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1-076)休講とアルフレッド君と翼竜

 あの後、簡単とはいえ半端ない量の宿題に、心からアケロス師匠の寝不足鬼っ! 私は子供だから師匠と違って一日8時間は睡眠必要なのにっ! チビのままだったら本当に恨みますからね! と歯ぎしりしながら必死に終わらせたのが明け方だった。


 そこから少しだけ仮眠をとり、急いで着替え、朝ごはんをかきこんだことで、兄さまにお小言を頂きながら貴族層に向かうために騎士団駐屯地に急いだ。


「おはよう、フィラン嬢。」


 声を掛けられて、振り返った先にいたのは、笑って手を振ってくれている主席入学生で無属性のアルフレッド様。


「あ、アルフレッド様。 ごきげんよう。」


 名前を呼び、スカートのすそをもってお辞儀すると、アルフレッド君は一瞬きょとんとした顔になってから、ふっと口元を緩ませた。


「アルでいいよ? 僕たちは庶民組なんだからさ。」


「……それもそっか、じゃあ私もフィランでいいよ、アル君。」


()が付いてるけど?」


「呼び捨てはね、なんか照れちゃうから。」


 えへっと笑うと、そうなの? と言われて頷く。


 そう、私は他人を呼び捨てにできない類の人間、こういう人って一定数いると思うんだよね、私だけじゃないはず!


 そっか、と笑ってくれたアルフレッド君に、そうなの、と笑った私。二人で三階層へ行くゲートに向かおうとしてあれ? と立ち止まった。


「アル君、いま交易層のゲートのほうから来なかった?」


「うん、そうだけど。」


 頷いたアル君が歩いてきた方には、二階層(庶民層)と一階層(交易層)をつなぐ転移門があるのだ。


 昨日の自己紹介では、確かアルフレッド君は国境近くのダンジョンが一番近所な辺境出身って言ってたはずで、だとしたら通うのが大変だからアカデミーの寮に入っているものだとばかり思っていたんだけど……。


 そういえば、そうじゃない人たちは庶民層の下宿宿にいると聞いたことはある。


 どちらにしても交易層には何の関係もないのでは?


「ってことは、学校前にどこかに行ってたの? 朝の散歩?」


 そうか、交易層には珍しいものを扱う朝市が立つ日があるって言ってたから、それを見に行ったのかな? と思ってそう聞くが、そんな私の問いかけに首をかしげるアルフレッド君。


「いや、まっすぐ学校に向かうところだけど?」


 おや? 会話が噛み合わないなぁ。


「アル君、アカデミーの寮とか下宿宿に住んでて、交易層に朝市を見に行ったとかじゃないの?」


「交易層? ……朝市……? あぁ。 そうか。」


 ふふって笑った彼と一緒に三階層行のゲートに腕輪を見せてから入り、次の瞬間には第三階層転移門に入り、次の瞬間には第三階層到着といったところでアルフレッド君は言った。


「フィランと話が噛み合わないはずだ。 僕は寮や下宿宿は借りてないよ。 要塞の外から毎日通っているんだ。」


「要塞の外?!」


 私はでっかい声を出してしまって口を抑えた。


「え? 外って防衛門の外!?」


「そう、外。」


 ニコニコしながら転移門から出て、騎士団駐屯地の出入り口へ向かって歩くアルフレッド君について、慌てて私も歩き出す。


「防衛門の外ってことは、王都に住んでいないの? え? どこから通ってきてるの?」


「王都には住んでないよ。 あ、フィラン、ちゃんと腕輪の提示して、騎士様が困ってるよ。」


「え? あ、すみません。」


 アルフレッド君に言われて顔を上げると、騎士様が困った顔で笑ってくれている。


 あわてて左腕の腕輪を提示して安全確認をしてもらうと騎士団から出た。


「アル君、要塞の外に住んでいるの? 危なくないの? っていうか、えぇ? どういうこと?」


「あはは、そんなに驚くことかなぁ? 結構あることだと思うんだけど。 フィランだって、ここ出身じゃないんでしょ?」


 わたしよりも頭一個半分背の高いアルフレッド君、私に歩く速度を合わせてくれながら、にこにこと笑っている。ありがたいけど、もっと詳しく聞かせていただきたい!


「それはそうなんだけど、そうじゃなくて。朝早くから夕方遅くまで授業があるのに、ここまで通うのに大変じゃないの? 一番近くの村でも馬で半日じゃなかった?」


「まぁ、普通に来ればね、」


 この近辺の地図は、嘆きの洞窟に行ったときに教えてもらってなんとなく覚えていたが、早馬や騎獣で半日、普通のお馬さんや馬車なら一日かかるはずだ。


 正直、もうすこし車とか電車とか飛行機とか、せめて鉄道くらいは作らないかなって思うけど、その技術がないらしいからしょうがないそうだ。


 神様、鉄道とかそういうのの技術者連れてきてください、と、お願いするしかない。


 ちなみに私にはそんな知識は全くない!


 おっと、話しがそれた。


「普通に来れば?」


「そう、普通に来れば。」


 にこっと笑ったアルフレッド君は、校門をくぐったところでさらっと言った。


「大型翼竜族なら、辺境のはずれからでも1時間かからないよ。」


「あ、なるほど、騎竜か~……確かにそれなら……。」


 なるほどなるほ……ど?


「騎竜?」


「そう。 ところでフィラン?」


「え?」


 立ち止まったところで聞き返すと、再びにこっと笑ったアルフレッド君がSクラス玄関にある掲示板に貼られている紙を指さした。


「今日は一年のSクラスは一日休講だって。 自宅に帰ってこの範囲の自習をしなさいって書いてあるんだけど……昨日の宿題の範囲だよね。 僕はもう終わっている範囲なんだけど、どうしようか?」


 青い瞳と目が合ったとき、はっとした。


 これは、アイコンタクトですね!


 素敵なお誘いの予感ですよ!


「アル君、わたし、お願いがあります!」


「うん、じゃあ行こうか。」


 にっこりわらってくれたアルフレッド君と踵を返して、騎士団駐屯地へと歩き出した。







「ふおおおぉぉぉぉ!」


 交易層の騎士団駐屯地の貸し厩舎の一番奥、危険な騎乗獣を預かってくれるというエリアの中でも一番奥の広い厩舎で、私はそれはそれは大きな声を上げてしまった。


 だって、だって!


 目の前には、つやつやの白銀の鱗を身にまとった、小柄になってしまった私よりも4周りくらいには大きな翼のある竜が!


 のどを鳴らして!


 アルフレッド君にすりすりしています!


 とっても! かわいい!


「ミレハ、フィランだよ、挨拶してくれる?」


 竜をなでながらアル君が言うと、小さくガウ、っと鳴いた白竜が頭を下げてくれた。


 激かわっ!


 向こうの世界で憧れだった大型翼竜種が目の前で喉鳴らしてる!


 有名なゲームで海賊姫が乗っていたあの翼竜が!


 憧れのあの翼竜が!


 自分の思考が本当にうるさいくらい、大興奮!


「アル君! アル君! さわってもいい!?」


 無我夢中で抱き着きたいのを我慢して、まずは飼い主さんに確認をしないとだめです。そう、これは前世で散歩ワンコに触りたいときも確認しなくてはいけない事ですよ!


 アルフレッド君を見ると、竜にすりすりされながら、あんまりにも興奮している私の姿に笑いをこらえているのがわかる。


 だってしょうがないじゃない、憧れなんだもん。


「だめ?」


「ミレハは穏やかな子だし、大丈夫だよ。」


「うわーい!」


 まずはそっと背中を触ると、くるんと体をねじってくれて、私の方に顔を向けてきてくれる。


 アルフレッド君とおんなじ青い瞳をぱちぱちさせて、私のことをクンクン嗅いだ後、ベロン! と舐められた。


「わぁ!」


「あ、ごめん、フィラン。 ミレハ! 女の子を舐めるのは……」


「大丈夫、びっくりしただけ! かわいいねぇ! かわいい!」


 そのまますりすりっとしてくる太い首に両手を差し出してみると、すりん! と、また体を擦り付けてきてくれたため、そっと抱き着いてみた。


 くっつけた喉元の奥から、ぐるぐると喉を鳴らす音が聞こえてきて心地がいい。


「可愛い、可愛いねぇ、すごい、嬉しい。 抱っこさせてくれてありがとう~。」


『ぎゃお!』


 感激して声を出すと、嬉しそうに声を上げた竜が首を上げたため、私の体もついでに持ち上がる。


「ちからもち! かわいい!」


 力こぶにぶら下がるように、竜の首元にぶら下がるようになってしまった私。


 つるつるすべすべの首の鱗のつなぎ目もつるつるで段差はあるけど痛くはない。


 いやもう、めちゃくちゃかっわいい!


「アル君、この子すごく可愛いねぇ!」


 初めて間近に見る憧れのドラゴン種にキャッキャ声を上げていると、傍にいるアルフレッド君が噴出した。


「ふ、あはは。」


「え? なに? どうしたの?」


 ぶら下がったまま、お腹を抱えて大笑いしているアルフレッド君に私と白竜で首をかしげると、ごめんごめん、と彼は涙を拭きながらまだ笑っている。


「普通、女の子は竜とか見ると怖がって近寄れないのに、こんなに抱きついたり頬擦りしたりして。 本当にフィランは変わってるね。 それに、ミレハも初対面の人には威嚇しちゃう子なのに、こんなになついちゃって。 師匠が聞いたらびっくりするだろうなぁ。」


 そう言ってアル君がドラゴンの背をなでると、ドラゴンも喉を鳴らして頬を寄せている。


「そういえば、この子はミレハって名前なんだね。 わたしもお名前で呼んでもいい?」


 目の前にあるお顔を覗き込んでお伺いを立ててみると、ルルルッっと喉を鳴らしながら私の顔を優しく舐めてくれる白竜のミレハ。


「いいって。」


「わーい、仲良くしようね、ミレハ。」


 すりすりっと頬を合わせてみると、もう少し高い音で喉を鳴らしてくれた。


「じゃあ、仲良くなったお祝いに。」


 厩舎の壁にかかっていた鞍を取ったアルフレッド君は、ミレハの背中にそれを乗せた。


「ミレハと、空の散歩をしよう。」

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