノール、知ってる?」
「ええ、もちろん。 有名な連合ですね。 《三十五番》を筆頭に、確か 七人だったと思います」
四十三番のバルドでも かなりの古株だと聞いていたが、その更に上の 三十番台が 存在しているとは 初耳だ。
「連合にも いろいろ種類がありますが、彼らは 特に《残虐》で有名です。 …… カナトとは、絶対に《敵》に当たりますね」
「ん、そうなんだ。 俺たちも 殺されそうになって…… それで……」
「それで、《解任》って…… どういう意味なの? 解任すると、何が起こるの?」
「解任された 護衛は、どの場所にいても――― 始まりの地の、ガラスの小瓶の中に、強制的に《送還》されるのです」
白ウサギの説明に、少年の話が ようやく理解できた。
「それって…………」
「うん、俺さ…… ルイには 死んで欲しくなかったから。 それ以外に、助けられる方法なんて、何も無かったし。 結局、ルイが消えたことで 隙ができて、俺は 何とか一人で逃げられたんだけど……」
俺は、一人になっちゃうし、別のアリスには 狙われるし、ホント もうボロボロでさ~。
明るい口調に聞こえるが、心までが そうではないことを、叶人は 気付いていた。
この子って…………。
「やっぱり、もう 俺一人じゃ 限界って時に、アンタの噂を聞いてさ。 それで、話を聞いてほしくて……」
「正直に 答えなさい、少年。 君は、 カナトに何をさせたいんですか?」
白ウサギが、ずばっと 核心をついた。
「…… 俺の、新しい護衛が 見つかるまでで、いいんだ。 俺も一緒に、連れて行ってほしい!」
「却下です」
「頼むよ! ドロップも渡すし、迷惑かけないように 頑張るからっ……」
「僕たちの ハネムーンの邪魔をすることが、すでに迷惑なんです」
「………… え」
ハネムーンという単語に 反応するのは、とても正常な 証拠である。
このまま 白ウサギにしゃべらせておくと危険だと判断し、叶人は 会話に復帰した。
「ドロップは もらえないわ。 それは、あなたと 護衛のルイさんが、二人で集めた《結果》でしょう? そういうものは、ちゃんと大事に とっておきなさい。 ルイさんが いなくなった今、尚更よ」
瑞樹の態度からも、よくわかる。 ルイという人物のことを、彼が 好いていたということが。
「でも 俺、無一文だし、会ったばかりだから 信用できないだろうし、それに……」
「そんなこと ないわ」
叶人は、瑞樹の言葉を 遮った。
「そんなこと、ない」
再度、言葉を 重ねて――― それから、白ウサギの方を 見る。
《言葉》よりも、《物》よりも。
人を 信じられるかどうかは、その人が 起こした《行動》が すべてだと、常々 叶人は考えている。
その観点からいけば、目の前の 少年は……。
「ねぇ、ノール」
人一倍、叶人の事を 考えている白ウサギならば、今 何を言いたいのかくらい わかるはずだ。
「…… 僕は、反対です…… カナト」
「それは、どうして?」
信用できないから? 面倒だから?
視線だけで 問うと、目をそらそうとして 失敗した白ウサギと、ばっちり 目が合った。
「私だけの 問題じゃない。 ノールにも直接 関わることだから、私の一存では 決められないわ」
同行を許したとしても、危険が迫った時に、叶人ひとりで 何かができるわけではない。
戦闘に関しては、白ウサギが中心になるし、ましてや 瑞樹の武器は アテにならないとなると…… 白ウサギひとりに、負担がかかる。
「僕は……」
「多分、あなたに 多大な負担がかかる。 だから、どうしたいか 言って? あなたに 無理をさせてまで、何かしようとは 思わないわ」
「カナト……」
多少 変態じみていようが、暴走しようが、彼は 大事な《味方》であり、今の 叶人にとっては、唯一の《身内》になる。
身内に対しては、全面的に 信用し、信頼し、心を預けるのが、叶人なりの《接し方》だ。
この三日間の《行動》から、それは 確たるものへと変化して。
「僕の《意見》を、聞いてくれるアリスなど…… 今まで いませんでした」
「そうなの? まぁ、人それぞれ なのよ。 私には、私の《やり方》があるわ」
時々、強引に 従わせることもあったりはするが…… そこは、忘れたフリをする。
「僕は…… ハネムーンは、あなたと 二人きりがいいんです」
もし 本当にハネムーンなら、それは 当たり前な意見だと思うのだが…… これは ただの《旅》なのだ。
「あのね、ノール……」
やはり、話題は 最終的に、そこへ戻るのか―――― と、少し 面倒に思いながらも、言葉を続けようとした………… その時。
「…… カナト!」
ぱぁん
白ウサギの 叫び声と、銃声は ほぼ同時だった。
叶人は 腕を引っ張られて 体勢を崩し――― 間一髪、その すぐ頭上を、何かが 飛んでいく。
「ありゃりゃ~ やっぱり、逃げられたかぁ~」
《赤ずきん》と思われる少女の、その場にそぐわない 明るい声が、聞こえた。
ミズキ君は、物語スタート時から 決めていたキャラでしたが、どうやって動かそうかと けっこう迷いました。
この回よりも、次回 以降のほうが、もっと動きが出てくると思います。
前章が ひたすら《戦争モード》だったので、多少《退屈》に感じる方も いらっしゃるかもしれません。
動きの無い場面でも、もっと《読みやすい》文章作りをする…… これからの課題ですね。




