ミズナ
「しらなぁふぃ あいなに こんなたべものが――」
「食べながら喋るなよ」
ミズナギは、母さんが出前で取ってくれたピザやポテトに夢中だった。
結局、母さんにはミズナギのことを「学校から配布物を届けに来てくれた同級生」と説明した。
……まぁ最初は。
『あんた、女の子を部屋に連れ込んで何してるの!?』
『そんな子に育てた覚えはないわ!』
『おじいちゃん、ごめんなさい……育て方間違えたかも……』
――などと大変な騒ぎになったけど。いや、本当に大変だったんだ。
なんとか誤魔化し、最終的にはピザを俺たちに頼んでくれて、母さんは仕事へ。
元々午後から仕事だったけど、俺の退院に合わせてシフトを調整してくれていたらしい。
「だってこんな食べ物食べたことないんだもん! ぴざー?って言ったっけ。なんでこんなに美味しいの? それにこの芋の揚げ物! 衣がないけど……うまいわぁ〜!」
幸せそうに食べるミズナギを見て、ふと疑問が浮かんだ。
「なぁ……神様って言ってたよな? 神様も飯食わなきゃダメなのか?」
「神は別に食べなくても生きていけるわ。人間でいう“お腹が空いた”も“もう食べられない”もないの。ただ……そうね、人間の言葉で言うなら“満足”かしら。満足するまで食べられるの」
「……いや、それもう満腹と一緒じゃね?」
要は、空腹はないけど「食べたい」って気持ちはあるってことか。
つまり神様にも“欲”があると。
……まぁ、でもこんなに美味しそうに食べてるなら別にいいか。
気付けばミズナギは24センチのピザを一人で丸々平らげていた。
「ねね、まだ食べないならちょうだい」
まだいけるのかよ。
「おい、食べすぎ……まぁでも半分なら」
俺は自分のピザを半分渡した。入院してたせいか、今はあんまり食欲もないし。
「わーい!」
嬉しそうに受け取って、またかぶりつくミズナギ。……本当に神様か?
ふと気になって、俺は聞いてみた。
「なぁ、普段ミズナギはどこに帰ってんだ?」
「え?」
手を止め、きょとんと俺を見る。数秒考えてから――
「あぁ、人間は知らないわよね。“天界”って言えばわかるかしら」
「天界?」
「そう。でもそこに全ての神が集まってるわけじゃないわ。人間の国と同じように“境界線”があるの。ほら、この日ノ本では神道や仏教が信仰されてるけど、南蛮じゃ違う宗教があるでしょ?」
「南蛮……って久々に聞いたな」
「私たち神々の姿や名前は、人間の文化や想像で変わるの。もし日ノ本に南蛮の宗教が広まっていたら、私の姿もきっと違ったわ」
なるほど。幽霊の姿も国によって違うしな。日本だと長髪で白い服が定番だし。
……でもお前はどう見ても“巫女服姿の女子高生”にしか見えないんだが。
「てか、今は“南蛮”とか“日ノ本”とか言わないぞ。南蛮は“外国人”だし、日ノ本は“日本”」
「そうなの? ……ふぅん。じゃあこの食べ物もそうだけど、さっきの四角い箱みたいなの(スマホ)も知らなかったわ。それに“浅見潤”って名前も聞き慣れない。私が知ってる人間の名前は兵五郎とか七兵衛とか……女性ならお菊やお花とか」
……やっぱり。
この子、江戸時代くらいから交流が止まってるんじゃ……?
俺が考え込んでいると、ミズナギは俺のピザまで平らげてから、ふと思いついたように言った。
「ねぇ! 私にも“今風の名前”つけてよ!」
「は?」
きらきらした目で期待される。……いや、俺なんかが神様に名前つけていいのか?
“〜命”とかの方がいいんじゃ?
「私も人間みたいな名前が欲しいの!」
……あ、人間みたいなのでいいのか。
「じゃあ……」
少し考える。ミズナギ。――“みずな”。
下の名前はそのままでいいか。苗字は……川の神って言ってたし……“川”か……
そのとき、近所の川祭りを思い出した。
「“川瀬水菜”ってのはどうだ?」
「かわせ……みずな。いいわね! 川の神である私にふさわしい名前!」
よっぽど気に入ったのか、何度も口にしてはにっこり笑う。
「よかった、気に入ったみたいで」
「うん!ありがとう!これからもいろいろ潤に教えてもらうわ!」
「……これからも?」
「そうよ! 私、人間の友達できたの初めて。これからもよろしくね!」
にっこり笑う彼女に、不覚にも見惚れてしまった。こんな顔で言われたら断れねえよな。
「……まぁ、暇があればな」
「ありがとう!」
……俺は思った。
もしかして神様って、みんなこんな感じなのか?




