表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/11

・第七話

 ようやく一日の仕事が終わり、友津は大きくモニターの前で伸びをした。

 早く帰るとしよう、椅子から立ち上がり、友津はそこで目を閉じる。家に帰れば、あの少年が……だがここにいても。

「せんぱいー!!」

 後ろから脳天気な声がする。

「飲みにでも行きましょうよー」

 楽しそうな声。佐恵だ。

「……悪いけど、今日はダメなの」

 友津はそれだけ言って、ゆっくりとした足取りで歩き出す。あの不気味な少年と家で過ごすか、あるいはあの底抜けに明るい佐恵と飲みに行くか……どちらも正直好まないが、それでもまだ……

 まだ家に帰る方がマシだろう。

 友津はふらふらとした足取りで会社を出て行く。


 すっかり日が落ち、宵闇に包まれた街を歩き、ようやく自宅アパートが見えてくる。

 いつもなら安心できるのに……

 今日は、気が重くなるばかりだ。しかも家からは微かに明かりが漏れている。恐らくあの少年は部屋の中にいるのだろう、友津はふらつく足取りで自室に向かう。

 扉のノブに手をかけ、ゆっくりと開ける……

「お帰りなさい」

 のんびりとした優しい声が、部屋の中から聞こえた。

「……っ」

 友津は、びくっ、と身体を震わせる。

 今……

 今、なんと言われた?

「どうかしましたか?」

 声が言う。あの少年だ。何をするでも無く、部屋の隅の方に座っている。

「……いえ、何でも無いわ」

 友津は軽く頭を振り、家の中に入る。

「……ただいま」

 小さい声で、ぼそりと挨拶をする。

 こんな風に……

 誰かに、ちゃんと『ただいま』を言ったのは……

 一体、いつ以来の事だったろう?

 解らない。

 否。

 自分は今までずっと……誰かにそんな事を言われた事も、言った事だって……

 友津はそれだけで、少年に感謝したい気分だった。だけど……

 だけどまだ……

 この少年に、心を許した訳じゃない。


 ややあって……詰め込むだけの夕食を終え、洗うだけの風呂に入れば適当に眠るだけだ。

 四畳の和室に布団を敷いて眠るだけ。明日の仕事もあるし、早く眠るとしよう。

 だがその前に、どうしても確認しなければいけない事がある。友津は黙って少年と向き合っていた。

「貴方……」

 じっと少年を見る。五歳か六歳か、それくらいの年齢だと思われる男の子。

 特徴の無い平凡な顔立ち、何処かで見たような服を、ただ身にまとっているだけという風貌、決して汚れているわけでもないし、何処かが破れているというわけでも無い。

 だが……

 否。

 だからこそ、なおさら気味が悪かった。そもそも一体この子は……

 この子はどうして……?


「そろそろ、話して貰えないかしら?」


 友津は少年に問いかける。

「貴方はどうして、私の家に来たの?」

「それは教えられません」

 少年の返答はにべもなかった。

「僕は、あの人に言われてお母さんの近くにいるだけです」

「私は貴方のお母さんじゃ無いわ」

 友津が言うと、少年は頷く。

「怪しまれずにすむ為には、とりあえずそう呼ぶ方が正しいと思ったもので」

「……そもそも」

 友津は言う。

「あの人は、何なの?」

 その問いにも少年は何も言わない。無言のままで、ただ黙って座っていた。

 友津はため息をつく。これでは会話が進まない。

「何度も言いますが」

 少年が言う。

「……僕は三日後に貴方の前からいなくなります、それまであまり騒がずにただ……」

「ただ、待っていれば良い、と?」

 友津は問いかける。

「はい」

 少年は頷く。

 友津はため息をついた。

「解ったわよ……だけどせめて、名前くらいは教えて貰えないのかしら?」

 友津が問いかけると、少年は軽く俯いた。

「僕には……名前なんかありません」

 少年は、小さい声でそう呟いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ