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1-075)兄さまのよくわかる属性検査講座?

「アンダイン、サラマンドラ、よろしくね。」


『うん。』


『わかったぁ~。』


 食事が終わり、お皿やカトラリーを流しにおくと、火の精霊と水の精霊を呼ぶ。


 嬉しそうに飛び出してきた二人は、ふわふわと周りを漂いながらキラ、キラっと光を私に向かって投げてくれると、程よい暖かさの水が桶にたまり、そこに石鹸草を精製して作った食器用洗剤を入れて丁寧に洗っていく。


 兄さまがお湯を沸かしてお茶の準備をしているのを見ながら、洗い終わった食器を一度綺麗な布の上に並べると、使ったお水を浄化してから流し、サラマンドラとシルフィードにあったかめの風でしっかり乾燥させてもらう。


「兄さま片付いたよ。」


「こっちも、お茶の準備ができたよ。」


「はぁい。」


 お茶を受け取り椅子に座ると、さて、どこから話そうかな? と考えた兄さま。


「この世界では、貴族は5歳になった時に最初の適性検査を受けるんだよ。」


「貴族だけ?」


「そう、貴族だけ。」


 ここで私の頭に浮かんだのは素朴な疑問です。


「なんで?」


「庶民と貴族の魔力量の違いと……それから、貴族はその国の貴族籍に登録されて管理されているのは知っている?」


「知らない。」


 首を振ると、兄さまがちょっと呆れた顔をした。


「フィラン……フィランは知識の泉を使っているかい?」


「……使ってるよ? 生活に必要な知恵とか、そういうのには! こっちに来た時はいっぱい使いまくったよ! 生活水準とか、お金の管理方法とか、食事のつくり方とか、王都の生活様式とか、生活に直結した法律とか。 あ、ギルドの使い方や、腕輪の事も、ちゃんと調べてるよ。」


 指折り数えて調べたことを伝えるけれど、そういえば最近使ってなかったな。


 知識の泉はすごく便利だけど、生活に直結したことや、今困ってること以外に使うことは一か月も暮らしたらあんまりなくなった。


 だってあんまり困ることなかったもんなぁ。


 これが鑑定スキルとかだったらバンバン使ってたんだろうけど。


「そのとき、この国や世界の住民層や、貴族の事とかは?」


「どういう人種? っていっていいのかな? がいるとか、その特徴とか、職業とかは調べたけど、貴族の事は全然。 あ、貴族に対するマナーは調べたかな。 後は興味がなかったし、近づく気もなかったから全然。」


 失礼にならないしゃべり方、とか、しぐさとか調べたな……まぁ、ヒュパムさんに直接教えてもらった方が断然わかりやすかったから、それも調べなくなっちゃったけど。


「そうか……うん、まぁ、フィランは貴族層に近づきたくないって言っていたもんな……。」


 そこまで聞いて、まぁ納得した顔になった兄さま。


「じゃあまぁ、簡単に。 四つの国の人脈を置く構造は基本的に決まっていてね。9.5割は平民、残りは貴族と聖職者、それから王族だ。 この身分制度ができたのは近年と言われている……と、言っても、私が生まれた時にはすでにこの制度はあったけれどね。」






 兄さまの話はこうだ。


 身分制度がなかった時代。


 ばらばらに生きていた者たちは、集落を作った。


 集落ができた後は集落でそれをまとめるものが出てきた。村長とかそんな感じだろう。


 そして長にはかなわずとも、それに追従し補佐をする優れた者達が現れる。


 そういう人は大体魔力が強かったり、特別な力を持っていたり、知力に長けていたり、他の人から長になってもいいという何かを持っていたという。


 「カリスマ」性に近いのか?


 集落は大なり小なり、負のイベントが起きるたびに、集落は大きくなったり消滅したりする。


 そして徐々に数が減り、規模が大きくなる。


 やがてできたのが、四王国。


 まぁ、どの世界でもよくある話だろう。


 その中で特別なのは、指導者となった者や、その補佐をしてきた者達。


 その者達は往々にして優れたものを持っているから、それを次の世代に残すために力を持つものと婚姻を結ぶ。


 力があれば功績も上がり、長となった者はその者に褒賞を与える。


 ならばもっと、と、今ある力を強くしようと利害関係が一致した者達が婚姻を繰り返す。


 力は一点に集まり凝集された血族となる。


 逆に、その力のない者達は、自由に恋愛をし、自由に婚姻を結び、どんどん拡散された血族となり、よっぽどの何か(大恋愛とか?)がない限りはその恩恵を受けることはない。


 それを延々と繰り返してきた結果、凝集された血族は、選ばれた血族=王族たちから多くの報償をもらい、その末に、貴族という形になった。


 拡散されたその他大勢の者は、労働で彼らに報い、貴族たちはその労働に報いるため、その力をもってその他大勢の者を守る。






 と、まぁ、こんな感じらしいけど。


「……まぁ……なんとなく、大体わかった。」


「その言い方はあんまりわかっていないね。 まぁ、力を集めた者達は、税として報いてくれる庶民たちのために、力を強め、彼らを守るのが仕事、ということだよ。」


「たまに私利私欲に走って重税を課してる人たちもいるよね。」


「よく知っているね。」


「今、お貴族様の中で流行ってるお芝居の題材が、そういう話なんだって。 ルナーク様……皇妃様がその話を聞いて、見てみたいわぁって言ってた。」


「……そのうち行くって言いだすんじゃないだろうな……フィラン、もしルナークから誘われたら、兄に禁止されておりますとはっきりお断りするんだよ?」


 顎に手を当てて考え込み、そういった兄さまに、私は首をかしげる。


「え? なんで? お芝居とか昔好きだったからこっちの世界のお芝居もどんな感じか見てみたい。」


 そう、楽しかったなぁ。


 本格的な演劇やミュージカルも好きだったし、若手俳優さんたちが舞台から降りてきて間近で歌ったり踊ったりするのとか……心の栄養だった、ありがたや。


 フフッと思い出し笑いをすると、兄さまがにこっと笑った。


「貴族だらけ、大商人だらけの劇場に、王宮に行った時くらいの盛装をしてまで見に行きたいかい? あぁ、誰かにエスコートをお願いする必要もあるよ。」


 え? こっちの世界って観劇、そんな感じなの?


 貴族だらけ、大商人だらけって何?


 朝の時間プレイバック!?


 そんなのやだ、観た気がしない!


「誘われたら、丁重にお断りさせていただきます。」


 そんな、射られるような視線の拷問になんか長時間耐えられない!


 ぶるっと体を震わせて首を振った私は、それで? と兄さまに聞いてみる。


「あぁ、それでね。 貴族というものは領地と領民と爵位を賜り、国民を守る立場になるわけだから、まず徹底的に庶子まで管理されるんだ。」


「何のために?」


「その力の管理のために、だよ。」


「力の管理?」


「そう。 精霊たちでも相性の良し悪しがあるだろう? その能力にも相性の良し悪しがあってね。 結婚して強くなる分その家に権力や金が集まるし、国家転覆を考える輩も現れることもある。 それを未然に防ぐためと、能力を埋もれさせることなく適材適所に配置するためなんだ。 だから、力の表れやすい貴族は5歳とアカデミー入学時、それから、全国民は教会で15歳の誕生日に適性検査を行うんだよ。 庶民の中にもまれに先祖の力を大きく受け継ぐものや、突然変異的に力を得るものがいるからね。」


「へぇ~。 なるほどぉ。」


 先祖帰りとかみたいなものか。


 そりゃ、四つの人種があれば、多人種をどこかで迎え入れてたりすることもあるかもしれないもんね。


「なんとなくわかった、ありがとう、兄さま。」


「いや、ここからだよ?」


「へ?」


 首を傾げた私に、兄さまはため息をついた。


「光と闇属性は、ここ数十年くらいは生まれていない。 しかも片方でもいないのに、その二つとも受けたことは過去に例がないかもしれない。 まず、教師達から研究用の精密検査を受けてほしいと言われるだろうね。」


 研究用の精密検査って何!?


 人体実験的なものを想像して、私の血の気が引いていく。


「え? やだやだ! 人体実験反対!」


 目の前に座っている兄さまに必死に訴えると、大丈夫だよ、と、頭をなでてくれた。


「大丈夫。 アケロス達が、王の名の下で宮廷魔導士の中でも精鋭たちで厳重管理の下でやるから。 それ以外の部署は絶対に手を出すな、って王命くらい用意してくれるよ。 安心して。」


 う、調べられるのは決定なのか……。


 アカデミーの教師陣と、宮廷魔導士精鋭軍団。


 調べられるならどっちがいいだろうと、今、本気で考えてしまったが、知らない人たちに人体実験されるよりは、師匠のほうが断然いい!


 絶対に師匠にお願いしたい!


「師匠に絶対守ってねって言ってね!? それから、そうなったら兄さまもついてきてね?」


「それはもちろん。 大丈夫だから安心しなさい。」


 それからね、と、兄さまは続けた。


「主席入学の彼は、無属性だったね。 これは同等に珍しい。 フィランと同じく、研究用精密検査を受けることになるだろう。」


「属性がないのは珍しいの?」


「精霊と縁を結ぶのとはわけが違って、属性はすべての人にあるんだよ。 神の木から生命力を受けるためにつながるための鍵だと言ってもいい……らしい。 それがないのに魔力値の高い彼は、いったいどこから魔力を受け取っているんだろうか……という疑問が出てくるんだ。」


 ……ほ、ほぅ?


「……なるほど?」


「わかっていないね? フィラン。」


「わかってるもん!」


 困ったように笑った兄さまに、私は断言する。


「要は精霊も人間も一緒って事でしょ? 精霊たちも神の木につながっててそこから魔力もらってたとか、同じこと言ってたもん。」


「おや、大体わかってたみたいだね。」


「兄さま、私のこと馬鹿にしすぎですよ?」


「それは悪かったね。 まぁ、アケロスからちゃんとフィランとその彼に話が来るだろうから、それまでは普通に過ごしていなさい。 明日からは表立ってからまれるようなこともないだろうけど、Sクラスエリアからは出ないようにね。 お昼ご飯の件は、アケロスからラージュ達に伝えてもらうようにしておくよ。」


「絶対よ? 兄さま。 よろしくね?」


 力いっぱいお願いをして、私たちは寝る前のお茶の時間を終えたのだった。






「ところでフィラン、帰ってから商品を作る姿は見ていたけれど、宿題は終わったのかい?」


「はっ! わすれてた!」

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