第5話 すってんころり
「はぁっ…はぁっ……ま、ちょ、ちょっと待って…くれ…」
「ん?ああ…大丈夫か?」
「はぁ…だ、大丈夫だが…少し、待ってくれ…」
私とケンジは、荒野をひたすら歩き、少し前から砂丘へと入った。
どうやらこの体はあまり強くないようで、ただでさえ身体の大きいケンジについて行くのが大変だったのが、砂丘の砂に足をとられてしまい更に体力を消耗していた。
ぐぬぬぬ…なんて情け無い姿だ。
だらだらと流れ出る汗とかいう体液もベタベタ不快だし、陽の光はジリジリ肌を焼いてヒリヒリするし…私がこんなに消耗してるのに平気な顔をしてるケンジはなんなのだ!あ、いや…汗は、かいているな。バックパックも背負っているのはケンジだった。くぅ…な、なんとか意地を見せなければ──!
「よし、もうだいじょ─きゃわっ!」
──砂に足をとられて転んだ。
く、くくくくく……この砂め…一粒残さず消し去ってやろうか……。
怒りをなんとか堪えながら体を起こす。
ケンジが心配そうに駆け寄ってきていた。
「だ、大丈夫か?怪我してないか?」
「……口の中がじゃりじゃりする…」
「あ~…ちょっと待ってな。今水を取り出すから」
「うむ…」
ケンジから水の入った皮袋を受け取り、いつものように高く持ち上げ、口を開けて水を流し込む。
「ごぼっ…がはっあ!ゲホッゲホッ…」
「何やってんの?!いや、いきなりナニやってんの!?!?」
水が上手く口に落ちずに顔中にかかった。…鼻の奥がなんか、キーンとする…
「なにって─液体を喰らう時はいつもこうしているのだが?口まで小さくて、どこまでも不便な身体だ。ううぅ、鼻の奥が気持ち悪い…なんだこれは…」
水が胸元まで垂れてきた。
濡れた布が身体に引っ付くのが少し気持ち悪い。
「以前は液体を飲んだりはしなくても良かったのだが、こう…獲物なんかを持ち上げて握り潰してな、流れ出た血を飲んで見せると周りのヤツらが大喜びで私を褒め称えたのだ」
従者の竜人なんかは『魔王様、ワイルド!ワイルドですぞ!!』なんて言ってだいぶはしゃいでいたなぁ…既に少し懐かしい。…どうしたケンジ、眉間が痛いのか?
「あー…人間は…いや、そうだな…その小さな口だとそのやり方は合わないから、こう…口をつけてゆっくり少しずつ口に流し込むのがいいと思うぞ」
「そうなのか?どれ…」
言われた通りに皮袋に口をつけて少しずつ水を飲んでみる。
なるほど、これなら先程みたいにならないな。
この体ではどうするのがいいのか、これからはケンジに聞くとしよう。それにしても…
「なんというか…ぬるくて少し、なんだ…生臭いな…」
「それはまぁ、仕方ないって…」
よし。胸の鼓動も落ち着いて口の中も多少はスッキリした。そろそろまた歩き出すとしようか。
「しかし、いつまでもこの弱い体では不便だ。ケンジよ、ひとつ私の強靭な脚を見せてやる故、承認を頼む」
「ええ?そんな事で?」
「そんな事とはなんだ。私の脚は巨人族と竜族を喰らって掛け合わせた自信作だぞ?ほらほら、見てみたくはないか?」
「う…正直、少し見てみたい……」
「ならば、ほれ。ちょいと承認を出してくれさえすればじっくりと見せてやるぞ。それに、私が魔力幻影体で移動出来ればペースも上がる。悪くはなかろう?」
ケンジは少し悩んだようだが、『まぁ、運用テストにもなるか』と承認を出した。…此奴、案外チョロいかもしれんなぁ。
さて、それではいつもの感じで自身を魔力で覆い体を顕現させようとして──おや?
「?どうかしたのか?」
「い、いや!なんでもない!大丈夫だ!」
前世では、自分自身の脚というのがなかったので単純に顕現で良かったが、今は違う。既にある脚に纏わせる形で出そうとするが、どうにも上手くいかない。何故だ?
…仕方ない、身体から少しずらして顕現させるか。
今度は、あっさりと赤黒い巨大な両脚が現れた。しかし…
「おおおお─おお?あー確かにデカくて強そうだけど…」
「うむ…脚だけだと、不気味だな…」
ともあれ、これで移動が楽になるはず。
この体に着ければ………はて、どうやって?
ま、まずは脚に上らなければ始まらないな。高すぎるし、こう…イイ感じに膝を曲げればいいと思ったが、うまく曲がらない。どうしたものかと自分の膝を曲げて腰を落とすと、同じように幻影体の脚も曲がった。
立ち上がると、同じように脚は伸び、片足を上げると同じように上がる。
どうやら自身の動きと連動してしか動かせないらしい…。
いや、無理をすれば幻影体だけを動かせなくはないが、かなりぎこちない上に集中を少しでも切らすと体の動きにつられてしまう。
ならば腕を顕現させて自分をつかんで持ち上げ、脚に脚を装着しようとしたが、腕を顕現させると脚が消え、脚を出せば腕が消えてしまった。
……なんでじゃい!
「あー…無理しなくていいって。ほら、そろそろ行こうぜ」
「え、あいや、あと少し!少しまて!」
集中だ!集中して、今ある脚の下から少しずつ顕現させればいいのだ!
と、ちょっとずつだがズズズ…と足の下から幻影体が生えるように顕現していき、イケる!と思った次の瞬間足を滑らせ砂の上に頭から落っこちて、私の意識はそこで途切れた。




