1-029)早朝襲撃もお手の物!
皆様、おはようございます。
私、元アラフォー限界オタク、異世界転生して現在は弱冠十四歳、お顔の出来は上の下のソロビー・フィランです。
今現在、どういう状況かと言いますと……
「おはようございます。 朝早くに申し訳ございません。この度、貴女の護衛を仰せつかりましたセンダントディ・イトラです。」
「……は……はじめましてぇ……」
まだ夜も明けきっていない早朝から、寝間着姿のクッソ寝ぼけ眼で洗顔どころか髪の毛もぼさぼさ、よだれ垂らしてたかもしれない間抜けな顔で、布にくるまれた美女を抱き上げた超絶イケメンと対峙する状況になっています。
「朝早くに本当に申し訳ありません。」
「いえ、とりあえずこちらのお部屋を使ってください。」
ひとまず家の中に入っていただくと、そのまま二階の私の部屋の隣、この家で二番目に広いお部屋に案内した。
「狭くてごめんなさい。 それにちゃんとしたお掃除もまだ出来てなくて。」
空気を入れ替えるためにカーテンと窓を開ける。
「いえ十分です。 今までの騎士団の部屋よりも広くて綺麗です。 ありがたく使わせていただきます。」
「そうですか? これより狭いってひどくありません?」
「私一人、個室をいただいていましたからね。」
「うっ!」
にっこり笑ったその人。
ご尊顔が! 朝日のように眩しいです! 眼福!
「大丈夫ですか?」
「いえ、お気になさらず。 あまりにも尊いものを拝見したので……あ、ベッド使ってください。新品で綺麗ですから。」
ずっと女性を抱えていらっしゃるのでそう伝えると、では失礼して、と女性をベッドに横たわらせた。
彼女の体に巻き付けている布は何やら魔法陣みたいなものがたくさん書かれていて、不思議な感じである。
男女差はあれど、おんなじお顔。
とっても綺麗な顔立ち。
お兄さんの方は短く整えられた深紅の髪がさらさらとしていて、濃い緑の瞳はとても誠実そうに見える。
妹さんのほうも深い赤の波打つ豪華で豊かな髪で、目を開けたらおんなじ色の瞳なんだろうか。
鑑定スキルはないけれど、この方たちは悪い人ではないんだろうなという気がする。
でも、ふと感じる違和感。
この違和感は何だろう、とじっと見ていたら、顔を上げた彼と目が合った。
「フィラン嬢、どうかなさいましたか?」
「あ! 赤い髪が綺麗だなって思って! 不躾ですみません。 わたし、寝起きなので身支度を整えてきます。もし朝ごはんがまだでしたら一緒に食べませんか? 出来たら呼びますので、お荷物片づけててください!」
「では、お手伝いを……」
「いえ! イケメンとキッチンに一緒に立つとかご褒美通り越しちゃうんで! 大丈夫です! またお呼びするまでここにいてください、お願いします!」
慌てて部屋から出た私。
陛下の嘘つき!
こんな美男美女と一つ屋根の下で暮らすなんて聞いてない!
供給過多で死んじゃったら恨んで枕元に立ってやる!
と頭を抱えながら、身支度を整えるために自室に戻ったのでした。
「改めまして、本日より貴方の護衛を命ぜられました、センダントディ・イトラと申します。」
「ソロビー・フィランです。 えっと、イトラ様は……」
けしてっ!
けして名前を覚えられなかったわけではないけれど、でもカタカナの長文やめろ。
アラフォーになってくるとそろそろ、えっと、あれ?何だっけ、あれあれ……ってなってくるんだよ!
名前をうんうん考えていたのがわかったのか、彼はふっと笑ってくれた。
「私の事はセディとお呼びください。 妹はセスターエン・イトラ。 こちらはセスと呼んでください。 フィラン嬢の護衛としてこちらにまかり越しましたが、あのような妹と共に来ることになり、大変申し訳ありません。」
「いえ、全然! 陛下からうかがっていましたので大丈夫ですよ。」
店舗のテーブルと椅子に座り、パンにオムレツ、塩漬け肉カリカリ焼きと果物、紅茶の朝ごはんの乗ったテーブルを挟んで、私はイケメンと対峙することになった。
神々しすぎて! 直視できなくて! 肩のあたりを見ていますけどね!
目を合わせてられない私、不審者! たぶんものすごく不審者!
しかもなんでこんな超絶イケメンとご飯食べにゃならんねん、ご飯食べる姿見せるとか恥ずかしいわ!
そんなことを考えていたからか、ぐぅ、っと、お腹が鳴った。
空腹には勝てない、食べるわ。
「冷めてしまうので、食べながらお話しませんか? セディ様」
「はい。 ではお言葉に甘えて。」
「どうぞ!」
今日、追加で食器や食材を買いに行こう。
そう心に決めながらパンをちぎった時、視線を感じて顔を上げた。
「セディ様、どうかされましたか?」
「いえ。 温かい食事をたべるのは、久しぶりだなと。」
「はぁ?」
なんだとぉ! ご飯は温かいものは温かく! 冷たいものは冷たいうちに食べる! それが当たり前! 王って冷たい飯を大事な家臣に食わせてるのか? ラージュ陛下、鬼か!
という思いが顔しっかりに出てたようだ、
「すみません。 私は仕事上そういう状況での食事が多かったからで、王宮での対応が悪かったわけではありませんのでご安心ください。」
にこっと笑って、彼はお祈りをしてから食事を食べ始める。
「あぁ、とても美味しいです。」
「よかったです。」
にこっと、笑い返すが、きっとめちゃくちゃな顔してたんだな、私。 ほっとされた顔してる!
「それはそうと、ずいぶん早いご到着だったのですね。明日にでも、といったのは私ですけど勝手にお昼ごろかな?って思ってて。」
そうですよね、と恐縮した顔で頭を下げた彼からは、やっぱりな、と思う回答。
「許可は取ったから、早くいけ、早い方がいいと、王に騎士団の寮から追い立てられまして……」
あのくそ皇帝陛下めっ!
いくら美少女に転生しているとはいえ、寝起きの汚い顔をこんなイケメンにさらす羽目になった事、本当に絶対に許さない!
「しかし、感謝しているのです。」
ん? と、首をかしげる。
感謝とは?
「私はもともと王と同郷でしてね。 まだ彼が皇帝になる前からともにいたのですが、少し前の遠征で足を痛めました。 騎士としてそのまま務めていたのですが、本来の仕事ができず申し訳ない気持ちでした。 あぁいった方なので、今までよく働いたのだから気にするな、と言われていましたが……妹が病になり引き取ることになったので今度こそ辞そうと思ったのですが、庭師ならいいだろうと辞すのを止めてくださったのです。 ありがたかったのですが、本来の役目ができないことで悩んでいたところ、フィラン嬢の護衛の話をいただきました。」
「なるほど。 そうだったのですね。 騎士様ならお強いのでしょうね!」
「戦場を駆けることはできませんが、王都内でフィラン嬢を守ることは十分にできますのでご安心ください。 しかしフィラン嬢は私どものようなものが来てしまってよかったのでしょうか。 ご迷惑なのではないかと」
「いいえ!」
にっこり笑って、否定する。
「あんまりにもお二人が美男美女なのでもう、直視できないくらいお美しくて私的にはもう、供給過多ですがありがとうございますって感じです。 ……私の話は陛下からうかがってらっしゃいますよね? なので利害関係が一致した、ということで、どうぞよろしくお願いしますね!」
「そうですね。 よろしくお願いします。」
「それで! 差し迫って決めておきたいことがあるのですが……」
そう、これは大事なことだ。
何でしょうか? と背筋を正し、問い返してくるセディ様に真剣に言う。
「ご近所さんやお客様向けの私たちの関係の設定についてです!。」
きょとん、とした顔をしていらっしゃるセディ様。
そんなお顔もイケメンですが、しかしこれは大事なのです。
金髪碧眼美少女ぽいわたしと、超絶イケメン顔面偏差値世界一ィィ! のセディ様。
絶対女のお客さんから聞かれますからね! その都度答えがころころ変われば面倒くさいことになる。だめ! 絶対! と、ここまでを熱い気持ちを真剣にお伝えしてみましたところ……。
「……ふはっ」
こんなに真剣に考えているのに、セディ様は吹き出した。
そしてそのまま笑いだす。
大口開けて笑ってもイケメンってどういうこと!?
「笑いすぎです。 本気で考えているのに!」
「いえ、すみません。 違うことを聞かれるかと思ったので……妹の事とか。 気になりませんか?」
何を言ってらっしゃるのか。
「気になりますよ? でもそれは、いつか信頼関係が成り立った時にちゃんとお話ししてくださると信じています。 もし何かあればラージュ陛下の弱みを握ったと同義ですしね! そんな方ではないと、なんとなく分かりました。 なので、真剣に考えてください、商人の口裏合わせです!」
セディ様に騙されたりとか? 何か問題があったらラージュ陛下にカチコミに行けばいいんだもの!
セキュリティもしっかりしているし、そもそも私の護衛だしね! だから開店に向けて大事なことだけまず決めたい!
「あはははははっ」
「いえ、だから笑い事では……」
「申し訳ありません、あまりにかわいらしかったので。 聞いていた通りの方で安心しました。 では王都で薬屋を開くことになった、まだ年若いフィラン嬢の遠縁で薬師の兄弟子である私が後見人として一緒にいるということでいかがでしょうか。 私が薬師のスキルがあるのは本当ですし、これなら王城や城下で私を見たことがあるものもまぁ納得するでしょう。 ですからこれからは私のことはセディと呼んでください、私もフィランと呼びます。 それからお互い敬語もなしです。 それでよろしいですか?」
「そうですね、ちょっと強引な気もしますけど、それでお願いします!」
「では、よろしく、フィラン」
それにこたえようとして……さすがに呼び捨てはないかな? と首をひねって考えたうえで、名前を呼んだ。
「よろしくお願いしますね、セディ兄さま。」
大きく目を見開いたセディ様。
「……兄さまですか?」
あら? この反応、いわゆる地雷だったかな? 謝らなきゃ。
「すみません。 さすがに年上の方を呼び捨てにはできませんのでと思ったのでが、ご気分が悪いようでしたら、別の呼び方にしますね。」
口元と目元を緩ませて、彼は笑って頭を振った。
「いえ、少し、懐かしかったものですから。 それで結構ですよ。」
「よかった、では、おねがいします!」
ぎゅっと握手をして、私たちは契約成立となりました。
イケメンと美女が同じ屋根の下にいるのはやっぱり慣れるまで時間がかかりそうですが、開店準備とかで忙しくなればそのうち慣れるかも? だし、すでに不意打ちで寝起きも見られたから、何にも怖くないもんね!(号泣)
よぉし! 開店に向けて頑張るぞ!