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1-073)アルフレッド君と小休止

いつもお読みいただきありがとうございます。

誤字脱字報告も、大変ありがとうございます。

個々のあたりから1章の突っ走り状態になります。

よろしくお願いいたします。

()()()()()()って、なんだっけ……」


 クラスメイトに対して、自己紹介と共に魔術の属性検査を受けるこの授業。


 10人中5人が終わったところで一時休憩になり、小ラージュ陛下ことジュラ君と、その婚約者のルナーク様は別の先生にどこか別の教室? か何かに連れていかれてしまったため、魔術研究塔にある見たこともない魔方陣がでかでかと描かれた教室の端っこで、他の方から目立たないように体育座りをしていた私。


「スローライフに戻りたい……。」


「フィラン嬢、そのスローライフって、なに?」


 試験が終わったクラスメイトが教師たちに休憩中に説明を聞いている中、朝からいろいろぶっ飛んだ出来事がありすぎて、許容範囲を軽く突破して呆然としている私の心からのつぶやきに、アルフレッド君が横に座りながら首をかしげた。


 随分と変な座り方しているね、と真似するように座った彼は、あぁでもこの座り方結構楽だねと笑う。


 いや、この座り方は、遠い異国の国・日本の、伝統的なへこんでいるときにやると元気になるかもしれない心のライフ回復に一番最適な座り方! その名も 体育座り!


 と語ろうと思ったが、初対面のアルフレッド君にジャパニーズオタクの熱量で話すとトラウマを植え付けてしまうかもしれないと思い、穏やかにつぶやいた。


「私、スローライフがしたかったの。」


 膝の上に顎を乗せて、ため息を一つ。


「うん。 それで、そのスローライフって、何?」


 そこの説明からか……。


 まぁそりゃそうか、と膝が当たる場所を顎から額に移動させて、一度考えてからそのまま横を向いてアルフレッド君を見る。


「すべて自給自足生活っていう仙人みたいな過酷な生活じゃなくて、質素倹約を信条に、そこそこ最新技術の力をちゃんと借りながら、一日三食ちゃんとご飯を作ってたべたり、身の丈に合った現実的で堅実なお仕事をやって、そのために必要な薬草畑のお手入れしたり……いわゆる手仕事という物をとっても大切に丁寧にやりながら、たまにご褒美にうんとお高い美味しいご飯やお菓子を食べたり手に入れたりする生活……かな?」


「……それがフィランの言うスローライフなの?」


「厳密には違うかもだけど、私の中ではそう。 で、そういうのが私の夢だったの……。」


 社畜で過労死したっぽい(?)私が望むのは、そんな穏やかで贅沢な時間の延長のような……こっちに来て最初のほうはそんな穏やかな生活してたはずなのに……現状すごくかけ離れてる気がする。


 そう、例えば、私の大切なお店「薬屋・猫の手」。


 今日は兄さまがお店番をしてくれることになっているけれど、お店の品物は私が休みの日に睡眠時間とご飯の時間を削って必死に作りためることになっている。 もちろんお取引のあるコルトサニア商会とのコラボ商品開発や、裏仕事のポーション納品も、納期に合わせて睡眠時間を削らざるを得ないだろう。


 ポーションや商品を作るための薬草の畑だってそうだ。


 畑仕事はほぼ五精霊たちに任せている。


 喜んでやってくれているけれど、全部任せきりは申し訳なくて、朝、今までよりも一時間は早起きをして雑草抜きや水やりをやっている……が一番手間のかかる採集や乾燥粉砕作業はお任せ状態。


 家事に至っては兄さまが一人でやってくれている。 もともとそうではあったけど、お店の事も全部任せている感じになっているのに本当に申し訳ない。


 で、こんなところで入学2日目にして平手打ち4発もらって壁ドンのうえ胸倉つかまれてるとか、本当に笑えない。


「私のスローライフ……。」


 セディ兄さまとセス姉さまのために勉強は頑張るって決めたけど、オプションが多すぎてこれはあんまりだ。


「幸せなスローライフ……。」


 ぽそっとつぶやいた私に、アルフレッド君はあはは、と笑った。


「確かにそういう生活は、責任があって大変だけど嫌な思いをすることはあんまりないし、幸せだよね。 僕もそんな生活を半月前までやっていたからわかるよ。」


「え? そうなの?」


「うん。」


 がばっと上体を起こしてアルフレッド君をみれば、にこにこと笑って教えてくれる。


「僕はね、最近までルフォート・フォーマの最極東の国境近くの森の中に師匠と一緒に暮らしていたんだ。 一番近くは人里じゃなくてダンジョンだったから、入学資金もダンジョンで危険生物や希少鉱石を売ったお金で用意したし、入学後の学費もそうするつもりだったんだ。」


 意外にいい成績が取れたから奨学金貰えちゃったけどね、と屈託ない笑顔で笑う。


「なるほど~。 アルフレッド君は師匠さんと暮らしてたんだね。 どんな人か聞いてもいい?」


「うん。 師匠は僕を拾って育ててくれた、いろいろとすごい人でね。 薬学もそれなりに教えてもらったんだけど、専門は魔術工学なんだ。 希少鉱石の分析や、魔道具開発なんかやっている。 フィラン嬢は?」


「えっとね、私はここの二階層にある『猫の手』っていう薬屋さんを遠縁の兄とやっているんだよ。 もともとはうんと田舎にいたんだけど、王都で薬屋をするために遠縁の兄を頼って上京してきたんだよ。」


 空来種で、王家から見張りを付けられてます、なんて言えないから建前上の経歴を話すと、その年で王都にお店を持つってすごいね、とアルフレッド君が褒めてくれて、照れてしまう。


 あぁ、こんな穏やかな感じなら本当、学園生活最高……って思えるはずなのになぁ。


「あら、お二人ともわざわざ田舎から出てきたお上りさん、ということですのね。」


 こういうやつが来なければな!


 ってか、こっちの世界でもお上りさんって言葉があるんだな……いや、そうじゃなくって庶民生徒同士の穏やかで楽しい時間に水差すんじゃねぇよ、お貴族様がよぉ!。


 という気持ちを心の奥底に押し込めてひきつる顔で顔を上げれば、目の前には一人の花樹人の美しい女生徒がにこにこと無邪気な笑顔で立っていて……危うく誰だ、お前って言いそうになるのをぐっと飲みこんだ。


 わかりやすい挑発というか、ボキャブラリがないというか、テンプレートみたいなお言葉というか……Sクラスにはこういう人いないんじゃなかったっけ?


 とりあえず反論もめんどくさいし、私なんにもしてないけど適当に謝ってあっちに行ってもらうか、と口を開こうとしたところだった。


「フィランさんに、モルガンさん、でしたわよね。 休憩後の適性検査の説明をすると、アケロウス先生がお呼びですわ。」


 そう言ってニコニコと笑っている彼女の言葉に悪意は感じられない。


 敵意があるわけじゃなく本当に無邪気ってやつなの? 紛らわしい!。


 とも言えず、私は立ち上がると頭を下げた。


「わざわざありがとうございます、えっと……」


「ナーゼルガンド伯爵家のアザリア・ディスアンサ・ナーゼルガンドですわ、よろしくお願いしますわね。 ソロビー・フィランさんに、アルフレッド・サンキエス・モルガンさん。」


 すっと綺麗にカーテシーをする彼女に、慌てて私はカーテシーをし、アルフレッド君は騎士のような礼をとる。


 アザリア……なんとかかんとか・ナーゼルガンド伯爵令嬢、ね。


 あれ?……ナーセルガンド?


 なんか聞いたことがある家名の気がする……ような?


 しかしこっちの長い名前、何とかならないかな……覚えられないよ。


「ありがとうございます。 ナーゼルガンド伯爵令嬢様。」


「いいえ。 先生からの伝言をお伝えしただけですわ。」


 立ち上がって顔を上げると、相手のお顔もはっきり見える。


 透き通るような白い肌に、エメラルドのような瞳で、髪の毛は白……カスミソウをちりばめたような可憐な髪の毛は……カスミソウの花樹人って、誰かいた気がするなぁ……。


「ありがとうございます。 じゃあフィラン嬢、行こうか。」


「うん。」


 誰だったか思い出せないまま、二人で教室の真ん中にある大きな魔方陣の前に集まっている人のところへ足を速めた。


 そこにいるのは、成績五位の背の高いきりっとした男の子と、いつの間にか教室に戻ってきていた成績四位のジュラ様、三位のルナーク様。 それからその傍で朝も見ていた淡い青の魔方陣を見ているアケロス師匠……じゃなかったアケロウス先生だ。


「アケロウス先生。 お待たせしました。」


 頭を下げながらアルフレッド君が声をかける。


 そんなアルフレッド君の後ろで少し遅れて私も頭を下げて目が合うと、気のせいか、ふっと一瞬だけ目元が緩んだのが見えた。


「遅いぞ、ソロビー・フィランにアルフレッド・サンキエス・モルガン。 では、成績上位の者の自己紹介と適性試験を始める。」


 そこまで言うと、パン! と、手を叩いて全員の視線を集めた。


「上位二人の生徒は属性適性試験を受けるのは初めてだな。 まずこの紙に、このインクで名前を書きなさい。 口で説明するよりも見たほうが早い。 これからマーカス・ヴァレリィが行う様子を見て覚えなさい。」


 魔方陣の周りに集まるクラスメイトの輪に、私とアルフレッド君もまじると、アケロウス師匠先生から手のひらサイズの淡い金色の紙、羽ペン、インクがわたされる。


 二人で端にあるテーブルでそれに名前記入して戻ると、再び生徒たちの輪にまじった。


 それを合図に、すでに大きな魔方陣の真ん中、内側から白い光を放つ大きな水晶が固定された細身のテーブルのよこに立つ赤銅色の髪に綺麗なアイスブルーの瞳のしっかりした大柄の体つきの男子生徒がすっと背筋を伸ばした。


「Sクラス五番、ヴァレリィ伯爵家の次男でマーカスと申します。 幼少期の適性検査では水属性でした。 専攻は騎士科です。 夢は敬愛する帝国一の騎士であられる白銀の騎士団長ロギンティイ・フェリオ様の下で働くこと。 よろしくお願いいたします!」


 その自己紹介に、あらあら、ロギイさまめちゃくちゃファンがいるんですね、あんなお気楽そうな感じでも流石将軍様ですね、と思いながら聞いていると、アケロウス師匠先生が何やら合図を送った。


 それを合図に金の紙を水晶玉にかぶせ、その上に手を乗せるマーカス様。


 水晶玉は淡い白い光から青い光に変化する。


 水晶玉の中には青い光の上に金色の文字が浮かんでいるっぽくみえるけれど、魔方陣の外からはステータス表ははっきり読めない。


 そこにアケロウス師匠先生が近づき水晶の中の文字を読み解いているようだ。


「マーカス・ヴァレリィ。 水属性で間違いないようだ。 魔力量も平均であるが、騎士で水属性は回復・防御系の魔法が充填して使えるため重宝されるであろうな。 獣人としての身体能力の高さは標準よりもはるかに高いようである。 アカデミーでの四年で君がどのように成長するか楽しみだな。」


「ありがとうございます。 アケロウス先生にそう言っていただけると自信になります。」


 礼を取ったマーカス様が水晶から手をはなし魔方陣から出る。


「次。」


 終わったら、水晶から手を放して出ればいいんだね、なるほど。


 で、次はラージュ陛下とルナーク皇妃陛下だなぁ~なんてそちらを見ると、ルナーク様に笑顔で手を振られた。


 呼ばれているのにまったく緊張しないんですね、っていうか滅茶苦茶余裕じゃないですか。 あぁ、そりゃぁそうですよね、皇妃様ですもんね……。


 なんて胃のあたりのもやもやを感じながら、手を振り返した時だった。


「ソロビー・フィラン。」


「へ?」


「そのふざけた返事は何だ。 ソロビー・フィラン、君の番だ。」


「え? えっと、私ですか?」


 嘆息をついて私を見てくるアケロウス先生に、聞いてみる。


「えっと、私の前の順位の方の自己紹介がまだかと思うのですが……」


 クラスメイト達も、そうだよね、という顔をしているが……もしや他国からのロイヤルな方設定だから後なのかな?


「彼らは祖国の決まりで他国での適正試験は受けられないのだ。」


 じっとこっちを見る目は……あ、ステータスが出てばれたら困るからか!


 なるほど、そうですよね、ルフォート・フォーマ皇帝とか出たら困りますもんね!


 失礼しました、と、頭を下げて私は名前を書いた紙を持ったまま魔方陣の中に入った。


 初めての適性検査。


 そういえば私、自分のステータスを見るのは空から落ちる前に見ただけだから2回目だ。


 少しドキドキしながら、私はゆっくりとカーテシーをした。


「ソロビー・フィランです。」

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