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鬼上司と落ちこぼれ部下の『治療契約』からはじまる秘密の関係  作者: 瑞貴


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11 調査会議①

 違和感の原因とはメガネである。

 胡桃のレンズ越しに向こう側を見ても、視覚を矯正するような変化がないのだ。


 本来なら僅かにゆがみや形が変わるだろうが、それが一切ない。


 胡桃の第一印象で強くインパクトを残す、縁の太いメガネには、レンズに度が入っていないのだ。


 琢磨がそう理解した次の瞬間、胡桃が少しだけ嬉しそうに顔を緩ませると、小さく発した。


「終わりましたぁ~」

「さすがだな。半日で作り上げるなんて、よくやったな」


「元のデータができていたので、私はレイアウトを変えるだけですから」


「いいや、既存の資料があると案外それに影響を受けるから、簡単ではないと思うぞ」


「自分がわかりにくいと思ったままに修正するので、難しくありませんでした」


「はは、そうか」

 嬉しそうに琢磨が笑う。


「やっぱり、男性に囲まれて仕事をしていると、全然集中できていなくてミスが多いですね」


「それに気づけただけで十分だ。だけど今だって苦手なはずの俺が横にいたが、ちゃんと作業はできていただろう」


「そう言われてみると、そうですね。なんででしょうか? 影山部長が近くにいても、全然気になりませんでした」


「男性恐怖症も、慣れたら克服できるだろうな。もっと男性社員と会話をしろよ」


「影山部長……。簡単に言いますけど、慣れるまでにどれだけの試練があると思っているんですか……?」


「まあ、悠長に言っていられないときがくるだろうさ」

 真っ青になり、無理無理と首を横に振る胡桃を見た琢磨は、にこっと微笑むと疑問を投げかけた。


「白浜はどうして度の入っていない眼鏡をかけているんだ?」


 彼女は隠しておきたい伊達メガネについて指摘されてしまい、頬をほんのり赤くし、長い髪で顔を隠すように下を向いた。


 そうしてやや俯きがちになった胡桃は、静かに説明を始めた。

「眼鏡をかけている方が、顔が隠れる気がして。それに眼鏡がないと、いまいち締まりのない顔といいますか……」


 もじもじと話す胡桃を見て、琢磨がくすくすと笑った。

「締まりのない顔って、そんなわけないだろう」


「あっ、ありますよ! 私は締まりのない顔をしているから、眼鏡をかけるように母からいつも言われていましたし」


 そう言って眼鏡を外した胡桃を見た琢磨がハッと息を呑むと、そのまま固まってしまった。


 アーモンド型の形の良い瞳がきらきらと輝き、男性のみならず女性の目も惹く魅惑的な顔つきの美人。それが目の前におり、思わず釘付けになってしまったのだ。


(母親が再婚した義理の父親と一緒に暮らしていたんだよな。母親が白浜に締まりのない顔と言って眼鏡をかけさせていたのは、綺麗な娘の顔を隠すためなんじゃないか?)


 まじまじと顔を見ながら考え込む琢磨の様子を見て、胡桃が慌てながら眼鏡をかけた。


「ご、ごめんなさい。返答に困る顔を見せてしまいました」


「ははっ、最近は女性に綺麗と言ってもセクハラだって訴えられるらしいからな。容姿については、思ったことをそのまま伝えられないから悪いな。褒めても駄目とは、この世の中どうかしているよ」


「あっ、そうですよね。部長の立場だと、パワハラとかセクハラとかがあるから、言葉選びも大変ですね」


 まあねと言う琢磨は、照れた顔を隠すように横を向き、自分の煩い鼓動が収まるまで、目の前から胡桃が立ち去って欲しいと考え、身支度を急かした。


「仕事も終わったことだし帰るとするか。早く上着を持って来いよ」


 その言葉を受けて「はい」と動き出す胡桃は、女子更衣室へと向かい、コートを取りに行った。


 琢磨の前から胡桃が消えた瞬間、彼は「ふぅ~っ」と深い息を吐く。


(白浜は部下だぞ。14歳も年の離れた新人になにを動揺しているんだ。気になっているのか? いやまさかな。一生懸命な彼女に絆されているだけで、気のせいだろう)


 口元に手の甲を押し当て、やや照れたような表情を見せる琢磨が、自分の抱いた感情を必死に掻き消そうとしていた。


お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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