捨てられた猫を拾ったら化け猫だった話
少しライトな百合を目指して書き上げました。
お楽しみいただければ幸いです。
「捨てられた猫を拾ったら化け猫だった話」 ましろん
柳原椿 主人公 21歳 大学3年
両親の元を離れて一人暮らしをしている女の子。言動は淡白だが実は優しい。
ジト目で黒を基調にした服が好き。
愛煙家であり、キャスターホワイトが好き。捨て猫のもみじを拾う。
もみじ 化け猫 ??歳(人間でいうと16ぐらいの見た目)
捨てられていた猫。化け猫としての姿を隠し持つ。首元にチョーカーをつけている。
性格は意外と気分屋。思ったままに行動し、思ったままに泣き笑う。
猫耳と長い尻尾が特徴。
バイト帰りの道での出来事だった。その日は天気がとても悪く雨が降ることはわかっていたんだけど、まさかここまで豪雨になるとは……。
高架の下で少し雨がやまないか様子を見てみる。
柔らかい箱をトントンっと叩きつけて、タバコを取り出し、火をつける。雨風が強く吹くとアタシの手元が少し狂う。
「あっつ! ……はぁ、アタシついてないな。」
風に不満を垂れながらも、タバコに煙が着く。
――ふぅ……。
吐いた煙はいつもよりも白く濁っているみたいに見えて、まるでアタシの心みたいだった。
タバコが燃え尽きる。ゆっくりと持っていた携帯灰皿にもみ消す。帰らないといけないが、妙に足取りが進まない。 そんなときだった。
「……みゃ〜ん」
高架の外から、猫の声が聞こえた気がした。
こんな大雨なのに、外に猫が居るか? そんな疑問に駆られながら気になったのでアタシは寄り道がてら見に行ってみた。
「……ほんとにいた。」そこには猫の入ったダンボール。雨に打たれても捨てた飼い主の帰りを待っているようで、猫はアタシの顔をじっと上目遣いに見て、悲しそうな顔をしていた。
雷も鳴り始め、嫌な意味で外はにぎやかになってきた。
こんな顔を見たあとに、置いていくことなんて今のアタシにはできないだろう。
哀れみや、同情、そんなものも感じながら、一日だけ泊めて晴れたら逃してあげよう。
そう思って、アタシは猫に肩を寄せ、登ってくるか試してみる。
「……アンタ、すんなり登ってきたね」
すっと猫はアタシの肩に登ってきて、目を閉じていた。
ゆっくりと足を進めて、アタシは帰り道へと再び歩き出した。
**
……ほら、ついたよ。
家の中に入り、猫を肩から降ろすと……「にゃーん」と鳴きながら、そこらをうろついてみせる。まだ捨てられて間もないのか思ったよりもちょこまかと動き回り元気そうだった。
――そのとき、目を疑う光景が見えた。
「ふうっ……助かりました、拾ってくれてありがとう。」
そこに現れたのはさっきまで普通の猫だったはずの女の子で、猫耳が生えている女の子へと姿を変えていたのだ。人間と大差のない日本語を話し、中学生ぐらいの見た目をしていた。
女の子のアタシだからこそ犯罪にならなかったけど、男の人が連れ帰っていたら誘拐拉致だとかと言われてもおかしくないレベルだ。
「ええええっ!?」
驚きのあまり、とんでもなく叫んでしまった。だがここは落ち着かなくては。
「あ、アンタ……さっきの猫、だよね?」
アタシがそう言うと疑問に思ったような顔をしながら、猫?は言う。
「ビックリするよね、私のご主人様もそうでした。」
「私はもみじ、って言います。恩人様のお名前は?」
ぺこりと、頭を下げてもみじが問う。
「恩人様って……なんだか大層な言われ方だけど。」
「アタシは椿、柳原椿。」
「椿ちゃん、でいい?」
「なんか名前で呼ばれるのには慣れないけど……別にいいよ」
……さっきまで猫だったはずなのに、どういうことなのか全くアタシの頭は追いつかない。
混乱というか、錯乱と言うか。そんな気分にさえなっていた。
「一日だけ、泊まって帰ってもいいですか?」
「好きにして」
アタシは少し落ち着かないといけないみたいだ。
少し、強い言い方をしてしまったが、もみじは動じていないらしく、器用にしっぽをふまないようにソファへと座っていた。
「……椿ちゃん」
「何?」
「心配しなくても、私にはご主人様が居ますから、きっと自分の家に帰れると思うんです」
「……ご主人様は優しくて、いつも私のことをかわいがってくれてました。でも、私のこの姿を見て、どうしても受け入れられないみたいで、猫に戻っても優しくしてくれなくなって」
もみじはアタシの方を見てゆっくりと続ける。だんだんと辛くなってきたみたいで、少し声が震えるけど、表情は明るいままで。
「でも、きっと信じてるんです。ご主人様も今頃帰りを待っているだろうな、って。」
「きっと、間違って置いて帰っちゃっただけなんです、もみじのこと」
ほんと、どうしようもなくご主人様に固執しているみたいで、可哀想にも思えてきた。
だけど、アタシは信じ続けることが悪だとは言わないけど、もみじがこれ以上その”ご主人様”のことを信じ続けていても、きっと傷つくだろう。
だって、彼女は不必要として、捨てられたのだから。
「それさ、ホントに思ってるわけ?」
アタシは思わず言ってしまう、真実を知ることが残酷だとしても伝えなければ生きていけないこともある。
「えっ」
もみじは少しびくっとしたように、逆立った毛のしっぽを揺らしてみせる。
「アンタは、捨てられたんだよ」
「そ、そんなことありません! きっと、帰りを待って……」
もみじは懸命に否定する。だけど、アタシは言葉を遮って続けてみせる。
「いるわけないでしょ、だからアンタはわざわざダンボールに入れられて、こんな郊外の隅っこの路地に捨てられてるわけ。はなから必要なかったってことだよ」
「……メシ食べて、気が済んだら出ていきなよ。アタシは別になんも言わないからさ。」
「あはは……そう、ですよね」
ぽたりとずっと我慢していたもみじの瞳から涙がこぼれ落ちる。
自分は捨てられたんだって、見つめたくない現実を、信じたくない現実をアタシから告げられたことによって、ようやく本当の意味で”現実”を見ていた。
もみじは俯いてソファに寝転がっていた。
**
「あんま料理の味には期待しないで」
「えっ? こんなに美味しそうなのに?」
もみじに差し出した料理は、特製のチャーハンと手で作っていた餃子だった。
猫だから猫のご飯のほうがいいのかとも思ったが、昔見た猫耳の女の子のアニメでは、人間のメシも普通に食べていたなと思ってたけど、どうやらあのアニメの言うことは本当だったらしい。
「いいから、食べなよ。 さっさと食べないと餃子、無くなるからね」
「は、は〜い! いただきます」
ほんと、耳としっぽが生えている以外は普通の女の子に見えてならない。
もみじはハフハフと熱々の餃子に息を吹きかけながら、冷まして食べている。
「お、美味しいです!」
「……よかったね」
想像以上に嬉しそうなリアクションをしていて、アタシも少しは作って良かったと思えた。
親父も猫を飼っていて、もみじの笑顔を見て遠い空に居る柔らかな笑顔の猫をつい思い出してしまった。
独立して、この家に住んでるけど、親父どうしてるかな。
「ごちそうさまです!」
あっという間にご飯も完食して、ご機嫌そうにゴロゴロと喉から鳴らしているもみじ。
ほんと、猫って、単純だな。
ふぅ、と換気扇の下でタバコを吸っていると、「お悩み相談、したいんです」と真剣そうなもみじが声をかけてくる。またまたなんだよ、と思いながらもアタシは聞いてみた。
「で、もみじの悩みって?」
「わ、私って猫じゃないですか!」
「……うん、見りゃわかるでしょ」
「でも、半分人間でもあるわけです」
なるほど、確かにもみじは半分猫で、半分人間。
だから猫にもなれるし、人間にもなれる。
「でもそれって、結局両方”半分”でしか居られないんです」
「人間になろうとしても、半分猫で、耳もしっぽもあって」
「うん」
「猫として生きていくにも、飼い主様に捨てられ……て」
また涙を浮かべるもみじ。どんどんと垂れ流れて来る涙はとどまる様子を知らなかった。
それでも、もみじは言葉を紡ぐ。
「半端者のわたしはどうやって生きていけばいいんでしょう」
「今日が過ぎたらまた明日が来て、また次の寝床を探さないといけなくて」
「いっそ、中途半端な猫として生きるより、化け猫として身体を売って、人間様のお家に住ませてもらうほうがいいんじゃないかって」
「もみじ、どうやって生きていけばいいんでしょう」
暗く陰鬱な顔をしたもみじは、アタシに言葉を求める。
猫としても生きて行けず、人間としても半端者としてしか生きていけない。
どこまで行っても半端者な人生。でも、少なくともアタシは、この子には身体売るなんてこと、考えてほしくなかったな。いや、考えさせたくなかった。
だって、まだそこらの学生と背丈も変わらない。猫としてはアタシよりも年上だろうけど。
「好きにすればいいんじゃない」
「そうです、よね……聞いてくれてありがとうございました」
もみじが、キッチンを去ろうとするがアタシは続けて言う。
「でも、アタシはアンタがそうやって身体を売ってる姿を見るのはごめんだよ」
「アンタがどこでくたばってようが……関係、ないけどさ」
もみじは立ち止まって、アタシの目を見て言った。
「……椿ちゃん」
また泣き出した。ほんと、世話のかかる子だな。
そっと抱きしめてあげる。不慣れな優しさを思いっきりもみじにぶつけてみる。
ゆっくりと髪を撫でて、耳を優しく撫で下ろしてあげる。
もみじのしっぽが絡みついてきた。
もみじはずっとアタシの胸元で鼻を啜りながら泣いている。
「好きなだけ、泣いていいんだよ」
ぽつりとつぶやくと、もみじの息と声が聞こえる。
「っ……ひっぐぅ……椿ちゃんっ……」 もみじの手はしばらく離されそうになかった。
**
布団が一つしか無いので、一緒に寝ることになる。
もみじのふわふわな耳としっぽが時々あたってくる。
「……あの、椿ちゃん」
顔をこっちに向けて、もみじはアタシを呼んだ。
「……何?」
静かにアタシは聞き返す。
「明日からも、一緒に居させてくれませんか?」
もみじはアタシの顔をじっと見つめて、真剣そうに聞いてきた。
「……そうだね、ほっとけないし、アンタのこと」
「それに、アタシもちょうど猫飼いたいと思ってたところだったんだ。」
「椿ちゃん……っ!」
もみじは感極まったように、嬉し涙を流しながらしっぽを絡ませ、全力でアタシにくっついてくる。アタシは必死に抵抗してみるも、そう簡単にもみじの気持ちは泊められなかった。
「うああっ、やめろやめろっ! くっつきすぎ!」
「だ、だって優しいから嬉しくて……ついっ」
「そのしっぽ巻きつけるのやめてっ!」
カーテン越しに夜空が見える。
すっかり、夜空は晴れ渡って満月が浮かぶ。
止まない心の雨に震えるもみじの気持ちも晴れ上がった。
おわり
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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ましろん