第14話 散りゆく王の盾
【王宮大広間。】
カロリーヌが踏み出した。
大剣が床を擦り、重低音を響かせる。
対するセリーヌは、剣を抜かない。
自然体。隙だらけに見えて、どこにも隙がない。
カロリーヌの眉間に皺が寄る。
「……なぜ抜かない?」
「私に剣を抜かせる相手は、そう多くはない」
セリーヌは言った。侮蔑ではなく、事実として。
「もし私に剣を抜かせたなら――お前の勝ちでいい」
広間が静まり返る。
カロリーヌは何も言わなかった。
理解したのだ。これは慢心ではない。
圧倒的な実力差なのだと。
ならば――。
「ハァアアアアッ――!!」
踏み込み。
深紅の絨毯が弾け飛ぶ。
裂帛の気合と共に、大剣が空間ごと断ち切る勢いで振り下ろされる!
銀光一閃。
セリーヌの身体が、紙一重でブレた。
カァン。
指先が、剣の腹を軽く弾く。
それだけで、必殺の軌道が逸らされた。
二の太刀。
薙ぎ払い、刺突、切り上げ。
達人の域にある三連撃が、瞬き一つの間に繰り出される。
だが、当たらない。
最小限の体捌き。旋回。
切っ先はセリーヌの軍服の裾すら捉えられない。
(……次元が、違う)
後方のケインが喉を鳴らした。
カロリーヌの呼吸が荒くなる。
最後の一撃。
残る全ての力を、剣に叩き込む。
「――受けてみろォォッ!!」
轟音。
剣が落ちる。
その刹那。
セリーヌが前に出た。
懐へ、幽霊のように滑り込む。
パァン!
手刀が手首を打つ。
カロリーヌの指から力が抜けた。
ダンッ!
掌底が、剣の鍔を真下から弾き上げた。
大剣が宙を舞う。
ドォンッ!!
セリーヌの両掌が、鉄槌のような重さで胸板を打った。
「がハッ……!?」
カロリーヌの身体が吹き飛ぶ。
靴底が床を削り、数メートル滑ってようやく止まった。
彼女が顔を上げると――。
セリーヌがそこに立っていた。
奪った大剣を、片手で肩に担いでいる。
「ここまでだ」
静かな宣告。
「「「ウオオオオオッ!!!」」」
妖狼族たちから歓声が爆発した。
「静まれ」
セリーヌが眉をひそめる。
「軍人が騒ぐな」
歓声が途絶えた。
セリーヌは大剣をくるりと回し、柄を差し出した。
「……なぜ、返す?」
カロリーヌが呆然と問う。
「お前は優れた騎士だ」
セリーヌは言った。
「この国が生まれ変わるには、お前のような人間が必要になる」
カロリーヌは震える手で剣を受け取った。
「……総帥閣下」
「ベレーラ陛下は……どうなる?」
空気が張り詰めた。
「彼女の罪は、グランディの民が裁く」
「その結果が、アルタナスの望む答えだ」
カロリーヌは目を閉じた。
「もし民が極刑を望めば? 侮辱的な見せしめを望めば?」
「ベレーラは一国の王だ」
セリーヌは静かに言った。
「……どのような判決であれ、辱めは受けさせない。最悪でも――斬首だ。一国の王に相応しい死を与える」
カロリーヌは長く息を吐いた。
目を開けたとき、その顔から重荷が消えていた。
「……それで、十分だ」
カロリーヌは背後の玉座を振り返った。
ベレーラがいる。
青ざめ、震え、涙を流している。
視線が交わる。
カロリーヌは微笑んだ。
穏やかな、全てを許すような笑顔だった。
ヒュンッ。
銀閃。
何の前触れもなく。
カロリーヌは、自らの喉を切り裂いた。
「――ッ!」
セリーヌが息を呑んだ。
疾風となって駆け寄り、崩れ落ちる身体を抱き止める。
「ケイン! スレイアを呼べ!」
血濡れの手が、セリーヌの袖を掴んだ。
カロリーヌが首を横に振る。
「……無駄、だ……」
その瞳は、澄んでいた。
「ひどい話だ……敵に、こんなこと……頼むなんて……」
「私は……無能だった……国が腐るのを……止められなかった……」
セリーヌは傷口を押さえる。
止まらない赤。
「なぜだ。なぜこんな馬鹿な真似を」
「あなたなら……この国を……救える……」
カロリーヌは最期の力を振り絞った。
「お願い……します……」
「ベレーラを……辱めないで……」
「綺麗なまま……終わらせて……」
セリーヌの指が白くなるほど握り締められた。
「……アルタナス連邦最高統帥の名において、誓う」
カロリーヌの表情が緩んだ。
安らかな顔だった。
視線が、玉座へ向かう。
ベレーラは立ち上がることもできず、泣き崩れている。
カロリーヌの唇が、音もなく動いた。
『さよなら……ベラちゃん』
『約束……守ったよ……』
腕が、力を失った。
セリーヌの袖から滑り落ちる。
そして――。
「カロリーヌゥゥゥッ――!!!」
ベレーラの慟哭が、王宮を引き裂いた……
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