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第1話 世界が変わった

終末世界で一回死んで未来の情報持って勝ち組になる系が大好きなので、どうせなら自分なりの展開書いていく事にしました。先に言うと、一話目は全滅します!

 

 白い雪が、はらはらと降っている。朝の時間帯なのに空は重い灰色だ。闇になる夜に比べたら遠くで光があるとは思うが、それにしたって薄暗い。

 身の殆どを防寒具で隠しているケイアがマスク代わりのネックウォーマー越しで息を吐く。雪かきはハードだが汗をかいた中で、この極寒の中、身を止めれば一気に身体は冷えてしまう。その為、動きを止めてはいけない。

 七月二十九日。真夏の夜。18時を回った時、世の中は急激に温度を下げ始めた。久々の涼しさに最初の数時間は人々に安眠をもたらしたが、次の日には雪が地面に薄っすら積もり人々を戸惑わせた。

 徐々に徐々に雪は積もっていき。交通機関は止まり人々は外に出る事が難しくなる。そして、一ヶ月後。世界は平均、マイナス七十度という極寒の地へと代わってしまったのだった。


 ザクッ。ザクッ。


 その日も生活用水の雪のかき出しは鈍臭いケイアの仕事だった。

 毎日、毎日、とても寒い世界でマンションの住人達用の水作りをしている。

 雪はベランダでも手に入るので皆、勝手に作る事が出来るが誰かが毎日タンクに溶かした水を入れれば気にせず使うことができる。

 ケイアは日課となっている屋上の雪かきを終えると溜めた雪をドラム缶で温めては雪を詰めたタンクに流し入れていた。

 一日一回、毎日、一人でそれを時間をかけてしては対価である物資のインスタント麺を一つもらう。今や大変な労働は飢えない為の必須条件であり鈍臭いケイアが出来るのは、これぐらいだ。

 ただ、その日は普段と違い7-1号室のクロバと18号室のダイハが雪かきをしてタンクに雪を詰め湯を流し込み水が出来上がる。何時もより何倍も早く進んで何故か水の減りようが早く三回も詰める作業が行われた。

「彼女らがさ氷河期が来てから湯に一度も浸かれてなくてさ」

「オレは、それで駆り出された」

 ケイアは個人達で雪を集めて湯を作るじゃ駄目なのかと思ったが蛇口から水を出す状態が良いらしい。

 ダイハは彼女の為にクロバは物資の対価の為に作業を終えて暗い階段を降りていく。滑りやすい階段を降りながらケイアは正直、好きじゃないインスタント麺を求めて地下へ、ゆっくりと降りていく。


 ザリ……。ザリ……。


 非常用の淡い電灯に白い息がパラパラと漂い光った。

「はぁ……節電で物資を運ぶ以外の時は階段を使うと決まってから……階段を使ってしか上り下り出来ないのは苦だね」

 ダイハがため息交じりにそう呟きケイアは無言で頷く。三十階まであるタワーマンションの屋上から物資を受け取りに毎日、歩きで地下迄、上り下りだ。今は慣れたけれど最初は本当に辛かった。

「ケイアだったけ? あんたって毎日、物資の為に屋上まで行って雪かきして水作りしてんの?」

 クロバは雪かきの最中、ダイハと違い無口気味だったが寒い中、喋るのが難しかっただけのよう。寧ろ極寒の中で、よく喋っていたダイハの方が奇妙かもしれない。

 彼があまりにも喋るので人と普段は喋らないケイアは短いが何度も言葉を返した。氷河期になってから半年、こんなに喋ったのは初めてだ。

「食べないと死んじゃうし、あと誰かが雪かきしないと重さで、このタワマンも駄目になると思うから……」

「ふーん」

「……ケイアちゃんは最初の物資提供の話題の時、大量に差し出していたけど自分の分は残さなかったのかな?」

 ダイハが優しい瞳を向けて、そう訊いた。

「下の飲食店から毎日、食事を届けて貰ってたから基本、部屋にはお菓子ぐらいしかなくて……」

「ん? 菓子を出したって事か?」

 クロバが不思議そうに言えばダイハは微妙な顔をして彼に言う。

「ケイアちゃんは、このタワマンの持主で下の店類のオーナーだよ」

「え!?」

 驚いた表情をしてクロバはケイアを見て言う。

「デブじゃねえじゃん!」

「す、すまない! コイツ……っ」

「もがッ」

 ダイハはクロバの口元を押さえ込み反射的にケイアに謝罪した。ケイアは苦笑いを浮かべる。

 ケイアは、この国では一、二を争う財閥の娘だった。しかし庶子なので兄妹からは好かれていない。出会えば罵られて生きてきたので引きこもりストレスから食べてばかりいた。その為に栄養を貯め込んだボンレスハム状態だったのだ。

 そんな中、個人で生きやすいようにとタワマンを一つ譲り受けた。良く言えば気を使っての行為だが実際は厄介払いだろう。

 タワマンの最上階と本元の権利を渡され引きこもりなら一生、自堕落できる環境を与えられた。

 タワマンの一階は料理店、スーパー、薬局があり二階は子供達用の自由室、大人用の運動器具が置かれた部屋、それと広い会議室が一つある。三階から住居人がおり十階までが下層、一階ごとに六部屋。十一階から十五階は中層で一階ごとに四部屋。十六階から二十五階迄が上層で一階ごとに二部屋。二十六、二十七階は高級層で一階に一部屋ずつ。二十八階から三十階は繋がった部屋であり、それは最上級層と呼ばれケイアの住処だ。

 無駄に広いが今は物資を渡し切り、すっからかんだ。物が無い空間が、ただただ広がっている。

 物資の管理は名乗り出たリンリという二十六階の彼が代表で扱っておりケイアは今では、こうして恵んでもらう立場となった。厄災前の地位など残っていない。

「マジか……じゃあ、ほぼケイアの物資を取って毎日、扱き使って一つを……」

 彼にとって、この話は衝撃的だったらしい。クロバは怒りと困惑を浮かべた。

「まさか……ケイアちゃんが、こんな事になっているだなんて……んんッ、僕の彼女達が手作り料理が得意なんだ。今日の御礼で良ければ食べて行ってくれるかな?」

 ダイハが優しい瞳でケイアに食事を誘う。

「お〜頂くぜ〜!」

 すかさずクロバが喜んで両手を伸ばした。ダイハを抱きしめそうな雰囲気だ。

「クロバ……いや、うん、ケイアちゃんも良ければ……」

 ケイアはコクリと頷いた。


 ほかほか……。ほかほか……。


 十八階の二部屋は氷河期前、ダイハが彼女達の為に買い取った。彼には三人の恋人と赤ん坊が一人いる。婚姻はしていないようだが産まれた子は全て認知していくらしい。彼女達に不便が無いようにと氷河期に関係なく普段から備蓄をするタイプだった彼は、この世界になってから余裕を持って生きているようだ。

 彼女達とは初めて対面したが、それぞれ違う美しい人達でケイアは自分が恥ずかしい存在だと急に思い出した。こんな世界になり毎日の雪かきと階段の上り下りに加え極端に食が減り身は痩せ急激に痩せた為に皮がデロデロで手入れも大してしていない。防寒具を脱げば老婆のような身が出てしまう。

 部屋は温かさがあったが出来るだけ服で身を隠し急いで食事をかきこんで席を立つ。久々に涙が出る美味しい食事だったけれど羞恥と焦りが喜びを半減してしまった。

 ケイアは自分が、どうしょもない人間だったと認識しなおし御礼を言って階を後にしようとすれば箱を一つ貰った。それは食糧が詰められた箱だ。今はカップラーメン一つが過去の金塊より高い価値になっている。

 自分の情けない感情に気付いているのかいないのか彼らは地下に集まる人々と違い余裕から生まれる優しさを滲ませていた。幾ら備蓄があろうと数には限りがある。ケイアは泣きそうな気持ちを抑えながら頭を深々と下げ階段に向う。

 コツっと音がして隣を見ればクロバが同じく箱を抱えてご満悦だ。

「コレで久々にガキ共に腹いっぱい食わせられるぜ〜!」

 ケイアは若そうに見えるクロバに子供がいたのかと驚き。そんな情報はあったかと過去を思考し首を傾げた。ケイアの雰囲気に察したらしいクロバが真顔になって言う。

「あ? あ〜あれだよ。クソ野郎共がさ労力がね~奴らと見なして八歳未満は三日に一回しか物資をくれねえの。しかもカップラーメン一個とか、そんなんだぜ。身体が持つわけねーよな」

 下の階に降りていきながら怒りを呟くクロバ。本来、ケイアは貰った物資を持って上に行くべきだが共に降りていく。クロバの話を要訳すると食えず弱った子供達は今、二階の子供部屋で横に並べられており死を待つばかりらしい。また八歳以上も各所の雪かきを行い二日に一度、物資が貰えるらしい。

 ケイアは愕然とした。自身が選んだのだ。人付き合いが苦手な自分よりも立ち上がってくれる人に任せた方が良いと物資を託した。託した結果、子供達が食べれない状況となっている。頭に熱がこもった。

 デブの自分が食べれなくなろうと育ち盛りの子供達が食べれないより良い。そう思って託したし、その事は話した筈だ。それを汲んでいるとばかり思っていた。クロバの言葉を聞きながら、より情けなさと申し訳なさにケイアは悲しくなった。子供部屋に辿り着き。昔とは違い妙に薄汚れた部屋に子供達はいた。

 貰い受ける際に要望として作った部屋は今では薄暗い死を待つ部屋だ。吐きそうな後悔が身の内に渦巻き、今、無責任という黒く染まったヘドロの血が血管に流れている。

「よ~! ガキ共~!」

 クロバが明るい声で子供達に呼びかけ古びた魚の目をしていた子供達に光がさした。

「クロバ!」

「クロにい!」

「遊びに来たの?」

 頬が窪み、あまり動けない状態でも身を傾けクロバに笑顔を向ける子供達。彼らからクロバに対しての信頼と愛情を感じ部屋は急に温かみが湧き上がる。

「今日の護衛はなー特別ボーナスが出たんだぜ〜」

「ボーナス? ボーナスってなに?」

「ふふ。パパが言ってた、嬉しい日って意味だよ」

「やった〜!」

 クロバが食糧を子供達に見せる姿を眺めながら、ふと彼らの親は何処なのだろうと思った。クロバから親の話題は出なかった。出たのは委員会と呼ばれるリンリが率いる者達への怒りだ。少しの胸騒ぎを感じ、この場で訊ねない。後で訊いてみようと思いながらケイアも箱を開け子供達に飴を見せる。

「こっちにもあるからね」

「え……良いのかよ? アンタ食ってねえだろ」

 クロバが驚いて呟き。喜んで飴を口に入れた子供達が吐き出そうとする。それは出して返そうという行為だろうか。気持ちは嬉しいが戻してもらいケイアは言う。

「これもクロバおにいちゃんのボーナスだよ。皆で食べようね」

「やった〜!」

 一通り騒いだ後、夜になり子供達が寝始たので子供部屋を出る。上に戻ろうと歩けば隣をクロバが同じく歩く。

「アンタってさ歴史に残りそうなアホだよな」

 急に罵られたけれど兄妹達と違い声が温かみを感じ視線を向ける。

「一階を渡しちまうのも、そうだけど……お人好しすぎて本当……ありがとな」

 照れ隠しなのか唇を少し尖らせて言い。軽く息を吸いこみ思い出したかのように言う。

「まあ、あんなクソ野郎共に管理させたのは駄目だけどな」

 クロバの言葉に深く頷く。

「そう、それは本当に……あ、忘れてた。今日の物資を貰ってない」

「ん? あ、あ〜そうか、そっちから貰ってんだもんな」

 どうやらクロバは前に彼らと殺し合いのような事があり今は物資を持つダイハの護衛をし対価で物資を貰っては子供達に分けているらしい。

「じゃあ地下に行くのか」

「うん。一回、行ってから上に行くよ」

「ふーん……じゃあオレも行くかな」

「え、行ったら危ないよ」

「オレはアホ程、強いから大丈夫。本職は護兵だったしな」

 子供達と会ってからクロバはダイハ並みに、お喋りになった。もう機密とか無いからだろうか。彼は元々は任務の為に、この地域に来ていた事を話した。七階の部屋は依頼人が買っているモノでクロバのでは無いとの事。

「ぶっちゃけると、アンタの監視をアンタの身内に頼まれたんだよね」

「え……」

 まるで今日、初めて知りましたみたいな態度だったのに驚きだ。いや、途中でふくよかさを指摘されたか。

「ケイアって名前は知ってたし半年前に初めて見かけた時は驚きのデカさで写真だと、ぽっちゃりだったから驚いたのに今じゃガリガリだもんなあ……」

 クロバは天井を微妙そうに見上げ白い息を吐く。

「あーあ。皆で揚げたチキン腹いっぱい食いてーなぁ。稼いでた金、思いっ切り使ってさ。まあ今じゃ……」

 彼が言葉を止めた。地下一階の扉前に着いたのだ。扉を潜ると夜になっても列に並ぶ住人の姿が見えた。皆、疲れた表情をしている。普段より来た時間が遅いので列は少ないけれど終わっていない。クロバと共に並ぶ。クロバが来たら一触即発となる可能性に不安があったが特にアクションは無い。

 ただ普段とは違い視線のようなモノを感じる。人の視線は嫌いだ。無いモノがより無くなる気がして嫌になる。

「……そういえば、聞きたかったんだけど、あの子供達の親って…」

「ああ。オレだ。今日からアンタもだな」

「……わかった」

 親達は何処だとか何故だとか聞こうとしたけれどクロバの言葉で止めた。

 人は食べれないと普段、どんなに温厚でもおかしくなる。徐々に徐々に人はおかしくなる。クロバみたいな人もいるだろう。だけど、それは人にとっては、とても難しい事なのかもしれない。

「……まあ全員じゃない一部だ」

 列を見れば腕の中に赤ん坊を抱え旦那さんと寄り添いながら列にならぶ夫婦もいた。彼らの番になり母親が言う。

「三日めです。この子の分で粉ミルクをください」

「粉ミルク? 自分で出せる分があるだろ」

 受付の男の一人が冷めた目でそう言い彼女は男をギロリと睨んだ。

「栄養が足りないのに出るわけないじゃない!」

 夫婦が受付の一人に怒り列は片側の方で進む。ケイアの番が来た時、ミルク缶が一つ、夫婦に渡された。結局、ミルク缶が大きい為に他の食糧は無しになったらしい。

「お、ケイアか。遅かったな」

 受付の一人がケイアに何時ものインスタント麺を一つ渡し隣のクロバに、チラっと視線を向けサッと後ろの方を呼び込む。どうやら無視らしい。クロバは何も言わずケイアと共に列を離れた。

 階段を上りながら先程の夫婦が赤ん坊に声をかけている。

「これで、お腹が膨れれるからね。待っててね」

 乳が出ない。彼女も栄養がいる時期なのに頭が熱くなる。どうしょもない罪悪感がケイアを後押しした。他の人にバレないように夫婦に近付きインスタント麺を差し出す。夫婦が困惑の表情を浮かべればケイアは目を泳がせながら喋る。

「わ、私、その、インスタント麺、き、嫌いで……あと、お腹が空いてないんです。だ、だから貰ってくれませんか」

 今日は沢山、喋ったから大丈夫だと思ったけれど自分の意思を伝える時、上手く言葉に出来ない。ケイアは説明が下手だ。

 御礼を言う夫婦と別れてケイアとクロバは七階に辿り着く。

「一回、ガキ共に会ってから上行くぞ」

 何やら強制でクロバの部屋に案内された。クロバの部屋は、どうやら、もう少し大きい子達に渡しているらしい。クロバは防寒具の内側からソーセージ一本とインスタント麺二つ、塩豆を出し彼らに渡す。さっきの箱の時、内側に分けておいたようだ。

 肉だと大喜びの子供達。クロバは全員の頭を撫で回す。

「その人だれ?」

 子供の一人が不思議そうにケイアを見上げながら言えばクロバはニヤッと笑みを見せ言う。

「オレの奥さんだ」

「「え」」

 ケイア含み皆が驚きの声を上げたが、ソレを置き去りにしてクロバが上へ向うので付いていく。

「え、えっと……結婚もしてないのに」

 階段を上りながら混乱しているケイアが呟くとクロバがニッと笑みを見せ言う。

「承諾したろ」

「しょ、承諾……?」

「オレが親でケイアも親になるってさ。なったからにはオレらは夫婦なわけだ」

「……な、なるほど?」

 ケイアは、それが夫婦の誓いなどと思いもしなかったので非常に驚いたけれど、もうこんな終末なのだ。そんなものかもしれないと思う。

 ダイハの住む十八階まで戻ると紹介するよと言ってクロバに手を引かれ、ダイハ一家に祝福されてしまった。祝福ついでにご祝儀として栄養ドリンクの六本入りを出され出来れば栄養剤がほしいと願ってみればマルチビタミンの錠剤袋を一つくれた。九十粒入りだ。

 心から御礼を言い明日からの雪かきは念入りにしようと心に誓う。

「これを子供達と、あの夫婦にも……」

 クロバは呆れた目をケイアに向けたが否定はしなかった。何故かクロバもケイアの広い部屋にやってきて見渡す。

「屋敷並みに広いなあ……お、すげぇ機械部屋?」

 一部、機械に囲まれた部屋を見てクロバは興味深そうに言う。

「そういやあ……依頼内容にケイアの研究資料を盗んでこいってのあったな」

「え……兄さん、興味あったの……?」

「まだなのかって何度か聞かれたけど氷河期始まってから、もう放置よ」

「クロバは何でも話すね」

「もう隠す必要ないし、ある意味、この解放感だけはオレ気にってんだよなあ」

「……えーっと、じゃあ私も……んんんッ! 研究は……簡単に言うと……過去と文通するみたいな……」

「文通? へ〜なんか凄そう。でも何で?」

「と……友達がいないから……」

「ん?」

「友達がいないから……過去の私と話して一人じゃ無いって慰めようと思って……」

「お〜じゃあ三人で会話しよーぜ」

 クロバの言葉に胸が温かくなった。自然と彼は一人にしない。突き放さない。彼は根っから優しい人なんだろう。

「あ、でも、まだ完成してないんだ……」

「ふぅん? まあ時間はあるし好きなだけ好きなようにしようぜ」

「うん」

 今は文通は出来ない。出来るのは、こちらから過去のメールに送れるぐらいだ。

 それからの日々は一ヶ月程度ではあったが氷河期前の自分よりも有意義と呼べる日々となった。一ヶ月、研究の前段階で一方的に今の日々の日記を送る事をする。最初はケイア、面白がってクロバやダイハ、その奥さん達や仲良くなった少し大きい子供達も、それぞれ使っていたメールに好きに送る。

 これは一方的な娯楽だ。過去に教えても今が変わるわけではないが、この破滅的な情報を教える事は別の次元の未来を変える可能性がある。今の自分達は終わりに向かっていく中、救えるかもしれない何かにすがるのは希望であり一種の娯楽だ。皆、気付けば夢中で互いに写真を撮ったりもして一方的に送り続けたのだった。


 ガンガン! ゴンゴン!


 食糧難から住民の暴動が起こった。一部の者以外は常に空腹に苦しめられ、その暴動にリンリは言葉巧みにヘイトを他者へ誘導させた。それは生前、上位だったとされる者や物資を前もって持っていたダイハ達こそが協力しない悪だと定めたのだ。

 ケイアは全部を差し出したと言ってもおかしくなかったが何故か悪となっていた。ダイハ達の家が襲撃され最後はケイアの家だ。此処をこじ開けても食糧など無い。今、中にあるのは避難しているダイハの妻一人と赤ん坊、なんとか逃げてきた子供達。

 何時の間にか用意された爆弾で入口をこじ開けようと嫌な音が響いている。

 クロバはダイハや子供達を助けようと動き重傷を負った。普通の相手ならものともしないが何故か住民ではない兵士がおり銃を所持していた。咄嗟に子供が撃たれるのを庇い身体に幾つも穴が空いたのだ。クロバは本当に強かった。だけどクロバ以外はケイア含め、へなちょこばっかりだ。

「委員会共は狂ってる……」

 クロバはギラギラとした瞳で扉を睨みつけナイフを握りしめる。この中の戦力はクロバぐらい。子供達やケイアが棒を握りしめていても大した抵抗にはならない。

「聞いたんだ……ボクら……」

 涙を流しながら子供が一人、悔しそうに呟いた。

「お腹の中を空っぽにしてハムにするんだって……」

 ケイアは一瞬、意味が分からなかったが、ああっと思う。もう終わりなのだ。本当に終わりなのだ。

「記念写真、撮っても良い……?」

「かまわねえよ」

 ケイアの言葉にクロバが答え。その写真を持ってケイアは最後のメールを送りに向う。全員で機械の部屋に閉じ籠もり皆、それぞれ言葉を送っていく。

 家の出入口には穴が空いたらしい。流れ込む住民の怒声が機械の部屋にも聞こえた。此処が開けられるのも時間の問題だ。物資が無いと怒り狂う声は開かない機械の部屋に集中しだす。

 最後のメールを送り付けた後、轟音と砂煙。鼓膜が壊れたのだろうか。頭が、ぐわんぐわんと揺れて、ぼんやりとクロバが入って来た相手を倒していくのが見えた。

 けれど重傷を負い多勢に無勢。知らない兵士も混ざれば膝を付くのはクロバだった。ケイアは音がしない世界の中で嫌な振動を感じながら倒れたクロバを上から抱きしめる。クロバも答えるように抱きしめ返し、その後の彼らにあるのは暗闇のみとなったのだった。




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