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第10話 有名無実って知ってる?

 俺たち三人はテントの中へ入り、座って向かい合っていた。ちなみに全員正座である。

 足を延ばして座ったソフィに対して、ヴェロニカが『魔王様、足はこのように畳んで座るのです』とか言って、ソフィもそれを素直に聞いて正座していた。

 床は固いので、正直ちょっと痛くて辛い。

 ふと見れば、ソフィは既にお尻を少し浮かせたり、もぞもぞと足を動かしたりしている。

 対してヴェロニカのおっさんは、ピシッと背筋も伸ばして綺麗な姿勢で座っている。

 その姿はまるで時代劇で見る侍を思わせた。


「さて……それでは改めて名乗らせて頂く。わたくしはヴェロニカ。魔王様の筆頭従者にして、教育係を務めております」

「えと、壬生健仁みぶ けんじです。あー…その、ソフィの相棒…デス」

「エルムソフィラだ。従者よ、この座り方、足が痛いのだが……」

「我慢なさってください」


 ソフィの懇願をぴしゃりと斬って捨てながら、おっさんの鋭い眼光は俺を捉えて離さない。

 いや、普通に怖い。

 別になにか俺が悪い訳でもない筈だが、学校の先生に怒られた時の事を思い出してしまう。


「その、エルムソフィラという名前は、この人間がつけたのですか?」

「いや?違うぞ」

「違いますね。俺達をここに送った神様がつけてました」


 まずは、ソフィの名前からか。

 元は名前の無い魔王だったとは、神様から聞かされていた。

 その頃の従者がこの世界にきているのは聞いてないけど……。


「では──ソフィ…と、いうのは?」

「あ、それは俺が長い名前だったんで愛称で──」

「エルムソフィラ様の名前を勝手に短くするとはどういうつもりだ貴様!!」


 俺の言葉を遮り、鬼の形相で胸倉を掴んでくる。

 こ、こわい……。

 てかちゃっかり魔王様呼びだったのが名前に置き換わってるな。


「短くてわかりやすいし、私は構わないぞ?それより従者、お前はどうしてここに居るのだ?お前もあの不気味な神と会ったのか?」

「ソフィ様がそう言われるのでしたら……。ソフィ様のご慈悲に感謝しろよ小僧」


 そう言って座り直すおっさん。

 コイツ、憶えとけよ……。

 それはともかく、『では手短に』と前置きと咳払いをして、おっさんは自分の事情を話してくれた。

 なんでも、ソフィが勇者に討たれた後に目を覚まして、後追い自殺をしたところを、あの神様と出会ったんだそうだ。

 俺たちが闇の神で、おっさんは光の神へ御仕置きを依頼されたとの事。

 ソフィがこの世界に転生すると聞かされて即断即決。どういう訳か俺達より随分と早く送られ、行動していたそうだ。


「一応、義理は果たそうと光の神とやらの所までは行きましたぞ」

「え?マジで?すげぇなおっさん」

「おっさんではないぞ。小僧」

「俺も小僧じゃない。おっさん」

「どっちもどうでもいい。それよりも従者、その光の神とは戦ったのか?」


 どうでもよくない!……いや、いいか。

 今は俺の意地だのなんだのより、おっさんの話を聞くか。

 しかし、既にこの世界の神様に会っていたなんて……いや、ホントすげぇな。


「戦っておりません。会って、少し話をしましたが……いや、あれは無理ですな。どうやっても勝てる気がしません」

「そんなにか」

「ええ」


 ハッキリ断言しながら『無理無理』と首を振るおっさん。

……やっぱり、神様って呼ばれるだけはあるんだな。


「その後は近くの街を拠点にソフィ様が降臨なされるのをお待ちしておりました。───この日を……この日をずっと、ずっと───」


 下を向き、ふるふると震えだすおっさん。

 ……泣いてるのかな。

 そうだよな。ソフィが死んだ時、自殺するぐらいだもんな……。


「うおおおん!ソフィ様ぁ!よくご無事で……また会えて私は嬉しゅうございますぞ!!!」

「え?うおわぁ!や、やめ…足が!足がびりびりする!離れろ!」

「おっさんコラ!何抱きついてんだ!」


 大声で泣きながらソフィに抱き着くおっさん。

 抵抗するソフィと引きはがそうとする俺。

 しかし、この中で一番デカい上に力も強いおっさんはびくともしない。

 マジで力強すぎるって!

 思い切り引っ張っているとふと力が抜け、俺はバランスを崩して転がった。

 いってぇ……。

 起き上がっておっさんの方を見れば、襟を正して何事もなかったように、またピシっと正座していた。


「お見苦しいところを御見せしました。つい感極まりまして」

「……なんだこのおっさん」

「従者は時々こんな風になるんだ」

「マジか……」

「私の事はどうでもよろしい。ソフィ様、そのお姿は一体どうされたのですか?

 大変プリティーではございますが、てっきりあの凛々しきお姿をしておられると思っていたのですが」

「ああ……それは──」


 凛々しき姿、か……。

 やっぱソフィの元の姿って、あのでっかい腕とか脚とかが完全になった姿だったんだろうか。

 あの時、ソフィを抱っこしてきた神様に問い詰めた時の答えは『え?だって君だって、カワイイ女の子の方が嬉しいだろ?大丈夫、元は中々に強い、魔王とまで言われた存在だからね!性別なんて無い存在だったし、丁度良いから僕からのサービスさ!』

なんて言ってたっけ……一体何が"丁度いい"だったのか……。


「なんと─!それでは、そのお姿は魔力で作っておられるのではなく……」

「そうだ。今はこの身体が私の本体という訳だ」

「──神め……。よくも我が主の真ん丸つるつるの御身を!あの雄々しく力強いお姿を!……いやまぁ、今のお姿も悪くない──むしろ良いですな。グッジョブ神」

「あんたどっちの味方だ」

「無論ソフィ様だが?」


 ……すこし、頭が痛くなってきたぞう。


「ふむ。でしたら、今度こそテーブルマナーや作法をしっかり身につけて頂きましょうか。以前は諦めましたが、今度こそは御覚悟なさいませ」

「それは、そんなに必要なのか?」

「勿論です。以前、周りの者たちに囃し立てられ、魔獣を握り潰して血を浴びるように飲まれているのを見た時は……本当にどうしたものかと頭を抱えたものです」


 ああ…あのワイルドな水の飲み方の元かぁ。

 確かにあれで生き物を握り潰しながらは中々にスプラッタでワイルドがすぎるな。

 小さな声でソフィが『…喜んでいたのでは無かったのか……』とか洩らしてる。

 ソフィさん?

 ……これ、ソフィから聞く過去の話は中々怪しそうだぞ。次からは少し気をつけよう。


「まぁ、礼儀作法は今は置いておきましょう。話を戻しますと、昨日、ソフィ様の魔力の波動を感じ、居ても立っても居られず、飛び出して来たのですよ」

「文字通り飛んで来たな、おっさん」

「そういえばあのドラゴンはなんだったのだ?あんな風に変化出来るとは知らなかったが……」

「ああ、あれは神から貰った能力です。なんでも、依頼料だとかで」


 へー…あんな風に変身出来る能力まであったのか。

 ま、まぁ…回復能力は便利だし、別に羨ましくは無い。……いや、ちょっと羨ましい。


「私としては、ソフィ様の復活先に行けるならそれで十分だったのですが……ま、貰えるなら貰っておこうかと」

「罠か、とか考えなかったのかよ?」

「あれ程の存在が、私なんぞにわざわざ罠を使う意味など無い。そんな事もわからんのか?」

「嫌味な奴だな…わかってるよ。聞いてみただけだ」


 ほんと、何かと突っかかってきやがるな。

 ……俺もちょっとムキになってはいるけど。


「そういえば、ソフィ」

「どうした?ケンジ……それより足の感覚がなんかおかしくなってきたのだが……」

「いや、ベロベロって言ってた従者って、結局はこのおっさんだったの?」

「う……うむ……。そうだ……」

「ソフィ様……まぁ、無理もありませんか。思い起こせば、私もちゃんと名乗ったのは最初の時だけですからな」

「そんなのでよくやってられたな……」


 呆れを超えて尊敬してしまうぞ。

 それとも王様とかの辺りってそんなもんなのか?


「今度はちゃんと覚えたぞ!ヴェロニカだな!大丈夫だ!」

「ソフィ様……!私、感無量で御座います!」

「いや、子供か?」


 名前覚えて偉いね〜って、小さい子供じゃあるまいし……さてはおっさん、厳し目に見えてソフィに結構甘いな?


「ふむ……まぁ、子供と言っても間違いでは無いな。ソフィ様が自我を持たれてからは、およそ十年程度だからな」

「は?」

「私の記憶と記録を統合したらだいたい十五年程度だぞ!子供ではない!」

「いや十五歳でも子供だよ?!」


 魔王っていうからてっきりウン百歳とかかと思っていたら……歳下だと?!

 今日一番の驚きである。


「え?じゃあ魔王だったっていうのは?あ、あれか?生まれながらに魔王だったとかそういうの?」

「生まれてすぐは……単なる素材、だな」

「素材!?どういう事だよ!?」

「ソフィ様は魔導生態鉱物という高魔力の宝石だったのだ」

「魔導生態鉱物???」


 なんじゃそりゃ……生物ですらないのでは──あ、今更ながらおっさんの言ってた真ん丸つるつるの意味がわかった。

 なるほど……いやなにもなるほどではないが……


「え…と……じゃ、じゃあ魔王っていうのは?」

「従者がそう呼んだ」

「……おっさん?」

「私が名前を付けるなど、あまりに畏れ多かったので"魔王"様とお呼びしました。力強く逞しく美しい……まさに魔王とはソフィ様にこそ相応しかったのですよ。あのような、策謀を巡らせるしか出来ぬ腰抜けなんぞより……」

「その話はいい」

「……失礼いたしました」

「えっと、つまり……おっさんが、勝手に魔王って呼んでただけ……ってこと?」

「私こそが魔王だと、従者は言ってたぞ?」

「その通り!魔王様とはソフィ様にこそ相応しい!」


 眉間を抑えて上を向く。また頭痛が……


「あ~つまり、真の魔王として在位中の魔王にとって代わろうとしてたってことか?」

「?なぜそんなことを?」

「……私は少し考えてはいましたが、ソフィ様は洞窟から出ようとなされませんでしたな」

「だって、安全な巣から出る必要なんて無いだろう?」

「引き籠りじゃねぇか!」


 一瞬で今日一番の驚きを更新するんじゃない!

 相棒は元魔王だと思っていたら、なんちゃって魔王の引き籠りだったでござる。

 え?これ、この先大丈夫か?

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