(幕間) ハートの女王様
はい、やってまいりました。 章と章との間の インターバルでございます。
時間的には、ネバーランドの 戦いが終わった、夜あたりになっております。
※誤字修正 しました
ねじれた世界≪ローリィヴェルテ≫の中心地、始まりの地。
そこから見て、北側は スペードの国が占領し、ネバーランドを含めた 東側は クローバーの王が治め、南側は ハートの国の管轄である。
黒と白しか存在しない《スペードの城》とは対照的に、赤と白しか 許されないのが《ハートの城》だ。
建物から 内装に至るまで、すべて 基本は《赤》で埋め尽くされた、城。
その主―――― 《残酷な 首切り女王》として 名をとどろかせている《ハートの女王》は、いつも退屈そうに 玉座に頬杖をついているのが 日常風景と化していたのだが。
ここ数日、女王の顔に 変化が表れていた。
《ある噂》を、耳にしてからである。
「あ…… あのう、女王様。 たいへん申し上げにくい事なのですが、ぜひ聞いて頂きたい《ご報告》がございまして……」
玉座のある 大広間に、小柄な男が 頭を垂れていた。
女王を前にして、顔は 真っ青になっている。
本当は、自分が 報告をする番ではなかったのに――― 仲間内で行った、クジで 負けたのだ。
臣下たちにとっては、人生最大の 危機到来、である。
女王は、とても 気分屋だった。
気分ひとつで、平気で 首が飛ぶ。 文字通り、本当に 飛んでいく。
だから、城にいる誰もが、女王の《機嫌》に、いつもビクビクしながら過ごしていた。
「申し上げにくい、事だと? …… だったら、わざわざ聞きたくはないな。 貴様たちで 何とかしろ」
「い…… いいえ、問題事では ございません。 ただ、世界に起きている 他の地域の情勢というものを……」
「面倒な話は 好かない。 …… 貴様、死刑だ」
「じょ…… 女王様、わたくしは まだ何も申し上げては…… ふぎゃぁっ……」
臣下は、言い終えることが できなかった。
赤い液体とともに、体に繋がっていた首が、広間の端へと飛んでいったからだ。
「…… ふん、つまらん」
どいつも こいつも、弱過ぎる。
さっきまでは 昇り調子だった気分が、台無しになった。
どうしてくれる。
壁に沿って立ち、用事を言いつけられるのを待っている 臣下や侍女たちは、悲鳴など上げない。 上げないように、命じてあった。
いちいち 悲鳴を上げて騒がれたら、この ハートの城では やっていけないのだ。
ただ、それ以上 女王の機嫌を損ねないようにと、静かに 汚れた床の清掃と、転がった死体を片付けることに、専念している。
本当に、つまらん。
こやつらは、人形か。
「人形ならば、もっと 可愛いのにな……」
フウと ため息を吐きだしたところに、ある男が 現れた。
女王が 嫌っている、城の《兵士長》である。
「やあ、女王様。 ご機嫌いかがかな?」
目の前の 赤く濡れた惨状が見えているはずなのに、男は いつも通りの、さわやかな笑顔で 言ってのける。
「…… エースよ、貴様 ここで何をしている?」
下降気味だった 気分が、さらに悪化していく。
臣下や 侍女たちは、被害を被らないようにと 広間からは退散していった。
賢明な、判断である。
「貴様は、城の兵士長でありながら、《世界の意思》の不興を買い、アリスの護衛などという《ゲームの駒》になり下がった、愚か者が……。 ここで 何をしている? 貴様の《刑期》は、まだ明けてはいなかったはずだが?」
「ああ、そうだね。 ん~…… 数えてないから 正確には覚えてないけど。 多分、あと二百年くらいは、残ってたんじゃない?」
まあ、年数なんて、どうでもいいんだけどさ~。
ん~と 大きく伸びをした男は、立派な 青年の姿だった。
「貴様…… 懲りずに、また《脱走》したのか? しかも、その姿…… 《大きくな~る》の薬は、どこで 手に入れた?」
護衛役となった者は、すべて等しく 小瓶に入れられる。
小さい姿に縮められ、新しく来たアリスに 選ばれるまで、ずっと その状態でいるのが《世界のルール》であるのに。
この男は、いつだって ルールを無視して生きていた。
無視しすぎて、世界の不興を買ってしまい、自由を奪われたにも関わらず――― 相変わらず、好き勝手に 行動している。
ある意味、自分の欲望に忠実な、あっぱれな 男ともいえるのだが。
「アノ薬は、案内人しか 持っていないはずだ。 どうやって、手に入れた?」
「どうやってって…… まさか、案内人を襲ったと思ってるの、女王様? 嫌だなぁ、いくら何でも、さすがに そこまでは俺だってしないよ? だって、勝ち目なさそうだもん」
《世界の意思》に従って 案内を務める《案内人》は、世界を《監視する役割》も担っていた。
それ故、普通では 考えられない《特殊なチカラ》も、多く備わっている。 ちょっとや そっとじゃ、倒すことはできないだろう。
「…… 勝ち目があるなら、やりそうだな。 では、誰から 手に入れた?」
「そんなの、決まってるじゃない。 新しく来た アリスに《選んで》もらって、それで 元の姿になったんだよ」
いい時に 一人現れてくれて、助かったよ~。
よく見れば、兵士長の 赤い《騎士装束》や《マント》は、微妙に 色が変わっている。
色が変わった…… というよりも、《汚れ》が付着しているようだった。
《何の》汚れかは―――― この場合、訊かなくても わかる。
「また…… 殺したのか?」
何も知らない、召喚されたばかりの、アリスを。
ギロリと睨んだ女王の表情にも、兵士長は 恐れたりはしなかった。
「女王様にだけは、言われたくないセリフだけど?」
「………………」
「仕方ないんだよ。 お互い、《退屈》には 勝てないでしょ? 俺さぁ、久しぶりにね、《おもしろいモノ》を見つけちゃったんだ~。 ちょっと、小瓶に入っている場合じゃなくなってね。 さくっとヤルのが、一番手っ取り早くてさ」
つまり、護衛になると みせかけて、新米アリスに選ばせた挙句、元の姿に戻った直後に、はい サヨウナラ…… と、アリスを始末してきた、という訳だ。
兵士長が、長年 よく使っていた手段である。
「貴様というヤツは……。 その《お咎め》が、誰に 回ってくるか、わかっているだろう?」
「うん、もちろん。 俺の 上司に当たる、女王様、だよねぇ? …… だから、こうして わざわざ、《申し訳ない》って、謝りに来ているんじゃない」
「謝る 以前に、《脱走》やら《アリス殺害》などという 《重罪》を犯すな、と…… 何度言えば、わかる?」
これまでも、彼は 何度も同じことを犯し、その尻拭い…… というか、《とばっちり》を、女王が受けてきたのだ。
元から、このヘラヘラした男が大嫌いであるが、こういう 《はた迷惑な性格》が、一番 気に入らない。
「だって、女王様…… 強いじゃないか。 いいじゃん、人より だいぶ強いんだから、ちょっとくらいは」
ふざけるな―――― そう言う代わりに、女王は 雷を落とした。
予想はしていたが、兵士長は 難なく避ける。
「はははっ…… 相変わらず 過激だなぁ、女王様は! …… そんなに《乱暴者》じゃ、あの娘に嫌われちゃうよ~?」
あの娘、暴力とか 嫌いみたいだったし~。
意味ありげな 言葉に、女王の片眉が ピクリと上がる。
「あの娘…… だと? 誰のことを 指している?」
「知りたいなら、教えてあげても…… って、ウソウソ、冗談だから、ちゃんと教えるってば! もう、危ないから、その《杖》しまってよ。 《魔法》に関しては、俺は《反対派》なんだからな~!」
さんざん 大剣で 人の命を奪ってきた男が、魔法ごときで グダグダ騒ぐなと、女王は言いたい。
「久々の、ヒットだと思うんだよね。 なんせ、北の王が 目を付けたらしいし」
「北の…… スペードの王が、か?」
「うん、そう。 わざわざ《ノーザンブリア》の刺客まで派遣して、尾行させてるよ」
「何だと? …… そこまで、珍しい娘なのか?」
スペード王の、《強くて 珍しいモノ好き》は、有名な話だ。
「う~ん…… 今までに、いないタイプ、かな? ――― 強くもないけど、弱くもなくて。 自分が 前に出て戦う…… というよりも、人を動かして、すべてを手に入れる。 …… そういう感じを 目指している娘だね」
「ふむ…… なかなか《策士》のようだな」
「そうかもね~。 この世界に来てから、まだ二日くらいしか 経ってないのに…… あの《ピーターパン》を倒した娘だよ。 ―――― おもしろいと 思わない?」
女王の瞳が、キラリと輝いた。
「それは、初耳だ」
「多分…… さっきの 死んじゃった人。 そういう《報告》を、しようとしたんじゃないの?」
何でも かんでも殺しちゃうと、情報不足になるから、やめた方がいいよ 女王様。
「貴様にだけは、言われたくないセリフだな」
「え~…… 俺は、情報だけは ちゃんと仕入れてるよ? …… まあ、そんな事は 置いといて。 さっきの娘の話、気になるでしょ?」
「我に わざわざ持ち込んだというなら…… その娘、可愛いのだな?」
「…… そりゃあ、女王様の《好み》を よく知っている俺が、保障するよ。 けっこう、イイ線いってると思うよ?」
「ふふふ…… そうか。 …… ふふ…… なるほどな……」
下がり切っていた 気分が、いっきに上昇した。
「して…… その娘とやらは、どこの者なのだ?」
「もしかしたら、噂は届いているかもね? ―――― 《九十九番目のアリス》だよ」
「なんと…… ! 真実か!?」
女王が、気になっていた 存在の名だ。
これは…… 運命と、呼べるかもしれない。
「そうか…… そうだったのか……。 強くて、可愛い、か――――― まさに、我の《好み》だ」
女王の《可愛いモノ 好き》も、スペード王と同じ位 有名な話である。
「ネバーランドを突破したからには、次に向かうのは…… この、《ハートの国》と考えるのが 打倒なんじゃない? フック船長とも 手を組んでいたらしいから――― その繋がりで、《帽子屋》あたりの店にでも、行くんじゃないかな?」
そろそろ、新しい《服》が 必要になるでしょ。 女の子なんだし~。
兵士長の言葉など、女王の耳には 入ってはいなかった。
「そうか…… 九十九番目の アリス――― か。 ふふふ…… どんなに 可愛い娘なのか……」
―――― 目にするのが、とても 楽しみだ。
「ハートの国で、待っているぞ………… 可愛い、アリスよ」
海賊船で 眠りこけていた 叶人は、突如 ゾクっと寒気がしたので 目が覚めた。
案内人に 勝手に着せられた《アリス衣装》と《下着》は、風呂を借りた時に 洗濯してしまった。
今は、下着は 《無し》の状態で――― 船長から 借りた、新品のバスローブ 一枚きり。
「早く、新しい 下着と、服…… 買ったりしなきゃなぁ……」
この先も続いていく 長い旅に対応するためには、生活必需品を そろえなければ。
布団に くるまりながら、明日になったら 町に行こう―――― そう考えて、再び 眠りにつく 叶人であった。
次章『ハートの国編』へ向けての、繋ぎの話でした。
ノーパン、バスローブ 一枚きり…… 男ばかりの 海賊船で、主人公 カナトってば、何を やっているんでしょうかね。
女性として、そこんとこ どうなのよ?
まあ…… 何かあれば、白ウサギが 助けに入るのでしょう…… 多分。
一緒になって、襲いかかりは……。
やってしまったら、完全に 《十八禁》の世界ですね~。
作者的には、そういう《展開》とかも 好きではありますが。
一応、今のところは《全年齢OK》でお送りしてる物語ですので。
読者の方の ご希望が多ければ、多少は ラブ~な場面も、増やすかもしれません。 メールでも頂ければ、検討致します。
次回 新章スタートですが、不定期のため、いつになるかは 不明です。
気長に 待っていて頂けると ありがたいです。 それでは。




