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1-044)初めての攻撃魔法講座と情けない男たち

「フィラン、フィラ~ン、機嫌をなおして兄さまと行こう。 そうだ、兄さま、なんだか手の込んだ料理が作りたくなってきたな! そうだ!明日はフィランが食べたがってたシチューのパイ包み焼きを作ろう。」


 ひらひら、と、いつもはキリッとしていてかっこいいセディ兄さまが、ちょっと焦った表情で私の前で手を振ってアピールしているけど無視! ガン無視! あと、スライムに手を突っ込んだの忘れない!


「フィラン嬢、ほらほら、スライムの傷のついてない核たくさん集めたぞ、これはいい素材になるぞ~。 スライムの瓶詰もちゃんと素材としてゲットしたぞ~。」


 そう言って、赤い液体の入った瓶とか、キラッと光る赤い玉の詰め込まれた瓶とか握りしめて私に見せてくれるロギイ様もいるけど、誰がそんなもの喜びますか! いるか! そんなもん!(いや、いるけど)


「フィラン、魔法! かっこいい攻撃魔法たくさん教えてあげるよ! フィランは精霊とも契約してるから、すぐに使えると思うよ! そうだな、消滅させちゃう奴とかどう? 嫌いなやつも消しちゃえるよ!」


 真っ黒ローブの袖の部分をばさばさ振りながら、いまだ顔も見せてはくれないジュラ君は、もう物騒! これ以上ないくらい物騒! 嫌いなやつ消滅させる魔法とか、物騒以外の何物でもない! 論外!






「アケロス様、魔法教えていただいてもよろしいですか?」


「おや? わたしでいいのかな?」


「アケロス様がいいんです!」


 ぎりぃ! と、必死にアピールしてくる三人をにらみつけてから、アケロスのほうを向いて頑張って美少女スマイルを浮かべる。


「スライムに突っ込んだ手で料理作る人とか、スライムの素材見せびらかしてくる人とか、人消しちゃう魔法とか言っちゃう物騒でデリカシーのない人たちは」


 スゥっと息を吸い込んで、きりっと()()()()()()を聞かせて叫んだ。


「お・こ・と・わ・り! です!」


 言葉の刃に明らか会心の一撃並みのダメージを心に受ける男三人と、その三人を哀れな目で見つめながら額を抑えてため息をつく人一人。


 ざまぁみろ!


 ふん! と顔を横に向けてやる。


 デリカシーのないイケメンに嵩を着た女心に鈍感なヤロウドモ! 反省するがいい!


 つーん! と、アルムヘイムの真似をするような態度をとっている私は、「行きましょう!?」 と、アケロス様の手を取って、ずんずんダンジョンの奥に進んでいく。


 その道すがら、アケロス様に魔法の基本的な使い方を教えてもらったのだが、この人はとても教えるのが上手! すごい!


 魔法の力の使い方から、意識の持っていき方、攻撃の標準の合わせ方など、ちゃんと教えてくれて、私がわからなくて一瞬考え込むと、そこをただ教えるだけじゃなくて、自分で答えが出せるように導いてくれる。


 うん、ものを習うのなら、脳筋にものを言わせる人や、簡単簡単~って()()()()をすっ飛ばしてしまう人じゃなくてこういう人がいいですよぉ!


「アケロス様は教えるのがお上手ですね。」


「そうかな? まぁ、宮廷魔術師として後輩を育てる身だから、その賜物かもしれないね。 出来の悪い、自信過剰でプライドだけ高い新人を育てるなんて本当に面倒くさい何の苦行だと反抗してきたが、かわいいフィラン嬢にそう褒めてもらえるのなら、耐えてきた甲斐があったというものだ。」


 フフッと笑ったそのお顔。


 しかもなんか、向こうで悔しさに歯ぎしりしてしまいそうな三人に視線を向けながら笑ってますよ。 


 怖い、笑顔、怖い!


 なんかアケロス様の闇を垣間見てしまったかもしれない。


 触らぬ闇にたたりなし、ですよ!


 これ以上この話を突っ込むのはやめておこうね! 私!


 そう心に誓っていると、すっと、アケロス様が腰を下ろし、私と同じ目線になったうえで、指で指し示してくれる。


「では実践と行きましょう。」


 指先で指示した方をゆっくり見る。


「君の歩幅で八十五歩前方、単独でスライムがこちらをうかがっています。 属性は先ほどと同じ火。 さてフィラン嬢、水の魔法で倒してみようか。」


 そういうとすっと立ち上がってから、おもむろに何かを唱えると空間の中に手を突っ込む。


 水中をまさぐるように、ぐりぐりと空間の先に消えてしまった手で何かを探しているかと思えば、あったあった、と、手をこちらに引き戻した。


 いわゆる『何にもない空間に手を突っ込んでなんか取り出し』ました、この鳥人様。


 もちろん、何かを取り出した空間はなにごともなかったように元通り。


 アケロス様の手には細い杖が一本、握られているだけ。


「これは、私の弟子となった可愛いフィラン嬢に差し上げよう。」


 取り出した杖は、ちょうど指の先から肩までの長さくらいの華奢なつくり。


 しかも!


 しかもですよ!


 聞いてください! 私のこの感動!


 ハチャメチャに可愛い―――!


「うわーうわー! かわいい! とってもかわいいです!」


 受け取った私は、つい、声を上げてしまった。


 握ったら手にしっかりと馴染む真珠色の杖。


 握り手は飾り編みされたリボンのようなものが巻き付けられていて、先端も宝石のように光る小さな石が通されたリボンが房のように揺れている。 そして、すべての部分にとても繊細な彫刻が施されている。


「気に入ってくれたかな?」


「はい! とっても! でも、もらってもよかったんですか?」


「いいとも。 君じゃないと扱えないからね。 売ってしまわなくてよかった。」


 にっこり笑ってそういうアケロス様……ん? 私じゃないと扱えないってどういうことでしょう?


「え、あの……」


「さて、詳しい話はあとにしましょうか。」


 もう一度、腰を落として目線を合わせてくださったアケロス様は、私の肩に手を置いて、優しく言葉をかけてくれる。


「目の前の標的に集中しましょう。 意識をしっかりと向けながら、小さな水の玉があれの核を押しつぶすイメージを作り上げる。 イメージが固まったら、そのイメージのままに魔力を相手へ放つ。」


 じわっと、滲んだように浮かぶそのイメージが、アケロス様の言葉に合わせてしっかりと形をとり、ぴったりと焦点が合った瞬間がきた。


「いまです。」


「スキル展開・水魔法『湧水の一雫』っ!」


 杖の先から、親指の爪ほどの小さな水の塊が生まれると、そのままものすごいスピードで宙を滑り……


 スライムにあたった衝撃が、手に響いた、と感じた瞬間。


「ナイスショーット!」


 ジュラ君の言葉に合わせて、そこに、ジュラ君の放った魔法の半分程度ではあるが、でっかい水柱が立った。


 ……水柱?


 一雫っていったのに?


 呆然としている私の肩にぽんと置かれる手の感触。


「おやおや、これはこれは。」


 見上げると肩に手をやり私を見下ろすアケロス様。


「やりすぎましたね。」


 にっこりと笑ったアケロス様。


 これは大変だな、魔力量はどれほどに貯蔵しているのだろう。出力の練習はどうやって教えるんだったかな? と腕を組んで私を見ながら何やらぶつぶつ言い始めたのだが、その横からセディ兄さまがそんなアケロス様の肩に手を置く。


「アケロス、あの杖は?」


「なんだい、君の可愛い妹が私の弟子になったことに対する嫉妬かい?」


 みっともないねぇ、と笑いながら、嬉しそうにアケロス様は私と杖を見る。


「魔法には杖が必要さ。様々な楽器で音楽を奏でる様々な者達を統べて調和させる、指揮者のタクトと一緒だよ。 何事も上手に指示を送ってあげないとうまくいかないからね。 魔術師の杖はその役割を果たすし、その杖は先人がその子の将来を見据えて贈る決まりだろう?」


 もっともらしいことを言っているアケロス様に、セディ兄さまが詰め寄る。


「いや、そうじゃなくて、あれの素材は何だ……」


「おや、君は鑑定スキルを持っているじゃないか、鑑定してごらん?」


「できないから言っているんだ……」


 え? 何? 兄さまが鑑定できないって何なの? やばいものなの?


「えっと……アケロス様、この杖、高価な物なんですか? お返ししたほうがいいですか?」


 そういった私には、ニコッと笑ってひらひらっと手を振ってくれる。


「う~ん、高価と言えば高価なんでしょうけどねぇ……それは君を認めてしまったから、もう君から離れません。 それは主人を選ぶ、僕の収集品の中でも一番の気難しがりな代物だったのですよ。 大丈夫、魔力増幅をしてくれますし、君が純潔である限りは君を守ってくれる逸品ですよ!」


 詰め寄ってきているセディ兄さまを力いっぱい引き離しながら、アケロス様は爆弾発言をしてくれる。


「……え?」


 純潔って何ですか?


 聞き返そうとした私より少し早く、ジュラ君が両手で握っている杖を見ながらため息をついた。


「素材は一角獣(ユニコーン)の角で、紐は一角獣の鬣か。 石は魔法石だな。 ……アケロスの収集癖は昔からだったが……。 こんな珍しいものを隠し持ってるとは、やっぱり烏だな。」


「烏ではない、鵲だ。 一緒にしないでほしいな。」


 ジュラ君が腕を組んでため息交じりで言った言葉に、アケロス様はすぐに反論している。


 あれ? ジュラ君も鑑定スキルもちなんですか? いいなぁうらやましい!


 っていうか、一角獣って何!? 幻獣! あの美しい、そして純潔の乙女じゃないとだめっていうあの一角獣!?


 そんなものもらっていいの!? っていうか、純潔である限りって、私あっちじゃ一回嫁に行ってたけどいいの!?


 こっちじゃ好きな人とそういうことをしちゃだめってこと!?


 大混乱だよ、私の頭!


 と思ったところで、何か大きな音が聞こえた。


「なんだ?」


 今まで笑っているだけで黙っていたロギイさんが口を開いた。


 下へ降りるゲートのほうだ、とそちらを凝視する。


「おっと、痴話げんかは終わりみたいだぞ。」


 にやり、口元に笑いを浮かべてバトルアックスを肩に担ぐ。


「こんな低階層で珍しい……」


 兄さまもいつの間にか双剣を構えている。


「やれやれ、どこの馬鹿がやらかしたんだい? 困ったねぇ……きついお仕置きが必要のようだ。」


 ため息交じりのアケロス様は、目深にローブをかぶり、杖を力強く床にたたきつけた。


 私たちの足元に、青い魔方陣がそれぞれ浮かぶ。


「え? なに?」


 何が起きているのかわからないけれど、四人を纏う空気が変わったことだけはよくわかった。


 そして何かがこちらに向かってくる、地震の前のようなお腹に響く気持ち悪さも。


 また、大きな音がした。


 音がした方からは、大勢の怒号と、爆発音が聞こえ始める。


「人命保護が優先になるな。 私とロギイで潰そう。 アケロスは私達の援護と撤退者の王都強制転移を。 ジュラ、フィランを任せる。 フィランに傷ひとつつけるなよ。」


「誰にモノを言っている、あたり前だ。」


 ジュラ君が私の前に立つ。


 遠くから聞こえてきた声が、どんどん近づいてくる。


「フィラン、ジュラから絶対に離れないように! わかったね。」


「え!? なに!?」


 セディ兄さまが困ったように笑って、次の瞬間、今まで見たことがない、息をするのも忘れてしまうような恐ろしい冷たい顔つきになった。


「魔物の強襲だ。」

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