第4話 落合楪は彼女を想う
すーすーとうつ伏せになりながら寝息を立てる橘先輩の顔を見ながら、私はふうっと息を吐いた。
「――今は心地よさそうな顔をしていますね」
温かいお風呂に入り、ご飯を食べたからか、今は血色もよくなり、少しは元気を取り戻しているように思えた。
彼女には似合わないパンダのパジャマをわざと着せ、これでもかと料理を振る舞い、何もしなくていいと話し家に留まらせ、マッサージまでして。
私がこのようなことを彼女にするのにはちゃんとした理由がある。
まさか昨日、線路に向かってダイブするとは思っていなかったけど、本当に助けられて良かった。
彼女が暗くならないように明るい声で彼女を抱きしめ、ホーム側へと引っ張りこんだ時、身長は高いのに弱々しい細い体に少し衝撃を受けた。
ご飯も満足食べていない。いや、喉を通らない。
頬もこけていて目の下には深いクマ。疲れとストレスが凝縮されたような顔をしていた。
だからこそ、私が救わなくてはと、家にまで連れ込んだ。
彼女を裸にしたのは、私が彼女の裸を見たかったから。
決して手は出していない。好奇心に負けて胸を一掴みくらいはしたけど……。
でも、やせ細った体を確認したあとは、その変な気分を抑えることにした。
彼女にはこれから、とことん優しくしてあげなければいけない。
もっと食べて肉をつけて、元気になってほしい。
そしてそれは、私が全部彼女にしてあげたいことだ。
そんな私が彼女の会社に転職してきたのは、一週間前。
でも、ずっと前からこの会社の存在は知っていた。
ただ、色々と準備があったから、このタイミングになってしまっただけ。
取引先の企業としてこの会社に顔を見せたあと、軽く社内を覗き、どんな人がいるのかを把握。
友人のネットワークを駆使して、徐々に彼女の社内の人に外から近づき、情報を探る。
何が弱みなのか、何を隠しているのか。
私は橘先輩を幸せにするための準備を整えてから、こうして転職を成功させたのだ。
出社日に挨拶をした時、橘先輩の反応は薄かった。
もちろんそんな反応になることはわかっていた。
なぜなら私は変わったから。
橘先輩が知っている私ではなくなっていたから。
逆に言えば、私が知っている橘先輩でもなくなっていた。
それでも私はずっと昔から今の状況を見据えていた。
尊敬でも、羨望でもない。
これは愛だ。ただ、彼女に対する恩を返したくて、私は勝手に自分の人生を捧げた。
半ば強引な行動ではあったけど、今彼女は私の家でリラックスしてくれている。
こんなに素敵な人を使い潰し、性欲のはけ口にしてきたこの会社の社員が許せない。
もっと彼女をケアできる人はいなかったのだろうか。守ってくれる人がいなかったのだろうか。
私は彼女の長い髪に指を通しながら決意する。
彼女にストレスを与えるような酷いやつは排除しなくてはいけないのだと。
そして、私は幸せだと、彼女が自信を持って言えるように、私は行動を開始する。