はじまり
「なんだ、きさら。今日は随分と早ええなぁ」
いつもよりも少し早く起きた私に不思議そうに目を細めたジジ様がそう問う。
確かに、まだ空は青がかっていて日は出てないから夜明けまではもう少しかかるんだと思う。
それにいつもなら私はまだ眠りに付いているはずだ。
けれど、今日ばかりは違っていた。
私はくすくすと笑いながら縁側の戸をあけて、呟いた。
「今日は青ちゃんとハチが来る夢を見て。それで起きちゃったの」
「青とデコか。しばらく顔をださねぇなぁ」
遠くを見るように空を見たジジ様。私も同じように空に目を向けた。
もう、二人が来なくなって、何月経っただろうか。
目を向けたその空の色は正しく青ちゃんの髪の色と同じ、綺麗な青色だった。
此処は大陸の北に位置する北倶盧洲の果ての地。
此処をヒトは『賽ノ地』――そう呼ぶ。
ヒトと、ヒトではないモノとの狭間の地。
さまざまな命が行き交う地。
――そして、その命が消えゆく地。
この地に平和は訪れない。
争いだけが人を支配し、そしてまた争いを生む。
生まれた争いはヒトの心までも支配して、憎しみを生む。
そして憎しみは再び争いへとその矛先を向ける。
――なんて悲しい連鎖であろうか。
ヒトもヒトではないモノも、命は全て美しく、自由である。
だがその命はこの地で儚く消えてゆく。
憎しみと言う負の感情を残して。
此処に救いはありません。
個々の救いもありません。
求めても、その手は空をつかむだけ。
嘆いても、もう遅いのです。
そんなこの地で育った私はあの日、彼らに出会いました。
強く、まっすぐな心を持ち、どこか儚げな彼らと――