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第1話 おわり はじまり

 荒果てた石造りの城。その謁見の場にて対峙する者達が居た。

 玉座を背にするは異形の者。

 赤黒い鋼鉄の肌、頭に生えた黄金の角、蝙蝠の様な巨大な翼、大木を思わせる恐ろしく太い腕は4本もあった。

 それに立ち向かうは白金の鎧に身を包む勇者。

 赤きマントをたなびかせ、光輝く盾と剣を持ち、相対する異形を打ち滅ぼさんとする。

 両者は長きに渡り争った。

 異形は翼を斬られ、角を折られた。

 騎士は盾を失い、持っていたその片腕は動かなくなっていた。

 長い───長い戦いの果て、遂に決着の時が訪れる。

 勇者の剣が雷光を纏い、異形の体へと突き刺さった。


 異形は、上手く動かなくなった体を、それでも動かしてその剣を掴もうとする。

 勇者は、それよりも早く、渾身の力を持って、輝く剣を振りぬいた。


 パキリッ!

 と音がした。


 異形は膝をつき崩れ落ちる。

 体の端から砂となり、やがて跡形も無く消え去った。

 最後に残ったのは、真っ二つに割れた黄金の水晶玉。

 しかしそれも、すぐに黒くなりただの石くれと化した。


 戦いは、終わった。

 

 コレが、とある世界の魔王と勇者の戦い。

 勇者が勝ち、魔王は滅びたのだった。




「と、いうわけで、君は勇者に斃されて死んじゃったんだよね」

「一々言わずとも分かっておるわ。鬱陶しい。

 アレだぞ、私だってな、傷ついてるんだぞ?」


 真っ黒な何も無い世界。死後の世界。

 まぁ私も初めて死んだのだからハッキリとしているわけではないが、死後の世界で間違いは無いだろう。

 勇者に斃され、意識が消えてから次に目覚めたのがこの場所。何より、自身の死を断言してくる目の前の存在。

 うむ、死後の世界だ。

 私の体は無くなり、この世界に意識だけで存在しているようだ。

 浮いているような、浮かんでいるような、持ち上げられているような…妙な感じだ。

 手は無く、足も無く、というか体は何も無い。

 まぁ、私は生前でも自分の本体は球体だったから手だの足だのといった体は魔法で作った偽者だったのだけど。

 だからこの文字通り『手も足も無い』という状態はある意味私の本来の状態と言えるかもしれない。


 さて、そんな事よりも問題なのは私に話しかけてきている目の前の白い服の男だ。

 黒髪で上下とも白い服に身を包んだ青年とも少年とも言えるような容姿をした男、なんと神なのだそうだ。

 神か…。

 人間がよく祈っていたのが目の前の存在なのか。

 天上に居るだとか言われていて、側近の竜人なんかはよく『忌まわしい』と言っていたな。私も自分からは来ずに人間共に加護を与えて送り込んでくるのを鬱陶しく感じて、いつかブッ飛ばしてやろうなどと考えた事もあったが、今の私では望むべくも無い。

 というか、正直目の前の存在はなんだかわからんがメッチャ怖い。得体がまるで知れない。

 たとえ十全であっても出来れば相手したくないと思う。今すぐ逃げ出したい。

 なるほど、コレが神か。

 話してるとただの軽薄な男なんだが…。


「いや~でも君ってばすごいよね。ほんと。

 君を倒した勇者君だけど、彼には僕の加護の中でも結構強いの渡してたのにそれと互角だなんて」

「だが結局は負けた」


 だからそんな世辞など要らないのだ。悪い気はしないけども。

 そもそもこの何も無い世界で実体を持たない私が話を出来ているのも、この神だという男を認識できているのも、全てコイツが何か力の行使をしているからだろう。

 ホント何でも出来るんじゃないか?こいつ。


「何でもは…出来ないかな。大抵の事は出来るけど」

「心の中を読まないでもらおうか」

「いや、顔(?)に出てるよ?」


顔などないだろうが…この男は…


「それで?私に何のようだ?敗者をいたぶるのは良い趣味とは言えんな」

「やだなぁ、そんな趣味無いよ。ちょっと君に頼み事があってね。受けてくれると嬉しいんだけど」

「頼み事だと?」


 ますます胡散臭い。この様な存在が、暴力しか無いような私に頼み事?

 その暴力も今や失われて存在しない。

 自慢じゃないが、私は知識はお粗末そのもの。

 ──はじまりは洞窟、その後なんやかんやあって最後は城に居たが、その城だって洞窟の奥に作ってもらったモノだ。

 つまり私はずっと洞窟から出ていないのだ。わざわざ外に出なくても十分生きていけるのだから出なくていい。…だというのに、私の元までやって来ては襲い掛かってくる連中が絶えないのは何故なのか。虫、獣、魔物、人間、魔人…時が経つにつれて襲い掛かってくる奴は強くなっていった──


「ちょちょちょちょ、ちょい待って!勝手に回想に入らないで!」

「………ちっ」


 まぁ…何が言いたいかというと、私は基本巣に引き籠ってたので側近の竜人の従者から教えられた事は──いくらかは憶えているが、その程度でしか知識を持たない。

 で、そんな私に、この神だとかいう存在が、一体何を頼みたいというのか?


「君には、とある世界へ旅立つ人間の相棒になって貰いたいんだ」

「…はぁ?」


 人間の──相棒?


「人間に飼われろという事か?」

「あはははっ!違う、違うよ。その人間と共に生きて欲しいのさ」


 共に生きる…?人間と?私が?


「……なにを考えている?」

「ふふふ♪いいね、その警戒心。流石は死ぬまで引き籠った魔王だ」


 やかましいわ。そもそも、その魔王というのも従者の奴が私をそう呼んでいただけ。私に名前は無く、敢えて言うなら魔王が名前代わり。まぁそれで不便は無かったし、魔王と言うのはとても強い者の事らしいから私を呼ぶに相応しいとは思っていたけど。

だからと言って争いが好きな訳じゃ無い。どちらと言えば、私はただ静かに過ごせればそれでいいのだ。


「うーん、その考えは多少理解出来るけど、君はもう少し外の世界を知った方が良いと思うけどね。

 だからこそ、これはいい機会だと思って人間と共に旅をするのさ!」

「また思考を…はぁ…もういい。

 それで?人間の下僕になってなんの為に旅をしろと?」

「お?やる気になったのかい?」


 やる気も何もない。だが、私はこの神とやらの下僕の勇者に敗れた身。しかも文字通り手も足も出ない状態だ。

 話ぐらいは聞いてやるさ。


「まぁまぁ、君にとっても悪い話じゃないと思うよ?私の頼みを聞いてくれるなら、君の能力と記憶はそのままで新たな命を与えてあげよう」

「……もし、断ったらどうするつもりだ?」


 新たな命という事は生き返るという事だろう。それは、当然助かる。だが、何事にも裏がある─と聞く。従者の奴がよく言っていた。『美味い物には毒がある』と。

 まぁ、私には味覚というものはなかったのでその『美味い物』というのがよくわからんのだが。

 すっと、気配が重くなった。

 これまで笑顔を崩さなかった神の顔が、無機質な作りモノのように無表情となっている。

 私の言葉を受けてか、考えを読んでかはわからないが、どうやら何か気に障ったらしい。


「断るのなら、話はここまでだ。完全に消滅してもらう。我が庭を荒らした害虫め」

「はっ…それが本性か……」


 やっっっばぁ!なにこの重圧…こわいこわいこわいこわい──

 存在しないはずの体が軋んでいるような気すらしてきた。しかし、どうせ消されるなら最期まで虚勢ぐらい張ってやる!さらば…我が愛しき寝床よ…

 と、覚悟を決めたあたりでフッと重圧が消えた。


「ふふ、いいね、君。その気概に免じてもう一度だけ聞いてあげるよ。僕の頼み、きいてくれるかい?」

「むぅ……」


 どういうつもりかは知らないが、どうやら許されたらしい。

 助かった──でいいのだろうか?この神の言いなりになって本当にいいのだろうか?なにかとんでもない事をやらされるのでは?

 などと考えてはみるが、結局なにもわからないし、選べるのは消滅か下僕かの二択。

 ならば──


「わかった。私は人間の下僕となろう」

「下僕じゃなくて、相棒だよ」

「…ならそれで了承する。私はその人間の相棒だ」


 こうして、私は神の手先となる道を選んだ。

 この選択を、私はすぐに後悔し、そして感謝する事になる。──我ながら手のひらくるくるである。

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