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1-006)いろんな姿の人がいます!

 イケメン細マッチョで大きな翼まであるケンタウロス様(もう、翼ケンタウロス様でいいかなぁ?! いいよぉ! なんて自問自答!)の背中? 腰? に乗せてもらっているために、ポクポクとのどかな蹄の音を聞きながら移動の道すがら。


 私は翼ケンタウロス様の背中の折りたたまれた綺麗な白い翼を汚さないように気を付けつつも、どうやったら乗せていただいている鞍の付いていないお体に負担を掛けないのか考えて、ふれあい広場の馬にのせてもらった時の感覚を思い出し、乗馬の要領でピンと背を張っていた。


 う~ん、ケツ……お尻が痛い。 鞍って大事なんですね、今気が付きました。


 いやそれよりも、そんな翼ケンタウロス様のお背中に乗っているため、おチビさんの私でも行きかう人はみんな眼下……おかげでのんびり人間? 住人観察ができていますよ。


 あの人達は私と変わらないからたぶん人間。


 すごいグラマラスなお姉さんと、毛髪がすこしだけ残念な小太りのおじさん……隣合って歩くにはちょっと不釣り合いなんだけど、あっちの世界で言う昼ドラ設定?


 いや、これはとても失礼だ、親子とかかもしれないもんね、決め付けはいけない。


 おっとあっちは天使様?


 それにしては翼が真っ黒だし、肌も日焼け? というにはあまりにもムラもなく美しい、しっかりした赤銅色…色っぽい! すごくかっこいいぞ!


 あっちの長身の男性は髪の毛が何だか……装飾!? どこかのお庭の鋳造の門の飾りの一部を髪飾りにしてるの?


 頭に蔦薔薇をまくって痛くないの!? もしかしてあの人も実は空来種さんで、元の世界の神の子リスペクト?


「きゃっ!」


 いろいろ考えていると、シュッっと、隣を風がすり抜けていってびっくりして振り返った。


 わおっ! びっくりした!


 いま横を駆け抜けていった人、ケンタウロスの虎バージョン……トラタウロス?


 私とおんなじ何の変哲もない人型の人もいれば、それこそあまりにも飛び出た個性を持った人が多いことはよく分かった……んだけど。


 どうしたどうした、一体どんな生態の世界なんだ?


 ラージュ陛下の言葉を借りれば、神様の箱庭ってばなんでもあり?! と、私はいささか動揺していた。


 そして本当にきょろきょろしているのがもしかしたら無様に見えたのかもしれないけど、翼ケンタウロス様が困ったようにこちらを向いた。


「フィラン嬢。」


「は、はい!」


 声を掛けられてしまった。


 何言われるんだろう、そうですよね、お上りさんみたいですもんね、そんなやつ背中に乗せたくないでよね、ごめんなさいっと、思っていても通じないので、頭を下げる。


「すみません! ついはしゃいじゃって! 降りた方がいいですか?」


「いえ大丈夫ですよ、空来種の方には初めて目にするものが多いそうですから。 それよりフィラン嬢、色々真剣にご覧になっていますが、何か露店に珍しい物でもありましたか? この階層の買い物は高いのであまりおすすめしませんが、ご入用とあらば寄りますが?」


「いえ、ぜんぜんそうじゃないんです。」


 まさか商品じゃなくて人を見ていたとは言えない……いや、そもそも私が空来種だとご存知のこの方には聞いてもいいのかな? 失礼にならないのかな? と思いつつ、声を潜めて聞いてみる。


「いろんなお姿の人がいるんだなって……すみません、本当に失礼ですよね。」


「あぁ、その事ですか。 王都ということもありますが、かなり多種多様ですね。 でもフィラン嬢の世界でもそうなのでは?」


 そんなことかと、顔は見えないが穏やかな口調で返答が返ってきたので少しホッとして、それから少し考える。


「うーん、肌や髪や目なんかの色の違いは人種とかの違いはまぁありましたけど、体の造形の根本がちがうというか、進化論ガン無視というか、ここまで多種多様な感じではなかったです。」


「そうですか。 そうですね、この世界には、4つの王国と1つの隔離世界、それから5種の種族があります。」


 のんびりした足取りで――と言ってもサラブレット体系です、歩幅が違いますよ!――翼ケンタウロス様は説明してくれる。


「まずは、現王陛下やフィラン嬢のようなシンプルな体の形の人間、私たちのような獣の特性が取り込まれた獣人、背中に翼、足元には堅牢な鎧鱗と鈎爪をもつ鳥人、そしてその身に花や樹木の力を移し持った花樹人の四種類と、魔素を吸い込んで生まれた魔人の5種が「人」と分類されています。

 4つの王国は、様々な国の要素を取り入れ、全体の平均より全体的に秀でている我が王都要塞北のルフォート・フォーマ、武術や工業が優れた技能の国、東のタンアレス、魔術や学問に秀でた空中に浮きあがる才能の国、西の浮城ルジューズビート、温暖な気候で農耕や畜産、染色や織物などの工芸が盛んな南の大国イジェルラ、そして4王国とは魔障壁で隔離された魔人・魔物・魔獣たち闇の眷属の安住の地であるデバラルアンです。

 もちろん、そのほかにいろいろな小国や集落がありますが、世界的な経済や政はこの4王国が中心で行われています。」


「へ~! すごいですね!」


「そうですね。 魔を冠する者たちが国領から出てきたり、姿を現したりすることは基本ありません。 それ以外の種族においては経済や学術など様々な点でしっかりとした交流があったりします。 例外として、保護されることが決まっている少数の希少な種族集落においては、4国の王の決定により、その限りではありません。そういった方々は集落内や部族内での決まりごとがあるそうです。」


 なるほど、そういえば向こうの世界でもそういうのあったはず。


 翼ケンタウロス様、説明わかりやすい! ……そういえば?


「えっと、あなた、は、ここのご出身なんですか?」


 出身を聞こうとして思い出した。


 そういえば名前を聞いていなかったね! ごめんなさい! と思いながらも聞いてみると、あぁ、と頷いて一度立ち止まると、体をひねった状態で頭を下げてくれた。


「私は獣人と鳥人のハーフでオーネスト・ボルハン。 オーネスト、と呼んでください。 僕はこの国第一階層の出身で、今は王城の空中防衛騎士団の一小隊の副隊長をやっています。 ほら、僕は羽持ちですからね。」


 バサッと、たたんでいた大きな純白の羽を大きく広げてくれる。


「獣人と鳥人のハーフってかっこいいですね! すごく素敵です!」


「それはそれは。 父と母に感謝しなければなりませんね。」


 ぱちん、と、ウインクして笑ってくれる。


「可愛らしいフィラン嬢にそんな風に言っていただけるのですから。」


 その、少しやんちゃな笑顔としぐさに、ぼん!と、顔が火を吹いたかと思った。


 いけませんいけません、そんな、推しのウインク笑顔って、供給過多で死んでしまいます――!


「そ、そのお顔は反則ですぅ……恥ずかしくって、ダメです…。 そ、そういえば! 第一階層とか、さっきラージュ陛下も仰ってましたけど、それってなんですか?」


 真っ赤になってしまったであろう熱くなった頬を両手で冷やしながら下を向いて必死に話を変えようとする私の耳に、あははと朗らかな笑い声が聞こえた。


「恥ずかしい思いをさせてしまったお詫びに、少し寄り道にお誘いしましょう。」


「え?」


「階層の答えです。 落ちてしまうと困るのでしっかり背中につかまってください。」


「は、はい。」


「いきますよ。」


 馬の体の前足で、白い石畳の上を カカッ!と、音を立てて数回蹴った音が聞こえると、ふわっと旋風が私たちにまとわりつくように吹いた。


 そのタイミングに合わせ鳥が飛び立つように大きな翼が大きく羽ばたき、私を乗せたオーネスト様の体は高く風に乗っていた。 


 そのまま一気に急浮上したんだと思う。


「フィラン嬢、もう、大丈夫ですよ、目を開けてみてください」


 オーネスト様の声に、ようやく自分にあたる空気の流れがかわったのを感じて恐る恐る目を開ける。


「うわ―――!」


 見渡す限り、360度全面の、美しい青空。


 優雅に空を泳ぐ色キラキラ光る魚に、仲睦まじく飛んでいる鳥人の2人、その横をあおるように急降下していく赤い鳥。


「下を見てくださいね。」


 そう言われ、オーネスト様の体にしっかりしがみついたまま恐る恐る下を覗き込めば、先ほどまでいたルフォート・フォーマの国の全体像がはっきりと見えて、あまりの絶景に、思わず絶句した。

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