19.赤ずきんは スナイパー
一応、この 物語のキーワードの一つに《ロマンス》と入れていますので、そんな感じが出せたらいいな…… と、常々 思っておりますが。
さて、どうなることやら。
(本分の 後半部分を指しています)
白ウサギに 抱きかかえられていなければ、間違いなく《赤ずきん》に 突進されていただろう。
叶人を目標に 走って向かってくる《外敵》―――― 赤ずきんの存在を、護衛であるウサギが 許すはずもなく。
一歩 手前まで来ると、白ウサギが 二歩下がる。
赤ずきんの手が 触れそうで…… 叶人に 触れることはなかった。
「何で、逃げるのぉ~!?」
「あなたが 近付くからですよ。 気安く、僕のカナトに 近寄らないで下さい」
体重的に、およそ《軽い》とはいえない叶人なのに、軽々と 抱えたまま移動する ウサギ。
始まりの地を 出発の際に『抱き上げて歩く』と主張したのは、見栄ではなかったらしい。 自分が 重そうに見えないあたりは、ちょっと 嬉しかったりするのだが。
「…… 下ろして、ノール」
いつまでも、《お姫様抱っこ》状態で いられる程、神経は 太くはない。
ここは、ハートダヨンの街中で、夕方とはいえ ギャラリーは たくさんいる。
赤ずきんの 猟銃の音で 避難していた《買い物客》も、帰った訳ではないのだ。
まして…… 、有名らしい 赤ずきん、白ウサギ、そして 一人の《アリス》が揃っているのだから、注目度は 抜群だった。
残念がる 白ウサギでも、渋々 下ろしてくれたから、叶人は 乱れた服を整えて――― 改めて、赤ずきんへと 向かい合った。
「初めまして。 私は《九十九番目のアリス》よ」
「わぁ~…… 本当に、女の子ちゃんだぁ~。 あたしは《赤ずきん》だよ。 《男アリス》ばっかり見てるから、すっごく新鮮で…… ん~ やっぱり可愛い~!」
「当然です、僕のカナトは 何よりも可愛くて――――」
「――― は~い、ノールは 黙ってて」
話が ややこしくなりそうなので、先に 制止をしておく。
しゅん…… となった 白いお耳は、見ないフリしかない。
「さっき、私に 何か尋ねようとしていたの?」
面と向かいながらも、叶人の目は 猟銃を追っていた。
赤ずきんが 後方に放り投げて、今は 背後に控える《オオカミ》が持っている。
顔や体は 人間だったが、耳と しっぽが《獣》を表していた。 少女よりも よっぽど猟銃が似合いそうなのに。
彼は、持っていることさえ《怖い》と言いたげな 顔をしていた。 手も 少し震えている。
猟銃を愛する 過激な《赤ずきん》に、本来 獰猛なはずが、何故だか ヘタレな《オオカミ》。
変な 組み合わせだなと、叶人は 思う。 自分と 白ウサギも、周りからは そう思われていないか…… 不安だ。
叶人の そんな胸中など 知らない赤ずきんは、にこにこと 笑顔を振りまいていた。
「あ、そうなの! あたし達、昨日から《獲物》を追っかけててね。 ようやく追い詰めたと思ったのにぃ…… 逃しちゃったんだよね」
案の定、獲物などという 物騒な言葉が飛び出てくる。
可愛い顔をしていても、やはり 世界の《住人》の一人だ。 こちらの《常識》が通用しない。
気を引き締め直して、叶人は 続きを促した。
「その――― 追っている《何か》の行方を 知りたいのかしら?」
「そうなの~! えぇとね、多分 ネズミさんなんだよね。 いつもなら、汚いし 気色悪いし…… ば~んと撃ち殺しちゃうんだけど、そいつ なかなか素早くて」
気色悪いと 撃ち殺すという――― やはり、危険な少女であることに間違いはない。
叶人の場合、《可愛い》と評されたから、その点はセーフなのだろうか。
「あたしね、《トレジャーハンター》なんだよ。 お宝を探して、世界中を旅してるの。 後ろの 暗いヤツはね、幼馴染の《オオカミ》。 悔しいから、そのネズミを追い詰めて、コレクションにしようと思ってるの」
《眠りネズミ》らしいから、けっこうレアな お宝に認定されるしね~。
「…… コレクションて、何?」
叶人は、小声で 白ウサギに尋ねた。 大人しく、黙ったままで待っていたのだから、あとで 褒めてあげなければ いけないだろう。
「物でも 人でも 獣でも――― すべて《薬品》に浸けて、固める。 そうしてから 自宅に飾るのが、赤ずきんの 習慣なんです」
「薬品に浸けてから、固めるって……」
赤ずきんの自宅は、まさに《恐怖の館》ではないか。 蝋人形ハウスより、怖い。
だって、最初から 作り物の《蝋人形》とは違い、赤ずきんのコレクションは…… 生きているモノ、だったのだから。
いつ 命の灯が消えるのか…… 知りたくは ない。
「この辺りに 逃げこんだはずなんだけど…… アリスちゃんは、見かけてない?」
「申し訳ないけど、私たち 買い物に夢中で…… 人の顔は 全然見ていないわ」
たとえ 知っていたとしても、言えるわけがない。
教えたら、コレクション行きが待っているというのに――― 簡単に 教えるほど、非情ではないつもりだ。
「僕は、常に カナトしか見ていません!」
「お役に立てなくて ごめんなさい。 じゃあ、私たちは 失礼するわね?」
白ウサギが 変な事を口走り始めたし、何よりも―――― 関わり合いたくなかった。
面倒なニオイが ぷんぷんしている。
そんなことに 首を突っ込んでいたら、命が いくつあっても足りない。
《三十六計、逃げるが勝ち》とかいう意味合いのことを、昔の エライ人も言っていたはずだ。
白ウサギに 視線で合図し、その場から 立ち去ろうとしたのが…… 見透かされたのだろうか。
「ちょ~と、待ってね?」
笑顔を崩さない 赤ずきんが、前方に 立ちふさがる。
「せっかく、アリスちゃんに出会ったんだもの…… 《お願い》をしなくちゃ、もったいないよね~」
「…… ねぇノール、アリスの《依頼》って、断ることって できるの?」
「もちろん、可能ですよ。 引き受けたくない 無茶な依頼は、バッサリと切り捨てて下さい」
…… その言葉を聞いて、安心した。 できる事と できない事が、世の中にはある。
まして、人の 命が関係していることなら、尚のこと。
「コレクションにする目的で、《眠りネズミ》を捜して…… とか、捕まえて…… とかは、お断りよ? そういう事が お望みなら、《他のアリス》をあたってちょうだい」
どちらかといえば、その行為を《阻止》したい側だ。 阻止を 頼まれたなら…… 多分 受けてしまうと思う。
白ウサギの助言の通り、はっきりと《拒絶》を示した叶人を、赤ずきんは ぽかんとした顔で しばらく見ていた。
何でも 言う事をきく アリスではないのだ。
ドロップ獲得が 懸かっているとしても、自分の《信念》は曲げない。 それが、叶人の《やり方》だ。
逆上して、襲いかかってくる可能性だって 考えられる状況で――― けれど、叶人は 怖くはなかった。
白ウサギが そばに控えている。 ただ、それだけで。
自分が 自覚している以上に、《何とか してくれる》と 思ってしまったのだ。
口には出さなくても、それは 本人に伝わったようで――― またしても、顔が 崩れている。 気持ち悪いから、やめてほしい。
「そんな顔をしていると、赤ずきんに 撃たれるわよ?」
「いいんです、あんな猟銃ごとき…… 僕と カナトの前には、何の《障害》にもなりません!」
「ああ…… そう。 それなら 安心だわ」
身の安全が…… という意味である。
間違っても、二人の《ハネムーン》に対して…… とは 違うのだが。 言っても 通じないだろう。
「へぇ~…… ふぅ~ん…… そう、きたかぁ~」
笑顔が消えた 赤ずきんは、表情からは 何を考えているのかは わからなかった。
街中でも 猟銃を撃つくらいだから、いつ 戦闘に入っても おかしくはない。
叶人は さっと周囲を見渡して、逃げ遅れている人が いないかを確認した。
武器の ヴァイオリンも、すぐに 召喚できるように集中して――― 赤ずきんの、行動を 待つ。
《オオカミ》は、相変わらず 猟銃を持たされたまま、オロオロするばかりで。
顎に 手を当てて、しばし考え込んでいた 赤ずきんは……。
ぱっと顔を上げた時には、再び 笑顔に戻っていた。
「…… あたし、アリスちゃんのこと気に入っちゃったな!」
友好的な 笑顔なのは嬉しいが、内容は ちょっと待った、である。
その言葉から 続くことで 良かったことなど、経験上 一度も無い。 叶人にとって《気に入った》と言われることは、《大嫌い》よりも《不幸》を招く。
「依頼を断る アリスなんて、初めて見たよ。 みんな、ドロップ欲しさで《欲まみれ》になってるからね~。 …… カッコイイけど、ちょっと 心配だな、そういうところ。 ねぇ、あたしのコレクションに並べてみたら、心配なことは 何も無くなるよ?」
…… ほ~ら、きた。 だから、《気に入った》という言葉は 嫌なのだ。
心配も無くなるし、命まで 無くなるではないか。 冗談ではない。
「それも、お断りよ。 私は 私の都合で、旅をしているの。 邪魔をしないで欲しいわね」
「そうです、僕たちの ハネムーンは始まったばかりなんですから、邪魔をする 無粋な輩は……」
「…… 早く、宿に行きましょう、ノール!」
危険人物に 背中を見せることは本来 したくはなかったが、この場合 仕方ないと諦めよう。
叶人は 白ウサギを急かして、赤ずきんの前から 小走りで《逃走》した。
逃げ足には、自信がある。
割と あっけなく、その場から 退場することに成功し、ほっとするのだが。
残された 赤ずきんが、ニヤリと笑うのを…… 叶人は 見られなかった。
「…… 《報酬》目当てで 引き受けたけど――― これは確かに、《捕獲》するのは 骨が折れそうだね~」
とりあえず、今日のことを 《スペードさん》に、報告しなきゃ~。
足取り軽く 裏通りに向かう 赤ずきんの後ろを、オオカミが 慌てて追いかけて行く。
そして、こちらは 宿の中。
勢いで 来てしまったが――― 叶人は、実のところ 深くは考えていなかった。
赤ずきんとの やりとりのおかげで、すっかり夜に突入し、帽子屋がある ハートアルの町に向かうには、遅すぎる時間であって。
この町で 泊まることは、不思議ではないのだ。
ただ、泊まる…… という《意味》を、すっかり《忘れていた》というだけで。
適当な 宿に入り、受付を済ませた 白ウサギに案内され、部屋へと 足を踏み入れたところで――― ものすごく、《肝心なこと》を 思い出していた。
「え~と…… この部屋は、二人一緒…… なの?」
洋風ホテルの スウィートに相当する、立派な 部屋であり。
一泊 いくらするんだ…… と、値段のことが 気になるのは 置いといて。
広すぎる ベッドルームなのに、キングサイズのベッドが 一つしかない、この景色を。
どう 解釈したらいいのか。
叶人は、部屋の入口に 立ったまま、しばらく 考えてみた。
相手は、なんたって 白ウサギだ。
自分のことを、何故か 溺愛している。 そして、《ハネムーン》の最中であると、誤解している。
その先を 示すところとは―――――― ?
「もちろん、僕たちは いつでも一緒、ですからね」
上機嫌で、さも 当たり前のように 返事を返されてしまった。
え~と…… これは…… 。
思考が、ついていかない。
あまりの 衝撃的な《目の前の光景》に、脳が マヒを起こしていた。
だって、恋人いない歴 二十七年。 初チュウだって まだなのだ。
そんな《お子様》な叶人にとっては、男性と 一泊することなど 想像もできない《大事件》であって。
通常ならば、張り倒して ぶん殴って――― いくらでも《拒否》を表現できるはずなのに。
「まずは、夕食が 先ですね。 荷物を置いて、下に行きましょう。 レストランの席を 予約してあります」
食べ物は 何が好みか、一つずつ 教えて下さいね!
ウキウキ弾んだ声の 白ウサギに、黙って 肩を抱かれたまま――― らしくもなく、レストランへと 向かってしまった 叶人であった。
《スペードさん》…… これまで読んで下さった方は、覚えているでしょうか?
あの人です。 幕間で登場し、さらに ネバーランドにも出没した、あの男です。 覚えてくれていたら、嬉しいなぁ~。
次回も、ゆっくり更新になります。
気長に お待ちいただけると 助かります。
カナトと 白ウサギの《初夜》の話…… まぁ、この二人ならではの《展開》になると思いますよ。 だって、白ウサギが アレですからね。




