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わたしを救った百合迫る後輩との同居生活は想像よりもずっと甘い。  作者: 藤白ぺるか


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第28話 帰郷

 クリスマスが終わり、少しだけ仕事を挟んだあとは、有給を組み合わせて一週間の年末年始の休みを取った。

 これまででは考えられないほどの長い休暇だった。


 私たちはこの年末、私の実家である北海道函館市に一緒に向かい、年越しをすることになった。


 なぜ私の実家になったのかというと、それは落合さんが「一緒に帰省したい」と言い出したからだ。

 私自身も数年、母の顔を見ていない。帰るなら今しかないと思い、新幹線のチケットを予約した。


 北海道に新幹線が開通したのはごく最近のこと。

 とはいえ終着駅は函館ではなく新函館北斗駅という町の中心から少し離れた駅だった。

 現時点で北海道新幹線は新函館北斗駅までしか繋がっていない。

 線路が札幌まで繋がるのはしばらく先のようだ。


 飛行機なら一時間半で着いてしまうけれど、落合さんは北海道新幹線に乗ったことがないそうで、移動時間も楽しみたいとのことで、新幹線で向かうことになった。


「せんぱーい! お弁当いっぱいですよ〜!」

「うん……私はすき焼き弁当が良いかな」


 東京駅。新幹線に乗る前、私たちは駅弁屋でお弁当を選んでいた。

 最近は新幹線に乗る機会がなかったけれど、私はこのすきやき弁当が昔から好きだったような気がする。


「じゃあ私は焼き鳥弁当とうなぎ弁当にしまーす!」


 落合さんといえば、いつも通り私の二倍は食べる。その食欲は駅弁でも例外ではなかった。

 ただ、ひとつ気になることがあった。


「焼き鳥弁当はやめなさい。中身は全然違うけどやきとり弁当があるんだから」

「あっ! ハセガワストアですよねー!」

「く、詳しいわね……」

「えっへん! では、別のを選びまーす!」


 妙に函館に詳しい落合さんは、ハンバーグ入りの弁当を選んだ。

 私たちは駅のホームへ向かい、新幹線がやってくると、指定された席に乗り込んだ。


 片道およそ四時間。実家への帰省の旅が今はじまった。


「あぁ〜〜っ、おいしっ♡」


 パクパクと弁当を食べながら、缶ビールを飲み、窓からの景色を楽しむ落合さん。

 舌鼓を打ちながら、幸せそうに笑っている。


「私のすき焼きもとっても美味しい。このタレがご飯に染み込んでるのが美味しいんだよなぁ……」


 少しだけ、学生の頃を思い出す。

 母は夕食をすき焼きにすると、その残りを使って翌日はすき焼き弁当にしてくれた。甘じょっぱいタレがお米に染みていて、本当に美味しかった。


「残すなら私がもらっちゃいますからね〜」

「なら三つ目のお弁当、買っておけばよかったのに」

「…………」

「なによ」

「先輩って、私の大食いにも慣れましたよね。もう驚きもしないし」

「そりゃ、毎日見てれば嫌でも慣れるでしょ」


 朝、昼、晩。

 落合さんはすべての食事で量が多い。ただ、ジャンクフードなどのお菓子はほとんど食べない。


 作ってくれる料理はどれも栄養バランスが良くて、私にとっては最高の食事。

 ただ、落合さんの量が多いだけ。

 お菓子を食べないぶん、摂取カロリーは抑えられているのかもしれない。

 そのおかげで肌荒れも少ないのかもしれない。


「先輩が徐々に私色に染まってる……!」

「染まってるというより、慣れただけでしょ。そういうのって、例えば――彼氏の好みに合わせて服装を変えるとかでしょう?」

「うーん。そう考えると、先輩って少し明るくなったけど、あまり変わってないかも。服も全然買わないし」


 確かに、落合さんと出会ってからの私は、少しずつ変わってきた。

 でも、変わったことはそれほど多くはない。


 一緒に買い物に行っても、私は元々使っていた化粧品を買い直すだけ。

 服も昔買ったものを着回しているだけだ。

 仕事のせいで痩せてしまったから、昔よりは少し緩くなったけれど、着れないことはないのでそのまま使っている。


「まあね。インテリアも落合さんと選んだものだし……自分のために新しいものって、あまり買ってないかも」

「先輩、私に安心しすぎてるんじゃないですか〜?」

「どういう意味よ」

「例えば、恋人だとデートのために頑張ってお洒落するじゃないですか。でも、先輩って私と出かけるときも、普段と変わらないですよね?」

「それはまぁ……女同士だし。同じ家で暮らしてるから、変化が分かりづらいだけじゃないかな」

「先輩はもっと私にドキドキしてくださいっ!」


 いや、してるって。

 だから、クリスマスのとき、少しだけ変な気分になったんじゃない。


「じゃあ、今度新しい服でも買いに行こうかな」

「えっ、ホントですか! なら私も――」

「いや、一人で買いに行く」

「なんでですかっ!!」


 私の言葉に、落合さんは箸を置いて、ぐいっと顔を近づけてくる。


「落合さんだって私の変化が見たいんでしょ? だったら、あなたの知らない私がいきなり現れた方が驚くし、ドキドキするかもしれないでしょ」

「た、確かに……でも……先輩と一緒にお買い物したいっ!!」

「それは別の機会にすればいいでしょ」

「そうですけどぉ……」


 落合さんは基本的に私と一緒にいたがる。

 最初よりはずっとマシになったけれど、隙あらばどこにでもついてこようとするのだ。

 なんとか彼女をなだめた私は、今度こそ一人で買い物に行こうと心に決めた。


「わっ、雪だ!」


 東北あたりに差しかかると、窓の外の景色がガラリと変わり、東京では見られなかった雪が視界を白く染めた。

 落合さんはスマホを窓に向けて、夢中でシャッターを切りはじめた。


 青森から函館までは青函トンネルを通って津軽海峡を渡る。

 そうしてしばらく暗闇の中を進んだあと、ついに私の故郷・函館が見えてくる。

 まだ積雪量は多くないが、もちろん雪は降っていた。


 新幹線が停車し、新函館北斗駅に到着。

 降りた瞬間に感じたのは、空気の匂いの違いだった。


 冷たい空気が鼻をさし、肌寒いでは済まされない寒さが体を襲った。

 しかし、そのせいか空気がとても澄んでいる気がした。

 ビルもない畑だらけの駅。都会とは大違いだった。


「わあああ…………って、さむぅっ」

「うん。寒い。早く中に入ろうっ」


 この日の東京は最高気温十度、最低気温は一度。

 一方で函館は、最高気温が一度で、最低気温はマイナス七度。

 およそ十度も気温差がある。そりゃあ寒いはずだ。


 私たちは急いでエスカレーターを上がり、温かい駅構内へ向かう。

 函館駅行きのチケットを購入し、やってきた電車に乗り込むと、すぐに函館駅へと到着した。


 函館駅は、東京の駅に比べるとかなり小さな駅だ。

 説明したとおり新幹線は通っておらず、札幌行きの特急列車・スーパー北斗などが出ている程度で、利用客もそれほど多くはない。


「ぁ…………」


 落合さんと一緒に改札を出た、そのときだった。

 手を振ってこちらに向かってくる人がいた。


 数年ぶりに会ったその人物は思っていたよりも老けて見えた。

 シワが増え、白髪も目立つ。少し痩せたようにも見える。


 それでも、私が知っているあの人らしさはちゃんと残っていた。


 ――母が、そこにいた。


「お母さんっ」


 キャリーバッグを放り出し、小走りで駆け寄った私はそのまま母に飛びついた。


「詩暮……いつからそんな甘えん坊になったの? でも、見ないうちに大人の女性になったわねぇ。少し痩せたかしら……ちゃんとご飯は食べてる?」

「うん……うん……っ。お母さんこそ、痩せたじゃん。ちゃんとご飯食べてるのって、私が聞きたいよ……」


 仕事で辛かったこと、そのすべてが一気に洗い流されるようだった。

 落合さんには申し訳ないけれど、母はやっぱり偉大だと痛感した。

 だって、顔を見ただけで涙が溢れるんだもん。


 母のイントネーションは完全に北海道弁だった。

 私はもう東京に染まってしまったからほとんど出ないけれど、お母さんのなまりは何一つ変わっていなかった。


 しばらく母と抱き合って、ようやく私は落合さんを紹介しようとした。

 涙をハンカチで拭きながら、少し照れた声で口を開く。


「お母さん。こっちは私の会社の後輩の落合楪おちあいゆずりは。事前に言ってたけど、お泊りするからよろしくね」


 そう紹介したまさにその時だった。

 私の想像を大きく裏切る反応が返ってきた。


「――あら。後輩だって言うから誰かなと思っていたけれど、楪ちゃんじゃない。久しぶりねぇ。また可愛くなったんじゃない?」

「お久しぶりです、夕子ゆうこさん。可愛くなっていたなら、とっても嬉しいです」


 母は教えてもいないはずの落合さんの名前を呼んだ。

 そして落合さんもまた、私の母の名前を、当然のように呼んだ。


「――――――えっ」


 私はその場で固まってしまった。

 理解が追いつかなかった。


 どうして二人は、面識があるのだろうか……?





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