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第4話 ポエム野郎を殺したい

 

 タワーマンションから出て無意識に空を求めて見上げ淡い光を放つドームの内側が肉眼で見える。これが外だと灰色の厚い雲に囲まれた吹雪の世界だ。

 外を何度かドローンで確認した時、本来の昼間は一応、鈍く明かりを感じるが夜は暗闇だった。寒さと風音と暗闇。あんな中を歩くのは自殺行為だと思う。それでも生きる為に歩く人が絶えないが。

 もう、澄んだ青い空や暗い夜を照らす星々や双子月を、お目にはかかれないのだろうなとケイアは思う。少なくとも別次元のリンリが生きていた時間では世界は氷河期の状態なのだ。覚悟が必要だ。


 コケー! コッコッコッコッ! コケコッコーッ!


 基本的にケイアの朝は早い。それは朝時計の鶏達が強制爆音コケコッコーを日々する為に慣れてしまった影響もあるが仮にも、ここの当主。当主として心がけて動かなければならない。ドーム内に内接されている薄暗い明かりの中、畑の点検を兼ねて歩いていく。


 ザリ……。ザリ……。


 冷えた道を歩きながら、ケイアは、ぼんやりと考える。長男が未来を知っていた可能性と、研究を求めている可能性。

 しかし、今のケイアは全く過去の自分にメールを渡す研究に触れていない人生を送っている。


 さて、研究とは執念だ。強い目的が無ければ進める事は不可能。正直、今のケイアに出来る可能性は低い。こういう時は仲間に相談だ。特に秘密にする気など1ミリもないので推測をリンリ、クロバ、ダイハに伝える。その考えに最初に声を上げたのはリンリだ。

「俺の最後のメールは君の部屋を塞いで迎えに来た兵士達の元へ向うだった。その文面だけ考えると俺達が使った道具は置き去りにされたんだろうね」

「彼はケイアちゃんの研究で何をしたかったんだろうね。どうやら別次元の時も氷河期が来る前から、ケイアちゃんの研究を欲していたようだし……」

 ダイハは通貨増量制作の御礼で手に入れた珈琲造りセットで本格珈琲を作りながら呟く。家族は、あまり珈琲を好まないらしくて出来立てを飲んで欲しいと持ってきてケイア達に振舞うみたいだ。

 次元が変わったからかダイハの所の奥さんの一人は、お腹は大きいけど赤ん坊は、まだ産まれていない。その代わり妻違いの可愛い三歳の姉妹がいる。何時も二人で遊んでいて妻同士仲が良いみたいで、お揃いの服を着させて双子みたいに可愛い。

「兄さんも友達が欲しかったとか……?」

「「うーん」」

 ケイアの呟きは仲間達に不評そうだ。

 確かに兄は財閥同士の関係があり双子だっている。別に孤独というわけではないだろう。もっと何か別の目的があったと思われるが、さっぱり分からない。

「とりあえず出来なくて良いから研究のフリだけでもしてみたら?」

 リンリはケイアにフリをさせ。その話題を、それとなく他が流し兄の耳に入るようにして乗り込んで来たら推測が近いとなる。ケイアは通貨の流通に、もう少し意識を向けたかったが外に出ると研究に没頭していないとなるので違う作業を室内でしながら過ごす事にした。正直、メールの研究に興味は無い。

 今は仲の良い友達が増え。氷河期だろうが楽しい。住民達も空腹を感じないように意見を聞いたりして物資を配給している。兎も鶏も気付いたら増えているし草は寒かろうが勝手に生えては食べられている。ほぼ放し飼いなので野作物も食べられているが成長させる能力のおかげで収穫に損傷は無い。

 ケイアは研究するなら比較的、寒さに強い植物以外も能力の補助ありきだが促すべきだと思う。物資はモールやタワマン下のスーパーのが無くなっても地下に大量にある。しかし限界は必ずやってくる。その時に子供達が食べれないなんて、なってしまうのは嫌だ。先ずは寒さ関係なく水だけで育つ植物から研究していこうと思う。



 ***


 ケイアに研究のフリをさせてみれば本当に研究を始めたらしい。内容は食糧問題改善だ。メールとは全く関係ない。

 リンリは、メールに若干の興味があった。もし今後、情報を伝える事が出来るなら、もっと前から自分をケイアの側に居るよう促したい。孤独な少女を作りたくない。

 だが自分の捻くれた性格は知っている。寧ろ、それは自分の為になるだろう。

 元々、今のリンリもクソ野郎だ。権力、金、暴力、産まれた瞬間から、リンリには汚れた血が流れている。どこぞの水商売だった母は年老いた男の子供を産んで直ぐに亡くなった。病気等では無い。産んで用無しになったからだ。

 ろくでなし、ろくでなし。

 リンリ含めて、ろくでなし。

 年老いた父はリンリを溺愛し幼いながらに、この世の全ては自分のモノだと信じる我儘で傲慢で死を知らないクソガキが出来上がった。生きているだけで疎まれる存在だと気づいたのは小学低学年の時。高学年からの攻撃が始まり数か月は地獄だった。プライドがズタズタで何故、そんなにも嫌われているのか。

 父が裏社会のボスと知ったのは、リンリの学校生活を知り周りの環境を変えた時。あの男は権力というものを、リンリに教え込んだ。

 今まで、リンリの苦しみを無視していた教育者達は、まるで召使。笑顔を貼り付けて目が笑っていない。友達という名の存在が周りに集まって、リンリが何を言っても持ち上げる。

 リンリの周りには常々、従う人がいたが。リンリは常々、孤独だった。

 全ての肯定が全ての否定に聞こえる。成長していけばいくほど、それは露骨だ。

 そんな日々の中、一通の奇妙なメールが届いた。知らない奴のクソみたいな感想だ。メールの差出人の性格の悪さは十五歳のクソガキ、リンリでも引くレベルで、それが自分だと気づいた時には絶望と羞恥を感じた。

 騙しや嘘のメールとするには妙に出来過ぎていて、リンリしか知らない事を知っている。そんな事、覚えておくなよとも思う。

 虐められている時に唯一優しくしてくれた初恋の、ぽっちゃりな女の子。彼女が、リンリに優しくしたのは同属としてなのかもしれない。彼女の場合は同じクラスの人間にハブにされていたのだ。

 結局、リンリの虐めを粛清する際に彼女もいなくなってしまった。関りがあった者全てが一度、リセットされてしまったから。

 リンリは彼女の事を誰にも言わなかった。幼いリンリは言えば溺愛してくる男によって、より危害が彼女に増える気がして怖かったし成長したリンリは美醜の基準というものに反応して醜い羞恥が初恋を飲み込んだ。

 怪しいメールが存在しないタワーマンションを示し、それが本当に建設された時は驚いた。簡単には信じられないが未来を予測している可能性は高い。様子見で、そこの調査を何度もしては、ケイアの存在を知る。

 傍から見れば、どうやらリンリは、ケイアに惚れてストーカー紛いになっていると判断されたようだ。あの男は庶子でも一、二を争う財閥の令嬢を気に入ったらしい。婚約者としての打診をケイアの父親に勝手に送り付けた。

 返って来たのは本人に任せるの一言で確実に落とすようにと彼女の下の階を用意される。あの男が勝手に盛り上がっているだけだが流れに逆らう事はせず。軽い交流から始めてみた。

 ケイアは普通に良い女で商才もあり一般的に性格も良いと言える。ただ、ちょっと足りないのは誰にも言う気はないが身が整い過ぎている事か。可愛い顔は、その状態で、もう三周りぐらい身体が、ふくよかな方がリンリは好みだった。一生、誰にも言う気は無いが。

 だが、メールは、そんなリンリの心を見透かすのか美醜の罵りが徐々に素直になっていく。非常に気持ち悪い自分の独白に本当に、こんな人間になってしまうのかと震えた。偶に来る自分のポエムなど虐め以来の死を感じたぐらいだ。

 死にたい程の羞恥に未来の自分を何度も殺したくなったリンリだが、お陰と言いたくないが屈折した心が、じわじわ溶けていく。変な溶け方ではあったが変わるものは変わる。荒療治だ。未来のリンリが信頼する女が、また優しい奴すぎたのも一つだろう。

 メールやケイアの側にいる事でギスギスに凝り固まった思考。使えるモノかそうじゃないモノかの判断人間は解けていった。

 もし、再度メールが出来たら絶対にポエムは送らない。また普通に、ケイアが好ましいので友人として仲良くなりたい。そう、もっと若い頃から会えば、どちらにとっても楽しい世界になるのではないだろうか。

「まあ……分からないか」

 偶然、今が良いだけの可能性はある。卑屈さが顔を出し現状の満足感も先を、そこまで求めなくなっている。これが良いか悪いかは判断つかないが流れに従おう。

 リンリには、どうも嫌いな奴がいる。ケイアの身内、双子の兄側だ。

 双子の兄側に関しては同属嫌悪が湧くのでクソガキな自分と重なり殴り飛ばしたくなる。仮に、メールでケイアの側に早くに近づいたとして、どうなるだろうか。双子の兄側を心底嫌うか似ているからこそ友となれるか。なりたくない。絶対にならないでくれ。二人してポエムなんて書き出したら、お前らなど死んだ方が良い。

 そうでなくても、もしケイアの孤独に加担などするようなら、お前など死んだ方が良い。

 実際、別次元の自分は醜悪で悪政に加担し彼女を殺してしまった。メールの内容も最後は、まるで愛の告白だったが気色の悪いものだった。自分に心底引いた。こんな怪物になってしまう未来など、あってたまるか。

 アレが、別次元の自分だと思うと、今の自分がしたわけでは無いのに後悔と罪悪感が何度も何度も沸き起こる。他の人間に対しては絶対に起こらない感情だ。未だ愛というものに対して確定的では無いが、ケイアが失われる事は嫌だ。ケイアを見れなくなるのも嫌だ。自分が側に居ないのは許せない。

 だからと言って、あの子に性的な事がしたいわけでもない。求めるなら、やぶさかではないが求めないなら生涯しないだろう。彼女の生き方に癒やされている間、周りに対しての怒りが沸かない。卑屈な自分が芽を出すことが無い。

 そもそも、あの子はクロバと夫婦だったのだ。その二人を引き裂いてしまった手前、取り戻したい。

 二人を祝福して子供の名付など出来たら楽しそうだ。そうなると女の子と男の子の名前を考えておかねば、素晴らしい名を付け生涯見守ろう。ケイアの子なら絶対に可愛らしく愛らしい筈だ。クロバに似てクソガキになる可能性もあるが、アイツも可愛い所はある。まあ妥協してやろう。

 リンリが、そんな愉快な事を考えながらケイアの代わりで護衛と共に兄妹達のタワーマンション、ホールへ向う。行けば珍しい事に双子の妹が豪華な椅子に座り小型発電機を繋げた電気ストーブの側で茶を優雅に飲んでいた。

 ざわつく周りの中で、そこだけ別次元だ。リンリが奇妙そうに見れば、つまらなそうにしていた双子妹の視線が向き、パッと笑顔になった。氷河期前までは双子兄と共にケイアに嫌がらせをしリンリに嫌味を言われては半べそで逃げていた少女。彼女は最近、妙にリンリに付きまとう。明らかに裏がある行動だ。

 リンリは笑顔を顔に貼り付けながら毎回、対応をする。一応は友好関係となった間柄だ。最低限の礼儀を見せなければならないだろう。

 双子はケイアより年下だ。ケイアは庶子であり半分の血だが双子も別の血筋の良い妻との子だ。長男とは半分の血のみ。父親の股が緩くて兄妹関係が殺伐としてしまうのは完全に親が悪い。一応、子供に対しては愛情がある風だが微妙な所だ。

 あの長男はケイアに対しては存在自体を認めていないようだが双子に関しては良い兄を努めている。双子は気付いているのかいないのか。あの距離感でも慕っているので双子は長男を好いてはいるのだろう。

「リンリさん♡ 今日は、リンリさんが視察に来ると聞いて、こんな所で待つことになってしまったの……手も足も冷えちゃったのよ」

「そうですか。比較的、今日は温度が上がりマイナス五度手前になっていますね」

 許可をしていないのに腕を絡め乳房を押し付けてくる。双子妹は一般的には、スタイルが良い。だが、リンリの好みでは無い。性格は論外だ。

 こんな厄災になったのだ、どんどん、リンリ好みの女性はいなくなっていくだろう。悲しいが、これが現実だ。

 もし、もしだ。あの幼い頃にメールなど出来る機器は持って無いが伝えれるなら伝えたい。全力で庇い逃すなと。だが、それは、もう出来ない。調べたら、ぽっちゃり好きとバレる可能性もあり結局、彼女の事を何一つ調べてないのだから碌でも無いプライドだ。

 足湯や、この電気ストーブのおかげだろう。タワマン下のホール部分は雪の通路に比べて人が生きれる温度だ。雪の通路は平均、マイナス三十度前後。地上のマイナス七十度に比べればマシとは言えるが。

「え〜? リンリさん達の所は良いけど本当は、こんな場所、来たくなかったの……ねえ、それより私の部屋に来ない? 美味しい紅茶をご馳走するわ♡」

 美味しい紅茶。きっと氷河期前に用意した令嬢が飲む良いものなのだろう。

「残念ですが視察に来ていますので」

 放置して通貨の流通を確認する。

 長男と話してみて無価値という思考を認識し直した。もし軍の介入を、どうにかでき、こうして文化交流が続くのであれば通貨の概念を消すのは惜しい。替え札、権利書など別の価値観も作れるが貨幣は持ち運びが比較的楽で作る過程を複雑にすれば偽物も湧きにくい。こんなに便利なモノを否定したのはリンリも、この世界が終末で後が無いと思い込んでいたからだろう。

 もし推測が当たり長男が長い間、生きていたとすれば、その時に世界は人々は、どのように生き残り暮らしていたのだろうか。より温度が下がり絶望が増える可能性もあるが聞いてみたい。その為には口を割らす何かが必要だ。




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