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九十九番目のアリス  作者: 水乃琥珀
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15.戦いの 後始末

 ようやく、戦争終結です。 口ばっかりの 印象しかない、主人公カナトですが、けっこう戦っている…… と思うのは、筆者だけでしょうか。


※誤字 修正しました。 何度も読み返しているはずなのに、結構 あとから発見する……。 他にも見つけた方は、ご一報頂けると 助かります。

  海賊と インディアン合わせて、百八十人。

  それに対し、かけつけた ピーターの子分、わずか二十人弱。


  子供たちが 捕獲されるのに、たいして時間はかからなかった。


「ピーター!」

「捕まっちゃったよ、ピーター~!」

「離せよ、ばか海賊!」

「インディアンの 裏切り者~!」

「ピーター~!」

「ピーター~!」

「助けてよ、ピーター~!」


  縄で縛られた子供たちは、一斉に わめきだす。

  ちゃんと手加減したのだろうか、どうも疑わしい――― ばかと言われた 海賊たちは、げんこつで ごいんと頭を殴るし、裏切り者と言われた インディアンたちは、一瞬 顔を歪めたりはしたが。

  おおむね、海岸での戦いは 終決したようだった。


「ああ~! 何やってるんだよ、お前たち! 簡単に捕まったりなんかして、つまらないじゃないか!」

  子分を 心配するどころか、《つまらない》とは 何事だ。

「これは、《遊び》じゃないのよ?」

  この期に及んで 遊び気分でいるというなら、あとで一発 ぶん殴ってやった方が いいのかもしれない。


  ゴリ子を相手にする 船長と、ピーターを相手にする 白ウサギの 真中に立ち、叶人は ヴァイオリンを奏でていた。

  船長と 白ウサギには《支援》と《防御》を送り、ゴリ子と ピーターに対しては《攻撃》を与え、戦いを終えた 海賊と インディアンに対しては《回復》が一番だろう。

  とにかく、思いつくことを すべて曲に変えて、多方向にわたって 弾き続けた結果―――― 甲板上の戦いにも、なんとか決着がついた。


「さあ、おっかない お嬢さん。 これでお終いのようだな」

「バカな子供は 嫌いです。 大人しく、カナトの言うとおりにしなさい!」


  ゴリ子も ピーターパンも、武器は はじき飛ばされ、丸腰状態――― 手を上げて《降参》の体勢をとるしかなかった。

「ウホ……」

「ちくしょう、何で 僕が……」

「いいから、静かにしろ。 おい、お前ら! 二人を 縄で縛りあげろ!」

  船長は 剣を向けたまま、海賊たちへと 指示を出した。

「はいサー!」

「縄を用意しろ~!」

「必殺 《海の男縛り》を おみまいしてやるぜ~!」

「俺たち以外じゃ、絶対 ほどけねぇからな~!」

「覚悟しろぉ~い!」

  戦い足りない 海賊たちは、ノリノリで 甲板に上がってくる。

  何で そんなに元気なんだ…… 体力というよりも、叶人には 気力が残っていない。

  多少 暴れたりはしたが、ゴリ子も ピーターも、捕獲するまでに至った。


  残る 一人は、気絶している ティンカーベルである。

  態度は大きいが 体は小さいので、縄で縛ることはできない。 かといって、このまま 放っておくと、復活しそうで危険である。

  どうしようかと 考えていたところに、ロンリン ランリン…… 叶人に好意的な、可愛い妖精さんたちが 来てくれた。

「…… え、何? これを使え、って?」

  《蓋つき ガラス瓶》を持ってきてくれたので、ティンカーベルを その中に入れてみた。 これで、すぐには 出てこられないだろう。

  ティンカーベルと違って、何から何まで 親切な 妖精さんたちだ。


「はぁぁぁぁぁ……」

  無意識のうちに、緊張やら 興奮やらで、呼吸が浅くなっていたらしい。

  深呼吸すると、爽やかな 潮の香りが、とても 気持ち良く感じられた。

  武器の ヴァイオリンも 自然に消滅する。

「お疲れ様でした、カナト」

  離れていた距離を、白ウサギは いっきに詰めてきた。 …… さすが ピョンピョン、すこぶる 心臓に悪い男である。

「ノールも…… お疲れ様。 怪我は 無い?」

  優秀な《護衛》のおかげで、叶人には 傷ひとつ無い。 代わりに、前線で戦っていた彼を 心配するのは 当然のことだと思うのだが……。

「カナト…… カナト、カナト、カナト!」

  赤い おめめが、《きらきらモード》に変わる。

  …… どうやら、《変なスイッチ》を押してしまったらしい。 マズイ。

「僕の心配をしてくれるなんて…… あなたという人は、なんて 優しくて、可愛くて、優しくて、可愛くて、優しくて、可愛くて……」

「わかった―――――― 怪我が無くて なによりだわ」

  放っておけば ずっと続きそうだったので、無理やり言葉を遮った。 これしか 方法はないのか。 面倒な ウサギさんである。




「さて、捕まえては みたものの…… 具体的に、こいつら どうすりゃいいんだ?」

  一同は 船から降りて、全員が 海岸の砂浜に集合していた。


「殺さないとするなら、君には 何か《処分》のアテが あるということなのか、アリス?」

  ふっきれたような スッキリした顔で、タイガーリリーは 尋ねる。


  この戦いを 呼びかけたのは、他でもない 叶人だ。

  殺すことが 当たり前になっている《敗者の 処分》に、もちろん 同意できるはずもなく。

  それでは、どうすることが 一番いいのか…… 事を起こそうと 決めた時から、実は考えてあった事だった。

「この ネバーランド領って、元々は 《クローバーの国》が 所有している土地、なんでしょ?」

  今朝、インディアンの戦士 ジョイから聞いた情報を、タイガーリリーに 確認する。


  世界の 東側は、クローバーの国の領土だった。

  しかし、ただの 町でしかなかった ネバーランドを、ある時 ピーターが占領してしまう。 そして、自分は≪領主≫だと名乗り、クローバーから独立したかのごとく、好き勝手なことを やり始めた。

「もともと クローバーの土地なら、クローバーの王様に、処分を決めてもらえば いいんじゃないの?」

「クローバー王に、だと?」

  自分が始めた 戦いなら、始末も 自分で…… と、最初は 考えていたのだ。

「ジョイから 聞いたんだけど。 先代の クローバー王も、現在 後を継いだ 幼い王も…… とても 情がある、立派な方みたいね。 だったら、私みたいな 外から来た人間よりも、当事者たちの方が いいと思うの」

「当事者…… か」

「クローバーの王様なら、クローバーの法に従って、きちんと《処罰》を下してくれるんじゃない? ―――― そういう案は、どう?」

  最後の 始末を、他人にまかせた 《無責任な奴》…… そう 思われないか、心配ではあった。

  確かに、あれだけ偉そうに 大口をたたいて、好き勝手に 他人を振り回して――― やり方は異なるが、ピーターの やってきた事と、大差ない。

  だから なおさら、最後の 判断は、自分以外の人間が下した方が、いいような気がしたのだ。

  もし―――― 自分の やり方が乱暴で、人々を 混乱に陥れた…… などと、責められるというのなら、それは 甘んじて受ける覚悟で。

「私のことも含めて…… クローバーの王様に、判断を 委ねる。 そういう結論で、異議のある人――― いるなら、手を上げて?」

  その場にいる人々を ぐるりと見まわして、他の意見を待つ。

  皆 しばらく無言のまま、内容を 頭の中で整理しているようで。

  初めに 口を開いたのは、意外にも 副船長のスミスだった。

「文句ありません、アリス様。 クローバー王なら、安心して まかせられるっす」

「そ…… そうだな、俺っちも、いいです!」

「俺も、俺も!」

「こういう終り方も、いいんじゃねえか?」

  海賊たちは、スミスに続いて 賛成を唱えだした。 やはり それほど悪いヤツラではないようだ。

「お頭も、異議なしっすよね?」

  スミスの問いかけに――― 船長は 意味深な笑顔で、首を ゆっくりと縦に振った。

  その表情が 気になったが、今は 尋ねるタイミングではなかったので、叶人は そのままにしておく。

  そして、

「…… 異議は無い、どころか…… とても いい案だと思うぞ、アリス」

  タイガーリリーが 嬉しそうに続いた。

  統率のとれた、誇り高き 戦士たち――― 他の インディアンたちも、そろって賛同してくれる。

  だったら これで…… 結論は、出た。



「どうやら、終ったようですね」

  頃合いを 見計らったかのように、世界の《案内人》が、姿を現した。

「クローバー王に、まかせるという 結論ですか…… いやはや、実に おもしろい」

「ピーターを 領主から外したら、何か 問題があるの?」

  ニヤニヤとしている 案内人なら、知っているだろう。

  この世界には、何かと 面倒なルールが設定されているのだ。 現在の 状態を変えることが、はたして 世界的には 許されるものなのか…… その点だけは、不安があった。

  案の定―――― 案内人は、あっさりと 答える。

「問題…… ありますよ」

「…… えぇ~」

「だって、そうでしょう? ピーターは、領主という《役割》をまかされていたんです。 いいか悪いかは、別としてね。 その 役割が、今 ぽっかりと空いてしまったのですよ? 何かで 代用しなければ、世界の均衡が 崩れてしまいます」

  それは――――。

「ピーターの代わりに、新しい 領主を、立てろってこと?」

「いいえ…… 少し、違います。 ピーターが 捕獲された時点で、すでに 領主の権利は失われた。 この戦いの 勝者―――― つまり、あなたに…… 《領主の権利》が 移動しているのですよ、九十九番目のアリス」

  案内人の とんでもない発表に、叶人の 思考力は、しばらく停止した。



「え…… ええと……」

「しっかりして下さい、カナト! 疲れたならば、僕が 抱っこしてあげますからね!」

  痛みだした 頭に、さらに追い打ちをかけるような、白ウサギの行動。

  黙っていれば すぐさま実行に移すのは 経験済みだったので、叶人は 手の動きだけで 拒否を示しておいた。

「私が…… 今、領主になってるの?」

「素晴らしいですね、カナト! 僕は あなたが何者であっても、ずっと護衛ですからね!」

  感動的なセリフを、ありがとう 白ウサギ。

  頼むから…… 空気を読んで、少し 黙っていてほしい。


「ここは、クローバーの国の 土地ではないの? やっぱり もう、独立しちゃっているの?」

  独立しているなら、処分を クローバー王にお願いするのは、筋が違うというものだ。

  この土地の 代表が、処分を下すべきだと思われる。

「ご心配なく。 今も クローバー所有の土地です。 土地の権利は、クローバー王にある。 領主というのは、クローバー王の《代理》のような存在だと 思えばいいですよ」

  案内人の説明に、心底 ほっとした。

  けれど、次に 問題になるのは…… 自分が 領主になった、という件だ。

「私、領主なんて やっている場合じゃないんだけど……」

  一刻も早く ドロップを集めて、自分の願い――― 元の世界に 戻りたい。

「そうですね、あなたは ゲームに参加中の アリス。 アリスの《役割》は、世界にとっては 優先事項。 よって、今回のような場合…… 領主の権利を 他人に《譲渡》することが 認められますよ」

「誰かに、譲渡…………」

  言葉の意味を 噛みしめながら、叶人は 集まった人々を 見まわした。

  最初に 船長と目が合ったが―――― 手で 大きく《バツ印》を作られた。

「大丈夫、船長には 向いていないと思うから」

  続いて 白ウサギの方を見たが、目が合うと 顔が ぐずぐずに 溶けた。 …… 美形なのに、気持ち悪い。

「ノールは 護衛だから、外すわけにはいかないし……」

  そもそも 性格的に、領主が務まるはずがない。 ピーター 二号か…… もっと悪くなる可能性もある。

  かといって―――― タイガーリリーでは、まだ 若過ぎる。

「タイガーリリーには…… もう少し、いろいろ学んでからの方が いいと思うし……」

  的確な 人物はいないものか。

  う~んと 唸った 叶人の視界の端に、何だか 妙なモノが見えた。

  海岸から 少し離れた、防砂林の中。

  木々の間でも 目立つ、独特な インディアンの衣装。

  しかも…… 二人分。

「…… あ!」

  大人と 子供の組み合わせで、叶人は ピンときた。

  戦いを 離れて見ていたのは―――― おそらく、依頼者の ヒックス少年と、それから もう一人……。

  考えられるのは、アノ人しか、いない。


「…… 九十九番目のアリスは、ネバーランドの 領主としての《権利》を…… 彼に、譲渡します」

「彼、とは……?」

  他人の心が 読める案内人には、もう すでにわかっているだろう。

  防砂林の方を 指さして、叶人は 全員に向かって 宣言した。


「あそこにいる―――― インディアンの酋長 シャディスに、譲渡します!」


「え…… えぇぇぇぇ、酋長!?」

「来ていたんですか!?」

  一斉に 防砂林の方向に 視線を向けると、派手な衣装の端っこが 見えたのだろう。

「…… あれで、隠れているつもりなのか?」

  船長の 疑問は もっともだと、全員が思ったに違いない。

「はて~………… な~んで、見つかっちまったのかいな~」

  ゆる~い 話し方は、集落で耳にした通り。

  まだ 四十歳手前だというが、フードを深く被っているので、顔は よく見えなかった。

「何でぇ…… ワシに譲ろうと、考えなさる?」

  身長は 高くないし、体格も 普通。 ピーターと互角に戦っていたという《豪傑》には、とても 見えなかったが。

  離れた位置からの 問いかけなのに、声は よく通るし、不思議と 威圧感があった。


  やはり、一つの 部族をまとめている おさなんだと、妙に 実感できた。

  彼に譲るのが―――― この地にとって、一番 いいと思えたから。

「隠居するには、まだ 早いんじゃない?」


  ヤル気ないように見せておいて、本当は 娘と民が、心配で来ていたんだろう。

  タイガーリリーという 娘の、父親なのだ。 民の反応からしても、慕われているのが よくわかるから。

「酋長に、私は お願いしたい。 ―――― 領主の件、受けてくれますか?」



  仕方ないかぁ~…… という 言葉が、返事だったようで。


  こうして、ピーターから 叶人へと移動した《領主の地位》は、無事に インディアン酋長 シャディスへと 移行された。

  ねじれた世界に 叶人が迷い込んでから、ちょうど 二日目の―――― お昼ごろのことである。

  まだ、二日目で…… こんな 事態になっているとは。


  昨日の朝、アパートの 玄関ドアを開けたことが、一年も前のような 気がする 叶人であった。   

 やっと 終ったぁ~。

 思った以上に、時間が かかりまして…… ダラダラと長くて 申し訳ありません。

 もっと 簡潔に、物事が説明できる 文章力があれば…… うぅ~ 精進致します。


 次回、戦争後の《お疲れさん会》と称して、皆で 宴を開く、という話の予定です。

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