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1-068)日と月の精霊の、言い分。

お読みいただきありがとうございます!


誤字脱字報告、本当にありがとうございます

また、ルビとか『・』修正も追いついてやっていきます

申し訳ありません!

 安息日になったら、お話してあげるわ。




 アケロス様との勉強の後、家に帰ってから兄さまと一緒に夕食を取り、自室に戻ってから王宮での一件以降、一度も姿を現すことのなかったアルムヘイムとヴィゾヴニルに出てきてほしい、話しをしたいことがあると呼び掛けた。


 すると姿が見えず、アルムヘイムの優しい声だけが帰ってきた。


 あの日は月の安息日の日も落ちてからだったから、出てくるのに障りがあったのか、それとも二人が考える時間が欲しかったのかはわからない。


 けれどそうやって返されたから私は、解った、と返答してその日を待った。


 しかし、6日間なんて待つのは簡単だと思っていたけれど、そんなことはなかったと後でちょっとだけ後悔した。


 人間というものは、一度気になると、どうしても心のどこかがささくれた傷跡のように残って、チクチクと痛むものだ。


 毎日忙しく仕事をして、ひと時の休憩で息をついた時や、食事をしているとき、お風呂や夜に布団に入った時など、ふと心が緩んだ瞬間に、もやっとした気持ち悪さとともにチクチクと痛みが戻ってくるわけである。


 ふぅ、と、ため息をつく回数も自然と増える。


「なにか気になることでもあるのかい?」


 と、そのたびに兄さまが気にかけて声をかけてくれるわけだけが、答えようがないのでいつも、


「う~ん、もう少し考えがまとまってから話すね」


 と答えを先延ばしにする返事で返していた。


 そしてようやく、明日は日の精霊日、約束の精霊たちの安息日だなぁとベッドに入って眠りを迎えたわけである。






『フィラン。』


 土の精霊日(土曜日)から日の精霊日に切り替わった時間に、私は突然目が覚めた。


 しっかり眠りに入ったと思うのに、普段よりもすっきりとして目が覚めた。


 室内はまだ真っ暗なまま。


 これはもしかして?と何もない天井に向かって口を開いた。


「珍しい時間じゃない?」


 問いかけるように言うと、何にもない空間に水滴を落としたように波紋が広がった。


「アルムヘイム、ヴィゾヴニル。」


 そうね……とその中心から声が聞こえ、いつもとは違った雰囲気のアルムヘイムとヴィゾヴニルが、ふわりと光を纏ってやってきた。


 彼らの雰囲気は決して攻撃的ではないけれど、いつものように軽口を叩けるような雰囲気でもない。


 わたしも、かれらも、お互いで距離を測っているような緊張感。


「あのね?」


 布団からのそのそ出ると、二人を仰ぐように見る。


「聞きたいことがあるんだけれど。」


『そうね。 私たちも、話さなければならないことがあるわ。』


「長丁場?」


『夜明けの鳴き声を聞く前には、終わると思うわよ。』


 明け方までかかるのかな……?


 そうなると心配なのは……。


「……アルムヘイムは、夜中なのに平気なの?」


 日の光がない時間帯はあんまり得意じゃなかったはず……。


 そう聞くと、アルムヘイムは笑ってくれた。


『日は変わり、これからは日が目覚めるために力が満ち始める時間よ。 暁に向けて、わたしにはとても良い時間だわ。 もちろん、彼もまだ力が有り余っている時間、だから安心して頂戴。』


「……わかった。」


 嘘をつかれている感じはない。


 こくんと頷くと、ヴィゾヴニルの合図で室内が何かで囲まれたような感じがした。


 防音の結界なんだろうなぁとぼんやりと思っていると、この家には他人がいるからね、とヴィゾヴニル。


 兄さまと姉さまは他人認定なんだよね、相変わらず。


 相変わらず容赦ないなぁと思いながら、椅子に掛けていた肩掛けで自分をくるんでルームシューズをはくと、部屋の真ん中に敷かれた厚手の敷物の上に丸くなって寝ているコタロウのところまで移動した。


 ちらっと眼を開けて私たちを見、また眠ってしまったコタロウに埋もれるように座った私と、その傍でやっぱりコタロウに身を預ける日と、月の精霊。


 コタロウは一度大きくあくびをして、私たちを確認してからくるっと尻尾で巻き込んでくれた。


 もふもふの毛並みがとても暖かい。


 よし、と、私は緊張を解くようにふぅっと一つ、大きく息を吐く。


「皇妃様の精霊は今どうしているの?」


 夜中の水分補給のために部屋に置いてある下級魔力ポーションを、アルムヘイムは人肌より少しだけ高めに温めてくれたようで、差し出されたタイミングで、まずは私が聞いてみた。


「こちらには、いないの?」


『いないわね、神の木の根っこの一番奥に磔にしてあるわ。』


 とアルムヘイムは淡々と話す。


「なんで?」


『番の不始末は、番が払うものだからだよ。』


 そういったのはヴィゾヴニル。


「皇妃様の不始末って、いったい何をしたの?」


『私たちの可愛い貴方に手を出したわ。』


 二人の冷やっとした声に、一瞬身が固まる気がする。


「でも、なにも実害はなかったんだよ?」


『そうね。』


「皇妃様からも、皇妃様の精霊からも、実際に何かされたわけじゃないよね? 言葉だけだよ? しかも本気じゃなかった。」


『本気、ね』


 ヴィゾヴニルの声は地の底よりも低くて、怖い。


『そこに本気であるかないかは関係ないわ。 言葉だから、よ。』


 アルムヘイムは私の頭をなでながらしっかり視線を合わせて言葉を紡ぐ。


『私たちは基本、何物にも縛られない。 私たちは神の木と神様にしかつながらないものだから。 けれど私たちは人を愛することがある。 その時、私たちがあなたたち人と契約するときに交わすものは何かしら?』


 押し問答みたいだなぁと思いながら、契約したときのことを考える。


 そんな大層なもの交わした覚えはない、交わしたのは……


「名前?」


 こくんと二人が頷く。


『名前は人も、精霊も縛るわ。 だから契約の証として名をもらうのよ。 あなたから魔力をもらう筋道を作った証。 いいこと、フィラン。 言葉は魔力がこもるわ。 あなたたちの特徴であるスキルだってそうなのよ? 願っただけでは魔法は発動されないでしょう? 鍵になる言葉をその口で紡いで発動させるの。 それだけ人は言葉に魔力を無意識のうちに乗せるの。 あの場でフィランが皇妃に是と説いてしまえば、人は言質を取ったというでしょう? 魔力が乗っているから言葉が契約の証になるの。 特に生き方を変えるような大きな決断の時はね。』


「……う、う~ん……。」


 後半、わからなくなってきたけれど、安易に口約束をしちゃだめってことはわかった!


「わかった! 大事なことを言葉にするときは絶対気を付けるようにする……」


 そういうと、はぁとため息をつかれてしまった。


『フィランの事だから、本質のところは全然わかってないんでしょうけれども、今はそこがわかればいいわ』


 かなり()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()わ、的にアルムヘイムは言った。


 確かに勉強することを最近さぼってしまっていたのも、理解が追い付いていないのも認めるけれど、そもそも神も精霊も概念だけで、実際には相まみえることのない世界で生きてきた人間に、二か月程度でそのすべてを急に理解して取り入れろって言っても難しいと思うんだけどなぁ。


 とは思ったけど、今までの様々な問題行動は自分でも反省しているので、そのまま頷いて次の問題を確認する。


「えっと、じゃあなんでそれが皇妃様の契約している精霊の拘束になるの? それから神様の次に偉い精霊神の次に神様に一番近い精霊男神の捕縛をなぜ二人ができるの?」


 それには一瞬、心臓が冷え込むくらいに冷たいまなざしを王城のある方に向けたアルムヘイムが答える。


『それはあの人間が、精霊を番に持つ者として、精霊にも、精霊に愛されたものに対しても激しく礼を欠いた発言をしたからよ。 番の契約がどのようなものかをその身をもって知っている者が、同じく精霊の番を持つ者に。しかも側妃になれ、などと言葉にした。 それは十分に、巻き込んだ他人を馬鹿にしていると思われても仕方がないものだわ。 それにね。』


 そんな心臓が凍るようなまなざしを消し、今度は甘くとろけるような優しいまなざしを私に向けて、私の頬に触れてくる。


『可愛い私たちのフィラン。 だからこれは、貴方にだけは手を出すなと、すべての精霊に通達済であったにもかかわらず、あんなことを言った彼女への報復。 そしてそれを止めなかったあれに責任を取らせただけの事なのよ。』


 ……へ? まって、全精霊に通達? 手を出すな?  私に? 誰が? 何のために?


 ちょっと規模が大きくなりすぎてきて、理解が追い付かないぞ……。


「……まって、まって、なにか聞いちゃいけないことまで聞いた気がするんだけど、アルムヘイム。」


『聞いてはいけないことは特にはない。』


「ヴィゾヴニル。」


 ヴィゾヴニルがはっきりとした口調で言うのは珍しいから、やっぱり怒っているんだなぁと思う。


『そもそもイーフリートの件に関しては精霊間での話であり、フィランが口を出す問題ではないんだよ。 それからなぜ、わたしたちがあれを拘束出来たか。 それはここまでの話でおのずと答えはわかっているのではないか?』


 真摯に向けられた目に思い当たる答えを探し、それはとても怖い答えだと思うが、促され口に出してみる。


「アルムヘイムとヴィゾヴニルが、第一位の日の精霊と第二位の月の精霊……ってだけでは拘束できないって師匠が言ってたから……二人が皇妃様の番と一緒で精霊神の次に偉い精霊で、それより高位の精霊だから?」


『その通りだわ。』


 うえん、やっぱり。


「なんでそんな偉い精霊が私と契約しちゃってるの?」


 半泣きになった私。


 やだやだ、総愛されとかやだって言ってあったじゃん!


「神様の馬鹿、のんびり穏やかなスローライフが送りたいっていったじゃん!」


『その為なんだがな。』


『そのためですわね。』


「へ?」


 納得するように頷く二人。


「今、口に出てた?」


『えぇ全部。 私たちが貴方の傍にいるのは、貴方がこの世界に落ちるときに神様に願った願いをかなえるため。 のんびり穏やかなスローライフを送りたい。 この約束を守るためよ? 力がある私たちが貴方の傍にいれば、厄災から貴方を守ることができるわ。 だから神様は私達を作り直した。名前をあなたからもらうことができるように。』


 作り直した?


『フィランの望むのんびり穏やかなスローライフとやらに不必要なこと。 愚かな権力争いや人拐いなどの、人や精霊が絡んだ災厄、飢えや寒さ、弱肉強食などの厳しい自然の摂理。 それらからフィランを守れるように、すべては神様からの祝福の采配だ。 僕たちはフィランだけを愛するために、フィランから愛されるためだけに生まれたから、フィラン以外の事はどうだっていいんだよ。 出会ってすぐのころに、僕たちはフィランを守るためなら君の命令に背いてもいいと言われているといったはずだが?』


 そういえば聞いた、聞きました……忘れてたけど。


 じゃあ今のこの状況は私のお願いのせい。 すなわち完全に自業自得ってこと!?


「じゃあじゃあ! お願いがあります!」


 二人に向かって叫ぶ。


「命令じゃなくてお願い。 皇妃様の精霊の縛りは解いてあげてください。 あれが皇妃様の本気の発言だったとは思わないし、皇妃様は皇帝陛下からも罰を受けたし、ちゃんと謝罪をしてくれて私もそれを受け入れたから! 番に会えないってものすごく辛いんでしょう? わたしもみんなと会えないのはつらい。 アルムヘイムとヴィゾヴニル一週間姿見せてくれなくて、ものすごく寂しかったから! お願い。」


 私のせいだとして、それをちゃんを受け入れる。 でもそれは他の人に背負わせるものじゃない。


 わたしの必死のお願いにきょとん、とした二人の顔。 しかしそれまで張りつめていた緊張感はこの瞬間にふんわりと解かれた。


『仕方がないわね、そんなに真剣にするお願いなら、聞いてあげるわ。』


『そうだね。 知らなかったことも多いし、初めて知ったこともはもっと多い。 今回はフィランに免じて解放しよう。 でも次はないとしっかり釘は刺させてもらう。 それからフィランも短絡的、感情的に動くことも発言することなく、すべての行動には責任が伴うことを心掛けて十分気を付けるように。 それによってどれだけの事が起きるかも想像できるるくらいには、いつも心に余裕を持つこと。』


「はい! 守ります!」


 うんうん、と、何度もうなずくと、二人はぎゅうっと抱きしめてくれた。


『わたくしたちの可愛いフィラン。 私たちはお互いがお互いの番だから貴方を番にすることはない。 でも、だからこそ貴方はわたくし達の最愛で大切な子供。 私たちはお互いと貴女だけを守り愛する存在なの。 だから私たちは貴女を守るためにここにいる。 貴方が幸せに笑っていてくれればそれでいいの。 それだけは覚えておいて頂戴ね。 』


 チュッと、私の額にキスをしたアルムへイムは、優しく頭をなでてくれる。


『さぁ、夜明けまでまだ時間があるわ、もう少し休みなさいな。』


 そのまま、ベッドに運ばれて、寝る準備をされてしまう。


「アルムヘイム、ヴィゾヴニル。 まだ、聞きたいことが……。」


『おやすみなさい、可愛いフィラン。』


『おやすみ、良い夢を。』


 そう言われて落とされる優しい口づけ二つと共に、急に襲ってくる激しい眠気に逆らえなくて布団に倒れこんでしまったけれど、私を見守る二人の笑顔は見えなくなるまで変わらず優しかった。

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