16. 悪役
今回は、わずか 二場面しか ありませんが、文章量は いつもの回よりも多いです。 がんばって 読んで下さいね。
※誤字修正しました
海岸での戦いを終えて、どこからともなく『祝宴だぁ~!』という 掛け声が上がる。
十中八九、海賊の中の 誰か…… であることは、間違えないだろう。
海賊連中は 慣れたもので、船に戻ったかと思えば―――― 何やら道具を運び出して、砂浜の上にセッティングを始めてしまう。
「お~い、あんたら! ぼさ~っと見てねぇで、手伝ってくれよ!」
「まずは、座る場所から 作らねぇとな!」
「その次は、調理器具の 準備と……」
「第三班は、食堂から 食器類を運んできてくれ~」
「第五班と 手が空いているヤツは、食料調達を頼むな~」
「へ~い、野郎ども 行くぞ~」
今日の朝…… というより、ほんの つい先程まで、敵同士であった事など ウソのようだ。
呆気にとられている インディアンたちを連れて、海賊たちは それぞれの 作業へと向かっていく。
―――― 早い…… 早過ぎる。
「何なの、あの…… 超 フレンドリーな感じは……」
「まぁ…… ああいうトコロが、あいつらの 長所って事なんだろうよ」
船長も 驚いた様子などなく、いつも通りといった感じで 好きにさせていた。
もしかして、何かある毎に 毎回、こんな感じなのだろうか。
「殺し合い しま~す…… とかよりも、よっぽど イイんだけどね……」
変わり身が 早過ぎて、叶人には ついていけない。
「さて、食事の準備ができるまでに――― 残りを 片付けてしまいましょうか」
海賊たちは すっかり《お祭りムード》に入っていたが、実は まだ《問題》が、目の前に残ったままだった。
「僕を、どうするつもりだよ!?」
捕獲したままの《捕虜》―――― ピーターパン、ゴリ子、瓶詰の ティンカーベル、子供たち。
クローバー王に 処罰を決めてもらうことで 一致したが、問題は 誰が、どうやって、クローバーの城まで運ぶか…… という事である。
「今回だけ、新米アリスに免じて…… 特別に わたしが、手を貸してあげましょう」
空中を ふわりと漂う 案内人は、腕を すいっと動かした。
ぽんっ ぽんっ ぽんっ
白い煙が上がったと思ったら―――― 出てきたのは、《緑色の服》を着た《兵士》たち、であろうか。
同じ 緑色の服でも、ピーターの着ているのは チュニックタイプのものだが、現れた 男たちは、クローバーの模様が描かれた 詰襟の衣装に、黒い ロングブーツ、手には 各々 武器を持っていた。
「あれ、ここは どこだ?」
「確かに、城にいたはずなのに……」
きょろきょろと、辺りを見回す男たちは 五名。
浮いている 案内人を見つけた瞬間、『あぁ~』と 納得したようだった。 こういう事態は、珍しくはないらしい。
「案内人殿の 仕業だったんですね」
「はい、兵士の諸君…… お仕事ですよ。 聞いて驚きなさい―――― なんと! 今回は、九十九番目のアリスの《ご希望》で、君たちを呼んだのですよ」
…… ちょっと待て、案内人よ。 私は 何も頼んでないぞ。
何か 問題が生じても、案内人は《責任を取る気》が まったく無い…… という意味だろう。 さすが、ねじれた世界の住人だ。 いい根性、している。
「九十九番目の……」
「アリス様……?」
五人の視線が、一斉に 叶人に向けられた。
ちなみに、まだ 元の身長に戻ってはいないので、確実に子供だと 勘違いされているだろう。
実は 成人した大人で~す…… なんて、言いだせない雰囲気だ。 困ったな。
「ここにいる《捕虜》を、あなた方に 引き渡します。 クローバー王に、捕虜たちの《処遇》を決めてもらうように。 頼みましたよ?」
「捕虜…… って……」
「えぇぇぇぇ!?」
「まさか、本当に……」
「領主、ピーターのことですか?」
ぐるぐる巻きにされた 捕虜の姿には、さすがの兵士たちも 驚きを隠せなかった。 おそらく、ピーターの《そんな姿》を見るのは、初めてなのだろう。
「はい、ピーターと その一味ですよ。 九十九番目のアリスの 先導によって、ピーターたちは 負けました。 領主は、酋長シャディスへと移行しています。 ネバーランドは解放されたと、クローバー王に 報告をして下さいね」
信じられない…… と、茫然とした感じではあるが、ぐるぐる巻きが 動かぬ証拠。
兵士たちは 言われた通りに 行動に移った。
捕虜たちを連れていこうと、その場から 立たせようとしたのだが。
「何だよ、離せよ! ふざけんなよ、ばかアリス! 僕に こんな事をして…… タダで済むと思ったら、大間違いだからな!」
一時は おとなしくなっていた ピーターだったが、連れて行かれるとわかった途端に、また騒ぎ始めた。 まったく、往生際が悪い お子様である。
「いいか、今度 会ったら、絶対に お前は生かしてはおかないからな! 引き裂いて、頭 もぎ取って、時計ワニの餌にして…… それから…… それから……」
白ウサギの目が キランと光った。 手は、完全に 短剣へと伸びている。
内心 ヒヤヒヤしたが、《殺すな》と言ったことは覚えていたようで、何もしなかった。
今のセリフを聞く限り、ピーターは、やっぱり 何の反省もしていないどころか、捕まった《理由》さえ、理解していないようだった。
これは―――― 自分が ヤルしか、ないのかな。
白ウサギの武器である《短剣》をひったくって、叶人は 砂浜を ざくざくと進んだ。
靴の中に砂が入って 気持ち悪かったが、そんなこと 今はどうでもいい。
「カナト?」
武器を取られた 白ウサギは、心配そうに 叶人の後から ぴったりとついてくる。
その存在を 考えないようにして…… 叶人は、ピーターの前に 一旦立ち止まった。
「…… 何で、自分が捕まるような事態に陥ったのか―――― 身を持って 知りなさい」
「な……にを……」
そして、ピーターを通り過ぎ、目当ての ゴリ子の前に、立つ。
できれば、やりたくは なかった。
やらなくて いいように、言葉だけで わかって欲しかった。
今のままでは、根本的なところは 何も変わっていない。
―――― クロバーの王が、どんなに 素晴らしい《処罰》を下しても。
「お…… おい、アンタ……」
うろたえる船長の声が、何故だか 無性におかしかった。
白ウサギは――― 何も 言わない。 黙って、叶人を見守っているだけ。
それでいいと 思った。 これは、戦いを始めた、自分の仕事。
さあ、最後の《仕上げ》だ。
兵士たちも 見つめる中、叶人は 短剣を振り下ろした。
目の前の―――――― ゴリ子に 向かって。
「や………… やめろぉぉぉぉぉっ!」
浮かれた海賊たちも 動きが止まる様な、切羽詰まった声。
ゴリ子に襲いかかる 叶人へと向けられた、ピーターパンの 《叫び》だった。
ぜいぜいと 肩で息をつく ピーターパンを、叶人は 冷たい目で 見下ろしていた。
血も涙も 感じさせない表情に、周囲の誰もが 凍りつく―――― 変わらない態度なのは、もちろん 白ウサギだけ。
それは、そうだろう。
戦いの中でも『殺さないで』と唱えてきたのは、他でもない 《叶人自身》なのだから。
乱心したとしか思えない、小さなアリスの《凶行》に、皆 ぽか~んと 口を開けて、見ていることしかできないようだった。
「何で 止めるの、ピーターパン?」
動けないピーターは、叶人を睨みつけていた。
止めてくれて よかったと、実は ほっとしている。
もし 自分の 《予想通り》にならなければ…… 自分は どうしていたのか。 あまり考えたくは ない。
「ウエンディに…… 何てことをするんだよ!」
「…… あら、どうして 怒るの?」
多分 誰よりも、今《残酷な顔》をしているのだろう。
殺してはいけないと 口にしながら、平気で 人に刃を向けている…… この、《矛盾》。
自覚があるだけに なお悪い。
こういう部分が、ハートの《兵士長》に近いと感じる 所以なのだ。
「どうして…… って……」
ピーターも 半ば困惑しているのか。
とりあえず《衝撃》を与えることが できただけでも、成果はあったといえよう。
こんな事までしたのだから、多少は変化があってくれないと 困る。 やった意味が 無い。
「ねえ、ピーター。 今―――― どんな、気持ち?」
「どんなって……」
「悔しい? 悲しい? 腹が立つ?」
「悔しいし、腹が立つし…… 今すぐ、お前を 殺してやりたいよ!」
殺意の混ざった ピーターの声――― 叶人が 引き出したかったのは、コレだった。
「そう…… それで結構。 よく聞いて、ピーター。 あなたが 今まで《してきた事》は――― すべて《そういう事》なのよ?」
「……!?」
これこそ、叶人が 最も《言いたかった事》であった。
甲板での戦いの際、ピーターの《表情》や《目の動き》を、叶人は 見逃してはいない。
「あなたは常に、ウェンディのことを 視界に入れて戦っていた。 見えなくなると、わざと移動して…… 不自然なのにね。 それ程、彼女が心配で…… 心配してしまう程、大事に 思っていた、ということでしょ?」
誰も 大切に思えない子供なのだと、思っていた。 友達がいなくて、従える《子分》しかいない、と。
しかし、ゴリ子に対しての 彼の態度は、他とは 少し違う気がしたのだ。
だから、《使える》と思った。 使える情報なら、何でも使うのが 叶人の主義である。
「あなたには 遊びのつもりでも…… このネバーランドの人たちは、いつも 《そういう思い》を強いられてきたのよ。 楽しんでいたのは、あなただけ。 自分自身だったり、大事な人だったり…… あなたに《傷付けられて》きて、ずっと 悔しくて、悲しくて、殺してやりたいって――― 《今のあなたと 同じ気持ち》を、《あなたに対して》抱いてきた住民のことが、わかる?」
相変わらず ギラついた目をしていたが、先程までの雰囲気とは、違っていた。
少なくとも、叶人の話を ピーターは聞こうとしている。
それで、今は 充分だ。 すぐに変われるとは、思っていないから。
「今 すぐに、変われなんて 言わない。 あなたは 誰にも注意されないで、ここまできたんだから。 すぐになんて、変われっこない。 でもね、この先もずっと《わからない》とか《知らない》ままでは、済まされない。 何のために、今回 戦ったのか わからないじゃない。 だから…… まずは、知って。 住民たちの 気持ちを」
これだって、彼らの ほんの《一部分》でしかなくても。
「傷付けられた人たちが、どんな 気持ちになるか、ちゃんと 知るべきよ。 そして、よく考えなさい。 そうすれば―――― 今、どうして 自分が領主から 外されたのか…… おのずと わかってくるはずよ」
相変わらず 上から目線の、《偉そうな態度》だと、自分でも思う。
それでも、ピーターが すぐに変われないように、叶人も ずっと《この調子》で過ごしてきたのだ。
すぐには………… 変えられない。 もっと、穏やかで 優しい《手段》だって、探せば いくらでもあるはずなのに。
「…… 剣を向けて、ごめんなさい」
縛られたゴリ子に向かって 謝罪した声は、はたして 届いているのだろうか。
皆の視線が怖くて、あえて 周りを見ないようにしていたから、この時 他の人が どういう表情をしていたのか、叶人には わからなかった。
ただ 白ウサギが、握ったままの短剣を そっと 手から外してくれたので、おとなしく それに従って。
案内人が 再び腕を動かし、兵士に連れられたピーターたちは、ようやく 姿を消したのである。
そんな事があってから、海岸沿いはすっかり 日も暮れていき――― 群青色の空には きらきらと星が輝いていた。
静かな 波の音に混じって、海賊たちの 笑い声や、インディアンたちの 歌や踊りの音楽が、周囲を満たしている。
夜になってから、叶人は やっと元の姿へと戻ったので、周囲の人間を ものすごく驚かせてしまったのだが――― こんな 小生意気な子供が実際にいたら、嫌だろうと思う。
船長などは『な~んか、変な感じがしたんだよな』と言うし、タイガーリリーは『私よりも 年上だったのか……』と 衝撃を受けたみたいだし、反応は 様々だ。
叶人は 切り株に腰かけて、ふう…… と ため息をつく。
さっきまで、自分も あの《宴会》の中に いたのだ。
道具類は 海賊が用意し、食材は 海賊とインディアンが 協力して調達し、とんでもなく 豪華な料理が 所狭しと並べられて。
一番のメインである 酒類は、当然 海賊船から下ろしてきたものであり。
飲めや 歌えやの 大騒ぎで、きっとこの調子では、朝まで続くのだと推測できる。
料理は 本当においしかったし、何よりも 皆が笑顔で楽しんでいたことが、叶人には嬉しかった。
ゴリ子に対しての 態度を見られたからには――― もっと 引かれると 予想していたし、そうされても 仕方がないと思っていたのに。
初めての依頼者 ヒックス少年は、泣き笑いの顔で、《感謝のドロップ》を渡してくれた。
そして、何故か タイガーリリーも――― 『一緒に戦わせてほしいと《願い》、それを受け入れてくれた…… その礼だ』と言って、ドロップをくれた。
さらに、
『一番の 功労者…… 九十九番目のアリスに、我ら インディアンを代表して、感謝と 敬意を送ろう』
酋長シャディスには、皮と布と ビーズで作られた《英雄の飾り》まで 頂いてしまった。
ブローチみたいに 服などに飾るモノだが、インディアンにとっては《勲章》に当たるらしく、とても 頂く訳にはいかないと、何度も 断ったのだが。
「受け取れ…… の一点張りで…… 結局、もらっちゃったな……」
砂浜の 宴会場からは 少し離れた場所、防砂林の中に 叶人は来ていた。
感謝の言葉は、素直に 嬉しい。
この地の変化に 自分が少しでも手伝えたというなら、それは 光栄なことだと思う。
けれど……。
「はぁ…………」
何で、こんな《やり方》しか、自分は できないのであろう。
一歩間違えば、すべてにおいて 危険しか残らない、無茶な やり方ともいえるのに。
「…… カナト」
「…… ノール……」
白ウサギが 音も無く近付くから、ちっとも気が付かなかった。
「ここに いたんですね。 なかなか戻ってこないから、心配したんですよ?」
彼は、皆の所に戻ろうとは 言わなかった。 言わない代わりに、自分も隣に座ってもいいかと、目で 許可を取ってくるから、どうぞと 手で合図した。
「一人で、何を考えていたのか――― 訊いてもいいですか?」
「ん~…… 別に、たいした事では ないんだけどね」
単純に 説明すれば――― 落ち込んでいた、ということなのか。
苦笑交じりで 打ち明ければ、白ウサギが 驚いて目を瞠る。
「何故、カナトが 落ち込むんですか? 今回 一番頑張ったのは、カナトなのに?」
「一番 頑張ったのは、私じゃない。 …… いろいろ協力してくれた、かわいい妖精さんたちだわ。 次に会えた時には、盛大に お礼をしなくっちゃね」
「…… 妖精ごときに、お礼なんか いいんです」
拗ねたような響きは、さながら 子供のようだった。 …… そうか、コイツは 子供っぽかったっけ。
思い出した叶人は、隣に座る 白ウサギの頭に手を伸ばして――― 銀色に光る髪のあたりを 優しく撫でてあげた。
「…… へ ……?」
なでなで なでなで なでなで なでなで
白ウサギの 色白な肌は、みるみるうち 真っ赤に染まっていった。
「照れてるの?」
「て…… て…… 照れてなど!」
その顔で、よく言う。
真っ赤になりながらも、どこか嬉しそうに…… 気持ち良さそうに 目を細めたから、叶人は 珍しく、素直な言葉を言うことができた。
「ノール…… 護衛になってくれて、ありがとう」
それから―――― 懐中時計を 失わせてしまって、ごめんなさい。
「本当は、昨日のうちに 言うはずだったんだけどね。 私が 弱いばっかりに…… すぐに はぐれてしまうアリスなんて、呆れたでしょう?」
「何で…… 何で、そんな 悲しいことを 言うんですか?」
悲しくはない。 だって、それらは 全部事実なのだ。
「僕は、あなたに 謝ってもらうことなど、一つもありません。 カナトは、何も悪くない。 僕が 自分の意思で、やったことです。 護衛の件だって、そうだ。 あなたに 受け入れてもらえて、僕が どんなに嬉しいか……」
…… 嬉しいことから、ハネムーンまで 話が飛躍したというのか。
まあ、ウソがない 真っ直ぐなところが 最大の長所なのだから、他のことには 多少は目をつぶろう。
「ねえ、ノールは 気が付いた? …… 子供たちの飲んだという、人魚姫のクスリのこと」
「ああ、カナトが 妖精たちに頼んで、人魚姫に クスリを盛らせた、という……」
「アレね…… 実は、私の功績じゃないわ。 私では、間に合わなかったのよ」
叶人が 妖精たちに出会ったのは、今朝 早くである。
「子供たちが言ったことを、よく思い出してみて? 子供たちは、何と言っていた?」
「…… 昨日の 夜遅くに、人魚姫が訪ねてきて――― って、あ、まさか」
叶人が 頼む前に、昨日の段階で、子供たちは クスリを飲んでいたのだ…… 人魚姫の、《独断》によって。
やっぱり、インディアンの飾りは、もらうべきではない。
自分は それ程、たいした事など していないのだから。
「それは、カナトこそが 受け取るモノですよ」
白ウサギは、手のひらに乗せたままだった 飾りを、叶人に ぎゅっと握らせた。
「でも……」
「皆、わかっています。 あなたが、一人で《悪役》を買って出たことも」
「悪役だなんて、大げさよ。 …… あれしか、思いつかなかっただけで」
ピーターたちが去っていく際の、ゴリ子の 一件を指しているのだろう。
正しい方法とは、とても 呼べない、お粗末なモノ。 非難されても 文句は言えない。
うつむいた叶人の髪を、今度は 白ウサギが 優しく撫でた。
「自分自身を《悪者扱い》しないで下さい。 あなたは、僕が認めた 唯一の人。 あなたの《本質》に触れたら、きっと 誰もが、あなたのことを好きになる……」
そんな訳ないと 反論したかったのだが――― 想像以上に 撫でられる行為が 心地よくて、結局 されるがままになってしまった。
「僕の大事な、大好きな カナト。 もっと、自分のことを 好きになって下さい。 あなた一人が、悪者になる必要なんて、ないんです。 汚れ仕事があるなら、それは全部 僕の役目――― もっと、僕を 頼って下さい」
「…… 汚れ仕事が、役目なんて……。 ノールこそ、変なこと 言わないでちょうだい」
叶人は、白ウサギの目を 真っ直ぐに見て、言い切った。
「汚れ仕事なんか、させない。 させないように…… 頑張るから」
「カナト……」
「無い知恵を絞って、使えるものは とことん使って――― そういう、卑怯な 戦い方しかできないけど」
子供のように純粋な 白ウサギの心を、汚したくはない…… と、改めて思うから。
「こんな アリスでいいなら―――― もう少し、そばにいて」
ずっと…… とは、言わない。 言わないところが、ズルイのかもしれない。
それでも、満面の笑みで 答えてくれる。
「僕は、白ウサギ。 名を誓った瞬間から、この身は カナトだけのもの、なんです」
ここまで無条件に 慕われたことがないから、嫌われた時の ダメージは、相当なものに なるだろう。
妄想や 暴走も激しいが、もっと 大事に扱ってあげよう…… と、らしくないことまで考えてしまうとは――― 人生、何があるか わからない。
この後、二人は 海賊船へと招待され、船内で 夜を明かすことになった。
外では、宴が 続いている。
用意された 風呂に入り、与えられた 客間に通された時には――― 叶人の意識は 朦朧としていた。
とにかく…… この二日間は、疲れたのである。
明日からの 予定は、起きてからにしよう…… もう これ以上、何も考えたくはない。
のろのろと 寝台へと入り、死んだように 眠りにつく叶人。
初めての《依頼》を達成して―――― 現在の ドロップ数、二つ。
目標の 百八個になるまでは、まだまだ 遠い。
それは、長い旅になりそうなことを 予感させる数でもあった。
文が長くて 申し訳ないです。 お疲れ様でした。
このエピソードは、この章の最初から ずっと書きたかったモノだったので、やっと辿り着けて 嬉しいです。
これで、『ネバーランド編』も終了。 次回は、インターバルになるでしょう。
次章は どんな話になるのか…… 細かい所は 未定ですが、《帽子屋》や《赤ずきん》や《はだかの王様》たちが 登場すると思います。
もう 飽きたよ…… と言われないように、次章も 全力で頑張りますので、これからもお付き合い下さいませ。




