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・最終話

 コンビニの袋を持った女性と一緒に歩いて行く友津を、少年は無言で見守っていた。

 既に彼女には、自分の姿は見えないだろう。

 もともと……

 『あちら』側の人間は、自分の姿を認識する事は出来ないのだ。

 少年は、小さく笑っていた。


「……今回は、これで終わりかな?」


 少年は、後ろにいる女性に問いかける。


「ええ、上出来よ」

 女性は言いながら、ゆっくりと背後を振り返る。あの黒い影が、再び動き出していた。

「やれやれ」

 女性は呆れた様に言いながら、そちらに近づいて行く。そのまま路地の前に立ち、伸びている手をがっ、と掴み、乱暴に暗闇の中から影を引きずり出した。

 女性がそのまま、影をぐしゃりと握りつぶす。


「薄汚い死者達の残滓が、いつまでも生者に縋るものじゃないわ」


 女性が冷ややかに言う。

 呻き声がする。

 もし友津がその場にいれば、その声がかつて……

 かつて、自分を騙したあの男子生徒や、自分を虐めていた相手だと気づいただろう。

 だが友津は、この場にもういない。


「……貴方達は、死んだ」


 女性が淡々とした口調で言う。

「あの子を騙し、他でも同じ事を繰り返した、そんな事をしている貴方達の姿を、ちゃんと大勢の人達が見ていた」

 女性は告げた。

「そんな貴方達を雇う会社も無ければ、受け入れる大学も無い、貴方達は結局質の悪い連中とつるんで、そのまま裏社会に入って警察に捕まった」

 女性の冷たい口調が続ける。

「……出所後、いよいよ貴方達はお金も稼げずに、ある者は餓死、ある者はまた再び裏の世界に入って、他の連中との争いに巻き込まれて、みんな死んだの」

 呻き声が大きくなる。自分の死を否定するかのような声。だが女性は躊躇いを見せずに、まだ動く影を勢いよく握り潰した。

「貴方達の行きつく先は、暗い闇の中だけよ」

 女性は冷たく言い放つ。


 少年はそれを最後まで見届ける事無く、黙って彼女の……

 友津が去って行った方を見ていた。

「もう、貴方に僕や彼女は必要ありませんね」

 少年は軽く笑う。

「後は早く……」

 少年は、ゆっくりと……

 ゆっくりと、手を伸ばす。

「早く元気に、『生んで』貰うだけですよ」

 少年は笑って言う。


「貴方ねー」


 女性の呆れた声。

「貴方が、あの子の『子供』として生まれ変われるかどうかは、解らないわよ?」


 少年は笑う。

 かつての自分は……酷い両親の下で生まれ、そして殺された。

 魂だけの存在となって、初めて認識出来たのが『彼女』、友津だった。

 どうしてなのかは解らない。だけど自分と彼女は魂で……繋がっている。

 きっと彼女が子供を産んだら自分は……

 自分は、あの人の子供になるのだろう。何だかそんな風に感じた。だけど彼女、友津の周りには沢山の不吉な黒い影が蠢いていた。

 否。

 この街には……

 この世界全てに、沢山の悪意に満ちた黒い影が……先ほどあの女性が握りつぶしていた者達と同じ様な者達が蠢いていた。どうせ生まれ変わるまで、自分はこの世界を彷徨い歩くしか無いのだ。だったら……

 いつか自分の事を生んでくれるまで、この世の中から、あの黒い影を排除しよう。

 そんな風に考えていた時。近くにいるこの女性に出会った。黒い影を叩き潰す彼女に。

 だから、彼女と一緒に行きたいと訴えた。黒い影を潰す為に、そして世界から全ての、ああいう黒い影を潰した後で……

 彼女の子供として、また会いに行こう。

 そう思って、少年は彼女に着いていく事にした。


 例え……

 今はあの人の側にいられ無いとしても。

「いつかまた、会いに行きますからね」

 少年は、友津の背中に向かって呼びかけた。

「お母さん」



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