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居候従兄妹と株取引の青春ラブコメ  作者: まるせい


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第五話

 ◆竜也視点◆


 あれから僕らは無事帰宅した。


 それにしても先程の光景を思いだす。

 茉莉花さんにしろ、陽菜さんにしろモテるのだな。


 僕は生でナンパされているのを始めてみた。

 とはいっても無理も無い。


 中学時代に三日に一度は告白されていた茉莉花さん。そんな茉莉花さんとは別ベクトルの美少女の陽菜さん。


 そんな二人がセットで座っているのだ。ナンパ程度は当たり前。下手すりゃ誘拐事件にでも発展するよ。


 帰り際に茉莉花さんから「今日は助かっちゃった。流れで竜也君って呼んじゃったからそのまんまでいいよね。変わりに私の事は名前で呼んでいいからさ」などと頼まれもしないのに許可を卸され。


 それを聞いていた陽菜さんが。「あっ。ずるいです。私は竜也さんって呼んでいるので私の事も名前でお願いします」と押し切ってきたのだ。


 女の子二人に名前で呼んで欲しいと言われるなんて……現実ではありえない光景だ。僕はもしかすると既に死んでいるんじゃ無いだろうか?


 そんな事を考えつつまどろみながらスマホを弄っている。

 今日の出来事について友人と会話をしていたのだが…………。


 コンコン


 ドアがノックされる。

 今日何度目になるのだろうか?


 家族はわざわざ許可なんて取らずに入ってくるので陽菜さんだろう。


 先程。と言っても1時間程前になるが、風呂を沸かしたので彼女は風呂へと向かった。

 恐らく風呂が空いたと伝えに来てくれたのだろう。それにしても女の風呂は長い。

 僕ならものの数分で出てこられるのに……。


 僕はタンスから着替えを取り出すとドアを開けた。


「竜也さん。お風呂お先失礼しました」


「ぶふぉー!」


 僕は思わず二度見した。

 急いであがったせいか髪から滴る雫。上気した頬。そしてピンクのパジャマ。


 暑いせいなのか、胸元のボタンが二つはずされてその未発達な胸が見えそうになっている。僕は自然と吸い寄せられるように顔が移動する。


「どうしたのですか竜也さん。まるで野生のゾウみたいな鳴き声を上げて」


 君は野生のゾウの鳴き声を聞いたことがあるのでしょうか?


「や。別に……僕も風呂入ろうかな」


 まだ気付かれて居ない。僕は視線をそわそわさせながらもそれに気付いてしまう。

 パジャマの上から胸が見える。だが、肝心の女性の胸を保護するあれの肩紐が見えないのだ。


 もしかしてノーブラ?


「私は熱いお湯が好きなので熱めになっています。もし入れないようなら少し水を足してくださいね」


「馬鹿やろうっ! 江戸っ子は熱い風呂が好きなんでぇっ! 丁度いいにきまってらぁ!」


 思わず意味不明な返しをしてしまった僕。そもそも江戸っ子ですら無い。


「そうですか。竜也さんも熱いお湯が好きなんですね。私達気があいますね」


 明らかに風呂のせいではない程に赤くなる陽菜さん。鎖骨を伝う汗が妙に色っぽい。

 このままではよからぬ感情が溢れてしまいそうになった僕は。


「それじゃあ僕は風呂に行くね」


 焦り声を出すと階段を降りて行った。


「あっ。竜也さん」


「なに?」


 呼び止められて振り返る。そしたら陽菜さんが。


「私のパジャマ。そんなに気になりますか?」


 そう言って恥ずかしそうな顔を向ける。


 ごめんなさい。悪気は無いんです。だけど思春期の男の子なんで目が言ってしまう事は仕方無いので許してください。


 僕は質問に答えずに階段を駆け下りると冷水シャワーを頭から被って雑念を振り払った。


 色即是空。色即是空……煩悩よ立ち去れーー。




「結構本を読まれるのですねー」


 感心した様子で本棚を一つ一つ見ていく。格好は相変わらずパジャマのままだ。

 これから寝ることを考えるのならその姿は別に不自然ではない。


「まあね。時間潰しにもなるし」


「『良くわかる証券取引』『サルでもわかる株式市場』『実践。プロが示す指数取引』『有価証券の100の名言』見事なまでに株関連ばかりです」


 他にも建築関係や、財務なんかの本もあるのだが、スライド式なので見えていない。


「言ってなかったけど、僕は株取引をしてるんだ」


 あまりおおっぴらに言うような事ではないが暫く一緒に暮らすのだ。身内という事で話してしまってもいいだろう。


「中学生で株ですか。竜也さんは凄いです」


「そんな事は無いよ。今時は結構やってる子供も多いみたいだし」


 これは謙遜ではない。僕も周囲から見れば凄いのかもしれないが、あいつには数段劣る。自分より優れている人間が存在する時点で手放しで喜べない。


「いつからやってるんですか?」


「中学1年の頃からかな? お年玉とかを初期資金にしてね」


「株ってお金儲けですよね? 儲かるんですか?」


「んー。そこそこかな?」


 本音を言うとそこそこじゃないけどね。折角興味を持ってくれてるようだけど、こればかりは素直に話すつもりは無かった。


 陽菜さんは書棚から本を抜き取るとベッドに腰掛けてその本を読み始めた。一ページずつ内容を読んでいく。その姿は真剣だ。


「えっと……陽菜さん?」


「はい。なんでしょうか?」


「もしよかったらその本貸してあげるよ。部屋に戻って読んだらどうかな?」


 先程から言いたくて言えなかった言葉を僕は口にした。

 夜更けに若い男女が閉ざされた部屋に篭るのは宜しくない。僕は紳士だから理性が働くが、世間の風体というものがあるのだ。


 よって、これは自分の為ではなく、陽菜さんが快適に過ごす為の提案だ。


「解らない場所があったら教えて欲しいのですが…………駄目でしょうか?」


 本を抱え込むようにして口元を隠す。その視線は断られる不安に押しつぶされそうに揺れていた。


「かまへんよ」


 思わず変な方言がでた。なんなんだろうか?

 彼女の表情は破壊力が高すぎる。戦場に投入したら、敵も味方もハッピーになって肩を抱き合って歌いだすレベルじゃ無いだろうか?

 可愛いは正義。可愛いは国境を越える。


「ありがとうございます」


 そう言って陽菜さんは僕のベッドへと潜りこむ。どうしよう。このままじゃ僕の寝床が美少女によって侵略されている件ってタイトルでラノベが書けるよ。

 それともあれだろうか? 僕は今すぐプライドを投げ捨ててベッドに向かってルパンダイブをすべきか?


 僕がそんな高い位置までジャンプしつつ服を脱ぎ捨てられるか真剣に検討をしていると。


「竜也さん。『現物買』ってなんですか?」


 彼女から本の内容について説明を求められた。


「それは株取引の形式の一つだね。株取引には証券を所有する『現物取引』と証券を所有しない『信用取引』があるんだ」


 現物とは実際に用意した資金を元手に本物の株式を購入する取引の事だ。

 信用とは実際に用意した資金にレバレッジ(証拠金に倍率を掛ける)する事で実際の資金以上の金額で取引をする事が出来るのだ。


「なるほど。奥が深いですね」


 実際。レバレッジのせいで株価が暴落して追徴金を求められるパターンも多い。僕は怖いので基本的には現物のみに留めている。


 チラリと彼女の方を見る。 


 陽菜さんは枕を胸に抱きながら本を読んでいる。僕は枕を羨ましく思いながらも無関心の振りをしてモニターを見つめる。


 普段なら趣味のサイトを開いたりするのだが、今日に限ってはそれもできない。

 別にエッチなサイトを見ているわけではないが、趣味のサイトを見るのは自分の人間性を余す事無く相手に見られるという事。


 これが友人のあいつなら構わない。むしろ見せ付けてやる。だが、今日であったばかりの少女に対してはどうしても気が引ける。


 暫くの間ページを捲る音とマウスをクリックする音だけが部屋に響く。

 僕は次第にサイトの閲覧に集中していき――。


「ん? ページを捲る音がしないぞ?」


 僕が違和感を感じつつ椅子を回転させると。


「すーすーすー」


 僕の布団に白雪姫が横たわっていた。


「ちょっとちょっとちょっとーー!」


 僕の声を聞いて一瞬眉をしかめるが、すぐに幸せそうな顔に戻ると規則正しい寝息をたてる。


「陽菜さん。そこで寝ないで。寝るのなら自分の部屋に戻って!」


「ふぇっ?」


 幸いな事に僕の大声で彼女は目を開けてくれた。


「すいません。なんだか懐かしい匂いがして眠くなってしまったので……」


 そう言って枕に顔を埋める。

 やめてください。思春期の男の子がいるんですよ!


 意識しちゃうじゃないですか!


「とっ、とにかくっ! 寝るなら部屋に戻ってね。僕もそんなに長い間は起きていないので」


「そうですね。夜分遅くまで申し訳ありません。旅の疲れが出たようなのでお先に休ませて頂きます」


 そう言って彼女がベッドから立ち上がり部屋を出て行く。

 隣の部屋のドアが開いて閉まる音が聞こえる。僕は聞き耳を立ててもう大丈夫だと判断するとそろそろと足音を殺してベッドへとダイブした。


 やはり自分以外の匂いがつくというのは違和感がある。特に布団に関しては彼女が倒れこんでいたのでほんのりと暖かさが残ってる。

 僕が陽菜さんの残る温もりを感じていると――。


 コンコンッ


「竜也さーん」


「ひゃあああああああああああ」


 突然の声に僕は大きな声を上げた。


「えっ? 大丈夫ですか? 入ってもいいですか?」


「だだだだ、大丈夫だからっ! 今のは寝る前の発声練習なんだよ。ほら僕は高校で演劇部を目指してるからっ!」


「そうだったんですか。流石です」


「そっ、それよりどうかしたのかな?」


「寝ぼけて枕を持ち出してしまったので返しにきたんです」


 ドアを開けると彼女が両手で枕を抱きしめていた。


「ああ。ありがとう」


「いえいえこちらこそすいません」


 そう言って彼女から枕を受け取った。


「そういえば先程は言い忘れてましたね」


 彼女はふと何かを考え付くと、僕に顔を近づけてくる。

 ふわりとシャンプーの香りが漂ってきた。


「おやすみなさい。また明日もよろしくお願いしますね」


 両親が寝静まっている事を気遣ったのか? 控えめな声で呟いた。


「うん。おやすみ」


 彼女の穢れ無き笑顔をみた僕はドアを閉じると枕に顔を埋めて一気に吸い込んだ。

 確かに落ち着く。幼い頃に嗅いだ匂いだからなのかリラックスしすぎて意識を持っていかれてしまいそうだ。


 僕は枕を所定の位置に戻すと机に向かった。まだまだ夜はこれからだ。寝るわけには行かない。


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