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居候従兄妹と株取引の青春ラブコメ  作者: まるせい


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20/22

第十九話

 ◆三人称視点◆


「えっ?」


 お風呂場に陽菜の乾いた声が響き渡った。

 その声は他に来客がいない大浴場に広がり、そして消えていく。


 しばしの静寂。お湯の流れる音だけが支配する中、陽菜の鼓動は激しくなった。


「竜也さんが……茉莉花さん……を?」


 混乱した陽菜の口から言葉が漏れる。


「あはは。違うよ。#私が__・__#竜也君を好きなんだよ」


 もう一度はっきりと言っている。冗談は抜きで話そうと。


「正直こんな話突然されても困るよね?」


 幾分砕けた表情。陽菜はその事に一瞬気を抜いてしまう。


「だから解るんだよ。竜也君は陽菜ちゃんに惹かれているって」


 そんな彼女の隙を突いたのは予想外の一言だった。




「竜也さんが……私をですか?」


 陽菜は戸惑いを顕にした。


「うん。私はそう思ってるよ」


 茉莉花は神妙に頷く。何せ二年半も竜也の事を見てきたのだ。


「私は。竜也君のあんな顔見たこと無いもん」


 それは同居初日。茉莉花は街で歩いている竜也を見かけた。

 その時、茉莉花は好きな人に合えた偶然に心臓を高鳴らせながら声をかけようとした。


 だが、その隣には陽菜が居たのだ。

 楽しげな様子で会話をする二人。それがドラッグストアに消えていくのを茉莉花は黙ってみていた。


「そうなんでしょうか? ごく普通の男の子らしい態度だと思いますけど」


 陽菜は首を傾げる。

 同級生の男子達に比べると視線が柔らかいのは認める。


 だけど、時折胸や顔に感じる視線に熱があるように感じてはいるのだ。


「うん。それはないよ。なにせ私が誘惑しても一切乗ってこなかったもん。他の男子ならイチコロなんだけどなぁ」


 そう言って茉莉花は悩ましげに自分の胸を持ち上げてみせる。


 陽菜はその言葉に納得してしまうのを感じた。


「あーでも。確かに他の男の子とは全然違いますよね」


 同級生達が胸や下半身を見るときの視線に比べたら竜也のそれは可愛かった。

 見てはいけないけど惹き付けられて見てしまう。そんな罪悪感があるのか、とにかくこっちが恥ずかしくなるような挙動をするので不快感はあまり湧かない。


「うんうん。時折見せる恥ずかしそうな顔とか最高だよね」


「わかりますわかります。もっとその顔を見ていたくて私もつい……」


 会話は竜也の普段の言動になり盛り上がりを見せようとするが。


「つい?」


 茉莉花の目の色が変わった。


「あっ……えっと…………ですね。む。胸を…………触らせちゃったり…………」


 顔を真っ赤にして夕べの事を思い出す。


「はっ! えっ? もうそんなところまでっ! 私だって触られた事無いのにっ! どうしてそうなったのっ!」


 茉莉花が勢い良く立ち上がると水飛沫が陽菜の顔にかかり、その豊満なおっぱいが揺れ動く。


「えっと。元同級生のストーカーが……」


 これは話さなければ納得してくれないと感じた陽菜は正直に昨日あった事を話すことにした。




「なるほど。ストーカーに狙われてるんだ…………」


「はい」


 それで不安になったからといって誤魔かす陽菜だったが、茉莉花も気付いている。

 そんな状況で胸を触らせるのは一定の好意があるからに違いない。


「それって竜也君に話したの?」


 茉莉花の表情は真剣だ。真剣に陽菜の身を案じている。自身が似たような体験をしているだけあって他人事ではない。


「いいえ。話してもどうしようもない事ですし。彼に迷惑かけられませんから」


 元々は二週間の避難生活だったのだ。これから先はあの男と同じ高校に通わなければならない。

 竜也の事は正直気になっている。だけどそれだけ。


 恐らくは高校入学と同時に疎遠になってしまえば忘れてしまうだろう。

 そんな塞ぎこむ陽菜を見ていると茉莉花は。


「はぁ。敵に塩を送るのは嫌だけど……。言わないと竜也君の好感度が下がる事も……。でも一緒に暮らしてる分陽菜ちゃんの方が有利だし…………」


 何やらぶつぶつ言う茉莉花をよそに。


「茉莉花さん?」


 透明な視線を向けられた茉莉花。


「仕方ない。それ竜也君に相談しなさい」


「えっ? でも…………」


「言わんとしてる事はわかるよ。『中学生の手に余る』『迷惑掛けたくない』『自分の問題』でもね。彼は普通の男の子じゃないから」


「それってどういう事でしょうか?」


「彼が株をやっているの知ってるよね?」


「はい。初日から日中は部屋から出てきませんから。凄い集中力ですよね。夜も本を読んだりしてて勉強熱心ですし」


「じゃあ彼がいくら稼いでるか知ってる?」


「いいえ? 見ている限りだと、普通の子供が持つには多すぎる金額な気がしますけど」


 優待券を大量に持っていて、それで陽菜を外に連れ出してくれた記憶は新しい。


「本当はこれ。誰にも言わないように言われてたし、変な色眼鏡で彼を見られるの嫌だから内緒にしてたんだけどさ……」


 内緒にしてと茉莉花から念押しされると陽菜は頷いた。


「彼の総資産は100億超えてるんだよ」




「それで……何の話だったかな?」


 額から汗を噴出しながらも屈伸などの軽い柔軟運動を行いながら茉莉花は話の続きをした。


「ですからっ! 竜也さんの総資産の話ですよっ!」


 もっとも。軽い柔軟と言っても、ここの温度計は70度の数値を示している。

 あれから、話す内容の秘匿性が高まったと感じた陽菜達は場所を誰も来ないサウナへと移したのだ。


「ああ。そうだったね…………。ところで陽菜ちゃん。おっぱいはどのぐらい揉まれたの? 竜也君の事だから触れたら赤面しちゃったと思うんだけど、じっくりは揉まれて無いよね?」


 そういいつつ自分のバストを弄る茉莉花。日頃からのマッサージがこの大きさの秘訣なのではないかと陽菜は考えた。


「一瞬だけですからっ! 話をはぐらかさないでくださいよっ!」


「にゃはは。ごめんね。お詫びにおっぱいが大きくなるように揉んであげるからさ」


 そう言って背後から抱きつくと茉莉花はバスタオル越しに陽菜の胸を揉みしだいた。


「何を……あっ。やぁ……変な所触らないで…………あんっ」


 暑さのせいで思考力が奪われ呼吸が荒い。次第に抵抗が弱くなった陽菜。

 そんな陽菜の様子を見ていた茉莉花は……。


「これ以上は妙な趣味に目覚めそうだから止めとくね。それにしてもこの破壊力は卑怯だよ」


「えっ……?」


 全身をクタリと背もたれに預ける陽菜。その姿はとても男性諸君に見せられるものではなかった。


「それで。話がそれたけど竜也君の資産の話だったよね」


「むしろそらしたのは茉莉花さんですけど」


 警戒をしながら茉莉花を睨みつける陽菜。


「あははは。ごめんね。陽菜ちゃんが可愛くてついね……うん。ストーカー君の気持ちがわかっちゃったよ」


 そこは理解しないで欲しいんですけど。


「それで彼の現在の状況についてだったよね。今彼は世間で言う大人が生涯に稼ぐ金額より多い資産を保有しているんだ」


 世間における一般サラリーマンの生涯年収は1億5000万~2億と言われている。

 だが、これは現時点での話。将来的には若者一人当たりの収入は減少傾向にあるといわれており、そうなった場合。2億を下回ってしまうことは十分にありえる。


「それって……もう働かなくても良いって事じゃないですか」


 だが、一つ腑に落ちない。陽菜は夜も必死に勉強している竜也を度々目撃している。

 将来稼がなくて良いのなら何の為?


「流石にそこまでは私も知らないんだ。でも陽菜ちゃんにはそのうち話してくれるんじゃないかな?」


 何せ自分が長い時間をかけて築いた竜也の懐にあっさりと飛び込んでいるのだから。


「竜也君には目標があるんだ。以前。私が告白した時に言ってたんだよ『僕にはどうしても成し遂げたい目標がある。だから今は恋愛にカマ駆けている時間は無いんだ』って。本当に最低の断り方だよね」


 もっとも、飾らない素直な言葉だけに茉莉花も竜也が本心から言っているのは理解できた。


「だ。だったら……」


 それこそ自分の問題で竜也の時間を奪うわけには行かない。陽菜はそう思ったのだが。


「それは間違ってるよ」


 心を呼んだのか茉莉花は首を横に振る。


「竜也君にしてみれば近しい誰かが傷つく事が一番嫌なんだよ」


「……どうしてそんな事言えるんですか?」


 茉莉花の妙に確信めいた言葉。陽菜はそこまで竜也の考えを読めない。


「以前。私がトラブルに巻き込まれたとき。彼は単身で駆けつけてくれた事があるんだ。事件の詳細は省くけど、今回の陽菜ちゃんのストーカー問題と比べても遜色が無い事件」


 それは今から一年前。茉莉花が竜也を敵認定している頃の話。


「その時。彼は大事な取引をしている最中だったんだ。それにもかかわらず私の為だけに時間を裂いてくれたの。結果として彼は多大な損失を蒙った」


 その時に失った資産は5億。現在よりも総資産が少なかった分、比率を考えれば痛手どころではない。

 だが、竜也は自分の利益より茉莉花を救う方を選んだのだった。


 後からその事を別の人間から聞かされた茉莉花はこれまでの行いを恥。同時に竜也に対して言い知れぬ複雑な想いを抱いてしまった。

 恐らく竜也は陽菜を救う。


 茉莉花はそう確信している。そしてその事を切っ掛けに陽菜は竜也に惹かれてしまう。そして竜也もそんな陽菜を悪く思わないだろう。


「正直言えばね。実は陽菜ちゃんの問題はどうでもいいの」


「えっ?」


 未だ悩む素振りを見せる陽菜。


「竜也君には理解者が必要なの。本当は私がそこに居たかったけど、告白して振られちゃったからね。図々しく居座るわけにもいかないし。その点、陽菜ちゃんならお似合いだと私は思うよ。竜也君が大変な時も寄り添ってくれそうだし」


 それは半分は嘘。茉莉花の恋心はまだ諦めていない。

 これから先、竜也程の男にどれだけ出会えるのか?


 それは恐らく砂漠で一つの宝石を捜す事よりも難しい確率だろう。


「それだと……茉莉花さんはどうなるのですか?」


 陽菜とて茉莉花の言葉が真実でない事は解っている。だからこれで良いのか悩んでしまう。

 自分の今の竜也に対する気持ちは曖昧だ。


 そんな自分が茉莉花を差し置いて竜也の傍にいる。


「私は……別に……いいし……」


 そう言って目を伏せる茉莉花。その様子は涙を流していた。


 陽菜はそんな茉莉花に近づくと。


「私。竜也さんに相談してみます」


 その決意の篭った言葉に茉莉花は顔を上げる。


「だけど。私が問題を解決してもらってハッピーエンドなんてしません」


「えっ? えっ?」


 陽菜は茉莉花の手を握り締めると。


「まだ私の気持ちがどうなるかなんて解らないです。竜也さんだって茉莉花さんの事意識してると思いますよ?」


 それはドラッグストアでの話し。陽菜が買い物を終えて竜也を探していたら二人が仲良さそうに会話をしていた。

 それは自分との間には無い気安い関係だった。お互いを気遣いながらも必要以上に壁を作っていない。


「だからもしこの先、私が竜也さんに恋をして。そして茉莉花さんも竜也さんを好きだと言うのなら……『    』しょう」


「本気で……言ってるの?」


 陽菜が口にしたのはおよそ世間からしてありえない提案だった。


「もちろんです。私は茉莉花さんの事も短期間で好きになっちゃいましたし。茉莉花さんはどうですか? 私と一緒じゃ嫌ですか?」


 それはあまりにも魅惑的な誘い。適う事ないと思っていた。だから諦めなければいけないと思っていた。


「私も陽菜ちゃん大好きだよ。だから……その……。私もストーカー退治に協力する」


 竜也に任せるだけでは駄目なのだ。これから二人が提案する事を思えば、一方的に竜也に寄りかかるわけには行かない。


「ありがとうございます。それじゃあ私達はこれから……えっと……友達?」


 自分達のような関係を何て呼べば良いのか? 陽菜は首を傾げる。

 そしてすぐにそんな言葉に拘る必要も無いかと思い直すと。


「ところで茉莉花さん。一つ言ってもいいですか?」


「うん。何でも言ってよ。陽菜ちゃんの頼みなら何でも聞いちゃうから」


 今までの重荷が消えていくような高揚感の中、茉莉花は上機嫌でそういった。


「暑くて限界です。外まで運んでくださいませんか」


 そういうなりぐったりとしてしまうのだった。

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