ごめんあそばせ召しませ執事?2(千文字小説)
有栖川亜梨沙は大富豪の令嬢です。
まだ十七歳ですが、お金持ちの上に美少女なので、通学しているインターナショナルハイスクールではモテモテです。
しかし、亜梨沙は同級生のイケメンの告白にも落ちませんし、耳も貸しません。
何故なら亜梨沙は、事もあろうに自分の邸で働いている執事に恋をしているからです。
執事の名前はトーマス・バトラー。世界執事協会所属の執事です。
亜梨沙は見かけは高飛車ですが、本当は恥ずかしがり屋です。
ですから、トーマスに自分の気持ちを伝えられません。
「トム、庭にゴミが落ちていたわ。お掃除きちんとしているの?」
などと、自分で散らかしておきながらそんな事を言ってしまいます。
「申し訳ありません、お嬢様。すぐに片づけます」
トーマスは慇懃にお辞儀をし、クルッと踵を返して歩き去ります。
(ああん、大好き、トムゥッ!)
心の中で絶叫する亜梨沙です。もう意味不明です。
(このままでは、私は本当にトムに愛想をつかされてしまう。どうしたらいいの?)
悩む亜梨沙です。しかし、実際にトーマスが目の前に現れると、
「トム、今日の紅茶、ちょっとかび臭かったわ。古いものを使ったんじゃなくて?」
などとほとんど言いがかりに近い事を言ってしまいます。
「申し訳ありません、お嬢様。早速現地に連絡して、新しい紅茶を取り寄せます」
トーマスは華麗に頭を下げます。
(ああん、どうにでもして、トムゥッ!)
また心の中で雄叫びをあげる亜梨沙です。
「そうね。できるだけ早くね。来週、お友達を招いて、お茶会をするのだから」
それでも高慢ちきな仮面を被り続けてしまう亜梨沙です。
「畏まりました」
トーマスはクルリと身を翻し、歩き去ります。
(もうダメェッ!)
自分を偽り続ける事に堪えられなくなった亜梨沙は、
「待って、トム」
とトーマスを呼び止めます。
「如何なさいましたか、お嬢様?」
トーマスは笑顔で振り返りました。
亜梨沙はドキンとしました。
「お茶会には奇麗な方がたくさんいらっしゃるけど、私以外に優しくしたら許さないわよ」
亜梨沙は顔を火照らせながら言います。
「仰せのままに」
トーマスはまたスッとお辞儀をしました。
「別に貴方の事なんか、好きでも何でもないのよ、トム。 勘違いしないでね!」
亜梨沙はもう自分が何を言っているのかわからなくなっています。
「はい、お嬢様」
トーマスは微笑んで応じました。
もう少しだけ、続く……。