第9話 同人誌
寒さに負けず働く我が家のコピー機。ゆっくりと、デジタルで描いた純粋風な顔をした大人向け作品が印刷されていく。学生の頃はアナログで描いていたけど今じゃデジタル描きだ。
こんな終末世界になったら普通、想像するはアナログで未来に作品を残すとかだろう。しかし絶対、デジタルで描くマンは終末世界になろうと前もっての、いざという時の災害予測で用意していた小型発電機を使い意地でもデジタルで描く。
今じゃアナログは手癖で描くメモとかの時ぐらいだ。まあサインで『描いて♡』とか美人に言われたらアナログサインするかもしれない。エロ漫画なので望みは薄いが。
きっと女性読者だっている。ネカマじゃない女性読者だって世の中にはいる。
ただし終末世界で母数が極端に減ったけれども。希望は絶たれた。
ジシジ……カシャンッ。
家の印刷機で描いた漫画を刷ってみて久々にコピー本を一部作ってみた。印刷された一枚を蛍光ランタンの光にかざし仰ぎ見る。
「うぐぐ……そこまで悪くは無いけど……印刷所が無いなら、やっぱ、せめてコンビニの印刷機でしたいよねえ……えーっと、此処から近いコンビニはマルッコ……でも近いと知人が通るかなあ……ん〜子供達が何してんのって見ちゃったら……ああ〜ダメだ〜僕は犯罪者じゃんか〜! 子供達に性的な漫画見られるとか死ねる……ダメ、ダメ! 他のコンビニだと……あ、センセンがあった! ちょっと歩くけど……今って雪氷の道を広げてるらしいし、いけるいける」
家の中では、やる気に満ち溢れ出来ると思っていた時期もありました。そう彼は思い。出かけようとしていた身体をくるっと変えて部屋に戻っていく。
「ダメだ……寒すぎる……小型だからって発電機持って行くのも辛い……帰り道なんって何部の本があると思ってんの。重すぎて死ねるわ! あ〜僕は、こんなにアホだったのか……ッ!」
部屋に戻ろうとしたら何処かで見たことのある青年。
「あ、軍人さん?」
「先生ッ!」
「ひえッ」
何やら抱きつかれる。筋肉隆々の軍人に抱きしめられて全く体力の無い骨が軋んだ気がした。ムリムリ無理。せめて女性軍人に抱きしめられて死にたかった。
「あ、すみません! つい……休日を貰って先生の進歩の程は、どんなものか気になってしまいまして……」
「え、あひ、そ、そうですか……」
そんな休日に態々、気になってくるとか怖すぎる。これが過激なファンって奴なのだろうか。ファン。ファンか。陰キャは陽キャとは縁がない筈だけど、ファンと考えると、ちょっと嬉しい。これが女性なら、もっと嬉しい。産まれて初めての彼女とか出来ちゃうかもしれない。
「先生? どうされましたか、先生!」
「は……夢……」
妄想で女性ファンと公園デートをしていた。考えてみると極寒すぎて公園デートなんて出来ない。鳩とか死滅している。したら耐久、地獄の極寒デートだ。見える景色は全て雪景色。そこだけロマンチックな響きだけど数分の命で味わうにはハードルが高すぎる。
そもそも目の前の彼は男なので論外。世の中には同性の、うふふんもあるけど異性派なので、ダメです。そこまで考えて彼は呟く。
「新作は描けはしました……」
「え!? は、早いッ!」
「前に描いていたのの続きだったので……」
「やった〜! 読めるぞ〜!」
「ですがね。コピー本を刷ろうと思ったのですが……コンビニまで行く体力があらず……」
「え? それらな自分を使ってください! 今日は休日ですし先生の手足となります!」
「へぁ……休日を僕なんかの用事で使って良いの……?」
「先生の役に立てるなら最高の休日じゃないですかッ!」
「はわわ……」
陽キャに一瞬、トキメイてしまい辛い。しかし、折角の申し出なので共に、ちょっと遠目のコンビニに行く事にした。子供達に見られない為に遠目の方と言ったら笑顔で頷いてくれた。
コレがオタクに優しい陽キャか。
***
衛生的な問題を考える。氷河期が来た事により大体のダニは死滅したと思われるがケイアや兄妹達のタワーマンション内では生きている。モールは温度調節をしていない時間帯は寒いので基本的には死滅したと考えて良いだろう。
氷河期が来てケイアや兄妹達の部屋以外は大抵、靴での生活になったと思われ。靴を脱いで外の汚れを入れない事態が病気の予防になるが寒すぎて、それが、あまり出来ない。
足湯を取り入れてから足を温めて洗う人が増えたが靴の替えが無いので水虫問題は、どうだろうか。水虫は寒さで活動自体は減るらしい。60度の熱にも弱いとの事、偶然にも燃料玉の保温は丁度良い。しかし直接、触れさせたら火傷を負うので、やはり清潔さを意識した方が良さそうだ。
排泄物は病原菌を作る原因として強い。しかし基本的にマイナス状態なので活動する菌自体が少ないようだ。極寒マイナス七十度の外は特にそうだし氷空洞の中も平均、マイナス三十度前後。ホールの奥ならマイナス十度前後、新設置の場所は、マイナス二十度前後だ。常に熱源を作っている近くは比較的、温かい。
紙を流せば詰まる危険性から、トイレのペーパー代わりに湯を使うようになり、その際に下半身を自然と洗う流れが出来た。トイレも常々、熱処理をしているようなものだ。もちろん定期的に掃除はしているが。性器を洗うという流れは良かったようで衛生問題を緩和していた。
簡易サウナを真似する宿が増え個人で暮らす人達にも流行ったようだ。湯で身体を拭いたり顔や髪は別で洗ったりと前のように丸洗いが出来なくなったが凍死を避けながら清潔を心がける人が増えた。きっと食が可能になって多少の余裕が生まれたのだろう。
現状、風邪の菌も寒すぎて生息が出来ていないと予想される。温かい環境が増えだすと、そこから生まれる可能性はあるが極寒の外では変異しない限りは活動していないようだ。とはいえ何時、変異するか分からないので、やはり気をつけなければいけない。
懇意にしているマンション宿から最初に貸した備品代や通貨分が返ってきたとダイハから報告があった。プラス、経費を引いた純粋な利益の15%が支払われたらしい。もっと先になっても特に言うつもりは無かったしダイハに一任していたのでスピードに驚く。通貨の概念が続くと複式簿記も残るようだ。
懇意にしているマンションの生き残りにクリエイティブな個人事業をしていた者がおり複式簿記を使っての経理を担当していた。本人的には計算は確定申告以外でしたくない苦手なモノなので最初は渋々行なっていたがダイハに教えられながら商売が驚くほど向上し最近、楽しくなってきたらしい。
「まあ創作しても出せる場所も無いし、体力無い僕にはコレぐらいしか出来ないもんな……」
ケイアが何か作っていたのかと聞くと何とも言えない複雑そうな愛想笑いを返された。何か悪い事を聞いてしまったのかもしれない。そうケイアは思った。
ケイアは知らないが彼は元同人作家で大人向けの作品を描いていた。氷河期が来る前から家には飽和状態の食料を貯め込む質で災害時用に小さいが発電機を持っていた事もあり引きこもって生きていた。
何時でも創作が出来るように氷河期が来ようと創作を続けていた彼だったが最終的には食糧がつき人見知りで、どうしようかと思っていた矢先、マンションに水曜日、日曜日で出張屋台が来るようになった事を知り外に出た。彼が出るまで住民からは死んでいると思われていたので大いに驚かれたらしい。
持っている現金で偏見が驚くほど無い子供達に案内され他の日に兄妹達のタワーマンション下ホールへ行き買物をして、ようやく外の、とんでも状況を実感したようだ。
買った燃料玉で温まりながら汚部屋の中、自身の創作を出す場が無い事を認識し絶望を感じ偶に子供達に誘われて外に出る以外は虚無で過ごしていたの事。マンション宿の経営に誘われて自分は何が出来るかとなった時、一応、好きではないが複式簿記を覚えていたので管理する事にした。宿になるという事で部屋も手伝ってもらいながら綺麗にし今は日々、経理を行なっている。
そんな話を聞いたダイハから又聞きでケイアの護衛達や新人軍人達に話が流れた。それが、どんな創作かはダイハには一声とも伝わっていなかったが分かる相手には分かるようだ。普通に新人軍人やケイアの護衛に内緒で聞かれた。
バレて試しに昔の作品あまりを数冊あげた所、新人軍人達の中で大いに盛り上がり直ぐに先輩にバレ買取たい話が出てくる。作者が見えるのに良いのかと彼は思ったが求められると描きたくなる質らしく経理を他に教えながら最近は途中になっていた話の制作をしているらしい。娯楽とは、どんな世界になっても必要なようだ。
「クロバ、何読んでるの?」
同人誌ならではの自身で印刷しホッチキスでまとめて作るコピー本を仲間から借りたクロバが黙々と読んでいれば気付いたケイアが声をかけた。今日はリンリの部屋に集まってダイハに珈琲を作ってもらいながら会議だ。
「人が作った娯楽本を読んでんの」
「あ、手作りって事? 凄いねえ」
あまりにも隠すこと無くクロバが堂々と読んでいるので、それの存在を他から聞いて知っていたダイハはギョッとした。リンリを見れば気にする事無くダイハが入れた珈琲とケイアが作ったアップルパイに乗せた豆乳アイス乗せを食べている。
「このアイス美味しいね」
リンリが普通に話しかけ、軽く読もうと覗き込もうとしていたケイアはそちらに意識が向く。
「ミルクが取れなくなったから代わりに豆乳で作れないかと思って」
「こんな極寒の時期に温かい部屋でアイスを食べるなんて最高の娯楽だ」
「あはは。そうだね。恵まれた状況だよね」
二人の会話中に読み終わったクロバは何事も無かったかのようにコピー本をしまい込み会議が始まる。
もう一ヶ月経てば、未来であった別次元の時間軸でケイア、クロバ、ダイハが亡くなった時期を過ぎる。そうなった時、生きているという事で未来を完全に変えられたと実感するだろう。リンリは、それに加え一年だが現状はケイア達の未来の確信だ。共に生きる事で、リンリの未来も変わり続ける事だろう。
別次元で彼らをハム肉にした軍部に関しては警戒は変わらず必要だが今は随分と友好関係が気付けている。ドームに入れる事は難しくとも彼らとの敵対は、ほぼ無いと思えた。
兄妹達に関しては双子がケイア達のタワーマンションにまで来ては、ウロウロするようになった事、長男がケイアの研究が違うと分かってから逆に引きこもるようになった事以外は、それといった問題は無い。双子は、ちょっと煩いが、ほぼ無害と言える。
自警団を名乗る者達は、ケイア達の前では比較的、大人しい。しかし定期的に道作り中の軍人と喧嘩になった話を聞く。どうも交戦的で彼らは我が強い。
隠れていた元、略奪者達を身内に入れ一部のマンションを乗っ取ったらしい。やはりというか空いているマンションではなく、ある程度人が生き残り生活が成り立っている場所を取ってしまった。
当初はケイア達のドームを次に兄妹達のタワーマンションを狙い。最終的に基盤が、ある程度、良いマンションを強奪したようだ。彼らに護衛契約をした宿の三軒とはいざこざが起き軍部の方が介入し個別で軍部と契約し直したとの事。
四軒目は未だに自警団と契約を続けているが評判は良くない。買物客に稀に女性客や幼い子供が混ざる場合、絶対に、その宿は避けるよう呼びかけてはいる。
値段設定は安いが、どうもきな臭い。買った物資が無くなる騒ぎや怪我を負う客、軍人に助けを求める報告が何度も上がっている。あの宿は多分、安く誘い、泊まる客達の荷物を強奪していると思われる。それと共に仲間を増やすか身包みを剥がし氷漬けにするか。
従業員からの報告で前に買物に来た客が三日後に弔い用として自警団から運び込まれたらしい。外で拾ったと話していたが薄着で打撲の痕が目立つ凍死者。明らかにおかしい。
新しい通貨との交換で個人情報も記録しているので分かったのだが、ここ一ヶ月で数日前に買物した客が氷漬けになり妙な姿で自警団らしき者達が運び込むという数の多さが浮上した。そういった目撃情報と記録の数字から彼らが犯罪を行なっていると推測される。
推測であり証拠では無い為、彼らの言う『外を徘徊していたら見付けた』という言い分を否定する事が出来ない。
「一度、彼らと一時期、契約していたマンション宿の人達と軍部を介して聞取りをしてみますか」
治安が悪くなれば未来の生き残りの確率が減る可能性がある。リンリは、こういう時、特に積極的だ。隙さえあれば老若男女関わらず消す事を提案する。ケイアとクロバは子供達が関わると、なんとか止め。ダイハはバランスを見て、より良い道を探す。家族が不利益に関わる事が無いならダイハは手伝ってくれるので先ずは調査を開始した。
ケイア達が支援するマンション宿には作家が存在する。その作家は経理担当なのだが、ある時期から姉妹が経理補助等をするようになった。そんな彼女達だが元々は少し離れたマンションに父親、兄と住んでおり氷河期になってからも兄妹達のタワーマンションやケイアの屋台等で食糧や暖房は何とかなり、そのマンションの住人達は比較的、生き残っていたようだ。
しかし、ある日、護ってやると語る自警団がやって来て好き勝手に部屋を占拠した。姉妹は、その時、家の中におり普段から兄か父で無ければ扉を開けなかったので一時は占拠を免れる。もしもの時はと何時も父から言われていたので直ぐに荷物をまとめ兄と父の帰りを待つ。
住人達が自警団と戦う喧騒に紛れて血だらけの兄が帰ってきた。荷物は無い。全部、自警団に取られたらしい。父がおらず聞けば兄を身を挺して守り身包みをはがされ。寒さで震える中、弄ぶように殴られ蹴られたとの事。兄も薄着の中、何とか部屋に辿り着き残っている僅かな燃料玉で身を温める。
父を失い。買い出し品は全て奪われ。残りの燃料玉が無くなれば寒さで動きは鈍くなり食事も作れなくなるだろう。兄の分も荷物をまとめ。傷が完全に回復する前に行動を移す。
数時間経ち。自警団が、それぞれ好きな部屋に入った後に静かにマンションを捨てホールを目指した。
あちら側まで行けば人道的と呼ばれるケイアさんや軍人達がいる。助けを求めよう。そう彼らは自警団から身を隠しながら進んだが姉妹という存在を簡単には逃してはくれなかった。遠目でも視界に入った途端、逃げても逃げても諦めず追いかけてくる。
執拗に追いかけられ挟みうちにされた際、どうしようもなく雪氷空洞から一時的に出てしまう。ホールへ辿り着く前に体力に限界が来た。ただでさえ極寒で外に出るだけで人は体力を奪われる。燃料玉で温めてはいるが足場が良くなるわけではない。
特に怪我を負っている兄の意識が途切れ途切れなのだ。覚束ない足取りに慌てる。視界の先に雪に半分埋まったコンビニ色が見えた。一度、身を隠す事に決め今は食糧が駆逐されたコンビニへ逃げ込んだ。
しかし雪が降っており視界が悪いとは言え三人分の足跡は分かるらしい。少し先から追いかけてくる自警団の笑い声が聴こえた。悪夢だ。兄を支えながら全力で進み喉から血の味が滲む。鼻の奥、頭の中が寒さで鈍く痛い。姉妹も限界の近さを感じる。
出入口はシャッターが閉まっており入れそうに無い。浅い自分達の考えに後悔しながら裏手へ回る。するとコンビニの裏口に、大きいかまくらが出来ていた。かまくらの中を覗けば少し空いている扉。慌てて三人は、その中へ入り込んだのだった。
「こそこそ、何をやってるかと思えば……別にしちゃいけないと思わないですから、この安全が取れてない場所に他に黙ってくるのは、やめてください! なんの為の護衛ですか! それに、あんた! 休日だからって……」
「で、でもさ、一人で作業はキツいんだって……」
「そもそも、あんたが止めるべきでしょ! わかってるはずよね? 外はマイナス七十度にもなる極寒だって! こうして作業したいなら先に道が出来てから! ほら、復唱して!」
「「さ、先に道ができてから……」」
「声が小さいッ!」
そんな逃げ込んだ先に居たのは病弱そうな青年と軍人二人。一人の女性軍人に何かを言われ青年二人は俯いている最中のようだ。ちょっと子供が何か怒られているような図に思考が止まるが、そうこうしている内に追いかけて来る音にハッとした。
「た、助けてください…!」
姉妹が懇願すると軍人二人は反応しコンビニに、ぞろぞろ乗り込んできた自警団五名を素早くのしてくれた。それを見て無理をしていた兄は気を失う。生きてはいるが近くの箱の上に倒れてしまい中の小冊子らしきモノが崩れ出てしまった。
ドサ、バサバサ……ッ!
「え……」
その中にあったのは姉妹が知っている形式のモノ。同人誌のコピー本だった。どうやら作家は家の印刷機よりもコンビニの立派なコピー機でコピー本を作りたいと思ったらしく。新人軍人に手伝ってもらい自身の発電機を持込みデーターを直接コピー機に入れてコピー本を作っている最中だったのだ。
作家は唖然とした。
知り合いが近くに居なさそうな場所を態々、選んだのにコソコソ何かやっている事を怪しいと思われて女性軍人に見つかってしまう。その上で、若い姉妹と血だらけの青年が入り込んで同人誌をばら撒くのだから、さあ大変だ。ただでさえガリガリで血行が悪いのに羞恥で気を失いかける作家。
こんな世界になって二度と見かける事が無いと思っていた同人誌に唖然とする姉妹。次いでにやられた自警団。大混乱の中、こうして彼らは知り合いになったのだった。
姉妹は経理補助をして兄は怪我が治ると軍人に鍛えられながら作家の秘密を知る者の一人として本屋となった。現状は主に誤字脱字調べ、印刷、コピー本をホッチキスで止め、軍部に売りに行く。中々、大変だが彼は元々、姉妹の手伝いで売り子を良くしていたのである程度は慣れていた。
姉妹の創作は漫画ではなく片方はイラスト、片方は大人向けの小説を担当している。小説の時の誤字脱字はイラスト担当の妹も兄と共に調べ印刷する。しかし誤字脱字は生きているので第一発行、以降に見付かったりして呻く事もあった。
現在の世界での大人気作家の影に隠れて、いそいそと小説版の同人誌を発行する姉妹。彼女らのは漫画より分厚い本となるので一回で十部を作りホッチキスでは無く針と糸で止め背表紙を薄く糊付けしカバーを付けるという丁寧な手作りとなっていた。
「順番は間違えてない……? 誤字脱字はどう?」
「大丈夫……大丈夫なはず……いざとなったら十部だもん誤字なら直接直す……!」
ケイア達が支援するマンション宿の経理三人組は何故か隠れ作家として過ごす事となったのだった。
そんな詳しい出会いや裏事情を、ケイアは知らないまま自警団が奪ったマンションの話を聞く。自警団への印象は、やはり良くないものだ。
部数が少ない貴重な小説本は漫画に比べたら最初の入りは少ないが、そっちが元から好きなタイプも存在する。兄や姉妹からケイアが被害時の聞き取り調査をした際に一緒に来ていたダイハとリンリが静かに貰い受けていた。
二人とも氷河期前から高級なブックカバーを持っているタイプなので、そっと、それで隠して読むようだ。ダイハ的には、ちょっとリンリが意外だったが彼も多めの活字で純愛系を読むのが好きらしい。
どちらも何事も無かった顔をしているがジャンルの好みが被った事でダイハは、ケイアが居なければ別次元での関係性で犬猿の仲だった意識が揺れ動く。大嫌いなのは変わらない筈だが別次元だし今の彼は違うし読み終わったら作品の感想を言える相手が、ちょっと欲しい。揺れ動く心に蓋をしながら次の聞き取り調査に向けて元、自警団に護衛されていた宿三軒に向うのだった――……