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1-043)初・魔物遭遇! スライムのたおし方(三者三様)

 ダンジョンの中に入ってすぐに見えてくるのは、見渡せるほどの狭い部屋と、その奥から始まる下へ降りる回廊。

 この狭さと言い、天井の高さと言い、なんだか本当に口の中なのでは? と思うほどの狭さ。


 ジュラ君と手を繋いで歩いていた私は、薄暗さに目もなれてきたのでよく見てみようと、周りをキョロキョロ見回した。


 天井から下がった白い幕と、変な文様の壁以外、本当に何も無い。


 ……上顎洞と歯にしか見えない……。


 ってことは、あの回廊は食道? 本格的に食べ物になった気分だよね。 気持ち悪っ!


 うんざりしてため息をつくと、それに気が付いたジュラ君が、マントから出した、私とつないだのとは逆の掌の中に光を出した。


「スキル展開 『ダンジョンマップ。 嘆きの洞窟15階までの構造図』」


 ぽっと光は形を変えて、私たちのいる1階から15階までのダンジョンの構造図の形をとった。


 ふむふむ……この形は……?


 口腔から食道、胃、十二指腸に見える……


 きも!


 作った人間、超悪趣味!


 いや、誰が作ったのかはわからないけど!


 あんまりのダンジョン構造にうんざりしている私に、ジュラ君はその立体図を使って教えてくれる。


「この回廊を降りきったところが1階。 1階から10階までの魔物はスライムが中心。 天井からも落ちてくるから、頭上も気をつけてね。 僕が結界を張るから大丈夫だけど。」


 顔は見えないけど、ちょっと威張ってる感がこの年頃の男の子っぽいなぁと思いながらも、どちらかといえば出現する魔物に興味がわいた。


「スライム?!」


「うん。 魔物の中では初歩中の初歩だね。新人はまずここで研修するんだよ。」


 いや、そこじゃなくてね。


「かわいい?」


「……可愛い?」


 ほら、あるじゃない? ぷるるん、とした感じとか、銀色の包み紙に入ったチョコレートみたいな形とかで、お目目とお口があったりする感じの!


 すごく期待した目をしていたのか、フードの顔色の見えないジュラ君の困ったような声。


「うーん……見ようによっては可愛く見える……のかなぁ……?」


 なぜ疑問形?


「実際見てみればわかると思うから……このダンジョンは火属性だから、赤いスライムが出るよ。 熱いから、あいつらが吐き出した粘液には触らないように。 基本、魔物は3人に任せてフィランは僕と素材回収に専念しよう。 スライムからも取れるからね。」


「素材?」


 スライムから? と首をかしげると、前衛にいるセディ兄さまが笑った。


「メイン採集は上級以上の体力ポーションと魔力ポーション、それから骨筋特化ポーションの素材だから15階で採集するけどね。」


「でも、そのポーションの材料にスライムってなかったよ?」


 首を傾げた私に答えてくれるのはジュラ君。


「スライムの素材は、彼らの自己再生能力を使った傷薬や、消化能力を使った駆虫薬の材料になるよ。 ちゃんと持って帰ろうね。」


「なるほど。 ジュラ君って物知りだね! ダンジョンにも詳しいしすごい!」


 そういうと、ローブの中で頭を掻く仕草がなんとなく分かった。


 照れてる、のかな? と思っていると、頭上から声が聞こえる。


「このダンジョンは王宮に勤務する戦闘組織の新人の初期研修指定ダンジョンなんです。 冒険者から騎士、魔術師も、まずはこのダンジョンの15階の制覇が研修目標です。 私とロギイは監視役としてよく来るんですよ。」


 私の後ろからそう教えてくれるのは、宮廷魔導師のアケロス様。


 こちらも大変なイケメンさん。


 少し青白いお顔はお仕事のし過ぎからなのか(やっぱり王宮で働く=社畜!?)……青みのある黒髪も、瞳もとても素敵で……推し……ではないけど、イケメンです!


 そして! 鳥人として大事な萌えポイントの一つ! 背中にある黒い大きな翼! 一度でいいから触ってみたーい! と翼を観察していたら気が付いた。


 つやつやの風切羽の向こうにある青く光る羽。


「あの、アケロス様。」


 はい? と微笑む彼に聞く。


「お気を悪くしたら申し訳ないのですが、もしかして(カササギ)さんですか?」


「おや、よくわかりましたね?」


 にこっと笑ってくださるので、ご機嫌は損ねていないようだ。


 実は鳥も好きな私! 鵲はとってもきれいなイメージなのだ!


 もう、小鳥なんか宝石みたいだもんね! コタロウがいるから今も、前も飼うことはできないけど。


 そうそう、なんで気が付いたか、ですよね。


「風切羽の青みと白い模様、昔みたことがあったので。」


 どこで、とは言わないけど転生前(ぜんせ)では、小説や童話を読んだ後で、その鳥の事を調べるために見た鳥の百科事典で、日本にもこんな綺麗でかっこいい猛禽類以外の鳥もいるんだなって感心したから覚えてる。


「なるほど。 よく観察していますね。 私は鵲族です。」


 やっぱりね!


 うーん、そうするともう一個聞きたくなるんだけど…いいかな?


「もしかして、アケロス様は槍も使えたりしますか?」


「おや?」


 意外、という顔をして聞いてくるアケロス様。


 セディ兄さまもロギイ様もすごく不思議そうな顔をしてこちらを見ている。


「宮廷魔導士の僕が、なぜ槍をふるうと思われたのですか?」


 う~ん、素直に答えてもいいかな?


 いや、ここまで来たら素直に答えたほうがいいよね。


「セディ兄様が私の護衛に決まる前の話なんですけど、ラージュ陛下が提案してきた候補の方の中に、鵲で槍の使い手で火の精霊にとても好かれてる人、という方がいたので。」


 なるほど、と口元を弛めたアケロスさん。


「たぶん、フィラン嬢の考えるとおり、それは私の事でしょうね。」


 持っていた大きな人型の張り付いた杖を見る。


「これは魔法具ですが、ここが変形し、槍になります。 詳しくは内緒ですけどね。 火の精霊は、今日は出てこれませんが、確かに僕は契約しています。 精霊と言っても、召喚獣にかなり近い姿をしています。 しかし……」


 ふふふっと笑った彼は、私を横目で見て笑った。


「そうですか、私もあなたの護衛候補でしたか。 なぜ、セディを選んだかお聞きしても?」


 え? えぇ?


「う~ん、お話を伺う限り、アケロス様だと、推しになりそうだったから、そうなると同居は本当に地雷なんです。」


 ま、ちょっと好みから違いましたけどね。


 素敵には変わりありませんが。


「「「……?」」」


 推しが何たるかわからないロギイ様とアケロス様は、なんだか変な顔をして押し黙ってしまった。


 あ、まずいな、ひかれちゃったかな?


 困ってセディ兄さまを見ると、なんだかうれしそうに笑っている。


 変な兄さま……なんで嬉しそうなんだろう。


 首をかしげながら、長い回廊を降りると、大人の男の人ならば、頭を打ち付けないように身を屈めなあと入れないような狭い入り口が現れた。


 先に入った兄さまが来てもいいよ、と声をかけてくれたため、ジュラ君から手を放し、奥へと進む。


「おー! ひろぉい! けどぉ…」


 くるぶしくらいまで、淡い黄色の水のたまった広い空間。


 とっても広い空間は、全体的にほの暗い、赤黒い色をしていて、ところどころに立つ柱やそれに絡まる蔦、上から時折流れ落ちてくる黄色い水の音がして……


 キモイキモイ。


 めっちゃキモイ!


「兄さま、この水、消化酵素(胃液)じゃないですよね?」


 目の前にいるセディ兄さまの袖をつかむ。


「酵素?」


「こう、浸かってると、溶けちゃうような危ない液体じゃないですよね?」


 訳が分からなさそうな顔をしていた兄さまは、水を手で掬って見せてくれる。


「そんな危ないダンジョンじゃ、初心者講習には使えないな。 この水は地下水に魔石の養分が染み出して色ついたものだよ。 だからそんな危ない物じゃないし、浄化すれば飲める水だよ。」


 飲んでみるかい? と言われて思い切り首を振る。


 こんな気持ちの悪いモノ飲めるかい!


「フィラン嬢。」


 想像して気持ち悪くなった私に、ロギイさんが声をかけてくれた。


「初ダンジョンだし、スライム、倒してみないか?」


「倒す?」


「あぁ。 ほら、ちょうどいい、やってきたぞ。」


 私にそういって親指で指し示してくれたのは……あぁ、うん。


 スライムです。


 うん、スライム。


 かわいいのを想像してたけど……この世界のは違うみたい……。


 こういうのを期待してたわけじゃないんだよなぁ……下にたまってる水とも、完全にここからここまでがスライムです! って主張しているような赤色の、理科の実験で糊とかで作ったような、あのねばねばです。


 興味なし!


 あ、素材としては欲しいですけどね。


「あれ、倒せるんですか?」


「倒せるよ。」


 そういったロギイさんは、腰の革袋に入っていた小さなナイフを取り出すと、それに向かって投げつけた。


 スパーンッ!


 いい感じに何かにナイスショット!


 すると形も色も溶けてなくなった。


「こうやって倒すんだぞ。」


 …。


 ……。


 ……馬鹿なの?


 こうやってもくそもなくない?


 何なの? 獣人は脳みそが筋肉かなにかでできてるの?


「すみません、一瞬すぎて何があったのかわかりません。」


「そうか?」


 じゃぶじゃぶと水の中を進み、先ほどスライムがいたところで何かを拾い上げて帰ってきたロギイさんは、私に先ほどのナイフを見せてくれた。


「……えぇぇ……」


 嫌そうな声を上げたのは許してほしい。


 だって、ナイフは、15センチくらいの丸い石を貫通していたのだ。


「スライムには核がある、この核を割れば即死だ。 意外と簡単に……こう」


 ナイフから抜いたその石を、親指と人差し指でつまむと、パキン、と簡単に砕いた。


「ほら、こんな感じでもろいんだ。」


 うわぁ……参考にならねぇ……。


 獣人の、虎さんの、セディ兄さまよりも筋肉ついた大男で、巨大なバトルアックス片手でぶん回す大男さんに「こんなに簡単だゾ。」って言われても、何の参考にもならねぇ……。


「ロギイ、落ち着け……フィラン、これは参考にならないから、私が見本を見せよう」


 助け舟の様に私とロギイさんの間に入った兄さまは、いたいた、とスライムを見つけると、そこまで行き、手を振った。


 ちゃんと見てろよってことだと思い見ていると。


 スライムの脳天から腕を突っ込んで核を取り出し、そのまま私の目の前にやってきて、核を床に置くとパキン、と踏みつぶしました。


 うん、核を取り出した時点で、形もなくなって死んだのはわかった。


 そっか~……兄さまも脳筋に近かったのか。


 ちょっとがっかりしたのは仕方なくない?


「簡単だろう? スライムは細胞膜がもろくて核を抜けばすぐに死ぬよ。」


 超簡単! スライム討伐講座! をうんちく垂れる兄さまと、ナイフのほうが早いのに、というロギイさん。


 粘液触らないようにね、とか言ってなかった?


 なんで普通に手を突っ込んでるの?


 困惑している私を無視して、こっちが簡単、とか言い合ってる2人のそれを制止してくれたのは、ジュラ君だった。


「どっちも初ダンジョンの女の子には無茶ぶりが過ぎる。 スライムに直接手を突っ込むとか、どんな難易度だ。 フィランを見ろ、青ざめてるじゃないか。」


「え? フィラン?」


「とりあえず兄さまは、今日は私にもう触らないでください……。」


 真っ青になってた私の背を摩りながらため息をついたジュラ君さんと、慌てているセディ兄さま。


 自分とそう変わらないじゃないかとあきれてるロギイさん。


「フィラン、僕がか弱い女の子でもできる、簡単なスライムの倒し方を見せてあげるね。」


「はい、ぜひ!」


 うん。 ジュラ君なら、そう言ってくれると信じてました!


 ちょっとなんか危ないフラグ立ったかな? と思ったけど、それを頭の隅に叩きやって頷く。


「ほら、あそこにいるだろう? 先ほど馬鹿二人が倒したのと同じ火属性の最弱のスライムだよ。 あ、ちょっと数が多いね、音と声であつまっちゃったかな? でも大丈夫、見ててごらん。」


 ローブの中から出てきた手には、どこから出てきたんだっていう、背丈ほどの大きな杖で。それをくるっと回すと青く光る魔方陣が現れた。


「スキル展開・水魔法発動。 『最果ての瀑布』っ!」


 ものすごい爆音ととともに、ダンジョン内に巨大な水柱が上がったと思うと、 今度はゲリラ豪雨かと錯覚するくらいに一気に水が落ちてくる。


 あっけにとられている私の目の前で、ジュラ君が杖を一振りすると、その水の塊も一瞬で消えた。


 もちろんスライムも。


 一気に静まるダンジョン内。


「この階層のスライム全滅したな。」


 呆然としている私の後ろから、アケロスさんのあきれた声が聞こえた。


 でしょうね……。


 どんだけの魔法ぶっ放したんだろう。最果てのって最大級の魔法なんじゃないかしら……知らんけど。


 そんな気持ちはお構いなしで、ジュラ君はこちらを振り返った。


「こうやって倒せばスライムに触ることもないし、一瞬で消える。 簡単でしょ? じゃ、やってみて?」


 にっこり笑ってくださったけれど……


「フィラン?」


「お? どうした?」


「フィラン、大丈夫か? 震えているが寒いのか? ジュラ、水魔法は気温が下がるから気を付けろとあれほど言ったのに……。 フィラン、とりあえずこのローブを重ねてあったかくしなさい。」


 なんて。


 3人が3人、とっても心配して声をかけてくれるけど……


「私がね……」


「「「うん?」」」


「私が震えているのは……」


 ぎゅっと両手を握りしめ、心配そうな顔をする3人に向かって全力で叫んだ。


「全部無理に決まってるからです! 全員常識外れなんですよ! 馬鹿ぁ!」


 ばかぁ……ばかぁ……ばかぁ……


 ダンジョン内に私の声がこだまする中、アケロスさんがただ一人、頭を押さえながら私の叫びに頷いてくれたのでした……。

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