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九十九番目のアリス  作者: 水乃琥珀
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1.ねじれた世界へ ようこそ

※誤字発見、修正しました

  ≪信じられない事≫が起こった時に、人は ≪どんな反応≫をするのだろう?


  頬をつねる…… という≪漫画みたいな行動≫に走る日が来てしまうとは―――― 自分は 相当、目の前の光景に 動揺しているらしい。 顔の表情には 出ていなくても。

  何度も 確認するが、確かに 自宅の玄関ドアを 開けたのだ。

  ほんの五分前の出来事である―――― 忘れていたら、それこそ 危うい。

  いつも通りに 朝食を食べて、支度を整えて、仕事カバンと 昼用のお弁当を持って、履きなれた スニーカーを履いて…… 行ってきますとばかりに 玄関を開けたのだ。

  それが。


  ここは、二階建てアパートの 二〇一号室である。

  玄関ドアを開けたら 廊下があって、廊下越しに見えるのは アパートの大家さんの家のはずなのだが。


  …… 無い。

  何度 周囲を見渡しても、無い。

  唖然と、体と脳が 固まって動けなくなっているうちに―――― いつの間にか、背後にあったはずの ≪玄関ドア≫まで 消失しているとは…… 何事だ。


  目が、おかしくなったのか。

  それとも、≪脳の病気≫ なのだろうか。

  もしかして……… まだ 本当は眠っていて、今 見ている光景は すべて『夢』でした、なんてこととか?

「夢……… だよね」


  自分が 病気だとは、一応 思いたくはない。

  現在 二十七歳、まだ未来は明るいと 思っていたい年頃なのだ。

  そうなると、あとは≪夢≫としか考えられない。

  これが、現実のはずがない―――― ≪空想小説≫は大好きだが、あくまで それは≪架空の世界≫。

  こんな簡単に、目の前に 突然ぽーんと 出現するわけがないのだ。

  ましてや、こんな………… メルヘンな 光景。


「ど…… 童話?」


  ひとことで表すなら、そう 『童話の世界』だろうか。

  豊かな緑の木々に、パステルカラーの 花々が咲き乱れ、抜けるような青い空に、綿菓子みたいな 可愛らしい雲。

  あちらこちらに 小さな虹がかかり、おだやかな風に乗って流れてくるのは、金属音の音楽。

  きらきらきらきら キラキラキラキラ きらきらキラキラ………

  金平糖のような 星型のモノが煌めいて、その周りを飛び交っているのは――――― 。


  …… 『妖精』、で合っているだろうか。

  とりあえず、間違っても≪虫≫ではない。 いや、むしろ 虫なら好都合、速攻で叩き潰してくれる。

「お…… 落ち着け、私」

  大嫌いな≪虫≫であろうが、今なら 躊躇なく抹殺できる気がした…… 駄目だ、相当 混乱している。

  こういう時は、目をつぶって 深呼吸しかない。

  一度、メルヘンな景色をシャットアウトし、深く 息を吸った。

  吸って、吐いて、吸って、吐いて。

「…… よし!」


  わずかに落ち着いた気分になって、気合いを入れて 再び目を開けてみると。

「…………………………」

  目の前に、真っ黒いモノがあった。

  あまりに近過ぎて、ピントが合わないせいか、それが≪何なのか≫―――― 理解するのに 時間がかかった。

「うわぁぁぁ!」

  気付くと同時に、慌てて 後ろに飛び退く。


  乙女的な 可愛い悲鳴、『きゃあ』が出ないのは 仕方がない。 人には、何事も≪向き不向き≫があるのだから。

「ひ…… 人!?」

  真っ黒いモノの正体―――― それは、間違えなく『人』であり、あろうことか 自分の目の前…… 鼻がぶつかる位の≪至近距離≫に居たものだから、驚くなと言う方が 無理な話である。

  しかも、ただの人ではなく、立派に成人したであろう≪青年≫だったのだから。


  自慢ではないが、恋人いない歴 二十七年。 初チュウだって、まだなのだ。

  他の乙女よりも 若干≪過剰反応気味≫だとしても、責められるいわれはない…… はずだ。

  そんな こちらの≪事情≫や 複雑な≪心情≫など、まったく頓着しない 目の前の≪青年≫は、形の良い唇を開いて ≪挨拶≫らしき言葉を口にした。


「こんにちは、お嬢さん―――――― ねじれた世界≪ローリィヴェルテ≫へ ようこそ」



  赤いハートと 緑のクローバーの模様が入った≪白いシャツ≫、だいだい色のダイヤ型と 青のスペードが描かれた≪黒いズボン≫、≪襟≫と≪袖口≫の 濃い紫色が目立ち、手には シルクの≪白手袋≫。

  …… 怪しい。 怪し過ぎる。 ここまで怪しい服装の人物に、未だかつて会ったことがない。

  トランプの≪ジョーカー≫の絵柄だって、もっと≪まともな≫出で立ちをしていたはずだ。


「初めまして。 わたしは≪案内人≫と申します」

  ジョーカーもどきの青年は、うやうやしくお辞儀をした。

「≪案内人≫…… ?」

  それは、名前なのだろうか……?

  顔に出るほど 表情豊かではなかったが、青年は こちらの疑問を 的確に察知していた。

「はい、わたしの≪役割≫を表す言葉であり…… ≪名前そのもの≫でもあります」

「≪役割≫………」


  何故だか、その言葉に 奇妙な≪引っかかり≫を覚えた。

  いいや…… 待て待て。 その前に、もっと≪気にするべき言葉≫があったではないか!

「ロ…… ローリィヴェルテ…… って、何?」


  ようこそ―――― と、先程 挨拶されたのだ。

  意識して 来た訳ではないが、とりあえず 場所の確認からしておかなければ。


「ローリィヴェルテ―――― つまり、≪ねじれた世界≫の名前ですよ。 ここでは、あらゆるモノが≪捻れて≫いて、同時に ≪正しく≫もある。 あなた方≪お嬢さん≫から見たら、普通という常識からは かけ離れた、おかしな世界と呼べる所でしょうね」


  …… 確かに。

  常識から かけ離れた…… という部分は、案内人の ≪服装≫を見れば 一目瞭然だ。 奇抜過ぎる。


「あなたは、この≪世界≫に選ばれ、同時に あなた自身も ≪この世界を選んだ≫―――― 双方の≪想いが一致≫したために、世界の入口は開いたのです」

「想いが 一致…… って、そんな事あるわけないじゃない!」

  こんな ヘンテコな世界、想像力を駆使しても 思い描くことは難しいというのに。

  どうやって、自分が この世界を望んだ、というのか。


「深層心理…… という言葉を、ご存じですか?」

「深層心理…… つまり、無意識のうちに、私が 望んだっていうの?」

「その通り。 片方だけの想いだけでは、世界に入ることはできません。 あなたは 心のどこかで、何かを強く ≪願っていた≫はずです」

「何かを…… 強く 願っていた…… ?」

  オウム返しに言いながら、滑稽なツーショットだなぁ…… と、ぼんやりと思った。


  言われて考えてみたが、心当たりは 何も無い。

  別段、普段の 日常生活に問題は無かったし、できれば このままの時間が続けばいいな―――― というくらいであって。

  変化することを 拒んでいた訳ではなく、強い願いなど まったく結びつかない。

  疑問に顔を曇らせていると、案内人は 綺麗に笑った。

「いずれ、わかるでしょう」

  なんと 安直で、いかにも 他人事という 片づけ方だろうか!

  そろそろ、誰か これは『夢でした』と言ってはくれないだろうか?

「あぁ、だめですよ、現実逃避は よくありません」

  タイミングの良過ぎる反応に、ふと ある疑問が浮かぶ。

  現実離れした展開のとき、お約束とばかりに 登場してくる…… アレ。

  心が読める―――― とか?

「ふふふふふふ」


  不気味な笑いは、どうやら 肯定を表すらしい…… なんて、悪趣味な世界!

「…… っていうか、これが まだ≪現実≫だと 決まったわけじゃないし」

  現実だと 確信できる証拠が、何一つ 無いのだから、動揺しても 馬鹿らしいのかもしれない。

  意識して、崩れかけた ≪心の均衡≫を 立て直しかけていた矢先、案内人は すっと腕を伸ばした。


  手袋をはめた人差指で、つんと 額のあたりを突かれて、ほんの少し 体が後ろへ倒れかける。

「わっ……!」


  ぐっと 足元に力を入れて 態勢を保ったが、足裏に 何か≪違和感≫を感じた。

  ―――― 履き慣れたスニーカーの感覚とは まるで異なる、不可思議な 感触。


「え……えぇぇぇぇぇぇぇ!?」


  それも そのはず。

  足元に 顔を向けて見れば、履いていたはずのスニーカーの 影も形も無い。

  Tシャツにジーンズ、髪は 短いポニーテールという、ありきたりな服装は 百八十度変化していた。



  先が丸く膨らんで、太めのヒールは 五センチ程度、甲の部分にストラップの付いた≪黒の靴≫。

  履き口にレースが付いた ≪白の ニーハイソックス≫。

  膝丈で 袖はパフスリーブの ≪水色ワンピース≫と、フリフリの≪白のエプロン≫。

  結っていた髪は 下ろされて、頭の上には ≪リボン≫が乗っている…… と思われる。




  どこかで見た―――― 否、水色の エプロンドレスなんて、世界に一つしか知らない。


「まさか…… 」

  視線を 目の前に戻すと、案内人は とんでもない言葉を 口にした。



「よくお似合いですよ――――― ≪九十九番目の アリス≫」

 初めまして、の方も。 前作読んだよ、という方も。

 水乃 琥珀です。


 本家アリスの すばらしい世界観を汚さないように注意しつつ、あくまでも 自分流のアリス物語として、進めてまいります。

 ラストは考えてありますが、それまでは まだ未定。

 ちょっと年増な アリスですが、よろしくお付き合い下さいませ。

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