第6話 メモリーラップス
「ん…ここは…?」
確か私は……幻影体の脚を出そうとして…
…すこし、失敗してしまったようだな。
「お、起きたか。大丈夫か?どこか痛かったりしないか?」
「大丈夫だ。……その、なんだ…」
「どうした?あ、やっぱりどこか痛いか?」
こういう時、どうしたらいいのかわからない。
ケンジに任せろと言っておきながら意識を失うなんて──さっきまでを無かった事にしたい!
…いや、違う。ケンジに何か言わなければ……こう…やらかした時は何か言わないといけないのだが、それが何を言えばいいのか…─そうだ!
たしか従者の奴がたまに何かやらかした時に私にやっていたのが…たしかこうやって、脚を曲げて座って手を前について──そしてこの言葉だったな…
「申し訳ありませぬ」
「いきなり土下座してどうしたっ!?いや、いいから!やめて!俺がなんか悪い人みたいだからやめて!」
「む、そうか…従者の奴がたまにこういうのを私にやっていて、今こうするのが良いと思ったんだが……」
そう言うとケンジは額に手を当てて上を向いて『あ~…』となんだか間延びした声を出した。なんなんだ?なにか私は間違えたのか?
ケンジはすこし困ったような顔でこちらを見た。
「あれだろ?悪いと思ってくれたんだよな。
そういう時は、『ごめんなさい』って言ってくれたら、それでいいよ」
「ごめんなさい」
「そうそう。まぁ、さっきのも間違いって訳じゃないけど、ちょっと仰々しいからさ。この程度のことならごめんなさいで良いよ。ほら、俺たち一応相棒ってことでやっていくんだしさ」
「なんだ、いきなり随分しゃべるな」
「ぐ…ま、まぁだから、その、気にしなくていいよ」
「そうか。ありがとう」
なるほど。ごめんなさい、か…
従者のヤツ、しっかり教えてくれればよかったものを…
「いいよ。てか、『ありがとう』は知ってるんだな?」
「ああ、従者の奴がな、『是非とも!ありがとう。と、私言ってくだされば!これ以上の喜びはありませぬ!さあ!是非是非!』…と言って教えてくれてな」
「…大丈夫か?その従者って…」
「どうだろう。アイツも殺されてしまったかもしれんな」
「いや、そうじゃない…」
?何が違うのだろうか?
ケンジはどうも私にはわからない事がわかるようだ。全て私に説明しないのは…まぁ、そういうものなんだろう。従者の奴もそうだったしな。
「その…従者ってのはソフィの何なんだ?」
「何って、従者は従者だぞ?いつからか私の近くに居て色々教えてくれたり、住処を整えてくれたりしてくれた奴だ」
「名前は?」
「え?」
「え?」
名前…え、あー…なんか、あった気はするが…ダメだ。呼んだ憶えがない。いつも『おーい、従者ぁ~』って感じに従者としか呼んでなかった。名前…確か………。
「もしかして…忘れたとか?」
「い、いや…少し待て!」
確か…従者の奴は…よく筆頭殿とか言われてたな。
「確かよく筆頭殿と呼ばれていたのだが…」
「それは役職では?」
「…私もそんな気はしていたぞ?一応言ってみただけだぞ?あとは…確か…」
確か…─そうだ!思い出したぞ!
少し不安になったが、私もちゃんと覚えているのだな。
「確か、ベロベロだ!」
「べ、ベロベロ?」
「そう呼ばれていた…気がする…」
「なんか、随分舌が長そうな、もしくはヨダレとか垂らしてそうな名前だなぁ」
「そうなのか?でも特に舌は長くなかったような…ヨダレも特に…いや、たまに垂らしていたか、そういえば」
「ホントに大丈夫か?その人」
「ま、まぁ今いない奴の事はもういいではないか。それよりそろそろ出発しないか?
そういえば私はどのくらい眠っていたんだ?」
意識を取り戻した時には、ケンジが用意してくれたのか頭上に幕が張られて日陰が作られていた。まだ日があると言う事はそんなに時間は経っていないと思うが…。
「わからないけど、まぁそんなに長くは無いよ。でもま、そうだな。そろそろ出発しようか」
そう言ってケンジは手早く片付けはじめ、出発の準備を済ませた。
「日が暮れる前に街か村を見つけようぜ」
「うむ。面倒をかけた分頑張るぞ!」
「いや、ほどほどでいいから。また転ばれても困るし」
「…意外と意地が悪いなケンジ。…─あ」
「?どうした?」
「いや、その…尿意がだな」
「…おぅ」
『おぅ』じゃなくて…いや、そうか私から言わないとか。
「とりあえずあっちを向け。見るんじゃないぞ?」
「わかってるよ。少し離れとくからな」
「うむ」
そう言って少し穴を掘って用を足して…そこで、違和感に気付いた。
何故、私は排泄を当たり前に出来ている?
元の私は排泄など必要無かったのだから、当然知るはずが無い。
いや、そもそもケンジと当たり前の様に話しているのも考えて見ればおかしい。
……まぁ、こんな事の心当たりは1つしかないな。
「おーい?まだかー?」
「もういいぞー!」
この事は一度ケンジに話してみるか。私よりも神と話していたみたいだしな。
しかし、一々こんな事をしなければいけないとは…つくづく人間の体は不便だな…。




