・第八話
その日、友津は悪夢を見た。
忘れもしない、あの日の夢だ。好きな男の子に騙され、嘘のデートに呼ばれ……
いつまで経っても来ない彼。
やがてやって来たのは、いつも自分をいじめる女子達。
馬鹿にして笑う声。
その中には自分が好きだったあの彼も含まれている。
腕を捕まれて、誰も来ない路地裏に引きずられていく感覚。
そして最後には……
最後には……
「っ!!」
悲鳴を上げそうになり、友津は目を開けた。
がばっと布団の上に跳ね起きる。
視界が、ぼんやりと定まらない。
意識がぼんやりとしている。全身にひどく汗をかいていた。
ぎゅっ、とパジャマの胸元を握りしめる。
いつもこうだ。
こうして……あの時のトラウマを夢に見る。そして嫌な目覚めを迎える。この夢を見た日は、いつも寝られない。そのまま朝まで……
朝まで、ずっと起きているしか……
「お母さん」
声がする。
静かな。
それでいて優しい声。
友津はそちらを見る。
少年が……
あの少年が、こちらを見ていた。
友津はぎりっ、と歯ぎしりする。
「……お母さんじゃないって、言ったでしょう?」
友津は冷たい口調で言う。
「……いい加減にしてよ、貴方」
友津は言う。ふらふらと立ち上がる。
「出かけてくるわ」
もう嫌だ。
いつまでも消えない過去のトラウマ。
誰からも愛されない人生。
自分の事を、本当に考えてくれる人間なんか……何処にもいない。
あの夢を見た後は、いつもこういう気分になる。
今日はなんだか、いつもよりも気分が昏い。きっと……
きっと心が、悲鳴を上げているのだろう。もう限界を訴えているのだ。
こんな毎日に。
こんな人生に。
こんな生活に。
終わらせたい。
急に、強くそう思った。
そのまま乱暴にパジャマを脱ぎ捨てる、少年がこちらを見ていたが構うものか、他人に裸を見られる事なんて、もう慣れている。
ははは……と。
友津は自虐めいた笑い声をあげた。
さあ行こう。何処に行くか、当てはまだ無いが……
とにかく……
早く、この部屋を出るんだ。
あの得体の知れない少年と、同じ空間になんかいたくは無い。
適当に服を着て、ふらふらと部屋を出る。少年が背後で何か言っていたのが聞こえたけれど、友津は何も言わなかった。
荒々しく部屋を出て、ふらふらと歩く。
いつもならアパートの近くで夜風にでもあたるか、コンビニにでも行くのだけれど…… 何だか今日は、どちらもしたくない。目的も無く、ただふらふらと歩き出す。
身体が重い。
頭もぼんやりとしていて、何だか視界も定まらない、めまいがして上手く歩けない。酷く頭を振り回した後みたいだ。それなのに足だけは、自分の意志とは無関係に何処かへ向かって歩いて行くような感覚……
だが、何だかどうでも良かった。とにかくこのまま進んで行けば全てから解放される。
楽になれる。
無駄な人生を終わらせられる。
そんな気がして……友津はゆっくりとした足取りで歩いていた。
早く……
早く、終わらせよう。
何もかもが……
この先に進めば……
終わるんだ。
その考えを、裏付けるかの様に。
『こっちだよ』
声がする。甲高い、聞き覚えがあるような……無いような女の子の声。




