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第3話 通貨の価値

 

 ウゥゥン……。カチャ……。


「ああ〜! 十回ミスったッ! これは今日は駄目か〜!」

 モールに内蔵されているゲームセンターのUFOキャッチャーにて双子の兄の方は十回目の失敗に叫んだ。それを見て妹の方が近くの、お菓子崩しのゲームに目を向ける。

「ふふん。私は庶民の、お菓子の方をするわね」

「揺するのは禁止だかんな」

「わかってるわよ」

 妹が真剣な眼差しで始めて双子の兄は隣の長男に顔を向け聞く。

「兄さんは?」

「私は良いよ。二人を眺めてるのが楽しいからね」

「そう? したらハマるのになあ〜」


 コツンッ。


「また、ゲームをされてるんですね……」 

 モールの三階。許可を出していないし開いていない筈の、その階に勝手に乗り込んでは電気代のかかるゲームセンターで遊ぶケイアの兄妹達。コレで度目だろうか。

 ケイアの兄妹は大抵モールに居座っては部下を使い勝手に食べたいモノを食べている。彼らは元々、根っからのセレブなので転売という行為は一切していない。ただ開いていない店も部下で開かせて遊び歩いているので若干、迷惑だ。止めに入った従業員に対して身内という肩書で威張るのも、どうかと思うのでケイア、リンリ、クロバと共に何度か衝突している。

 しかし驚く程に聞き耳が無いので困ったものだ。とは言って生きている人間を見捨てる程、ケイアは鬼にはなれない。

 前から使わせろと煩かった映画館の一室を譲る代わりに条件を出した。今後、友好的な協力関係になろうというものだ。

 兄妹達は長男が一人、双子の兄妹が二人。それぞれに護衛兼従者がいる。

「オレの方が強い」

 クロバが急にケイアに主張した。ケイアが兄妹の護衛を見ていたからだろうか。

「フンッ! おいブス、そっちのタワマン譲らなかったくせに今更なんだよ!」

 双子の兄の方が鼻を鳴らし踏ん反り返って、そんな事を言うものだからケイアの護衛達の温度が下り、辺りはピリついた。

 そんな中、リンリが薄い笑みを浮かべ言う。

「君って逆張りの芸術が好きな俺、格好良いとか思ってそうな勘違い野郎って顔してるよね」

「ぁあ? リンリ! お前なあ! 前から思ってたけど、ボクに対して」

 リンリが目を細めた。

「これは提案だと優しく可愛いケイアが言っているが……慈悲だよ」

「はぁ?」

「はは、慈悲とは傲慢だな」

 長男が営業スマイルで笑って言い。リンリは顔を横に振った。

「正直、俺は君らを見捨てるべきだと思っている」

「ほう、見捨てる? どういうつもりだ」

「そもそも金に価値が無くなった世界で君らが客としていれるのはケイアの慈悲だ」

「……価値か。そうか、リンリ君は、この厄災が永遠に続くと思っているわけか」

 長男は目を細めた。

「この厄災で意味がないと思考するのは分かるよ。だがね、通貨という概念は、ある程度の豊かさには必ず必要だ」

 リンリが長男を見返した。

「一つ、考えてくれ。通貨とは、そもそも信用で成り立つモノだ。勿論、物資のやり取りで物々交換をするのは個人の好みで好きにしたら良い。だが通貨という概念の利便性を失ってはいけない」

「確かに豊かさがある場合、通貨はあるべきだと俺も思うよ。だが現に貴方の所では転売した物を百倍という値段に釣り上げて売る者が出ているよね?」

「ああ、アレらがしているのは権利であり利益を得ようとするのは自然の行為だろうよ」

「結局、ボランティアになるのに?」

 長男は、リンリの言葉に対して小さく噴き出す。

「ふッ、まあ、まて。確かに価格破壊は起きているが、そうやって無価値と考える方が社会を壊す思考だと僕は思うね」

「厄災で、もう壊れている」

「いいや、人が存在している現状、我々は知っている基礎に沿って思考するべきだ。自ら獣になろうとしてはいけない」

 リンリは一年半後も氷河期と呼ばれる厄災が続く事を知ってはいるが目の前の彼は知らない。しかしだ。リンリもまた一年半後の世界を知り得ない。唐突にやってきた厄災で人々の価値が変わったが仮に反対の状況になったとしたら、どうだろうか。通貨の概念がある方が取引はスムーズだ。

 リンリはケイアに嫌がらせをする双子を毎回、追い払う事に慣れはしていたが偶に出会う長男が多く喋ったのは今回が初めてで想像とは違う口ぶりに自分が彼を舐めていた事に気が付いた。

「いや、すまない。ついつい討論してしまった」

 そんな、リンリの思考を知ってか知らずか。長男はニコリと微笑むと言う。

「結論から言おう。可愛い双子が飢えるなど僕は許せない。だから友好関係を快く結ぼうじゃないか」

 長男はケイアを見ていない。リンリと会話はしているがケイアに対しては、まるで最初から見えていないといった態度だ。

 ケイアは攻撃的で罵り続ける双子が苦手ではあったが一番、長男が怖い。

 双子がする嫌がらせは良くは無いがマシなのだ。大切な物を壊したりケイアを孤立させ冷笑したり分かりやすく対応が出来る怒りだ。だが長男は違う。

 ケイアを常々、空気として扱うが家を出る前は、なんのつもりなのか時折、ケイアの部屋に勝手に入っており僅かに荒らしては無言で出て行く。意味が分からなくて気味が悪い。ゾッとしながらも兄妹達の決定権は長男にある。彼らは友好関係を結ぶ事となった。


 長男との話し合いは主にダイハ、リンリが行う。ケイアとの関係性からの気遣いもあるが、元々、商才がある者同士、思考や会話の感覚が合うのは、あの二人だ。これに関しては適材適所で任せた方が良い。


 ザリ……ザリ……。


「ふふふ、あんたって、お飾りなのね」

 双子の妹の方が彼女専用の護衛と共にドームの中を散歩している。別に好き勝手にして良いとは許可を出したわけではないが寒さに強い植物の栽培を確認していたケイアは話しかけてきた彼女に視線を向けた。

「本当の主は、リンリさんね。見てて分かるわ。アンタは醜い飾り物。でも良いわよね偶然、上手くいった商売で場所を手に入れて良い男の助言で仮でも、お姫様扱いだもの」

 成長を促され顔を出した大根をヒールの踵で刺し双子の妹は鼻を鳴らす。

「あ〜ぁ。血筋が汚い女って色目で地位を得ようとするのよね。本当、きしょ」

「貴重な食べ物を粗末にするなら帰って」

「ぷッ、芋女は土弄りが、お似合いだもんねぇ〜♡」

「なあ、コイツぶっ飛ばして良い?」

「仮にも女の子なので……どうどう……」

 ケイアの護衛のクロバが成長した大根抜きの手を止めて、そう言えば双子の妹の護衛が目を尖らせる。

「はぁ……護衛の躾も出来てないのね。見た目はマシだけど教養が無い男は駄目よ。リンリさんみたいにスマートなイケメンじゃなきゃ♡」

「コイツ嫌味言わなきゃ生きれないのかよ」

「うーん……」

 嫌味を言っていない場面なんて滅多にないので、ケイアはクロバの言葉を否定出来なかった。


 寒いからか温かい食べ物が食べたくなるのが常で、また自分で作るとなったら鍋が楽だ。なので最近は鍋率が高い。


 ぐつぐつ……ぐつぐつ……。


 大根を摩り下ろして雪見鍋にし、リンリとクロバと鍋を囲んで解凍したブリを茹でて白米と食べる。ケイアは、ブリの刺身や、しゃぶが大好きだが何時か食べれなくなると考え少し物悲しい気持ちになった。

 しかし美味しモノを二人と食べると、より美味しくなるのは良いことだ。他の人も一緒の時も多いが基本、この三人は一緒に食べている。クロバが護衛になってくれてからだから、もう何年だろうか。定着して家族感がある。

 リンリに今日、論議した内容を教えられながらケイアは熱い鍋を、はふはふと口にした。

「俺は人の力を舐めていたみたいだ」

 リンリの珍しく感じる言葉に視線を向ければ彼は今日、知った情報を語る。どんなに高くても物資を提供すると分かれば人は集まるもので、近くの家々や誰かの能力もあったのか雪が積もり氷になった内側に穴を掘り道を作ったらしい。完全な外はマイナス七十度と恐ろしい寒さだ。手製の雪穴が崩れる危険性よりも凍死を避ける方を選んだようだ。

 作られた氷の穴道であればマイナス三十度程らしい。そうして人の行き交いが起きている。また力を持った武力で制圧を試みた者達もいたようだが相手は兄妹達のタワマンだ。警備は常々、強く。毛が生えた程度の武力は簡単に追い返してしまうよう。

「想像以上に商売が成り立っているみたいなんだ」

「商売……うーん。海方面から来る人はいるのかな……」

「海? この災害状態だと距離はあるが……まあ来れないわけではないか」

「備蓄は多くあるけれど塩の氷を運んでくれるなら物々交換も良いかも……」

「ああ。塩か。自分達で作る余力があるなら作って持って来るでも……」

 通貨も底が付いてしまえば終わりだ。こんな価格破壊では、あっという間ではないか。

 そうなってしまうなら通貨という概念を残しながら新たな方法を考えるべきかもしれない。

「一回、その市場となっている場所を見に行ってみたいな」

 売りも住人によってマチマチらしい。それでも人は絶えず来ては買っていく。

 そうして次の日、リンリ、クロバ、他の護衛と共にケイアは初めて兄妹達のタワーマンションへ足を踏み入れた。


 ひゅー……ひゅー……。


 広かったホールの出入口は雪の壁に塞がれている。分厚い特殊ガラスと壁で雪崩れはないが殆ど止まない吹雪の音が隙間から寒い空気と共に入ってくるのを感じた。ドームとは明らかに違う一段堪える寒さだ。

 それでも、このホールは外や雪氷の空洞道より遥かに温度は高い。道に比べたら体感、五度は高いと思われる。

 厚着をしても震え今にでも倒れてしまいそうな人達の列が広いホール内に溢れている。列の並びは庭とされていた場所に出来た雪氷穴に続き、奥を除けば、その先も並んでいた。腹を空かせ、あまりにも寒そうだ。

「商売ね……」


 ぐつぐつ……ぐつぐつ……。


 そのまた次の日、そのホールの隅でケイア達は大きな鍋を三つ程、用意し大根、白菜、人参、キノコ、冷凍の鶏肉団子を砂糖と醤油で味付けした鍋を作り大きな丼に入れて買い終わった客に声をかける。

「買い物を終えたお客さん限定で一人、一杯、百円だよ」

「え」

「買う!」

「前の時でも安いよこれは……」

「此処で食べていってね。食べ終わったら水桶に皿を入れて食べ残しは、こっちの箱へ」

 三時間経ち今の所、食べ残しは無く。皆、丼内の汁を食べきっては頬に血行を取り戻して帰っていく。従業員は交代制で、とりあえず一日行なって明日様子を、もう一度見る事にした。

 次の日は持ってきた椅子を壁際に並べ置いていく。昨日は大急ぎな立ち食い状態だったので今日は座り場所を用意した。その上、今回の鍋には摩り下ろした生姜を足してみる。より身体が温まるんじゃないだろうか。

 その次の日は味噌鍋も増やしてみた。味が同じだと連日で来た人が飽きるのではと思ったからだ。

「この汁だけ食べるは駄目ですか……?」

 手を繋いだ子供の兄弟が、じっと従業員を見上げている。オロオロとした視線がケイアに向く。決定権があるのはケイアだ。買物客限定は一応、先に販売していたタワマン住人に敬意を示しての行為。だが子供の空腹には変えられない。

「分かりました。現時点で買い物のお客さん以外でも一杯、よしとします。あと成人前の子供は一人、一杯、無料としてください」

 そう宣言すると兄妹のタワマンの人も降りてきて食べに来るようになった。電気やガスが使えない場合、自分で火を焚くのも大変なので販売のを食べた方が楽なのだろう。

 先程の小さな兄弟は此処から近くのマンションの子供らしい。物資を買いに来たが価格高騰で何も買えず百円の汁だけでも食べれないか聞いたみたいだ。

 次の日、カルメ焼きも初めてみた。鍋用に摩り下ろした際に出た生姜液を入れたカルメ焼きだ。

「成人前の子供は一人一個、無料にしてください」

 子供達は出来たてを一つ、二人で食べて、もう一つは持って帰って行った。

 次の日、子供達が増え、お金と鍋を持ってやってきた。

「お母さんに食べさせたいので、このお金分、汁をください」

 従業員からの、どうするかの視線。ケイアは、チラリと別の客達を見て沈黙。一人、一杯のルール。それを止めてしまうと量が足りなくなってしまう。これは仕方ない。

「出張屋台をしよう!」

 近場限定でケイア達は出張、屋台を行う事にした。辿り着いたマンションのホールは、あまり広くなく全体に霜が出来、一部は凍っている。

「私の出番ね」

 今回はダイハの妻の一人が付いて来てくれており、ケイアが護衛と鍋を用意している間に彼女がホール内だけ温かくしてくれた。毎日、お風呂で練習しているから今は四十分程、温かくできるらしい。

 匂いにつられてか一部の住人達が、フラフラ下りてきた。大人は一杯、百円。成人前の子供は一杯無料。食べ終わった大人は他の住人達にも知らせに各部屋へ声をかけに行った。動けない住人の為に買って届けに行く者もいた。多分、生きている住人全員が食べたらしい皿を回収しようとしたら洗って返すとの事。近くの部屋で洗ってから返ってきた。

 次の日はタワマンのホールに育てた立派な野菜を売りだす。大根、白菜、人参それぞれ一つ百円。一人、一種類ずつだ。そこは任せて出張して昨日のマンションホールへ行く。今日は奥さんはいないので温かくは出来ないが元から缶の中に火を焚べて温かくして待っていた。鍋と野菜も売り出すと全部、完売した。明日は従業員達に任せて、その後の曜日は相談してほしいと託して帰る。販売に行くのは水曜日と日曜日にするらしい。

 後日、転売価格が十倍まで減ったと聞いた。百倍に比べたら安く感じるが何か心境の変化でもあったのだろうか。


 二カ月目、相変わらず外は寒い。ポルト少年の日々の鍛錬含め植物の成長は満遍なく増やすことが叶う。何か今の物資以外に欲しいものはあるかと尋ねたら皆で、揚げ立てチキンが食べたいと要望をもらった。モールのチキン屋を掃除して皆で揚げチキンを食べる。

「あ〜うま……美味すぎる……」

 クロバが感嘆の息を吐きながら呟いて、もっとパーティーみたいな雰囲気になると思っていた食事は感動で、ちょっと静かだ。ケイアはポルト少年の力で育てる事が出来たジャガイモも食べてみる。植物を成長させる能力は世の希望だ。素晴らしいと染み染み思いながらケイアはチキンと芋を心ゆくまで味わった。

 揚げチキンを食べてから定期的に若者や護衛の皆、クロバ含め、何かあると揚げチキンの要望が起きた。冷凍肉は、まだまだ余裕であるけれど鶏が増える前に食べ尽くしてしまうかもしれない。皆、チキンが好きすぎる。


「まさか林檎と柿の木が出来てしまうなんて……」

 ポルト少年は渡した彼専用の土地に好きな植物の種を植えては育てている。そうして気付いたら林檎の木と柿の木が出来上がった。

「し、渋柿……っ!」

 クロバが喜んで食べて渋さに悶絶している。この状態だと売るには向いていない。栄養は豊富そうだけれども。悩んでいれば、ポルト少年の保護者、おばあちゃんが任せときと渋柿を集めだす。どうやら干して干柿を作るらしい。素晴らしい。

 通貨の存在は大切だけど、ポイント支払いにしたって尽きてくる。悩んでいればダイハが鉱物の変形能力を手に入いれたと報告してくれた。

 話し合った結果、空き缶1、瓶1、石8を混ぜコインを創り出した。絵を写す能力を持った子も増えたので、コインに決めた絵柄を写してもらう。物資を丈夫にする能力を持った、あの時の旦那さんにも、お願いする。

 奥さんは今の所、魚の血抜きの際に好まれている。奥さんが血抜きをすると微生物も上手く出てくれるらしい。素晴らしい。

 皆に作業をしてもらい代わりに食料物資を渡す。ただ、この御礼だけじゃ足りない。全員、素晴らしいので他に要望があるかと聞けば食料以外の物を欲しがったのでモールで好きな物を選んでもらった。

 夫婦は赤ちゃん用の玩具とベビーカーを選び。ダイハはミシンを選び。絵柄の少女は駄菓子コーナーのカゴ一杯分を選んだ。何を選ぶのか覗き込んでみればスルメ、酢昆布、漬け大根、梅干しなど全部、渋いチョイスだった。

 新しい通貨を日々、作ってもらう事になり、それなりの数が出来た。次から灰色は一枚百円分として、青色マーク入りは一枚千円分として、桃色マーク入りは五千円分として、オレンジ色マーク入りは一万円分とした。果たして上手くいくだろうか。


 説明用のポップを作り寒さで、しわくちゃにならないようラミネートをする。説明は、レジにも取付けて近くの商人に配る用も用意。自分達の店用には看板と旗も作った。この試みは氷河期、三カ月目。実際、店の釣銭も徐々に減り始めており持っている分は出せるが減って戻ってこない分は新しい通貨で補うしかない。


 ガシャン!


 初めて残飯を出したのは双子の兄の方。興味本位か彼らのタワマンのホールにやって来てケイアに具材が入った丼を投げ付けた。幸い護衛として側にいたクロバが腕を出し分厚い防寒具で遮られ火傷を負うことは無かった。しかし貴重な一杯分が無駄になり辺りからブーイングの荒らしだ。食べれない状態で来ている人が多いので殺意めいたものを感じる。

「なんて奴だ!」

「いらないなら最初から手を出すなよ!」

「もったいない事を……」

「このガキゃぁ……」

「な、なんだよ……も、戻るぞッ!」

 双子の兄はケイアの護衛達に睨まれながらズンズン近づかれて自分の護衛の後ろに隠れながら逃げて行った。何しに来たんだろう。ケイアは新しい通貨流通の為に現場に来て作業していたのだが、タイミングの良さから、もしかしたら嫌がらせを狙ったのかもしれない。

 新しい通貨としてコインを流通させるにあたって最初にしたのは誰でも出せる大切なモノとの交換。個人情報と引き換えに千円分の青色マーク入りコインを渡すというものだった。データでもらえるなら、そうして駄目そうなら音声か筆記だ。

 最初に子供達が柔軟に青色コインと個人情報を引き換えた。そうしてケイア達の商品を目の前で買っていく。使える事が分かると人々に認識されるらしい。定期的に作ったポップや看板などをスマフォに撮る者もいた。電源が切れて使えない者も多いが充電をしてよいと沢山のタコ足配線と小型発電機を用意した為、復活して喜ぶ姿が見えた。

 人が増えるにあたって場所も混雑してくる。広いホールも狭くなってきた。その為、新しい仕事を用意して給金を出すことにする。募集は自分の所や兄妹のタワマン住人に向けて買い物客も力や能力があるなら話を軽く聞いて承諾する。庭の雪氷の空洞を安全に広げる作業だ。

 シンプルに雪氷の内側を掘り広げかき出した雪は、お湯に変え排水溝の通りを良くしてから広めの桶と腰掛け場を作り無料の足湯にする。氷の壁が崩れたら困るので持ってきた道具で壁を組み上げ頑丈にしていく。多くの人々が並び帰るには狭かった道は新しいホールになった。

 庭の変化を一度、長男が見に来たが特に何も言わずに去って行った。

 タワマンの殆どの住人は寒さの中で生きているが兄妹達の階は最初から防寒や発電機など作る際に組み込まれていたようだ。ケイアは全、住民が使えるように作ったが彼らは自分達の部屋分のみ製作していたようだ。

「……」

 ふと、ケイアは、リンリの後に機械が生きていた可能性を考える。クロバに来ていたメールには元々、兄がケイアの研究を狙い依頼されていた有無もあったらしい。もし兄が財力で生き残り全員が失われた後に機械を探し見付けたとしたら彼もまたメールを送ったのではないか。

 そうだとしたらだ。もしかして兄が興味が無く存在を無視している筈の妹の部屋に勝手に入ってくるのは、その研究を求めていたのではないだろうか。そもそもで不思議だったのだ。氷河期を知らない筈なのに上手く作られた兄妹達のタワマン。用意された武具や護衛の数。双子は住みたがるだろうが長男には立派な豪邸がある。わざわざ双子に合わせて暮らす必要は無かった。

 何も知らないと思っていた兄は入念な準備と共に研究を求めて近くにいるのではないだろうか。その考えは妙に、しっくりくる気がする。

 でも、だとしたら彼は研究に何を求め、そして何時まで生きたのだろうか。兄と交流は無理な気がする中、研究を進める事さえ出来れば何か変化が起きる気がした。




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