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居候従兄妹と株取引の青春ラブコメ  作者: まるせい


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第三話

 ちょっとしたトラブルはあったものの無事に買い物を終えた僕は店の外に出た。

 すると、既に買い物を終えていたのか、天川さんが電柱にもたれかかってスマホを弄っていた。


「もう買い終わってたんだ? 待たせてごめんね」


 僕が声を掛けるとスマホから顔を離した。


「……別にいくらでも待ちます。竜也さんは私の事なんて気にせずにイチャイチャしてれば良いと思います」


「もしかしなくても見てた?」


 僕が彼女と行動を別にしたのがこれだった。

 ここは地元のショッピングモール。いざ知り合いに遭遇した時に妙な勘繰りを避ける為だ。


 僕みたいなヒキニートなもやしの外見の人間がこんな美少女を連れて歩いていたら嫉妬や反感を買う事になるだろう。

 敵はなるべく作りたくないからね。


「そんな事より何を調べてるの?」


 僕は話題の転換を図った。


「私の名前が何かの原料になって無いかと思って……」


「それは多分無いだろうと思うよ」


 確か……「陽菜」だよな。あえて言うなら菜っ葉の菜だが、それは野菜である。

 それでも天川さんはスマホと険しい顔でにらめっこ。やがて諦めたのかスマホを閉じると溜息を吐いた。


「はぁ。見つからなかったです」


 そりゃそうでしょうね。


「仕方ないので竜也さん。『陽菜大好き。陽菜愛してる』と叫んでください」


「はぁっ!? 何で僕がそんな事をっ!?」


「ずるいじゃないですかっ! 生まれ持った名前で優遇されるなんてっ! 私も原材料の名前が欲しかったですっ!」


「それ両親に言ってよ! そもそも名前をつけるときにそこまで考えてつける人なんて居ないからねっ!」


「そんな事無いです。竜也さんの名前も料理にあるじゃないですか?」


「初耳なんだけどっ!?」


「ほら有名な竜也揚げとか」


 何それ怖い。僕の頭の中で箸でつままれて卵と片栗粉につけられ油に落とされる自分が浮かんだ。


「とにかく。一回だけ。ちょっとだけでいいんです」


 必死な様子でスマホの録音機能をチラつかせてくる天川さん。その上目遣いは反則だよ。


「こんな公共の場でそんな恥ずかしい事言えるかっ! 僕は家に帰るぞっ!」


 後から追いすがる天川さんの抗議を振り切りながら僕は歩き出した。

 身体が暑く汗が噴出していたのは滅多にしない運動をしたからだと断言しておく。





「それで。何が食べたい?」


 道を歩きながら僕は天川さんに好みを聞いてみる。


「私ですか? 竜也さんが食べたいものなら何でもいいです」


「それが一番困るんだよな……」


 女性を食事に誘うときの作法の中で最も面倒くさい解答だ。これをされると男としては自分を試されている事になる。

 言い換えれば「あなたは私を何処にエスコートしてくださいますか?」という意味だ。


 その男がどれだけお洒落な店を知っているのか試しているのだ。


 とはいえ、僕はそこらの有象無象と違う。こういった場数はそれなりに踏んでいるのだ。


「雰囲気の良いイタリアンか本場アメリカの料理を出すハンバーグ店だとどっちが良い?」


 これが僕がとる手段だ。単純に店の名前を上げていけば「パスタはこの前食べたから。ハンバーグは重たそう」などと不満を口にするのが女性の特徴。(偏見)

 だから予め選択肢を与えてやる事でそういった不満に意識を向けさせない。もてる男が自然と女性に対して行うテクニックの一つだ。


 僕はこれをもて男のサイトで知った。何故そんなサイトを見ていたかについては永久に秘密なのである。


 天川さんは口元に手を当てて考える。長いな……。


「駄目なら他の候補もあるよ?」


 これでピンと来ないなら仕方ない。他の店はいくらでもあるのだから。


「いえ。ちょっと気になったもので」


 僕は首を傾げる。


「イタリア料理はイタリアンじゃないですか?」


「そうだね」


「じゃあアメリカ料理はアメリカンなのかなって……」


 それだとお湯で薄めた珈琲なんだけど。


「変な事気にするね」


 そういわれると聞いた事が無い。実際僕も無意識の内にアメリカ料理と口にした。


「それで結局どっち?」


「…………アメリカ料理で」


 一瞬僕の顔色を伺って天川さんはそう答えた。




 暫く歩いていくと目標の店が見えてきたので僕らは連れ立って入店する。

 店員さんの案内に従ってテーブルに着くとすぐにお冷が運ばれてきた。


「うーん。どれにしようかな?」


 僕はメニューを片手に考えこむ。

 やはりここはステーキだろうか。それともハンバーグ?


 いずれにしても付け合せのポテトは外せないな。


 色とりどりのメニューが僕を誘惑して止まない。どうしてこうも惑わされるのだろう?

 こんな時無限の胃袋があればと嘆かずには居られない。


「天川さんは何にするの?」


 自分が簡単に決められないので僕は天川さんに聞いてみる。もしかするともう決まってるのかもしれない。


「私はまだ決まってないです。こういう所にあまり来ないので目移りしてしまって」


 うんうん。わかるよその気持ち。僕は思わぬ同士の存在に嬉しくなってくる。

 以前、一緒に入った友人はメニューを一瞥するなり決めてしまい、焦った僕はプレッシャーが掛かる中、適当に選んでしまって後悔した事がある。


「中々決められなくて申し訳ありません。もし宜しければ先に注文してくださっても……」


 心の底から申し訳なさそうな声をだす。そんな彼女に対して僕は。


「いいのいいの。こうして選ぶ時間も楽しみの一つだからさ。天川さんも僕の事は気にしないでゆっくり考えてよ」


 そんなこんなで二人揃って時間を掛けてメニューを選ぶのだった。





「ごちそうさまでした」


 皿の上にフォークとナイフを置いた天川さんは礼儀正しく手を合わせるとお辞儀をした。

 そういった部分に育ちの良さが出ているようで、僕とは大違いだ。


「食後の飲み物持ってきてもらおうか」


 店員さんを呼び出して食後の珈琲を注文する。こういう店で食後に飲む珈琲はなんというか格別なんだよね。


 美味しかった料理の余韻に僕が浸っていると。


「本当に美味しそうに食べるんですね」


 食べるより観察していた彼女がそう口を開いた。


「あっ。ごめん。見苦しかったかな?」


 女の子の前で大口を開いてステーキを頬張ったりがっついた姿を見せてしまった。

 普段共に行動している相方が気にしないタイプだったので遠慮がなさすぎだったろうか?


「いいえ。見ていて気持ちよい食べっぷりで。男の子なんだなーって思いました」


 そんな感想言わなくても僕は元々男の子なんだけどね……。

 そんな事より折角こうして向かい合っているのだしちょっと突っ込んだ事を聞いてみるとしよう。


 そもそもの話変なのだ。今は春休み。高校入学を目前に控えた僕らが最も希望に胸をたぎらせて生活を送る時期だ。

 そんな時期に泊まりに来るのだから訳ありに決まっている。


 僕はチラリと彼女の容姿を盗み見る。

 やはり何度見ても美少女である。今日遭遇した二階堂さんも美少女だったが、あっちは『健康的な』とか『明るい』が前につく美少女だとすると、天川さんは『儚げ』とか『おとなしそうな』がつく美少女。


 タイプが違うから比較は出来ないがどちらも男を虜にしてやまない事だろう。そう。美少女に貴賎は無いのだ。タイプが違えば選ぶことは適わず。


 そうすると……男絡みだろうか?

 地元の中学を卒業するタイミングで色んな男に告白された。それで何度断ってもストーカーの如く付きまとわれるので嫌気がさした天川さんと両親が避難させる為に親戚である家を頼った。


 ……うん。無いな。説得力があるが、その場合僕に対する態度が疑問だ。

 従兄とはいえ、僕だって異性だ。これだけの美少女なら当然惚れてしまう可能性は高い訳だし、そうなれば誰も居ない家に二人きりという状況が逆に逃げ場の無い檻になりかねない。


 だから恐らく別な事情だろう。


 そういえば二階堂さんも良く僕に言ってきてたしな。「毎日告白されて本当に大変。私は皆と仲良くしたいけどそういうのはちょっと……」って。

 あれだけフェロモン出しておきながらよく言うとは心の中で思った。


 特に破壊力絶大なあの胸。先程、美少女に貴賎は無いと言った僕だったが比較はある。

 このぐらいの年の男の子なら一にも二にも胸に目が行くのが当然。僕は天川さんの今後の成長に期待すると共に現状に合唱するのだった。


「何か失礼な事考えておりませんか?」


「いや。世界経済について憂いて居たところです」


 僕の邪な視線がそうさせたのか、天川さんの不審な視線が突き刺さる。うん。やはり先程の僕の仮説は間違っていた。

 ならばもっと聞きやすい内容を話してみるとしよう。


「そういえば天川さんって彼氏居るの?」


「ごふっ!」


 僕の問いかけに彼女は珈琲を噴出した。


「ほら。慌てて飲むからそういう事に……」


 ポケットからハンカチを取り出すと僕は彼女の口元へと持っていく。


「ありがとうございまし……ってそうじゃないです。いきなり何を聞くんですかっ!」


 目に涙を浮かべる天川さん。とても苦しそうだ。あれは間違いなく器官に入ったな。


「いやさ。折角の春休みだというのにわざわざ何の観光地も無いこんな所に泊まりにきてるからちょっと気になってさ」


 女の子の好きなのは恋バナと相場が決まっている。最も僕に対してその手の話題はタブーなのか振ってくる女子は皆無だったが。


「それは…………竜也さんには関係ない話ですから」


 そうですか……。僕みたいなボッチには語る必要性を感じないですか。仕方ないので僕はすっかり温くなった珈琲を飲み干す。ミルクすら入れていないそれはとても苦い味がした。


 夕食が終わり、会計を済ませた僕らはレストランの外に出た。

 今日は一日色々あって疲れたので家に戻ったら明日のネタを仕入れて寛ごうと考えていると。


「あれ? 峰岸君。さっきぶりだね」


 気がつけば後ろに二階堂さんが立っていた。


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