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1-047)冒険者ギルドと、冒険者ランク

「え、え~っと……間違い? いや、そんなはずは、いやしかし……」


 めいっぱい汗をかいて奥に入っていった受付の人に、気の毒になぁ、と視線を送りながら、早くしてくれないかなぁとため息をつく。


 さて、ところ変わってこちらは王都要塞ルフォート・フォーマの第一階層『交易層』と呼ばれる階層の冒険者ギルドの中です、こんにちは。


 嘆きの洞窟での魔物の強襲からの、ジュラ君がラージュ陛下だった上に、その我儘のおかげでアカデミー入学なんてことに巻き込まれるというトンデモお茶会も、なぁなぁでまるめこまれて終わり、とりあえず素材採集のフィールドワークも終わったということで(え? 目的の十五階での採取素材は何だったか? 泉の水と、金色の芝生と、泉の底の砂です)今日の戦績をこう、ギルドの窓口に申請に来たんですけどね……





 冒険者ギルドは一階層交易層第一区画の中でも一番大きな建物で、外観は頑丈そうな赤っぽいレンガに、木と鉄を使った頑丈な扉に窓にも飾り細工の入った鉄格子が入っているという、かなり強固な作り。 内装も赤レンガを基調として、大きな一枚板のカウンターには順番に、受付や様々な手続きの窓口がある。


 それからカフェ? 酒場も併設されているために、ひろ~い室内には大小さまざまな大きさのテーブルに椅子が並べられていて、それでも余裕のあるゆったりしたつくりになっている。


 今は閑散とはしているが、奥の大きなテーブルではすでにお酒を飲んで騒いでいる人もいるし、少し離れたところではゆっくりと食事をとっている人もいる。


「わ、黒鉄のシャンデリアかっこいい。」


「フィラン嬢はもっと可愛い感じが好きだと言うと思ったが、こういうのも好きか?」


 見上げれば大きな鉄のシャンデリアが何基も天井から下がっていて、かっこいいなぁとみているとロギイ様が笑った。


「見る分には、とってもかっこいいですよ? でも、数すごくないですか? 半分は消してあるし。」


「あぁ。 それはそうだ。 ここはその特徴柄、昼夜問わずというか、夜の方が人の出入りがあるからな。いまはまだ夕暮れ前だから明かりも落としてあるし、人も少ないけれど、夕暮れも過ぎれば狩りやクエストから帰ってきた冒険者たちでにぎわっている。 この要塞の中で夜でも昼間かってくらい明るいのはここくらいだ。」


「そうなんですね。」


 それはそうか、と思う。 昼間に狩りに行って、夜は戦況報告がてら此処で見知った仲間で情報交換や再開を祝して騒いで、宿に戻って寝るのだろう。 いろんなRPGもそんな感じだもんね!


「冒険者ギルドって、もっとこう煩雑というか、乱雑なイメージがあったんですけど、印象と全然違いました。」


「そうだな。 昔はフィランの想像通りかなり乱雑で、国の要塞内……しかも公営のギルドだってのに治安もあんまりよくなかったんだ。 が、こういうところの待遇や治安からよくしていけば、全体的な治安安定に繋がるって、力を入れたやつがいてな。」


 にやりと笑ったロギイさんが横眼で見てるのは……なるほど、皇帝陛下の肝いりなんですね、納得。


 で、「普段なら顔パスなんだけどなぁ」というロギイさんの言葉に「今回はフィランに教えるのが目的だから、通常手続きをする」とセディ兄さまの鶴の一声で、受付カウンターに向かった一同。


 はい、いつも通り冒頭に戻りますよ。






「えぇと……」


 おろおろしながら水晶と私たち――まぁ主に私なんだけども――を見比べている窓口担当さん。


「どうした? なんだ? 何か俺たちに問題でも?」


 その人にニコニコと問いかけるロギイさん――現在かなりの悪人面の笑顔――


 窓口の男の人、たぶん獣人さんじゃないかな~? 何のかよくわからないけど。


 その人がすごい困った顔をして、水晶を覗き込んでは私を見て、それからまた水晶を凝視して……を繰り返しているいるんですが、それがなかなか進まなくて、ロギイさんがため息をついてビールみたいなお酒をあおって笑顔で……って待って、そのお酒はどこから?


「いえ、あの、その……」


 威圧されたのか、さらにうろたえるのは冒険者ギルドの男性。


 困った困ったと頭を抱えると、お詫びの言葉と共に少しお待ちを、と出て行った。


「随分手際が悪いな。新人か? 教育がなってないな。後で手をまわしておくか。」


 なんて、そんな物騒な事を言うのは小ラージュ君? 小ラージュ陛下? この場合もう、どっちで呼ぶのが正解かわからないけれど、そんな彼の手にもビールが握られている。


「ちょっと待ってください、未成年ですよね!?」


 慌ててその手を止めようとすると、ひらりとよけて飲み干した小ラージュ君。


「何を勘違いしている。これは酒の類じゃないぞ?」


 一応かぶっているローブの奥でにやにやして言っていますけど、いや、それ、確実に酒ですよね!? 何言ってるの? と詰め寄ろうとすると、セディ兄さまが私にもそのグラスをくれた。


「兄さま!」


「お酒じゃなくってはちみつの発泡水だよ。 実はこの二人は酒が飲めなくてね……あとジュラは少し行動を控えてください。ギルド内なんで……」


 ヒソッと話す兄さまにニヤリと笑う小ラージュ君。


「ギルド内だから、なんだがなぁ……」


 なんて言いながら空になったグラスをセディ兄さまに渡して、小ラージュ君、ローブの中に手も隠してしまいましたよ。


 しかしすっごい酒飲みっぽいのに全く飲めないんだ。なんかかわいい。


 それにはちみつの発泡水って何よ。かわいいモノ飲んでるんだね! と、渡されたものを一口飲んでみれば、まぁ美味しい! 甘くて爽やかで、柑橘の味も……あ、はちみつレモンソーダだ、これ。 美味しいはずだ。


 席を外してしまった受付の人を待ちながらそれに舌鼓をうっていると、受付係の人は慌てた様子で帰ってくるなり、私たちに頭を下げた。


「大変お待たせしました。大変申し訳ございませんが奥の別室へどうぞ。」


 発泡水を持ったままでよいとのことで、そのまま通されたお部屋は、大人数対応の応接セットだけがある、簡素だが綺麗な設えの部屋だった。


 どうぞ座ってお待ちください、と促されて中に入ると、大人たちにあれよあれよと大きなソファの真ん中に座らされ、右横にはラージュ陛下、反対にはセディ兄さまが座り、その後ろをアケロス様とロギイさんが固める。


「後ろじゃなくて横の椅子に座りましょう? 正面に座った人は、威圧感半端ないですよ?」


 小ラージュ君はいいとしても、大男三人が真正面から見てるのって怖い気がするんだけど……と思って声をかけてみるが意味なし。


「いいのいいの、どうせこれから来る奴は俺らが誰だかわかってるから。」


 ひらひら、とロギイさんが手を振って笑っているけれど、目が座ってますよ、怖いです。


 何これ、何が始まるの?


「失礼いたします。」


 心配になっていると、入ってきたのは輝かんばかりの!


 ナイスバディの背丈も大きな、目を引く豪華な女性です!


 漆黒の髪の毛に真っ赤な唇、出るとこ飛び出して引っ込むところは引っ込んでいます!


 貴方は誰ですかー!? と圧倒されていると、彼女はにっこり妖艶に微笑んだ。


「あら? 将軍様に魔術師長様ではありませんか? どうしてこのような場所へ? いつもでしたら顔パスって言われてこちらへいらっしゃることもないのに。」


「いやいや、今日はお嬢ちゃんの教育兼ねてるからな。 あの役立たずじゃ話にならんかったが、お前はちゃんと仕事してくれよ? 仮にもギルマスなんだから。」


 ギルマス……?


 ギルマス!?


 え? ギルマスって、ギルドマスターの事!?


 うわー。 この建物で一番偉い人来ちゃったよ!


 と慄いている私に気づかず、話は進んでいく。


「ふふ……なるほど。 先ほどの受付の者は入ったばかりの初心者でして、報酬額の桁が違うことに驚いた様ですの。 不慣れでお手数をおかけして申し訳ございません。 でもこの報酬額を見れば誰でも驚きますわ。 まぁ、御三方のお顔を見て納得しましたけれど。 嘆きの洞窟での強襲の際に、あのダンジョンにいた冒険者四組とそのほか単独冒険者の救出と、アクアドラゴン三頭の討伐。それから一部素材の売却ですわね。 救出の報奨金も上乗せして、四人の口座にお支払いしておきますわ。」


 四人の口座……?


 あれ? と思ってセディ兄さまのほうを見ると、ひとつ、うなづいた。


 あ、なるほど、私抜きってことですね。


 ですよね~、私結界の中で震えてるだけで何もしていませんもんね。


 なんてのほほんと構えていると、美人さんは私の方を見た。


「ソロビー・フィラン様、現在より冒険者ランクAとなられます。 飛び級の昇級はなかなかございませんのに3段階の飛び級とは。今後の活躍をお祈り申し上げますわね。」


「ふぇ!?」


 手に持ったグラスの中のあわあわを見て、大人の会話を聞いていなかった私は、ふいにそんなことを言われて大きな声をだしてしまった。


「どうかされましたか?」


「いや、私、今朝までDだったはずですけど?」


「はい。」


 にっこり笑った女性は、水晶を見せてくれる。


 そこには私のステータスが上がっていて……あぁ、冒険者ランクAになってる……基本レベル30以上あがってるし……あれ!? 錬金薬師のレベルが55超えてるけど?


「え!? なんでこんなにレベルもランクも上がってるの?」


 びっくりして思ったことが口から出ていたらしい。 うふふっと笑った女性は水晶の上から指を刺した。


「フィラン様は炎系スライム百九十二匹の討伐に加え、第八階の魔物の一斉殲滅、並びに同階層における魔物の強襲に遭遇し、パーティを四つ、単独冒険者20人の救出、アクアドラゴン三体、氷結竜の雛一体の討伐を行っています。 条件下での聖堂への御祈りも済んでいらっしゃいますね。 ランクアップの条件にある、救出クエストの成功、ドラゴンの討伐、ドラゴンの複数同時討伐、強襲クエストの成功を終えられましたので、ランクは飛び級で上がりました。」


 ……は? いや、それ全部、自分には覚えがないやつばっかりですよ?


「えっと……え?」


「なにかご不明な点でも?」


「いやいやいや、だめですよね? だって私何もしていないですよ? これがまかり通ったら、強いパーティに寄生すれば、どんどんランク上がるじゃないですか。実力主義はどこに行ったんですか?」


「こちらの手続きにも不正はありません。 ダンジョンにおける魔法の使用でも、フィラン様の魔力を使用されておりますし、そもそもの基本レベルを見れば、これは妥当です。」


 え?えぇぇ? ちょっと意味が解らない。


 混乱している私の背中に、あったかい大きな手が添えられた。


「初めての事で戸惑ってしまったよね。 後で説明するから、とりあえず了承しとこうか。 これ以上ここにいても、いろいろと()()()()ギルマスの迷惑になるだけだしね。」


 にっこり笑ったセディ兄さま。


 あ、これは黙っておとなしく従っておけ、の合図ですね。解りました。


「えっと、わかりました。 ありがたくお受けします。」


「そうしてくださるとありがたいですわ。 それから、一部買い取らせていただいた素材の解体をしましたところ、希少物質がございましたのでこちらは規定にのっとり返却いたしますね。 お引き取りはどなたがなさいますか?」


「希少物質って何?」


 つんつん、と兄さまの袖をつつくが、それも後でね、と言われる。


「その希少部位は私が受け取ろう。 魔導士のアカデミーに届けておいてくれ。」


「かしこまりました。 フィラン嬢以外の三名様のランクは最高ランクとなっておりますので、変更ございません。 今日中に報酬を口座へ支払わせていただきますので、明日以降ご確認ください。 フィラン様へはSランクへの条件課題がご自宅に届きますので、ご確認ください。 確認事項は以上になります。本日はお疲れ様でございました。」


 立ち上がって頭を下げた美女……服から立派なものが零れ落ちそうですよー! 危ないですよー! と慌てていると、セディ兄さまに手を差し出される。


「さて、家に帰ろうか?」

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