1-072)教師陣紹介! ちょっと待て!
あれから高貴なお二人に連れられて、既にほかの生徒がいる教室に入ったところですぐに朝礼の鐘が鳴ると、何人かの教師と思われる人たちが連れ立って入ってきた。
教室の中には十人分の大きめな、ヒュパムさんのお部屋にあったような重厚な執務用の机と、それに見合ったソファではないだろうかと思うような高級そうな椅子が、四台二列、最後の列には二台並べられていた。
「皆揃っているね。 まずは成績順に席についてもらう。 一列目左端から主席アルフレッド・サンキエス・モルガン、右隣に次席のソロビー・フィランという感じだ。」
ぱん!
手を叩き、教師列の一番先頭に立つ初老の素敵なイケオジ……ではなくて、大学教授のような教師に指示された。
誰もしゃべることなく、皆が粛々と席に着いたところで、教師たちも申し合わせたように私達の右手側、廊下に接する壁側に一列に並ぶ。
それを確認した先ほど私たちに指示をしたイケオジ教師が、一度閉められた前方の大きな扉を開けた。
入ってきたのは片眼鏡を付け、紫紺の重厚なローブを羽織った豪華な赤い巻き髪に同じく赤い瞳が印象的な美しい女性と、その人をエスコートする黒衣を纏った長身痩躯の男性の姿、なのだが。
ちょっとまて、あれはっ!
「……っ」
びっくりしすぎて、立ち上がったり声を出さなかった自分を心から褒めながら、2人が教室の前方中央にある教卓へ移動するのを見つめる。
各々の席に座る生徒と壁側に整列して立っている教師陣が見守る中、黒衣の男性が一段高くなっている教壇の前で立ち止まると、エスコートされていた真紅の美女が教卓そびえる教壇に立った。
「おはよう、諸君。 私が学校長のエリザベス・スフォルツァ・ペンティシアだ。 諸君たちのアカデミー入学を心から祝福し、同時に、君たちがこのアカデミーで過ごす貴重な四年間を黄金の価値のあるものにしたいと心から願っている。 」
兄さまと同じくらい若い女性はもう、見た目からして派手、めちゃくちゃ派手なのだが、にこりと笑う姿はまさに豪華絢爛! 声も凛としたかっこいい声で、しっかりと覇気がある。
人気あるんだろうな、主に女生徒から! と思ってしまう前世どんなカップリングもばっちこい! 地雷なしの私の思ってることなんて知らないだろう学園長先生は、すっと一段下に立つ自分をエスコートしてきた黒衣の男性に向かって手を差し出した。
「我がアカデミーの教師陣は軒並み優秀な者ばかりだ。 しかもSクラスの君たちに専属でかかわる先生方は高名な方が多い。 その上で言おう、君たちは大変に運が良い。 こちらへ。」
肩にかかった豪華な巻き毛を手で払いながら黒衣の男性へ微笑むと、やれやれといった表情で彼は一段あがり、学園長先生の横に立つ。
「彼は世界では有数の魔術師であり、かなり昔からここで教鞭をとっていただけるようにお願いしていたのだがずっと断られ続けていた。 しかし今年、ようやく引き受けてくれたので、図々しくもSクラスの担任をお願いしたところ、なんと、それも快諾してくれたのだ。 では、自己紹介を。」
「ルフォート・フォーマ筆頭宮廷魔導士のアケロウス・クゥだ。 担任と、魔術の座学実技を担当する。 心してついてくるように。」
はい、と、皆が綺麗に短く挨拶をするのだが、私は顔が引きつっていたに違いない。
ファァァァァァーーー! 師匠、ここで何してるんですか……。
確かに学校に教えに行くとは聞いていましたが、まさかの担任……そんなの聞いてませんよ……。
もう、ここまでくると潔くって元気になるっていうか、いや、残念すぎるような妙ながっかり感……何だろう。
私の心臓、この一時間ずっとドキドキバクバクで、そろそろ疲労困憊だよ?。
「それでは私はここで失礼する。 君たちに大いなる祝福を!」
それだけ言い残し、一人、ローブをひるがえして教室から出ていった学園長を見送ると、教壇に残ったアケロス様……担任のアケロウス先生……いつも通りに師匠? これは私、どう呼べばいいんだろ? が、壁際に立っている一列に立っている先生方へあいさつを促し、名前と担当科目だけを言った教師陣に一礼した後で、教壇の担任は自分の目の前に小さな青い魔方陣を広げた。
「諸君たちの名前と顔、入学試験の結果はこちらにすべて届いている。 現在は入学試験の結果の通りの席順で座ってもらっている。 三か月に一度、座学・実技の試験を行い、随時席順を変更させてもらう。 一年後、ほかのクラスの者とこの席次が変わってないことを願っている。」
ピクリとも表情を変えず、視線だけで全員の顔を見回すアケロス先生師匠様(大混乱中)。
これって、暗に、成績悪かったら覚えていろよ、この野郎(要約)ってことですね……しかもなんか、こっちをじーっと見てましたよね。弟子の怠惰は絶対に許さないってことですか?
本当に怖い。
ため息つきたいのをぐっと我慢する。
通学初日の登校早々ショッキングピンクドリルマウンテン頭令嬢に絡まれてはじまったアカデミー生活、まだ一時間しかたってないのになぁ。
「それでは、次の時間は自己紹介を兼ねた魔法の適性試験を授業で行う。 貴族のものは幼い頃に一度は受けたことがあるだろうが、まれに十五の年に属性が追加されたり変わったりする者がいるためだ。 魔術授業用のローブ着用の上、管理棟の魔術専用教室に集合する事。 以上だ。」
言い切ったタイミングで、朝礼終了の鐘の音が鳴った。
もう、帰りたい、本当に帰りたい……。
立ち上がったら眩暈がした気がする、転生して若返ってからめっきり眩暈なんて縁がなかったのに……。
ふぅ、っと息を吐く暇もなかった。
「フィランは、警戒心というものがまったくないんですのね。」
「へ?」
一斉に教室から出ていく教師陣を見送ると、それぞれが指示された魔法授業用のローブの入った教室後方の個人用の小さなロッカーというにはちょっと豪華なロッカーに向かって扉を開けたところで、左隣から声を掛けられた。
顔を向けるとおんなじ目線には真っ黒の美女の漆黒の瞳。
「ルナーク様。」
「ほら、私が横にいるのも気が付かない。 そんなのでよく今まで生きてこられましたわね。」
そんなのじゃ本当に心配ですわよ、といいながらため息をついたルナーク公爵令嬢(仮)は、そうだわ、と、ローブを羽織って扉を閉めたところでのろのろとローブを着こもうとしていた私の手をつかんだ。
「フィランはアカデミーの間はわたくしの傍にいらっしゃい。 朝みたいに絡まれたら困るでしょう?」
「……は?」
「それがいいわ。ね、ジュラ様。」
「そうだね。 フィラン嬢が、ルナークの傍にいてくれると僕も安心だ。」
名案でしょ? とルナーク公爵令嬢(仮)が同意を求める先は、こちらも大変いい笑顔のジュラ侯爵令息(仮)。
何だよ、その面白そうって顔は!
お前らの正体叫んでやろうか!
できないけど……。
「いやいや、大変ありがたいお申し出ではございますが、私のような身分の者には……」
と、暗に今は絡んでくるな畜生め! と言ってみる。
だって、他国の公爵家と侯爵家の人間にお近づきにでもなりたいのだろうか、貴方達の背後にいる一部のご令嬢とご子息の視線がめちゃくちゃ怖い。
え? 取り入るためなの? Sクラスってだけであなたたち十分ステータスGETしたんじゃないの?
そもそも取り入ったりとかそんなことしなくても、貴方達だってすでに上位貴族っていうのばっかりでしたよね? それにこの二人、本当はこの国の皇帝夫妻で他国の貴族じゃないから取り入っても意味がな……あ、あるか、この国の最高権力者か?
いやでも、高貴な生まれの方々! 私、とんだとばっちりなんです! だからそんな視線を向けないでください!。
って叫べるといいのにな(溜息)。
私は一つ、深く頭を下げた。
「申し訳ございません。 えっと、学園は貴族の方にとっては交流の場と聞いていますし、私は卒業後も元気に庶民街で暮らす予定ですので、是非ほかのクラスメイトの方と……」
一緒に学園に入る、クラスメイトにもなったから授業中は絶対に傍にいるんだからね?
だからそれ以上もずっと傍にいるというのはぜひにも断りたくて、必死に知識の泉を駆使して考えたお断りの言葉を口にする。
言外の意味を読み取ってくださいませ、高貴なお方!
が、しかし。 ルナーク令嬢(仮)が肩越しににっこりとお貴族様の笑顔を向けた後、私の方に視線を戻すとにっこりと笑いやがりました。
すっごい嫌な予感がする~っていうか、それしかしない~。
「えっと、ルナーク様……」
「もちろん、他の方とも交流させていただくわ。 でもこの国は皇帝陛下の御意向で爵位や家柄よりも、まずは本人を見定めると言う実力主義のお国柄なのでしょう? ですので、まずは私よりも優秀な成績で入られたフィランとは是非お友達になりたいのよ。 あ、もちろん、首席でいらっしゃるモルガン様とも是非お話したいわ。」
「僕ですか?」
振り返れば、にこやかに微笑む主席のアルフレッド様。
「ザマーフエ公爵令嬢にそう言っていただけるのは光栄ですが、僕のような一学生がご期待に沿えるかどうか。」
「まぁ、首席で御入学なさっているのに謙遜なんて嫌ですわ。」
手で口元を隠しながら笑うしぐさが可愛いなぁと思いつつ、ひとまずは鋭い視線を向けていた方々の視線が私からそれたのには安堵した。
まぁ前途多難ではあるが。
あぁ、話がまとまっちゃったなぁって心の中でため息をついたところで、ジュラ侯爵令息(仮)がロッカーの扉を閉めながら時計を指さした。
「楽しそうで何よりだが、話しは昼にサロンでするとして、そろそろ移動したほうが良いのではないか?」
「あら、そうね。 さ、行きますわよ、フィラン。 アルフレッド様も御一緒しましょう?」
「ふぇ?」
「ありがたく、ご一緒させていただきます。」
歩き出したジュラ侯爵令息(仮)の後をついていくように歩き出したルナーク公爵令嬢(仮)に手を引かれ、間の抜けた声を出してしまった私とは対照的に素敵な笑顔で後ろを歩き出したアルフレッド様の四人で、次の教室のある管理棟へ向かうゲートへ視線を浴びながら向かった。