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『人類を裏切った少年、魔族の総帥に拾われる』 ~国を毒殺して処刑されるはずが、深淵の力で魔界の英雄(?)に成り上がるようです~  作者: M—mao
グランディ帝国編

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第16話 緋色の空

王都北東、十キロ。

荒野の果てに、灰色の塔が聳えている。

グランディ帝国中央監獄。

かつては皇室直属の牢獄。今は連邦軍が接収している。


ブォン……。


転送魔法の光が弾けた。

エドが石畳に転がり落ちる。

手首を鎖で縛られたまま、彼は無言で顔を上げた。


監獄の外庭には、青い法衣の少女たちが詰めていた。

蒼月魔導団。


「副団長、身柄引き渡し完了です」

「ご苦労。後は私たちが」


アリシアが妖狼族の兵士から鎖を受け取ろうとした時。


「あらあらあら、魔族のお嬢様方!」


不快な香水の匂いと共に、太った中年の女が現れた。

元典獄長、ラフニー。

卑屈な笑みを浮かべ、小さな目がエドを舐めるように見た。


「この子供は?」

「毒殺事件の重要参考人です。混乱に乗じて殺人にも関与。統帥の命で収監します」


ラフニの目が細くなった。


「あぁ、お嬢様方の綺麗な手を汚すわけにはいきませんものねぇ」


彼女はエドの前に割り込んだ。


「こういう『訳あり』の処理は、我々の専門分野でして。お任せを!」


アリシアは眉をひそめ、多忙な現場を見た。


「……では、頼みます」

「オホホ!」


アリシアたちが去ると、ラフニの笑みが消えた。

乱暴にエドのローブを捲り上げる。

腰にぶら下がる、干からびた生首。

周囲の看守がヒッと息を呑む中、ラフニは眉を上げただけだった。


「ほぉ……」


短剣と薬瓶を没収し、顎で監獄の奥をしゃくる。


「さぁ、いい子だから中に入りな」


      ◇


監獄最深部。

そこは現在駐留している魔導師団の目すら届かない、完全な監視の死角だった。


カビと汚物の臭いが充満する闇の中、エドは壁に背を預けていた。

舌の裏から針金を吐き出し、手枷の鍵穴へ。


カチャリ。


解錠。だが、枷は外さない。


(やっぱりな)

(あのブタ女......)


生首を見ても動じなかった。わざわざここに閉じ込めた。

何かを企んでいる。


一時間後。

足音が近づいてきた。

鉄扉が開く。


大柄な赤毛の女と、痩せぎすで陰気な女。

エドは無垢な声を作った。


「典獄官さん、もう出してくれんの?」


「出す?」


赤毛の女が鼻で笑う。


「夢見てんじゃないよ。吐きな。帝国を崩壊させたのはお前だろ?」


「証拠あんの?」


ヒュンッ!


鞭がエドの首に巻きつき、締め上げた。


「ぐっ……!」


「お前が白状すりゃ、それが証拠だ」


痩せた女が靴底でエドの頬を踏みにじる。

赤毛の女の掌に火が灯った。


「許せないねぇ……私利私欲のために帝国をこんな目に」

「落とし前、払ってもらうよ」


エドは嗤った。


「あんな腐った国、滅びてせいせいしただろ」


「黙りなッ!」


ジュウッ!


「ぐあぁぁぁッ!」


炎が胸を焼く。

二人が哄笑した。


「腐敗? それが上に立つってことだろ」


最も隙を見せた瞬間。


カチャン。


枷が外れた。

エドは握りしめていた砂を、赤毛の女の顔に叩きつけた。


「ギャアッ! 目がぁぁッ!」


同時に、外れた手錠を二人の手足に絡める。


ガシャン!


繋がった二人がもつれ合う。

エドは痩せた女の股下を滑り抜け、目を押さえている赤毛の女に飛びかかった。

指を突き立てる。

狙いは――眼球。


ズブッ。


「ギャアアアアアッ!!!」


眼窩に指が沈む。鮮血が噴き出した。


「離せ! 離せよ!」


痩せた女がパニックになる。だが鎖が邪魔で動けない。

エドは無慈悲に、彼女の膝を蹴り抜いた。


ゴキリ。


「アギャッ!?」


女が崩れる。

エドは馬乗りになり、両眼球へ指を伸ばした。


その刹那。


ブォン。


体が動かなくなった。

見えない力で空中に固定される。


(念動力……!)


 痩せた女が脂汗を流し、瞳を光らせていた。


「ハァ……ハァ……クソガキが」


片目を潰された赤毛の女が立ち上がる。

隻眼に殺意だけが燃えている。


「生きたまま皮を剥いでやる」


      ◇


一方的な蹂躙だった。

念動力で固定されたサンドバッグ。

拳と炎が雨のように降り注ぐ。


ボゴッ! バキッ!


「がはッ……!」


左腕がありえない方向に折れた。

意識が霞む。


 その時。


ドンドンドン!


「おい! 外がヤベェ! 典獄長が呼んでる!」


舌打ちと共に、拘束が解けた。


ドサッ。


エドが床に落ちる。


「……命を拾ったな、クソガキ」


痩せた女がエドの頭を踏みつけた。


「戻ったら続きだ」


二人が出て行く。

静寂。


「……クソッ……」


エドは折れた腕を抱え、うずくまった。

痛みより、無力感が襲う。

あの日と同じだ。

ルグナに踏みつけられ、何もできなかったあの日と。


(殺す……全員、殺してやる……)


憎悪が頂点に達した瞬間。


ズズズ……。


脳裏の光景が歪み始めた。

村人の顔が、仇の顔が、黒と白のノイズに変わっていく。


『エド……』


頭を抱えるエドの脳内に、耳障りな声が反響する。


『……思うままに、やればいい……』


『……私がついている……何も怖くない……』


『アハハハハハハ――』


頭蓋骨の内側から、何かが這い出してくる。


(やめろ……入ってくるな……!)



ズドオォォォンッ!!!



轟音が全てを吹き飛ばした。


「ハァッ……ハァッ……!」


エドは目を開けた。

汗で全身がずぶ濡れだ。

幻聴が消えている。

そして――折れたはずの左腕を見た。


傷一つない。

骨折も、火傷も、消えている。


(……なんで……?)

 


ゴロゴロゴロ……!


建物が揺れる。

エドはよろめきながら立ち上がり、高い窓を見上げた。


息が止まった。

窓の外。


青空は消えていた。

世界は――血よりも赤い、緋色に染まっていた。

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