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閲覧ありがとうございます。これで完結です。


私は鎖で繋がれ、逃げようとする度に殴られた。


「ごめん。痛かったよね?もう俺から逃げないよね?愛してるよ。」

殴られると、その後はまるで私のことを本当に愛しているかのように抱きしめた。


「愛してるよ。俺のこと愛してるって言って。」

私は首を横に振る。だって名前も知らないこの人のことを、愛してなどいないもの。


それでも執拗に、毎日何度もこの質問は繰り返された。


「愛してるよ。俺の事愛してるでしょ?愛してるって言って。」

「はい・・・。愛してます。」


私はいつしか抵抗をやめた。


私が首を横に振るのをやめて、愛してると言うようになると、彼は嬉しそうに微笑んだ。

そうか。これが正解なのか・・・。



こんなはずじゃなかった。

国のために、戦えない皆のために戦う戦士のサポートがしたいと衛生兵に志願したのに。


涙が出て溢れて3日泣き通した。


「そんなに国に帰りたいの?」

私は頷いた。


「分かった。でも、戦場には帰さないよ。ちゃんと安全な場所に帰すから。」

4日目になると、彼は帰してくれると言う。


なぜ、そんなに泣きそうな顔をしているの?



彼はいつも優しかった。

私が逃げようとさえしなければ、彼はいつも私を優しく包み込んでくれて、愛を囁いてくれた。

きっと、愛していると言った彼の言葉は本物なんだろう。


でも、私の愛してるは、偽者なんだ。

彼は、私が愛してると言うと、とても嬉しそうな顔をするけれど、私は嘘をついている。

彼を愛してなんかいない。


ごめんなさい。私もあなたを愛することができたら良かったのに。

苦しかった。彼が愛していると言ってくれる度に、私が偽りの愛してるを口にする度に。


「ごめんなさい。」


戦地とは離れた国境まで送られると、私は彼から離れて逃げるように走った。

そっか。私、彼から逃げたかったんだ・・・。


そうだ。私はずっと彼から逃げたかった。

国に帰りたかった。

戦場に戻って、必死に戦う戦士たちの役に立ちたかった。


それが私の望みだったんだ。


しかしふと気になって後ろを振り向いたら、悲しそうに微笑む彼の姿に、私は離れられなくなった。


私の「愛してる」は「偽りの愛してる」だなんて、ただの言い訳。

本当は、敵である彼を愛していると自覚してしまうのが怖かっただけ。



ごめんなさい。もう逃げたりしない。

私は、敵である彼を愛してしまった私自身も受け入れてみせる。

彼をもう、悲しませたりしない。


だって、私はもう彼の隣でなければ眠れないから。




彼の元にもどると、彼は言う。

「帰ろう、俺たちの部屋に。」

「うん。」


「ねぇ私、あなたの名前知らないわ。」

「ん?そうだっけ?そう言えば俺も貴方の名前を知らない。俺たちの部屋に帰ったら教えてあげるね。」


「うん。あと、その・・・」

「ん?」


「愛してるわ。」

「うん、知ってる。俺も愛してるよ。」


私たちは、掌を合わせ指を絡めるように手を繋いで、ゆっくり歩き始めた。




最後まで読んでいただきありがとうございました。

別の小説も読んでいただけると嬉しいです。

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