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敵との繋がりが無いことが分かると、衛生兵の仕事に戻れるのかと思ったら違った。
こちらに甚大な被害を出す切込隊長を引かせられるならと、私は最前線に送られることになった。
私がいない間、被害がかなり酷かったらしい。
骨折と内臓の損傷だけは治癒してもらえたが、戦士でない者に治癒を使う暇はないと、痣や腫れなど打撲痕については自然治癒に任せることになった。
手足の痣などは衣服で隠れるが、顔だけはどうしようもなかった。
無数の痣と、腫れ上がって視界を失った右目。そんな顔で、人前に出たくはなかった。
しかし、上官の命令に逆らうことなどできない。
私には、刃渡が20センチほどの小さなナイフと、革の防具が与えられた。
革の防具など初めて身に付けるが、想像以上に重かった。
こんなに重い物を着て、戦場を駆ける戦士たちはやはり凄いと、尊敬の思いが強くなった。
しかし、そんな思いだけで安全が確保されるわけもなく、私の周りには四方を囲むように戦士が配置されたが、恐怖は全く薄れなかった。
足も手もガクガクと震えながら、一歩ずつ進んでいく。
こんなところに武器を持って出れば、いつ攻撃を受けてもおかしくない。怖くてたまらなかった。
衛生兵の腕章があれば大丈夫などと言われても、武器を持っているのだ。なんの気休めにもならなかった。
戦士の皆さんはこんな恐怖の中で戦っていたのか・・・。どれだけ鍛えれば自信になるのか、精神力が強くなるのか、想像もできなかった。
そして、とうとう彼が現れた。
戦士に囲まれ防具を着けていることに驚いたのか、それともこの痣だらけで腫れ上がった顔に驚いたのか、はたまた別の理由なのか、彼は私を見つけると目を見開いた。
その瞬間、一気に距離を詰められ、私を取り囲んだ戦士達が薙ぎ倒されていく。
私は恐怖に足がすくみ、逃げることなんてできなかった。
彼は私の目の前に立った。
こんなに近くで彼を見たのは初めてだった。そのスカイブルーの目は綺麗で、意外にも透き通るように輝いて見えた。
もっとどんよりと曇った目だったらよかったのに。
そんな悠長なことを考えている場合ではない。
次は私が斬られる番だ。
私はナイフの柄に手を掛けたが、恐怖で手が震えて、ホルダーからナイフを取り出すことさえできなかった。
もっとも、訓練を積んだ戦士達が太刀打ちできない彼を相手に、小さなナイフ1本で私がどうにかできるわけもないけど。
斬られるなら、苦しまずに逝けるといいな。
彼に少しでも良心があるのなら、私の心臓を一突きにしてほしい。
私は諦めてギュッと目を閉じた。
戦場に来るため、死ぬ可能性があることは理解していた。
しかし、まさか最前戦に送られ、斬り殺されることになるとは想像もしなかった。
私はこの戦場で役に立っただろうか?もし役に立ったのなら、来て良かったと思おう。
まだ戦争は続いているのに、志半ばで命を失うのは辛いけど、これも運命として受け入れよう。
私は目を閉じたまま、色々と思考を巡らせていたが、一向に斬られる気配がない。
すると、こともあろう彼は私を肩に担いで後方へ引いた。
そんな・・・
見せしめに殺されて死体を晒されるか、酷い拷問の上に苦しんで死ぬか、どちらだろうと恐怖に震えた。
ところが彼は敵陣を素通りし、さらに駆けた。
敵国の領地であろう森の奥へ連れて行かれ、小さな小屋の前でとうとう止まった。
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