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1-040)仲直りの御馳走と思い出。

「……心配かけてごめんなさい。」


 水場で、左手にコカトリスの雛(羽毛毟り立てホヤホヤ)、右手には見たこともないイカついナイフを持ち、呆然としているエプロン姿のセディ兄さま。


「馬鹿って言って、逃げてごめんなさい。」


 そんなセディ兄さまの前で、服やら頭に葉っぱをつけたまま深々と頭を下げる私。


 なんでコカトリスってわかるねん! とか、羽毛むしりたてほやほやっていうけどその肉は新鮮ですか? それとも熟成のために寝かしてあった奴ですか?  とか、そういうのは置いといても、まぁ、たぶんはたから見たらとてもなシュールなこの光景。


「お、おかえり……」


 ほら、あんまりにもシュールすぎて、セディ兄さまからとっさに出た言葉はそれだけだった。






 窓から大空猫・コタロウの背中に乗って家を出た後。


 風を捕まえて空を走る大空猫の背は、つかむところがないことを省けばとても快適で(そこが一番必要なのでは? という突っ込みはいらない! いいの、そんなにしょっちゅう乗らないもん!)第1位、第2位の精霊の補助付きでの空中散歩をひとしきり楽しみ倒して、王都要塞ルフォート・フォーマの中央にある神の木の、その先のてっぺんである枝の先に座って、お菓子とポーションをシバキ……もとい、たしなみながら遠く水平線に落ちていく太陽にお別れをするまで頭を冷やした。


 体も冷えてしまったが、それは付与スキル『無病息災(私命名)』のおかげで風邪などひくこともなく、ただただ寒いだけだった!


 日の妖精・アルムヘイムの力が太陽に左右されるとのことで、完全に日没となる前には散歩を切り上げて裏庭におりると、家の中からは大きなため息と何かを切る高速の音が聞こえる。


 ダダダダダダダダダダッ! って聞こえるけど、兄さまは何をそんなに切っているんだろう……。


 しかし絶対に怒ってるよね……。


 今度はどれだけ怒られるかな?


 そんなことを考えながら裏戸の前に立つ。


 裏庭から帰るってどんな状況だよ、って思うんだけど、正面から帰るとコタロウが目立つからね!


 そっと扉を開けると、すぐにこっちに視線向けた兄さま、二階に駆け上がったと思われていた私が、裏口からひょっこりと顔を出したことで声も出ないくらいにびっくりした顔をしていた。


 先手必勝!


 何か言われる前に頭を下げました。


 偉い?


 そんなことは無いです。今回は95%は私が悪いからね!(のこり? 兄さまに押し付けるよ!)


 というわけで冒頭に戻りますよ。最近こんなの多いよね。





「あ、あぁ、フィラン……良かった……」


 気が抜けたような、心底ほっとした顔のセディ兄さまは、ナイフと禿げたコカトリスのヒナを水場におき、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()私をポンポンと触って何かを確認した後、それだけを口から漏らして、ぎゅうぎゅうと抱きしめた。


「く、苦しいです……」


「いや、良かった、帰ってきてくれてよかった……心配した……」


 あ、これ知ってる。


 本当に安心したときに出る声だ。


 嫌われたり、呆れられたりしてなかった。


 ただただ、心配をかけてしまったんだと心から申し訳なく思う。


「心配かけてごめんなさい。」


 すんなりと、心からの謝罪の言葉が口から滑り出た。


「うん。 いや、私がいろいろ言いすぎたんだ。 昔からよくセスにも同じように怒られて家出されていて……本当に申し訳ない。」


 うん、セディ兄さまの気持ちはその腕力からすごく伝わります……。


 でも抱きしめる力が強すぎて、背骨が死んじゃいます。そろそろ……死……。


「うん、大丈夫です、そ、れより、苦しいので一回……離し、てください、苦しい」


「あ! あぁ、すまない!」


 ぱっと手を離したセス兄さまは、膝を曲げて私と目線を合わせて、ポンポンと頭を撫でてくれた。


「本当にごめん。 それから、おかえりなさい。」


 あ、もしかして家を出たの気が付いてました?


 そうですよね、そういえばもともとは王城の騎士様ですものね!


 わかってて追いかけてこなかったんですね(まぁ空飛んでたしな。)


「ただいま帰りました。」


「よし、じゃあまず、晩御飯にしよう。 うがい手洗いをして、葉っぱいっぱいつけてるからシャワーもちゃんと浴びて、温まってからおいで。」


「はぁい。」


 こんな時でもきっちり「綺麗にしてこい」というあたり、セディ兄さまはお母さん属性強めです……。






「うわ、すっごいご馳走!」


 頭を乾かしながら、寝巻きにショールを巻いた私は、テーブルに所狭しと並べられているご馳走にびっくりして声を上げた。


「これ、あれだけの時間で作ったんですか?」


「……あはは……さぁ、食べようか。」


 乾いた笑いを漏らしたセディ兄さま。


 無言の肯定ですね。


 もしかして何かあると単純作業に没頭しちゃうタイプかな?


 と思いながら席に座ると、あったかいスープも出てきた。


 本当にごちそう!


「いただきます!」


「いただきます。」


 『手と手を合わせて幸せ』からの、お腹の幸せ!


 いただきまーす!


 トロトロに煮込まれたお野菜のスープは、一口で体に染みわたる、あったかくて優しい味で、ほっとした息を漏らすように声が出た。


「美味しい~」


「良かった。 セスと喧嘩をした時もこうしてつい作りすぎてしまうんだ。 思い出したよ。」


 困ったように眉を下げて笑うセディ兄さまの、この穏やかな困った顔は初めて見るなぁと思いながら、今なら少しだけでも聞いていいかな? と考えて、ごくん、と口の中に入っていたものを飲み込んだ。


「昔から?」


「そう。 昔からね。」


 困った顔のまま、パンをちぎったセディ兄さまは苦笑いをしながら話す。


「今日みたいにね、意見が合わないことがあるとよく口論してね。そうするとあの子は家を飛び出して、陛下……その当時はまだ皇帝ではなかったから、あの方の家か、他の幼馴染の家に行ってしまうんだ。 で、大体、行った先で説得されるか、すっきりするくらい文句を言ってくるのか、そいつらに付き添われて帰ってくるんだけど。まずは、ただいま、お腹減った! って帰ってきて。無言でご飯を食べてから、やっと仲直りする空気になるんだ……。 私は私で喧嘩をした後で、後を追って探しに行っても迎えに行っても大体は見つからなかったり、頭を冷やせって追い返されたりしていたから、出ていかれた時には家でたくさんの食事を作って待ってることにしたんだ。」


 あぁ。なるほど。


 いいお兄さんだったみたいだなぁと、その顔を見ながら思う。


 私は前世で家族運があんまりなかったので、ちょっとうらやましいな……


「兄妹で仲良しなんですね、うらやましい。 今日みたいにご飯いっぱい作って待っててくれるんでしょう? 私は嬉しかったから、セスさんも嬉しかったと思います!」


 とっても美味しいですもんね!


 励ますつもりで、そう言うと、スプーンを進めていたセディ兄さまはまた少し驚いた顔をして、それからやっと穏やかに笑った。


「そう、そうだといいな。」


「きっとそうですよ! 太鼓判押します!」


「太鼓判がなんだかわからないけど心強いよ、ありがとう。」


「はい!」


 とっても和やかな食事で、お昼から続いていた変な緊張感もほぐれたところで、そういえば、とセディ兄さまは口を開いた。


「コルトサニア商会との商談の内容は覚えている?」


「なんとなく。」


 実はいろいろ言われたところから意識吹っ飛んでいたので、これっぽっちも覚えてませーん!


 なんて言えないので、そこいらへんはぼかして答えると、それに気づいているのかセディ兄さまは笑った。


「あとで交わした書類をフィランの部屋に届けるから、ちゃんと見ておくようにね。 それから彼も言っていたけれど、何か新しいアイデアや商品が浮かんだ時にはわたしか彼にホウ・レン・ソウ。 間違っても事後報告になったり、思い立ったまま一人で行動はしないように……。 これ以上何かあったら、陛下が怖い。」


 そう言ってセディ兄さまから出たため息が深すぎた。


 いやな予感しかしないので、とりあえず聞いてみる。


「……そ、それは、私の行動が逐一、ラージュ陛下に連絡が言っているということですか?」


「大きなことだけだけどね。 知っての通り、本来はフィランの身辺警護と近況報告が私の仕事だからね。」


 あ、そうだった。そういえばそうだったわ。


 すっかり本当に後見人の優しいお兄ちゃん、としか思ってなかったわ、いっけね。


 すっかり胃袋もつかまれちゃってるし、ここで護衛の任を解く、とか言われないようにしないとね……やれやれ。


「きをつけます~。」


「それからこれは提案なのだけど。」


 コカトリスの雛だったんだろうなぁって思うお肉にかぶりついた私のお皿にサラダを入れながらセディ兄さまは言う。


「今度の土の精霊日の日、お店を閉めてちょっと出かけないか?」


「お出かけ?」


 もぐもぐ、ごっくん。


 柔らかい鶏肉にとてもよく似たそれをめいっぱい咀嚼して飲み込んだ私は首をかしげた。


「どこにですか?」


「それは当日のお楽しみ、ということで……。 同伴者も連れていくよ。 私の昔ながらの知り合いだから腕もたつし、信用できる。 ここにきてどこにも行っていないだろう? 店の開店準備からずっと頑張ってきたフィランに、息抜きのお出かけをどうかと思ったんだ。 その日のための用意は私が全部しておくから、フィランは当日までお店に専念して大丈夫。」


「お出かけ、ですか……。」


 正直、どこに何をしに行くかさっぱりわからないけれど、まぁセディ兄さまなら危ないことはないと思うし……めったなことも起きないだろう。


「じゃあ、楽しみにしてます!」


 ペロッと食べたお肉の骨をころん、とお皿に乗せた私は、そのままサラダと格闘し、食べ終わった後は仲良く御片づけをして。


 そのまま私は変な疲れに負けて、そのまま部屋に戻った。






「アルムヘイム、ヴィゾヴニル」


『なぁに?』


『どうしたんだい?』


 私のベッドの両横で、子守唄を歌ってくれる二人に、うとうとしながら聞いてみる。


「……セディさんに何したの?」


『『それは秘密。』 ですわ。』


 なに?!そのバナナで釘をへし折ったような笑顔!


『私たちのフィランを泣かせたんですもの……ちょっとね。』


『だいじょうぶだよ、いじめたりはしてないさ……ちょっとラージュのところの精霊に愚痴っただけだよ。』


 なるほど。


 合掌。


 二人の笑顔が、やっぱりとっても怖かったので、セディ兄さまごめんなさい、と二人の部屋の方向に向かって謝るしか私にはできなかったです。お休みなさい。

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