分析官と組織の影
倉庫での激しい戦闘の翌朝、S.I.U 4本部は騒然としていた。ラム警部(ラム警部)は、警視総監からの厳しい叱責を受けていた。非公式の特殊部隊であるS.I.U 4は、一般警察の統制から外れた行動により、常に解体の危機に晒されている。
「まただぞ、フォン。銃撃戦、不自然な倉庫の破壊。上層部は『裁縫師の集団』の存在を認めようとしない」ラムは電話を叩きつけるように置き、憤りを顕わにした。「連中にとっては、すべて単なる猟奇殺人だ。これ以上、騒ぎを起こせば、我々の存在意義そのものが消える。」
フォンは静かに仲介人から回収した遺留品を磨いていた。彼の心は落ち着いていたが、目の奥には冷たい決意が宿っていた。
「騒ぎを起こすのは、向こうの仕事です。僕らは、奴らの設計図を読み解けばいい。」
フォンがそう言うと、奥のサーバー群の陰から、一人の細身の女性が現れた。ショートヘアで、常に無表情だ。彼女こそ、S.I.U 4の頭脳、データ分析官ユーリだ。年齢はフォンより少し上だが、その論理的な冷静さはラムをも凌ぐ。
「分析は完了しました」ユーリは無機質な声で言った。「仲介人が持っていた通信機から、我々は『裁縫師の集団』の末端のデータを受信しました。この組織は、単なるカルトではありません。感情を抽出・販売する、非常に洗練された犯罪企業です。」
ユーリは、人間の感情パターンを数値化し、特異点の発生を予測する専門家だ。フォンとラムにとっては、彼女の冷徹な分析こそが、最も信頼できる武器だった。
ユーリは巨大なホログラム画面を操作し、街の地図上に無数の赤い点(感情のホットスポット)を表示させた。「仲介人の死は、組織にとって大きな損失ですが、彼らはすぐに次の手を打ちます。回収された血色の石英の欠片と、傀儡師の残穢のパターンを照合した結果……」
彼女は画面を切り替え、複雑な数式と古代のシンボルを映し出した。「彼らは小さな獲物の感情を収集する段階を終えました。次は、大規模な『絶望』を一箇所に集め、強大な**『恒久的な感情兵器』を生み出すための『針仕事』**に取り掛かるはずです。」
「大規模な絶望だと?」ラムが問うた。
「その通り。この儀式には、単一の魂ではなく、集団的なトラウマが必要です。そして、その儀式は、霧の街の心臓部で行われます。」ユーリの冷静な口調とは裏腹に、その事態の深刻さが伝わってくる。
ユーリは地図上の無数の点を収束させ、たった一つの場所を強調表示させた。そこは、かつて数多くの惨事が起こり、現在は廃墟となっているが、今なお住民の集合的な悲嘆の残穢が最も濃く残る場所だった。
『旧中央劇場』――街の歴史の中で、喜びと絶望が最も強く交差した場所。
「仲介人の通信記録の座標データ、そして過去の絶望の残穢のピークが、この劇場を指し示しています」ユーリは冷静に告げた。「準備時間は残りわずか。彼らは今夜、最終的な『糸』を張るでしょう。」
フォンはヘッドホンの音量を調節し、立ち上がった。「仲介人は言った。俺の家族の死が最初の傑作だと。ならば、この組織を終わらせるのが、俺の最後の仕事だ。」
ラムは重い拳銃を手に取った。「行くぞ、フォン。ユーリ、背後は頼む。」
二人の男は、街の未来を左右する新たな戦場、旧中央劇場へと向かった。フォンは、この戦いが、単なる組織との衝突ではなく、彼の過去との最後の決着になることを知っていた。




