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肩から下ろされた私は、とうとう拷問部屋についたのかと恐怖で固まっていたが、肩から下ろされると彼に抱きしめられた。


絞め殺されるのかと思ったが、彼はふんわりと優しく包み込むように私を抱き締めた。


全く意味が分からなかった。

最後の最後に慈悲の心でも湧いたんだろうか。

一思いに殺すから安心しろ、という意味だろうか?


そして私は、そのまま小屋に監禁されることになったのだと思う。

鉄格子は無かったけれど、鎖の繋がった足枷を嵌められたから。

もしかしたら、これから拷問が始まるのかもしれない。


彼は風を纏って戦っていたから、風魔法しか使えないと思ってたのに、彼は私の顔に手を翳し、ヒールを使ってくれた。


彼に腕を掴まれて、痛みに顔を歪めると、袖を捲られ、腕に残る痣が見えてしまった。

私がスッと腕を引くと、彼は乱暴に私の服を剥いでいった。

下着姿になった私の身体には、殴られ蹴られた痣や、殴り飛ばされた時にできた擦り傷がたくさんあって、彼は私のその傷を眺めて、顔を歪めた。


何をされるのか、理解している。

経験は無いけれど、敵に捕まった無力な女がされることなど一つしかない。


私は殺されることよりも、彼に身体を好き放題されることの方が怖いと思った。


「お願い、一思いに殺して・・・」

私が彼に発した初めての言葉だった。


「殺さないよ。俺に貴方は殺せない。」

初めて彼の声を聞いた。目を背けて呟くように言ったのに、ちゃんと彼に聞こえていたみたい。

これが私たちの初めての会話だった。


彼は悲しそうな顔をして、私を優しく抱きしめると、身体全体からヒールを発動した。


「怖かっただろ?痛かっただろ?もう大丈夫。俺が全てから貴方を守る」

彼は優しい声でゆっくりとそう言った。


私の傷が全て癒えると、彼は私に服を着せてくれた。

彼は傷を癒してくれただけで、何もしなかった。

私は少しだけ彼への恐怖心が和らいで、ホッと息をついた。


本当は良い人なの?

でも、味方の戦士をたくさん斬った人。



「傷、治してくれてありがとう・・・」

それにしても、彼が言った「貴方を守る」というのは何だろう?

傷を癒してくれて、優しく抱きしめてくれて、思わず忘れそうになるが、私は彼の敵なんだ。


拷問を受けている時に魔法使いに言われた言葉を思い出した。

『敵なのに一目惚れでもされた?』

この言葉が真実だとしたら・・・

だとしたら、彼は私をどうするつもりなんだろう?



本当はこんなことしたくないけど、まだ彼女は俺のことを警戒している。

だから仕方なく、土魔法で鎖と足枷を作って彼女の足首に着けた。


ごめんね。痛くないように角は丸くしてあるから。重くないように調節したから。

貴方が俺を受け入れてくれたら、その時は外してあげる。それまでは我慢してね。


彼女の顔に手を翳してヒールをかけた。

腫れて塞がっていた右目も、ちゃんと見える。綺麗なエメラルドのような瞳。


ずっと俺だけ見ていて。



そっと彼女の腕を掴んだら、彼女は顔を歪めた。

まさか・・・顔だけでなく全身を殴られたのか?

俺は強引に彼女の袖を捲った。


顕になったのは、白く細い腕。しかし、その腕には痛々しい痣や擦り傷が無数についていた。


やはりそうか・・・

俺は多少抵抗した彼女の衣服を剥ぎ取った。

まだ彼女は俺を完全に受け入れていないから、下着には手を掛けなかった。


彼女は俺から目を逸らし、消え入りそうな声で、


「お願い、一思いに殺して・・・」

そう言った。


彼女の声を初めて聞いた。

こんなことを言わせたいわけじゃないのに・・・


どれだけ辛い目に遭ったのか、胸が押し潰されそうになった。


「殺さないよ。俺に貴方は殺せない。」


小刻みに震える彼女を抱きしめて身体全体からヒールを発動した。


「怖かっただろ?痛かっただろ?もう大丈夫。俺が全てから貴方を守る」

俺は、なるべく優しい声でゆっくりとそう言った。


彼女の傷が全て癒えると、服を着せた。

すると、彼女は少しだけ強張った表情を緩めると、ホッと息をついた。


少しでも俺に対する警戒を解いてくれたのが嬉しい。


「傷、治してくれてありがとう・・・」

彼女は、俺に向かって感謝の言葉を告げてくれた。

それってもう、俺のこと好きってことだよね?


俺は彼女に温かい食事を与え、柔らかい布団に寝かせた。

すやすやと眠る彼女は、本当に天使のようで、思わず隣に潜り込んで抱きしめて寝た。


でも俺の仕事は戦場で敵を撹乱すること。

彼女が起きる前、まだ夜も明けないうちに小屋を出て戦場に戻った。


今日は攻めないらしい。

なんだ。それならもっと彼女を抱きしめたまま眠れたのに・・・

俺は急いで小屋に帰った。


すると、なんと彼女は鎖を切って逃げようとしていた。


嘘だろ?俺のこと好きなんじゃないのかよ。

逃げるなんて、そんなの絶対許さない。


俺は無意識に彼女を殴ってしまった。


ハッと気づいたら、彼女が口から血を流して床に倒れていて、俺は気が動転した。

俺?俺が彼女に手を挙げてしまったのか?


「ごめん・・・殴ってごめん。貴方を痛めつけたいわけじゃないんだ。」

俺は彼女を抱きしめてヒールをかけた。


「ごめん。でも、貴方も悪いんだよ?

だって俺から逃げようとするから。俺が全てから守るって約束したのに。」



「お願い、帰して・・・。」


帰さない。帰せるわけがない。彼女を痛めつけた奴らがいる場所に帰せるわけがない。

それに、もう俺だけのものだよ。


「俺だけを見ろ、俺以外のことは考えるな。」


閲覧ありがとうございます。明日も19時に投稿します。

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