タイムマシーン
僕は8歳の小学生。
今、僕の目の前に
タイム・マシーンが
置いてある。
このタイム・マシーンは
少年漫画の広告で見つけて
嬉しくなって
購入した物だ。
代金は配送料込の代引きで
¥4,780-
貯金箱が空になった。
ママのお手伝いが
1回で30円だから
もう1回、同じくらい
貯金するには
1年以上かかるかな・・?
子供が通販なんて
ママにばれたら
叱られるな。
でも、もう、そんなことは
どうでもいいや。
僕は今、とても嬉しくて
思いっきり
ジャンプしたい気分だ。
だって夢にまで見た
あのタイム・マシーンが
手に入ったんだから。
さあ、これから
どこに行こうか?
じゃなくて、いつの時代に
行こうかな?
そうだ、やっぱり
恐竜に会いたいな
それなら2億年前に
行かなくちゃ。
でも、なあ
ペットショップで見た
マツカサ・トカゲってヤツ
気持ち悪かったなあ。
それとも未来に行って
将来のお嫁さんを
見に行こうかな?
同級生の沙希ちゃんと
結婚してるといいな。
とにかく取扱説明書を
読んでみよう。
品名:タイム・マシーン
横幅:10CM
奥行:10CM
高さ:10CM
電源:単2乾電池2本
付属品:交流→直流
コンバータ1個
取扱注意事項:無暗に
時空を飛び越えようと
しないでください。
何だこりゃ???
取扱説明書に
いろいろ、ごちゃごちゃ
書いてるけど
面倒臭いので読まずに
スイッチを入れてみた。
するとタイム・マシーンの
全体に散りばめられた
青、赤、黄色の電球が
ピカピカ、チカチカと
点滅を繰り返した。
僕は、その点滅を
見ていると
急に頭がクラクラと
して気を失って
しまいました。
次に気が付いた時に
僕は病院のベッドの
上にいました。
その時は
とても頭が重くて
体中が筋肉痛で
まるで鉛が詰まってる
みたいでした。
その日に病院で色々と
検査をしましたが
僕が倒れた原因は
わかりませんでした。
1日入院して翌日から
学校へ行きました。
タイム・マシーンは
パパが押し入れの奥に
仕舞い込みました。
やがて時が過ぎて
僕は少しずつ大人になって
タイム・マシーンのことを
思い出すことは
無くなりました。
30年後
私は38歳になりました。
職業は公務員です。
県庁の水道課に
勤務しています。
今日も5時きっかりに
仕事を終わらせて
今、家の玄関の前に立って
呼び鈴を鳴らそうと
しているところです。
ピンポーーーーン
この家は私が子供の頃から
住んでいた家です。
家には女房と娘が一人
毎日、私の帰りを
暖かく待っています。
ガチャっと音がして
玄関が開きました。
ママ
「あなた お帰りなさい」
パパ
「ただいまっ あーーー
お腹すいたなー あれっ
亜衣ちゃんは何してる?」
いつもは玄関まで
迎えに出てくる娘が
今日は姿を見せません。
ママ
「亜衣は
晩御飯の支度を
手伝ってるわよ」
私がキッチンに入ると
娘の亜衣が
小さな椅子を台にして
鍋を掻きまわしている
可愛い後ろ姿が
見えました。
踏み台にしている椅子は
娘が赤ちゃんの頃
食事をする時に
使っていた物で
座面に可愛いウサギが
描かれています。
娘が食事をする時に
手足をバタバタさせて
サラダのマカロニを
床にばら撒いたことを
思い出しました。
娘
「パパー おかえりなさい
今日の晩御飯は亜衣が
作ったのよ
クリームシチュー
パパ好きでしょ ふふっ」
今日も家族3人で
テーブルを囲んで
楽しく夕食を食べました。
娘
「ねーー パパーー
明日の授業参観ねっ
算数なんだーー
亜衣、算数苦手だから
他の科目がよかったなー」
パパ
「亜衣ちゃん いつも
算数の成績 4じゃん
4なら 苦手ってことは
無いだろ?」
ママ
「あなた 鈍いわねー
亜衣は、あなたが
見に来るから どうせなら
一番得意な科目を
見てもらいたいって
思ってるんじゃない」
男には
女の気持が
理解できません。
それが娘なら尚更です。
娘
「ごちそうさまー
シチュー
美味しかったね」
パパ
「うん すっっごく
美味しかったよ
亜衣 また作ってね」
娘
「うんっ それなら
明日もシチューにする?」
ママ
「亜衣 お片づけが
済んだら 宿題するのよ」
娘の部屋は
元々、私が子供の頃に
使っていた部屋でした。
娘が宿題をしている筈の
子供部屋から
娘の大きな声が
聞こえてきました。
娘
「パパーーーー!!
ちょっと来てーーー!!」
私達夫婦はTVドラマを
観ていましたが
娘が呼ぶ声を聞いて慌てて
子供部屋に行きました。
パパ
「亜衣ちゃんっ!!
どうしたの???」
娘
「押し入れに変わった玩具
見つけたの ねえパパ?
箱にタイム・マシーンって
書いてあるのよ」
パパ
「んっ 何だ こりゃ?」
ママ
「押し入れの奥に
あったのなら
パパのじゃない???」
パパ
「タイム・マシーンって
書いてあるぞ ・・ ?」
娘
「だから さっきから
タイム・マシーンって
言ってるでしょ!?」
ママ
「いいから早く 箱を
開けてみましょうよ」
宇宙船を模した球体の
タイム・マシーンの中に
ピチピチの潜水服のような
未来の着物を模した
スーツを着用した子供が
2人で搭乗している様子が
箱に描かれていました。
娘が箱を開けてみると
それはプラスチック製の
カプセル型の玩具でした。
パパ
「うわっ!!!!!!!」
ママと娘
「ちょっと、パパっ!!
急に大きな声
出さないでよ もう!!
びっくりするじゃない」
パパ
「だってさ これってさ
タイム・マシーンなんだ」
娘
「んもーーーーっ パパっ
タイム・マシーン
タイム・マシーンって
さっきから同じことばっか
繰り返してる」
ママ
「だから これって
パパのじゃないの???」
その時の私は
自分の幼い頃の記憶が
次から次へと
フラッシュバック
していました。
小学校の体育館で観劇した
人形劇の舞台の
スクリーンに投影された
美しい森の背景の前で
小熊の人形のキャラクタが
クルクル回りながら
坂道を転がる様子を観て
心を躍らせたこと ・・
誕生日のプレゼントに
もらった
シャープペンシルを
虐めっ子に取られて
喧嘩して
殴られたこと ・・
学校の帰り道で
鎖に繋がれている犬に
石をぶつけて
苛めたこと ・・
学校の写生大会で描いた
水彩画が県の展覧会に
出品されて
入賞したこと ・・
そうか
タイム・マシーンって
こういうこと
だったんだ ・・
ママ
「ねえ あなた
泣いてるの ・・ ?」
娘
「ねえ パパー
タイム・マシーンって
いつになったら出来るの?
亜衣も 未来や過去に
行けるかなー ???」
パパ
「亜衣も、いつか
タイム・マシーンに乗って
過去でも未来でも
いつでも好きなところへ
行けるよ きっと
そのためにも この玩具は
大切に押し入れに
仕舞っておこうね ・・」
娘
「うん でも 仕舞う前に
一度だけスイッチを
入れてみたいな」
パパ
「そうだね でも
亜衣ちゃん、大丈夫かな?
パパが子供の時に
これのスイッチを入れたら
電球がチカチカして
パパ 発作を起こして
倒れたんだぞ」
娘
「ねえパパ それって
自慢なの ・・ ?」
パパ
「そうじゃなくて
子供には刺激が強すぎる
んだよ きっと」
私は子供の時と同じように
取扱説明書を読まずに
スイッチを
入れてみました。
するとタイム・マシーンの
全体に散りばめられた
青、赤、黄色の電球が
ピカピカ、チカチカと
点滅を繰り返しました。
私は、その点滅を
見ていると
急に頭がクラクラと
して気を失って
しまいました。
気が付いた時に
僕は病院のベッドの
上にいました。
勿論、僕は
8歳の小学生です。
随分、長い夢を
観ていたようです。
でも僕には、あの夢が
どうしても夢だと
思えないんです。
それに困ったことに
夢の中のママの顔が
どうしても
思い出せません。
亜衣ちゃんの顔は
ハッキリと
思い出せるのに。
ああ、とても頭が重い。
それに体中が筋肉痛で
まるで鉛が詰まってる
みたいだ。
おわり