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わたしを救った百合迫る後輩との同居生活は想像よりもずっと甘い。  作者: 藤白ぺるか


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第16話 提案

 脱衣所へ向かう前に浴衣を身にまとった。

 この布地の感触もいつ以来だろうか。何年ぶりか思い出せないほど遠い記憶だ。


 浴衣は複数の柄の中から好きなものを選ぶことができ、私は青地に水色と白の花が散りばめられた涼しげなデザインを選んだ。

 一方で、落合さんは赤と白の花が映える、淡いピンクの華やかな浴衣を身につけていた。


 落合さんは私とは対照的に明るく華やかな色が本当によく似合う。

 その姿を見るたび、少しだけ羨ましいと思ってしまう自分がいる。


 茶羽織を羽織り、私たちは大浴場へと足を運んだ。


「わーっ! 綺麗でひろーい!」


 何のためらいもなく脱ぎ、堂々とした姿で浴場に入った落合さんは、目を輝かせながら感嘆の声を上げた。

 その豊かな胸が揺れ、張りのあるお尻が露わになる様は、若さそのものの象徴のようだった。


 一方で私はというと、貧相でとても人前に見せられるようなものではないので、しっかりとタオルで体を隠していた。


 軽く身体を洗い流したあと、私たちは最初に露天風呂へと向かう。

 私は、室内の風呂よりも、外の空気に触れながら入る露天風呂の方が好きだった。


「あ゛あああああ〜〜〜」

「気持ちいい〜〜〜っ」


 おっさんのような声を出してしまった私とは対照的に、落合さんはとびきり可愛らしい声をあげて、肩まで湯に浸かっていた。


 一番手前の浴槽はやや熱めのお湯だったが、私の体にはちょうど良く、心地よく感じられた。

 見上げれば、箱根の山々が静かに佇んでおり、東京のようにビルが立ち並ぶ景色とはまったく違う、自然の包容力がそこにあった。


 露天風呂の浴槽は三つに分かれており、それぞれ異なる効能があるらしい。

 わずかに香る硫黄の匂いも、久しぶりに嗅ぐと逆に心を落ち着かせてくれる。


 体に染みわたるこの感覚。

 こんなにも気持ち良いものだったのか、と改めて思い出す。


「疲れとれちゃいますね〜」

「うん。これは、とれる……」


 全身でお湯に包まれる感覚は、やはりシャワーでは得られない。

 私は忙しさを理由にずっと家で湯船に浸かることを避けてきた。

 落合さんに命を救われたあの日くらいだ。


 たまには家でも浸かった方がいいのかもしれない。……でも、あれって、溜めるのが面倒なんだよなぁ。


「先輩って、本当にモデルさんみたいな体してますよねっ」

「そ、そんなジロジロ見ないで。お風呂ではマナー違反でしょ」

「知りませ〜ん」


 関係なしに落合さんは私の体を凝視する。

 そんな彼女の体は男が好きそうなメリハリのあるボディである。


「落合さんって、けっこう食べるよね」

「そうなんですよ〜。お肉落とすの、めっちゃ大変なんですから〜」


 あれだけ食べるのに、なぜ痩せているのか。本当に不思議だ。

 細いのに、胸もお尻もちゃんとあるなんて、正直ズルい。


 だけどきっと、見えないところで努力しているのだろう。

 ――いや、もしかしたら、本当に体質がすごいだけなのかもしれないけど。


「次、別の露天風呂行こうか」

「えっ、先輩出るの早くないですか?」

「私、温泉は好きだけど、熱いのはちょっと苦手で……。すぐのぼせちゃうの」

「へぇ〜〜。いいこと聞きました♪」

「どこがいいことなのよ……」


 その後、私たちは他の露天風呂にも入り、髪や体を洗いながら、内湯やジェットバスも楽しんだ。


「ジェットバスのお風呂、良かったですね〜!」

「うん。肩とか腰にちょうど水圧が当たって……マッサージされてるみたいで……」

「先輩、どうかしました?」

「夕食まで、まだ時間ある……よね?」

「はいっ。館内を周る予定だったかと」

「ねえ――」


 私はそこで、落合さんに一つ提案をした。


 ◇ ◇ ◇


「ヤバい……これ……本気で死にそう……」

「じゃなくて、“眠りそう”の間違いじゃないですか?」


 私たちは館内のサービスの一つである、マッサージを受けていた。

 専用のマッサージルームで、追加料金を支払って受けられる本格的な施術だった。


 施術師は全員女性で、安心して身を委ねることができた。

 適度な指圧が心地よく、このままでは夕食前に眠ってしまいそうだ。


「先輩〜。私、気持ち良すぎて……先に寝ちゃいますぅ〜」

「…………」

「え? 先輩? ちょ、ちょっと?」

「…………」

「えぇ〜!? ずるーい! ほんとに寝ちゃったんですか〜!?」


 落合さんの声は、意識の奥でなんとなく響いていたが、私は完全に夢の中へと落ちていた。


「――ぱい……せんぱい……先輩、終わりましたよー」

「ん……あぁ…………」


 気がつけば、マッサージ台の上でぐっすりと寝てしまっていたようだ。

 心からリラックスできたせいか、体の重みがふっと消えた気がした。


「ごめん、寝ちゃってた」

「ふふっ。いいんですよ〜。ほら、もうすぐご飯の時間ですよ。戻りましょっ」


 施術台からゆっくり体を起こし、落合さんの手を借りて私たちは部屋へ戻った。


 ◇ ◇ ◇


 マッサージは、以前に落合さんにしてもらったときよりも、さすがに段違いで気持ち良かった。

 比べるのは悪いけれど、やはりプロは違う。


 肩も腰も軽くなっていて、寝たせいか若干のだるさは残るものの、明らかに体は楽になっていた。


 ちょうどその頃、部屋に料理が運ばれてきた。


 私がこの旅館を選ぶ際の決め手の一つが、部屋食であることだった。

 バイキング形式も嫌いではないけれど、今日はしずかに、落ち着いた空間で味わいたかった。


「しゅ、しゅごぉぉぉぉぉっ!?」


 豪華に並べられた懐石料理の数々に、落合さんの声が裏返る。


 胡麻豆腐、湯葉、生ハムにフォアグラ。金目鯛に伊勢海老、鮑、黒毛和牛のすき焼き、トリュフ入りの茶碗蒸し……どれもこれも、見た目からして高級感に溢れている。


 思わず、私も口の中に唾液が溜まる。


 けれど、これだけでは落合さんは物足りないと思い、事前に旅館側に相談し、料理の量を通常より増やしてもらっていた。


「せんぱいだいしゅきっ!!」


 目を輝かせ、よだれを垂らしかけた落合さんと乾杯をして、食事が始まった。


「――犯罪的……! うますぎる……! 涙が……! 私はこの瞬間のために生きてるぅ……! かぁ〜っ! ビールも……キンッキンに冷えてやがる……!」


 なぜか鼻と顎を伸ばした落合さんが、悪魔的な笑顔で舌を鳴らす。


「ほんと、美味しいね……。信じられないくらい」


 温泉に入るだけでも、意外と体力は消費する。

 サウナに入ったわけでもないのに、しっかり汗をかいたせいか、お腹が空いて仕方ない。

 だからか、料理をより一層美味しく感じれたと思う。


「足りなかったら言って。もう追加はできないけど、私の分あげるから」

「先輩っ、先輩……! 私、幸せですっ!!」


 落合さんはフードファイターのごとく、箸を止めることなく頬張り続けた。


 その姿に微笑みつつ、私もお酒を飲み進める。

 これだけ飲むのは……落合さんの歓迎会以来かもしれない。



「せんぱ〜い。大丈夫ですか〜?」

「だいじょーぶれす……まだのめるはら……ビールぅ……」


 頬が火照り、言葉もうまく出ない。

 頭の中はふわふわしていて、体が思うように動かない。


 テーブルの上はすでに片付けられ、あとは自販機で買った酎ハイや缶ビールが数本、転がっていた。


「先輩、飲みすぎですよ〜。もうやめましょ? やめないと、襲っちゃいますよ〜?」

「おそーってなんら〜? ひんそーだし、私に魅力なんてないらぁ〜」


 後頭部が妙に柔らかい。どうやらいつの間にか、落合さんの膝の上に頭を置いていたらしい。

 髪を優しく撫でられて、心地よさに溺れそうになる。


「先輩は魅力の塊ですよ〜。そんなこと言ってると、ほんとに触っちゃいますからね〜。浴衣って、するっと簡単に……ね?」

「やってみろぉ〜……もう全部忘れるしぃ〜……」


 すると、落合さんの手が、はだけた浴衣の隙間からすべり込んでくる。

 下着をつけていなかったため、そのまま素肌に触れられて――


「やぁっ……だめぇ……」

「せ、先輩っ……そんな声出したら……私、もう……っ、ダメですって……」


 熱のこもった落合さんの声が、耳元で震えていた。

 でも私は意識が消えかけていて、もうどうでもよくなっていた。


 気づけば私は彼女の手をぎゅっと握りしめていた。

 だからか、落合さんは指先だけで、そっと優しく、私の敏感な部分を触れ続けた。


「――――っ! こ、これ以上は……やめておきますっ! ちゃんとするなら……シラフの時が……っ」


 落合さんの手が止まり、私の緊張した体も、ふっと解放された。


「お布団、もう敷いてありますからねっ。移動しますよ〜っ」

「う、うーん……」


 私は半ば抱きかかえられるようにして布団に運ばれ、そこへ横になった。

 あまりに気持ちよくて、目を閉じた途端、すぐに眠気が襲ってくる。


 ただ、意識がほとんど飛びそうなその瞬間――枕元で、落合さんの声が聞こえた。



「――――先輩。私たち……一緒の家で暮らしませんか?」



 それは、彼女からの思いがけない提案だった。







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