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閑話1)爺の気まぐれのしりぬぐい

 あ、こいつは新しいおもちゃだわ。





 それがあの娘を見た最初の印象。


 それから。


 あいつはまた、酷なことをしやがるもんだ。


 と、あの娘を哀れに思ったものだった。








 この世界の神様ってやつは気まぐれだ。


 俺がこの世界に来た時だって、それはそれはくそ迷惑なことを勝手におしつけやがった。


『お主、今日から※※※※な。』


「はぁ?」


 これが初対面での最初の会話ってんだから、意味がわからない。


 そこからいろいろ話し合って(怒鳴りあって?)、圧倒的に有利だった相手から、どうにか最大限の譲歩を奪い取り、それの代わりに神クラスのくそ迷惑なチートスキルを押し付けられた。


 鑑定スキルと他者への祝福付与スキル…もう一個はあんまり口に出したくないスキルだから言わないでおこう。


 そんな風に相手に譲歩をさせてチートな俺が見事に出来上がったわけだが、それでもやはりいろいろと納得いかず、『神様』がどんな状況であったにしろ、唯一自分の物であった『命』を適当に終わらされ、転生させられられたことに対して、ムカついてムカついて、水晶の神とやらをぶん殴ってやろうと拳を当てたら次の瞬間、落ちていた。


 ありえないだろう?


 気がついたらスカイダイビングだぜ?


 気を失いそうになるのを必死に繋ぎ止めて、自分のステータス確認をして風魔法で事なきを得た。


 この世界の大地に降り立った瞬間にあいつから言われた言葉は


『まぁ、そんなに気負わず適当にやってくれ』


 だった。 もう本当にアホかと絶叫しまくり自暴自棄になっていた。


 タイミングよく、そこに通り掛かった赤鬼と青鬼にしか見えなかったオーガの夫婦に拾われなければ、俺はさっさとこの世界から退場するすべを探して実行してただろう。


 ……いや、正直拾われた直後に何度かそういった行動を起こしたのだが、そのたびにこの夫婦、失禁レベルの強面な見た目と裏腹に、それは愛情深く熱心に俺を叱って、抱きしめて、愛してくれた。


 そう、この二人、超が付くほどのお人好しだったのだ。


 まぁ、そのまま俺の親になってくれたその夫婦の、まっすぐな愛情のおかげで俺はこうしてこんな立場でここに立てているな。


 ちなみにこの夫婦には今も俺は頭が上がらないが、それは別の話だ。







 話が逸れたが、この娘もそうだと思った。


 ろくでなしの神の趣味か、転生者本人の趣味か分からないが、それはまぁ、ずいぶんと可愛らしい姿でやってきた。


 俺が落ちてきた時と同じ年頃の背格好だったが、中身は結構いい大人。


 何をそんなに気に入ったんだかと鑑定してみれば随分とまぁ、中途半端なスキルとは裏腹に身に余るほどの祝福。


 それから生来の物なのか精霊好きのする魂の光。


 こちらに着いてすぐに体が霧散しなかっただけでも、この世界では十分に生きていける奴だとは分かったが、話してみれば想像以上に面白いやつだった。


 娘は俺の目の前で最初こそ恐縮していたが、はっきりとモノを言う。


 言い方は考えていたかもしれないがズケズケとものを言い、もりもりとおやつを食べ、美味い美味いとお茶を飲み、イケメン最高! だけど要らないです!不必要です! と、周囲の美丈夫に喜びながらもきっちり是非を選択する余裕もある元気な娘で、俺も興味を持つのに時間はかからなかった。


 欲望に忠実だが、きっちり自分を律することが出来る。


 これは、本人がいくら拒否しても、人を惹き付けてやまない。


 そりゃ神様(バカ)もご執心となるはずだと思った。


 そして、それならば必ず何かが起きる前に護衛が必要だと思った。


 ちょうど、職を辞したがっているがその有能さとこれまでの感謝の意、言葉では言い表せない家族の情などから、自分の傍から手放せないでいた友人がいた。


 とても有能な彼には、俺への忠義をも超える、護るべきものがあった。


 実の家族には勝てないし、その気持ちは汲んでやりたいと思案していたが、よい状況で手放してやることができなかったのだ。


 目の前で、身に余るものはいらないので、この菓子を自分を思いだした時に送ってほしいです! と目をキラキラさせて言っている娘とも、上手くやっていくだろう。


 この提案、実は一度は断られたが、次の機会は近いうちに来るだろう。これだけ色々なものに愛された娘なのだから。


 それ以上に、あちらでは受けられなかった分以上に、こちらの世界では愛されて欲しい、愛されなければならない娘なのだから。




 だから。




 娘を城門まで飛ばした後、薔薇のアーチをくぐった先にいた花樹人の青年に声をかける。


「さっきの娘、どう思った?」


「可愛らしい、純粋さが危うい方かと。」


「お前の家族と共に一緒に市井に下り、あれを降りかかる火の粉から護って欲しいと言ったら頼まれてくれるか?」


「あなたの命令とあらば。」


 いえ、と口元を抑える。


「もし、妹と共に城を出れるのであれば、こちらからも是非に、と。」


「是非に?」


 ふっ、ラージュは笑った。


「珍しいな? お前からそういうなんて。」


「ドリアード様の反応が、その答えですよ。」


 そう言われ、俺は自分の横を見た。


 俺に寄り添うように立つ美しい女が、ひとつ、頷く。


 木の大精霊・ドリアードは、花樹人の彼に進言したのだろう。


「あぁ、この出会いが、妙薬となるといいな。」


 では、と、俺は虚空から1枚の羊皮紙を取り出すと、ペンを走らせた。


「センダントディ・イトラ、並びにセスターエン・イトラ。 我が眷属の末席に据え、祝福を与えた娘、ソロビー・フィランの護衛を任せる。 時期が来たら市井に降り立ち、必ずや職務を果たすように……」


「勅命、ありがたく。」


 頭を下げた花樹人の青年は、では御前失礼いたします、とその場を去った。


 それを見届け、ラージュは温室の向こうに広がる青い空を見た。





「さて、あの爺、俺に会いにいつ来るかな……」

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